『G』の日記   作:アゴン

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今回は長くなりそうなので分割


その147 前編

 

「────何だと? Z-BLUEが姿を消した?」

 

南米大陸、皇国軍との戦いが激化しつつある最前線、前線付近にあるレジスタンスの拠点の一つにあるその場所で、シュナイゼルの側近として雇われているギュネイは仲間からの報告を聞き返した。

 

「あぁ、どうやら先日北米大陸で大規模な時空震動が観測されたらしく、そこに居合わせたZ-BLUEはその時空震動に巻き込まれ、姿を消したらしいんだ」

 

「成る程、相変わらず話題の尽きない連中らしいな」

 

口では平静を装ってはいるが、ギュネイの内心は焦りに満ちていた。Z-BLUE、その肩書き通り地球最強の強さと戦力を有する彼等は皇国軍との戦いで必要不可欠な部隊だ。戦力も技術力も上である皇国軍に対し、地球の戦力の中枢を担う彼等の存在は切り札であり、人々の希望であった。

 

彼等の活躍で多くの人々は未だ希望を捨てずにいる。だが、それは逆に言えば人々の希望はZ-BLUEにしか見出だせていないとも言える。もし、彼等の不在が人々に知られたら、最悪皇国軍に対する戦意を失う事になる。

 

「おい、この情報、他に知ってる奴はいるのか?」

 

「実はもうネット上に情報が拡散していて………」

 

自分の危惧していた事に気付いた仲間が青ざめながらそう言うと、ギュネイは舌打ちして立ち上り、部屋に備われているパソコンに手を伸ばす。

 

────やられた。どうやら向こうにはこういった情報戦に秀でた奴がいるらしい。既にネットのあちこちの掲示板にその情報が開示され、その証拠であると言いたいように当時の映像も動画として添付されている。

 

随分と用意周到だ。こんな局地的に発生した時空震動がどうしてこうも鮮明に映し出されているのか。訝しげに思うギュネイだが、今注意すべきはそこではない。この情報が出回っているのなら、恐らく今後戦局は大きく傾く事だろう。それも此方が追い詰められる方向に…………そうなったとき、自分が選ぶべき道は自ずと限られてくる。

 

さてどうする。真剣な表情で画面を見入るギュネイ、するとそこへ彼の雇い主であるシュナイゼルが部屋へと入ってきた。

 

「失礼するよ」

 

「シュナイゼル…………」

 

「その様子だと、彼等の話はもう耳にしたみたいだね」

 

「あぁ、今事実確認をしていた所だ。所詮ネット上の情報だから鵜呑みには出来んが…………」

 

「その事についてだが、今しがた知人に連絡を取ってみたら間違いないと答えられたよ。Z-BLUEが時空震動に巻き込まれて姿を消したというのは誤情報ではないようだ」

 

「やはり…………そうなのか」

 

「しかも彼女が言うにはどうやら銀河の中心付近にも似たような時空震動を観測したらしい。恐らく、彼等は何者かの手によって銀河の中心へと誘われたらしい」

 

「なんだと?」

 

シュナイゼルから告げられるZ-BLUEの行方不明の真実、そこへ更に付け加えられる衝撃的な事実に、ギュネイは今度こそ驚愕を表情を曝け出す。同じ部屋にいるレジスタンスの仲間も、シュナイゼルの言葉に愕然とした様子で立ち尽くしてしまっている。

 

一体何故、どうしてそこまで知っているのか。ギュネイは問い詰めようとするが、それよりも早くシュナイゼルが口を開く。

 

「済まないが、今はまだこの情報の出所は説明できない。彼女も皇国軍から追われている人間でね、迂闊に名前は出せないんだ」

 

「そうか、アンタがそう言うならそうなんだろ。なら、これ以上追及するのは止めておく。…………それで、これからどうする?」

 

「無論、撤退だ。現在の前線には皇国軍を抑えられるだけの戦力も少ない上に、先の情報漏洩によって要でもあった士気も落ちてきている。ならば僅かでも被害が少ない内に離脱し、後の戦いに力を蓄えておくのが得策といえるだろう」

 

「蓄える…………だと? その口振りだとまだ俺達にチャンスが巡ってくる様だが、その根拠はなんだ?」

 

相変わらず遠い言い回しのシュナイゼルにギュネイは訝しむ。Z-BLUEという要の戦力を失い、士気も下がりつつある現在の地球圏の勢力は、圧倒的に皇国軍側が優勢となっている。

 

