『G』の日記   作:アゴン

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今回、色々肩透かし回です。



その17

最初に引き金を引いたのはZEXISか、それとも自分だったのか、今となっては分からない。

 

ただ、この時の自分は騙された事やいきなり銃口を向けられた事が重なり、冷静ではなかったと思う。あの時、リモネシアで店長が死んだ時の様な、頭が真っ白になる程怒り狂ってはいないが、それでも冷静とは程遠い状態だった事は自覚している。

 

『貴様! 何の為に二人を攫ったりした!? 何故二人をバジュラの巣に押し込んだんだ!』

 

『少しはご自分の頭で考えなさい早乙女アルトさん。なんでもねぇねぇと聞くだけで答えてくれるほど、世界は甘くありませんよ?』

 

『っ、 この野郎!』

 

隊列から飛び出して突っ込んでくるのはS,M,Sでエースの実力を身に付け始めてきた早乙女アルトとそのバルキリー。その直情的な性格、個人的には嫌いではないが……。

 

『折角の高機動の機体だというのに、真っ正面からくるのは……あまり、感心しませんよ?』

 

今、彼のバルキリーが装備しているものはトルネードパックと呼ばれる高機動と加速速度の向上を目的とした強襲型の装備だ。

 

扱いは難しく、彼以外扱える者はオズマ=リー少佐位なもので、それを使いこなす早乙女アルトはまさしくエースに相応しい実力を兼ねている事だろう。

 

『ワームスマッシャー』

 

『そんなもの!』

 

縦横無尽に放たれる光の槍をトルネードパックの性能を最大限に生かして避けるアルト、そして遂にグランゾンの間合いに入り込んだ。

 

『貰った!』

 

『ええ、戴きますよ』

 

瞬間、バルキリーの動きが完全に停止した。まだエネルギーは尽きていないのにどうして動けなくなったのか、混乱しながら操縦桿を動かすアルトの耳に、蒼のカリスマの不気味な囁きが響く。

 

『どうやら、忘れてしまったようですね。私が一体どのような手段を用いて三大国家の軍勢を無力化したのかを……』

 

重力というものは全ての物質に作用する法則であり“力”でもある。しかし、この無重力空間として知られる宇宙空間では重力の干渉は受け付けず、また重力や空気抵抗を受け付けない事から、彼等の乗るバルキリーは最大限にその性能を発揮する事が可能。

 

けれど、何事も例外がある。その例外こそが重力の魔神として知られるグランゾンだ。

 

『さて、このままアナタを機体ごと圧壊しても良いのですが……如何します?』

 

『ち、畜生……』

 

『アルト! くそ、あのバカ!』

 

一太刀処か銃弾の一発当てる事すらままならなかった。機体性能の差もそうだが、何より乗っている者の力量が違っていた。

 

エースの一人を赤子の様に扱うグランゾンとその操縦者である蒼のカリスマ。あのガイオウを一蹴するその実力と底知れない不気味さに、指揮官兼パイロットであるゼロは仮面の奥で嫌な汗が頬を伝って流れるのを感じた。

 

『全機距離を取れ! バルディオスは亜空間ジャンプに突入し、各機体はその援護を! 奴の背後を取りその隙に乗じて攻撃を開始! 奴に反撃の間を与えるな!』

 

ゼロの指示に全部隊の士気が高まる。仲間をいいようにやられた事により頭に血が昇った彼等は、ゼロの指示通りに行動を開始する。

 

だが、そんな部隊に待ったを掛ける比較的冷静な人間がいた。交渉人として知られるロジャー=スミスとダイターン3のパイロットの破嵐万丈、そしてνガンダムを駆るアムロ=レイだ。

 

『待つんだゼロ、彼にはまだ攻撃しない方がいい!』

 

『せめて彼から話を聞いてからでも遅くはない。彼が敵と認識するにはまだ早計だと思うぞ』

 

『俺達は今バジュラの女王と戦った事と二人を誘拐された事実に気持ちが高ぶった状態だ。少し落ち着いた方がいい』

 

『……確かに、あなた方の言うとおりだ。全機後退せよ』

 

