『G』の日記   作:アゴン

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最近、急激に暑くなってきました。
屋外屋内問わず、熱中症等対策は確りして体調に気を付けましょう。



その152

 

 

 

二つの星、蒼と翠の地球を繋ぐ宇宙空間。近すぎず、かといって離れすぎない二つの星は、互いの重力に影響を及ばない一定の距離でその存在を保ち続けていた。

 

サイデリアルという外宇宙からの侵略者が二つの地球を脅かしているとはとても思えない静かな場所。そんな二つの星の架け橋とも言える宙域で────一つの光が爆ぜた。

 

『バカな、我々ミケーネ神が…………たかが人間ごときに、敗れるだと!?』

 

『申し訳ありません。ハーデス様っ!』

 

無念の言葉を吐き、砂となって消えていくミケーネの神々。既に同胞の過半数が葬られた事に、彼等の首魁であるハーデスはその光景に言葉を失っていた。

 

『何故だ。何故こうも一方的に……………貴様ぁっ! 奴の呪いを受けていた筈ではなかったのかぁ!?』

 

『一体いつの話をしてんだよ。あんなもの、死んだ時を切っ掛けにとっくに払拭してるよ』

 

『バカな! あの呪いは死ぬ程度で抜け出せる程簡単な代物ではない! 掛けられた者は魂まで隷属させられる最悪のもの、肉体が滅びようとも決して抜け出すことは不可能な筈だ!』

 

『ンな事知ってるよ。だからワザワザアンスパさんとガチンコ勝負して真化したんだよ。…………ま、あの時の真化は不完全な状態だったし、だからこそZ-BLUEと本気で戦っても負ける事が出来たんだけどな』

 

『───まさか、貴様!』

 

サラリと時獄戦役最後の戦いでの真実を口にする魔人に、ハーデスは戦慄する。

 

『貴様、捨てたと言うのか! 我々と同じ高次元の領域に足を踏み入れながら、永遠を手にしながら、真戦に挑める資格を得ながら、呪いごと、真化を捨てたのか!?』

 

真化とは太極へ至り、真戦に挑み、太陽の時代へ登り詰める高次元の生命体にのみ許された新たな命の可能性。事象を操り、因果すら歪める力を持つ高次元の生命体である彼等にとって、真化とは何物にも勝る存在の証明に他ならない。

 

それを呪いから解放される為とはいえ、まるで空き缶を捨てるが如く簡単に手放したと宣う魔人にハーデスは今度こそ驚愕に目を剥いた。信じられないと、自ら永遠を放棄した魔人がハーデスには自分には理解できない化け物に映った。

 

『そんなに驚く事かよ。お前だって何度もやってる事だろうが。ガラタブラ、だっけ? あれだって一度死んだのにお前が復活させただろう?』

 

────違う。力を使って甦るのと自分で捨てるのとでは、その意味合いは大きく変わってくる。自分で捨てるという事は己の存在否定を意味している。真化に至り、太極に近付けば近付くほどその意味合いは大きくなっていき、最悪消滅する。

 

この場合、消滅とは現世から消えるというだけではない。正真正銘─────消えるのだ。彼の世と此の世だけではなく輪廻からも消滅し、己と関わる全ての命の記憶から抹消され、最初からいないことになってしまう。それが真化の放棄という最悪の禁忌を犯してしまった者の末路だ。

 

では、そんな最大の禁忌に自ら突っ込んでいった目の前の男は、何故生きているのだろうか?

 

『いや、だから言ったじゃん。不完全だって。そりゃ本当に真化していた状態だったら死ぬに死ねない状態だったけど、中途半端な状態だったからこそ俺はあの喜びクソ野郎の呪いを撃ち破れたんだ』

 

あっけらかんと答えているが、事はそんな単純なモノではない。例えるなら幾重にも重なった絵具の色、その最下層にある元の色だけを綺麗に取り出す様に。或いはグチャグチャに混ざり合ったコーヒーとミルクを原子レベルで引き剥がすように─────奴に掛けられた呪いはそういう“不可能”と呼ばれる代物だった筈。

 

真化という永遠を捨て、自由を選んだ。その事実がハーデスに消えないナニかを刻み込んだ。

 

『─────お前、何か勘違いをしてないか?』

 

『何だと?』

 

『真化ってのは一度手放したら二度と得られないモノか? 違うだろ。真化というのは可能性の先にある一つの到達点。捨てたり、手放したりするモノじゃない。一度そこに行けたんだ。だったら─────何度も挑み、至ってみせるのが人の意地ってもんだろ?』

 

『──────なん、だと?』

 

絶句した。ハーデスも、後方で高みの見物をしていた筈のミカゲも、魔人が言い放った一言に口にする筈だった全ての言葉が消え失せた。

 

人は何度でも立ち上がる。立ち上がり、挑み、到達し、乗り越える。時であれ、空間であれ、真化であれ、如何なる障害も必ず乗り越えると魔人は断じる。

 

『その証拠として、先ずはこの姿のままお前らを圧倒してやるよ。分かりやすく言えば─────そう、ハンデだ』

 

『『っ!?』』

 