追い詰められつつあるこの戦況、なのにシュナイゼルからは全くの諦めがみられない。そんな強気に出られる理由は何なのか、ギュネイは何気なく訊ねると、シュナイゼルから一枚の写真が写し出されていた。

 

それは戦場で戦うZ-BLUEの姿が写し出されていた。状況的に見て時空震動に巻き込まれる直前に撮った写真なのだろう、一体この写真にどんな意味が込められているのだろうと目を凝らし─────気付いた。

 

アッと声を漏らすギュネイ、そんな彼を見てシュナイゼルは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「彼女が言ってたよ。彼等が時空震動に巻き込まれる際に、かの“蒼”もそれに呑み込まれたと」

 

写真の隅に見切れた形で写り混んでいる蒼い機体、それが少し前まで自分を振り回してきた魔人の機体だと察したギュネイは不機嫌そうに眉を寄せて、乱暴にその写真をシュナイゼルに突き返した。

 

「意地が悪いな。全部知った上で俺を試したのか」

 

「いいや、それは違う。何せ私も彼女に似たような問答をさせられてね、これはその意趣返しさ」

 

「単なる八つ当たりじゃねぇか」

 

あっけらかんと応えるシュナイゼル、相変わらず腹黒く、色々ゲスイ元ブリタニア宰相にギュネイは言い表し難い疲労を覚えた。

 

「何にせよ、これで我々のやるべき事が決まった。彼等が戻って来るまでの合間、可能な限り戦力を残し、戦線を離脱する。君、悪いけどこの事を皆にも伝えてくれては貰えないかな」

 

「は、ハイッ! 了解しましたー!」

 

シュナイゼルに命じられ、少し混乱しながらも部屋を後にするレジスタンス、彼の事を見送りながら自身も仕事に戻ろうとシュナイゼルも部屋を出る。

 

残されたギュネイは渡された写真を見て思う。時空震動に巻き込まれ、銀河の中心に送られたZ-BLUEは今や地球に戻って来られるか分からない絶望的な状況に置かれている。シュナイゼルが彼等が戻ってくる事を確信しているのは、根拠の無い自信から来るものだ。

 

かつて宰相と呼ばれ、戦場では恐るべき軍師として知られる彼としては、楽観視が過ぎる判断だ。だが、そう思えるだけの材料がこの写真にはあった。

 

魔人、これまで数多くの窮地をその出鱈目な行動力で突破してきた。だから、きっと今度も自分達には想像も出来ないやり方で帰ってくるのだろう。恐らくシュナイゼルもそう信じているに違いない。

 

…………いや、どちらかと言えばそれは決定事項と言うべきモノなのかもしれない。あの魔人が、たかが銀河の中心に送られた程度でくたばるのなら苦労はしない。どちらにせよ、奴と行動を共にした時点で同じく楽観視されるZ-BLUEに、ギュネイは少なからず同情を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…………ここ?」

 

時空震動に巻き込まれ、その衝撃により一時的に気を失っていたシュウジは、目を覚ました直後に目の当たりにした光景に間の抜けた声を漏らす。

 

トールギスのモニターを通して目にする宇宙の光景。一体何故、ここは何処なのか、そんな疑問を浮かぶよりも大きな感情が、シュウジの胸中に広がっていた。

 

美しい。今自分がどれだけ危険な状況にいるのか、それすら分からない事態だというのに、シュウジは眼前に広がる宙の色に見惚れてしまっていた。多元世界の宇宙の様な斑模様ではない────まるで宝石の様な色をした宇宙、周囲に浮かんだ結晶の様なものがより一層この宇宙を彩っているようで、シュウジはこの宇宙を一種の美術館の様に感じた。

 

だが、それ以上に何処か虚しさを感じるのは何故か。これだけ美しい色合いの宇宙なのに、生命が感じられないのは何故か。落ち着いてきた思考に湧いてきた疑問、それが何なのか突き止めるよりも早く…………すぐ近くで戦闘が起きているのを感知した。

 

トールギスの索敵に引っ掛かった複数の熱源反応、それがZ-BLUEのモノだといち早く気付いたシュウジは状況の確認、並びに彼等の救援の為にトールギスのスラスターに火を入れ、その座標に向けて急ぐ。

 

その背後で黒い何かが迫ってきている事に気付かずに────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソ、コイツらサイデリアルの連中の切り札かよ!』

 

『これまでのアンゲロイとは明らかに力が違う!』

 