ZEXISの中でも冷静な態度と思考の持ち主として知られる彼等の言葉とあっては無視も出来ない。幾分か冷静を取り戻したゼロは今にも突っかかりそうな面々に後退を命じ、再び今回の事態について模索していく。

 

だが、止められた方は納得がいかないのか、不満たらたらの様子でロジャーや万丈、アムロに通信越しで抗議の声を投げかけた。

 

『何で止めるんだよ万丈の兄ちゃん! ソイツがシェリルさんとランカさんを攫った犯人だってあのマネージャーさんが言ってたじゃないか!』

 

『そうだよ! それにコイツは砂漠の時正規軍の連中を俺達ごと叩き潰そうとしたじゃんか!』

 

『だが、結果的に我々はそのお陰で窮地を脱せた。リモネシアでインペリウムに追い詰められた時も、彼がいなければもっと多くの被害を出していただろう』

 

『けど、それも何か狙いがあるかもって!』

 

『それでも、我々は彼によって助けられた事も事実だ』

 

『うぐっ』

 

不満を声を漏らす彼等をクワトロ大尉が押さえ込む。その一方で冷静さを取り戻したそれぞれのパイロット達は渋々ながら攻撃態勢を解除し、ロックオンマーカーをグランゾンから外していく。

 

『クワトロ大尉の言う通りだ。今回の件はまだ不透明な所が多い。もう一度冷静になって考えるのも必要だと思うよ』

 

『そういう訳だシン、いい加減剣を彼に向けるのは止めるんだ』

 

『わ、分かってますよ』

 

キラ=ヤマト、アスラン=ザラ、そしてシン=アスカと徐々に冷静さを取り戻していくZEXIS達。彼等が戦闘行動を停止した事により一触即発だった空気が静まり返り、グランゾンを駆る蒼のカリスマも必然的に頭から血の気が引いていった。

 

『グランゾン……いや、蒼のカリスマ殿、貴殿に対して無礼な対応を取った事、部隊の代表として謝罪させて戴きたい』

 

『……冷静な対応、感謝します。ジェフリー艦長』

 

通信画面から頭を下げてくるジェフリー艦長の姿を見た時、そこで漸く我に返った蒼のカリスマは平静を装いながら返事を返す。

 

相変わらず不遜な態度に文句を言いたくなるZEXISの若きメンバー達。だが、一度戦闘行為を停止した今、蒸し返すのは非常に不味いという事もあり、勝平やワッ太を始めとした子供グループはグッと我慢する事で何とか耐えた。

 

重力の檻からアルトとバルキリーが解放される。機体ダメージを受けながらも何とか航行は可能となっているバルキリーはそのままクォーターへ帰投。向き合う形となったグランゾンとZEXIS、緊迫した空気の中、先に言葉を口にしたのはジェフリー艦長だった。

 

『度重なる無礼を承知でお聞きしたいのだが、貴殿がシェリル=ノームとランカ=リーを誘拐した犯人なのですかな?』

 

『ここで私が違うと答えた所で、アナタ方は素直に納得するのですか?』

 

ジェフリーからの質問を即答で返す蒼のカリスマ。艦長に対し無礼な態度を取る彼に一同再び怒りを覚え掛けるが、言い返す事も出来ないのもまた事実だ。

 

何せつい先程まで蒼のカリスマを誘拐犯の犯人として断定していた所だ。ロジャーや万丈、アムロが待ったを掛けていなかったら、今頃はグランゾンと全面衝突をしていたのかもしれない。

 

だが、それを差し引いても蒼のカリスマが怪しいと思うのは当然だ。その正体、目的と共に不明な癖に、手にした力は計り知れないほどに強大で凶悪ときたものだ。そんな存在を警戒するなと言う方が土台無理な話である。

 

『私から言うことはありません。所詮信じるのはアナタ方次第、今回の件はZEXISの皆さんの想像にお任せしますよ』

 

そんな彼等の心情を察してか、蒼のカリスマはそれだけを言い残すと、グランゾンのバーニアを噴かせて何処かへ飛び立ってしまう。

 