『お前等がバカにして、見下してきた人間の底力。その一端を…………見せてやる』

 

瞬間、ハーデスは声にならない叫びを上げて突っ込みグランゾンに肉薄する。その剛腕から繰り出される剣の一撃を魔神は真っ向から受け止め───。

 

『あまり、人間を無礼(なめ)るなよ』

 

ハーデスが持つ大剣ごと、その身体を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

δ月(;・ω・)日

 

ミケーネ神とミカゲとの戦いから一夜明け、現在自分は翠の地球でサイデリアルの幹部、蠍野郎の行方を追う為に、なるべく姿を見せないよう海底を進行中。

 

ミケーネ神…………ハーデスは自分が手傷を負わせると他の神々を連れて逃走、ミカゲも折角奪った神話型アクエリオンの力を振るうこともなくハーデスと同様に逃走、自分が気合いを入れて始めようとしたリベンジ戦の初戦は、呆気ない幕切れで終了となった。

 

本当ならグランゾンの力を充分に見せてやりたかったけど、そうなる前に逃げられたのならば仕方がない。…………まぁ、あんなに殺る気に満ちていたのにまさか逃げるとは思わなかったから呆けてしまい、まんまと逃げられてしまったという話なんだけどね。

 

どのみち自分の詰めの甘さで逃がしてしまった事実は変わらない。次は逃がさないよう一気に勝負を決めるつもりで仕掛けようと思う。

 

とは言え、これでグランゾンを侮った連中の…………特にミケーネは此方の見る目を変える筈だ。ミカゲの奴も今後は油断せずにいると思うし、今回出てこなかった宇宙魔王やズールといった暗黒勢力とも近い内出会う事になるだろう。その時に備えて、先ずは自分の目的を忠実に進めていこうと思う。

 

………そう言えば、前にも述べたけどミカゲって神話型アクエリオンをどうやって奪ったんだろ。っていうか、不動さんは一体何処で何をやっているのだろう? まぁ、元々得体の知れない人だったし、悪い人ではないから多分大丈夫だろうけど。

 

もし不動さんが今後何もせず、ミカゲが再び自分の前に現れたら…………どうしよう。壊しちゃっていいのだろうか? あのアクエリオン、一応アポロ君達の愛機だし、出来れば壊したくはないなぁ。

 

─────うん。ならいっその事放置しよう。大体アクエリオンには不動さんも深く関わっているみたいだし、後始末という意味でも彼に任せるのが一番いいだろう。少なくとも自分の様な人間がその場の判断で対応するよりはずっと良い筈。

 

これは責任放棄ではない。そう、所謂適材適所な話なのだ。決してあのオカマの相手をするのが面倒になった訳ではない。そう、決して。

 

 

 

δ月+日

 

翠の地球の海って、不思議な生物がいるのね。昨日に引き続き海底を進んでいると、大きな光る魚…………魚? いや、イカっぽい感じもするから光りイカ? と遭遇した。

 

最初はグランゾンを見るなり敵意と警戒を顕にしていたけど、此方が敵意がないと分かると途端に大人しくなり、身体を光らせながら彼方へと消えていった。

 

確か、以前ブロッケンと翠の地球で旅をしていた時に聞いた話だと、この星の海には従来の海洋生物の他に、クジライカと呼ばれる巨大な生命体が潜んでいるという。

 

どこら辺にクジラ要素があるのか疑問に思うが、どうやらこの生物は他の生体と比べて謎な部分が多く、その巨体と時折見せる凶暴さから地元の人達は日々頭を悩ませているのだとか。

 

凶暴といっても誰彼構わず襲い掛かるのではなく、縄張りに入るモノ、敵意を持つ相手に過剰に反応するだけで、此方が刺激しない限り大人しい生き物なのだとか。実際自分が遭遇したときも、敵意と警戒こそ向けられはしたが、此方に敵意がないと分かると大人しくなった。恐らくは知性が高い生き物なのだろう。此方から刺激しない限りというのも、クジライカ達に余計なストレスを感じさせないようにする為の地元住民達の暗黙のルールなのかもしれない。

 

ともあれ、自分はクジライカ達に対しこれといった感情はない。精々近くを通る際、彼等に刺激を与えないよう注意する位だ。

 

そう言えば、以前自分が世話になった船団…………ガルガンティアだったか? あの時以来見掛ける事は無かったら忘れてしまったけど、無事だろうか? 皇国の主戦力は殆どが蒼の地球の方へ向かったけど、翠の地球に残された戦力もゼロではない。ギルターの様な切れ者が再びガルガンティアに目を着ける事もあるかもしれないし、近くを通ったら顔を出してみようと思う。

 

まぁ、自分の様な不審者が面と向かって彼等に会うのは、彼等にとっても不都合な事になるかもしれないし、仮に様子を見るとしても、その時は彼等に気付かれない様、静かに接触する事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────何か、女海賊に絡まれた。向こうは自分の事知ってるみたいだけど…………誰?

 

 

 

 

 

 

 




ボッチ「何この生き物、スッゴーい!」
クジライカ「ヒィッ!? 食べないで下さい!」

大体こんな温度差

それでは次回もまた見てボッチノシ

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