時空震動に巻き込まれ、見知らぬ宇宙へと飛ばされたZ-BLUE、そこで待ち構えていたインベーダーを始めとした人類の天敵達を相手に、彼等は数少ない戦力で奮闘して見せた。銀河の中心地点でありながら平行世界に飛ばされたかもしれない、そんな追い詰められた状況の中でも懸命に戦う彼等の勇姿は、流石の一言と言えた。…………そう、奴等が来るまでは。

 

黒いアンゲロイ。これまでとは違うサイデリアルの戦力と思われる機体と次元獣を連想させる怪物の出現に、彼等は更なる絶望の淵へと叩き込まれる事になる。

 

これまでとはまるで違う強さを持つ黒いアンゲロイ、おまけに因果を操り瞬間移動の様な挙動をする怪獣、唯でさえ不利な状況なのに桁外れな強さを持った奴等を前に、Z-BLUEは瞬く間に全滅へと追い込まれていく。

 

そんな彼等を蝕む絶望の文字、戦力よりも黒いアンゲロイ達の存在そのものに怯え始めたZ-BLUEは、その屈強だった心に亀裂が入るのを感じた。まるで子供が大人に許しを乞うように、まるで誰かが分を弁えよと叱って来るかの様に、Z-BLUEの面々は押し寄せてくる圧倒的敵意と力を前に、軈て抵抗する気力も奪われつつあった。

 

『くそ、クソゥ! ここまでなのかよぉっ!』

 

『終わるのか、俺達が…………こんな所で!』

 

『まだだ! 俺はまだ戦える! 俺の心はまだ折れちゃいねぇ!』

 

絶望に呑まれつつありなからも、それでもまだ負けないと叫ぶのは、揺れぬ天秤のスフィアリアクターであるクロウ=ブルーストだった。スフィアの影響か、それとも彼の本質なのか、黒いアンゲロイ達を前にしながらも尚吼える彼の姿に、僅かだが部隊に再び戦う気力を与える。

 

そうだ。まだ自分達は諦めない。諦められないだけの理由がある。操縦桿を握り締める彼等に対し、しかし現実は非情だった。

 

増援として現れる黒いアンゲロイの群れ、それも大群と成って押し寄せてくる奴等の中には、一体でも彼等を全滅に追い込める怪獣が複数体確認されている。

 

絶望に次ぐ絶望、圧倒的力の差、この状況を打破するのには最早奇跡にすがる他ない。だが、奇跡は行動を示したモノに必然として為される偉業。戦う気力も失い、死を待つばかりだった彼等に、奇跡など起こるはずもなかった。

 

『しまった! 抜かれた!』

 

『ヒビキ、逃げろ!』

 

圧倒的力の前に遂に機能しなくなった戦線は黒いアンゲロイの一撃によって瓦解し、ヒビキの乗るジェニオンに向かって集まっていく。

 

心が絶望という黒に染まっていく。それだけならばヒビキは潔く己の死を受け入れたのかもしれない。だが、彼が持つスフィアの性質上彼の胸中には絶望だけでなく、希望もまた存在した。

 

絶望の大きさに比例して希望もまた巨大化していく。黒いアンゲロイという巨大な絶望に対し、ヒビキの中ではそれに抗うだけの希望も当然のごとく肥大化していく。

 

『あぁぁぁ…………ああぁぁ、うぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

『ヒビキ!?』

 

『ヒビキ君!?』

 

膨れ上がっていく絶望と希望、その結果恐怖と混乱に染まるヒビキにはただ闇雲に暴れまわる事しか出来なかった。スフィアの力に呑まれ、暴走しつつある。

 

最早ヒビキには誰の声も届かない。親友である宗介の声も、パートナーであるスズネの声も、スフィアに呑まれつつあった彼に届くことはない。

 

そんなジェニオンに更なるアンゲロイの群れが迫る。襲い掛かる巨大な絶望の波に、遂にヒビキの心が壊れようと─────。

 

 

『──────猛羅、総拳突き』

 

降り注がれる拳の弾幕が、周囲のアンゲロイを蹴散らし。蒼の機体──────トールギスがジェニオンの前に降り立った。

 

 




出るかもしれない、しかし出ないかもしれない。
絶望と希望の狭間で苛まされ、それでも僅かな可能性を信じて俺達はガチャを引く。
…………つまり、俺達ガーチャーもいがみ合う双子のスフィアの適合者だった!?

次回もまた見てボッチノシ





???「シラカワシステム、再起動マデ、アト─────」

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