後を追おうにもグランゾンの出鱈目な加速に付いていける機体など今のZEXISには存在せず、部隊内は気まずい空気に包まれた。

 

『ったく! 相変わらず嫌味ったらしい奴だぜ!』

 

『だが、結局奴の目的はなんだったんだ?』

 

『分からないけど、もしかして……本当に犯人はアイツじゃないのかもしれない』

 

『あらシモン、アナタあの仮面男の肩を持つの? 憧れのランカが攫われたのに……』

 

『そういう訳じゃないけど、ただ……そう思うだけなんだ』

 

『……そう』

 

(俺は信じたくない。あの時俺を励ましてくれたあの人が自分の為に誰かを傷つけるなんて……)

 

『俺も、犯人はアイツじゃないと思うな』

 

『赤木君、一応聞くけど根拠は?』

 

『以前、ダイガードの整備を手伝ってくれた事があるんだ。進んで誰かの為に手伝ってくれる奴が悪いことに手を染めるとは思えないんだ』

 

『ちょっと待て、お前あんな得体の知れない奴にダイガードを整備させたのか!?』

 

『道理であの頃のダイガードは調子がいいなとは思ってたけど……赤木君、どうして黙ってたの?』

 

『え? いやその、確か報告書に書いてあったと思うんだけど……』

 

『そんな事全然書いて無かったわよ!』

 

『お前、またポカやらかしたな。あーあ、残業決定だな』

 

『ええっ!?』

 

今頃聞かされる赤木の話を皮切りに、彼のうっかりに盛り上がるZEXIS。そんな中、彼等のまとめ役としても知られるアムロ=レイは、納得しかねる顔でプトレマイオスへの帰投準備に差し掛かっていた。

 

『アムロ大尉』

 

『カミーユか』

 

そんなνガンダムのコックピットでカミーユ=ビダンからの通信が入る。モニターに映し出される彼の表情も複雑そうに歪んでいた。

 

『カミーユ、お前も感じたか。奴の背後にいた“何か”を』

 

『はい。……ただ、奇妙なんです』

 

『あぁ、奴の……蒼のカリスマが抱いていたのは怒りだ。けれど、その背後にあったアレは今まで俺達が感じたものとは何かが違った』

 

『冷たい悪意でもなければ暗い邪気でもなかった。……アムロ大尉、一体アレはなんなのでしょう?』

 

『俺にも分からない。だが、今後も奴は要注意人物として警戒する必要があるという事は確かだと俺は思う』

 

ニュータイプの勘といえばいいのだろうか。蒼のカリスマと、その背後にいる何かに警戒を強めるアムロ。

 

だが、その何かからは明確な意志が伝わってこない。悪意もなく、敵意もなく、ただ傍観し、何かを見ているかの様な感覚。

 

こちらを観察しているのか? いや、それにしては不愉快な感覚はしない。何せ自分達に向けられていないのだ。───ただ、何故かソレからは暖かみのある奇妙な感覚を覚えるのもまた事実だ。

 

だからこそ、ニュータイプの素質として高い可能性を示したカミーユはそれを人一倍感じ取って戸惑っているのだろう。かく言うアムロもそれを感じ取ってトリガーを引くのを躊躇った一人だ。

 

結局、あの感覚は何だったのだろう。まるで親が子を見守るような感覚。一体それは誰に? 何に対して?

 

(まさか、アレは蒼のカリスマを見守っているというのか?)

 

結局、アムロも蒼のカリスマの目的、そしてその背後にいる“何か”の意志を明確に知る事もなく、ZEXISはその場から離脱。

 

後日、ギシン星人の総帥ズール皇帝と死闘を繰り広げ、更にそこから世界の悪意と対面する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

γ月O日

 

ZEXISと一触即発な空気となって数日。相変わらず自分は宇宙をさまよい、宛のない旅を続けております。

 

その間のトイレは何してたんだって? そこら辺にある今は使われてない廃棄コロニーで済ませてますが? あそこって電力が死んでたり色々大変だけど、ちょろっと電圧盤を弄くれば一時的に電力を蘇らす事くらい訳ないさ。尤も、精々10分程度しか持たないから済ませる時は急がなきゃいけないけどね。

 

あー、それにしてもこの間は色々やらかしたなぁ。よりにもよってZEXISに喧嘩売るとか、向こうも自分の事完全に敵視しているよなぁ。

 

あの時騙された事や銃口向けられたショックでカーッとなっちゃったけど、彼等が自分の事を疑うのも無理ないよなぁ。

 

幸い戦闘には至らなかったから互いに被害が出なかったから良かったものの、もしあのまま戦闘が行われていたら……今頃蜂の巣になってたよなぁ。

 

確かにこっちはグランゾンに乗っているけど、向こうはゲッターを始めとしたスーパーロボットが一杯いたし、なにより彼等には凄腕のエースパイロットがゴロゴロいるのだ。

 

特にアムロ大尉、あの人にはグランゾンに乗ってても勝てる気があんまりしなかったよ。

 

けど、流石はベテランの人だ。自分に攻撃しそうになった彼等を率先して止める様は、やはりこの人がZEXISのまとめ役だなと呑気に感心したりするほどだ。

 

ロジャーさんや万丈さんも助け船出してくれるし、流石は紳士として知られる人達だ。頼りになる。

 

けど、あー本当どうしよう。今更冷静になって考えてみたら俺って相当失礼な事言ってたよね?

 

しかも、何気に自分も攻撃する気満々だったし、つかアルトさんに攻撃してたし。

 

あーあ、今度あの人達と会ったら敵認定されるんだろうなぁ。……なんか、段々取り返しの付かない事に足突っ込んでる気がしてならない。主にボッチ的な意味で。

 

つーか、本当に俺ボッチになるかも、あのババ……グレイスの企みに乗せられまんまと罠にはまったし、その所為で一躍俺は世界から追われる身だし、今後地球にいる時は自分=蒼のカリスマって事に一層気を付けないといけないし。

 

え? それにしては落ち着いてるって? 知ってた? こういうのを諦めの境地っていうんだよ?

 

………なんか、疲れてきたな。早くリモネシアに帰って皆の作ったご飯で癒されたい。

 

その為には早い所シオニーさん保護したい所だけど……シオニーさんとインペリウムは一体何処にいるんだろ?

 

あー、駄目だ。ホント今日は疲れたわ。明日の事は明日考える事にして今日はもう寝よう。

 

最近、グランゾンの中で眠ることが多い。この世界に来たばかりの頃を思い出し、少し懐かしくなった。

 

あれからもう半年近く経つのか。早いものである。

 

近くにお月様もある事だし、一人月見をしながら眠りに付こうと思う。

 

 

……最近、この一人って言葉に反応してしまう自分がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───さて、この状況を自分はどう解釈すればいいのだろう?

 

目が覚めた時、自分の前にある光景を目にした時、眠気は虚空の彼方に消し飛び、すぐさまグランゾンを戦闘態勢に移行させる。

 

目の前にあるのは無数の次元獣と要塞みたいに馬鹿でかい次元獣と………。

 

「よぉ、久し振りだなぁグランゾン。今まで逃げ回ってて悪かったな」

 

不敵な顔で自分を見下ろす破界の王がそこにいた。

 

危険な状態。そう、非常に危険な事態だ。呑気に眠りこけていた間に自分は絶対絶命の危機に陥ってしまっていた。

 

けど、嗚呼。やはりこの時の自分は焦っていたのだろう。突然の事態、思考が纏まらない状況、そんな中で自分が口にした一言は……。

 

『……おはようございました』

 

誰かぁぁぁぁ! 俺を殴ってぇぇぇぇっ

 

 

 

 




ZEXISと戦うのではないかと期待してくれた皆様、申し訳ありません。
何せあの場にはアムロ大尉とかロジャーさんとか比較的冷静な対応が出来る人がいるし、何より主人公が無意味な戦闘はしない人間なのでこのような形になりました。

不完全燃焼だと不満になるとは思いますが、再世篇までお待ちください。

あと、次回で破界篇は最終回になる予定です。


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