『G』の日記   作:アゴン

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今回はZ-BLUE側のお話。


その156

 

 

 

皇国の手からソレスタルビーイング号を解放したZ-BLUE、留守をガランシェール隊に任せた一行はクィーンから特異点であるオルソンの居場所の情報を入手し、彼を救出する為に翠の地球へと急行。ターミナル・ベースと呼ばれる敵の重要拠点に向かった。

 

道中皇国の妨害に阻まれながらもこれらを何とか突破し、遂には拠点まで目と鼻の先にまで迫る中、一行は作戦の確認と、それらを踏まえたちょっとした座談会を開いていた。

 

「ほうほう、ではその蒼の(なにがし)さん改め、シュウジさんはヒビキさんにとってのお姉さまみたいなモノなのですね!」

 

「兄貴分、て意味ならそうかもしれないな。それと蒼の某じゃなくて蒼のカリスマな」

 

表情も明るくなり、すっかり元の調子に戻ったヒビキは訊ねてきたノノにそう反す。自分にとってシュウジ=シラカワは心強い兄貴分であり頼れる人物だ。その感情はノノがラルクに向けるモノに近いかもしれない。

 

「しかし驚きました。まさかその蒼のカリスマさんが噂のお方でしたとは、私が耳にした話とは全く違うので別人さんかと思ってましたよ」

 

蒼の地球の出身者が多いヒビキ達とは異なり翠の地球でZ-BLUEに参加したノノ、二つの地球が有する蒼のカリスマの噂の類いの話はそれぞれ異なる内容だった。片や地球政府の半分の戦力を瞬殺した所から始まり銀河規模の破壊も可能とした大魔人、片や少ない戦力で皇国を相手取る救世の英雄。

 

片やなまはげ、片や救世主。正反対過ぎるその扱いと噂の内容に、ノノや翠の地球の人達は同名の別人かと思い込んでいた。

 

「そう言えばエイミーも蒼のカリスマの事を知ってたんだよな」

 

「正確に言うと後で知ったんだけどね。あの時は仮面も被ってなかったし…………半裸で皇国の人達を殴り飛ばしていく様を見て普通じゃないと思っていたけど、まさかあのカリスマさんだったなんてね」

 

エイミーが思い返すのはZ-BLUEが翠の地球に初めて降り立つよりも前の頃、ガロードが船団の護衛役を勤めていた時だった。突如として襲い掛かってきた皇国の軍勢になす術なかった船団の人々、襲い掛かる武力に対し抵抗する手段が余りにも少なかった船団は瞬く間に奴等に侵略され、その全てを奪われそうになっていた。

 

そこに現れた半裸の男────いや、死んでいた筈なのに甦った男の活躍により皇国を退けられ、エイミー達は平穏を取り戻した。

 

本当なら礼の一つでも伝えるべきなのに、その暇もなく男は去っていった。その後Z-BLUEの艦に乗せてもらい、外の世界で見識を広めていたエイミーは、翠の地球に留まっていた頃様々な噂を耳にした。

 

蒼のカリスマと名乗る仮面の男の噂。やれ一人で大軍を相手取り更にその大軍を殲滅したとか、一人で皇国の基地を陥落させたとか、この手の噂には尾ヒレが付くものだがそれにしても規模が大きい。

 

しかし総じてその話は全て、翠の地球に住む人達を皇国から守ったという形で締め括られている。見返りも求めず、ただ通り掛かったという理由だけで人々の危機に介入するその姿は、昔話に登場する物語の英雄像そのものだった。

 

故に、翠の地球の人々は蒼のカリスマを英雄として語り継ぎ、それらを耳にしてきたエイミー達は蒼の地球で語られる蒼のカリスマの話に驚嘆した。

 

「ハッ、まさかかの蒼のカリスマ様が人々から怖れられる魔人様だなんてね。英雄と持て囃されているけど、案外それも彼の計算の一つじゃないのか?」

 

「どうしたんだよニコラ、やけに突っ掛かる物言いじゃないか」

 

「別に、自分の力を好き勝手使っている魔人様に呆れているだけさ」

 

蒼のカリスマという話で盛り上がっているヒビキ達に皮肉な口調で割って入ってくるニコラス=バセロン。様々な能力を持つトップレスの面々の中でも年長者として知られる彼の目には、嫉妬と焦りに満ちていた。

 

「蒼のカリスマとか魔人とか、最凶最悪のテロリストだとか知らないけど、所詮はごろつきだろ? 世を脅かす民衆の敵だと言うのならそれこそ僕達の出番じゃないのか?」

 

「そう決め付けるのは早いと思うぞ」

 

「アムロ大尉…………」

 

蒼のカリスマという話題を耳にしたZ-BLUEのまとめ役の参戦に、ニコラスは内心で舌打つ。

 

「蒼のカリスマ、彼は一時とは言え俺達と行動を共にしてきた事がある。その時のアイツは正しく俺達の仲間だった」

 

「でもそんなアムロ大尉達の信頼を裏切って敵対したのでしょう? だったら、それはもう俺達が打倒するべき敵って事なんじゃないんですか?」

 

ニコラス=バセロンの言い分は間違ってはいない。蒼のカリスマは時獄戦役の時、最後の最後で自分達と敵対した。それは仲間だと思っていたZ-BLUEに対しての裏切りに他ならず、これによりヒビキを始め、彼を慕っていたZ-BLUEの面々に深い心の傷を与えていた。

 

「それなのにあなた方は未だ蒼のカリスマを仲間として認識している。…………正直信じられませんよ」

 

それなのに彼等はもう一度蒼のカリスマを信じようとしている。たかが一度助けてもらった程度で、それが自分達を罠に陥れる策略なのかも知れないのに────。

 

「お前の言うことも理解できるし、共感も出来る。だがニコラス、覚えておいてくれ。俺達はそうやって今まで戦ってきたんだ」

 

「──────付き合いきれませんね」

 

自分よりも年上のアムロが夢みたいな事を言っている。それが気に入らないと暗に吐き捨てながらニコラスは格納庫に去っていく。途中で翡翠色の長髪を靡かせた美しい女性と擦れ違うも、軟派なニコラスは特に反応を示さなかった。

 

その様子に女性は首を傾げて訝しむ。そんな彼女の手に持つお盆と其処に乗せられた握り飯に、エイミーは反応する。

 

「あ、サクヤさん。ごめんなさい一人で持たせてしまって」

 

「いいえ、お気になさらないで下さいエイミーさん。お料理、楽しかったですよ」

 

サクヤと呼ばれる女性に駆け寄るエイミーは彼女からお盆を預り、その上に乗せられた握り飯を皆に分けていく。それは作戦前の景気づけ、軽く食事を取り英気を養おうという各艦長達の計らいだった。

 

「あの、宜しかったのですか? ニコラスさん随分苛立っておられたみたいですが…………」

 

「気にしなくてもいいさ。ここの所ニコラはあんな調子だからさ」

 

ガロードのフォローらしからぬフォローに、サクヤは「はぁ」と気の抜けた返事で返す。

 

「しかしサクヤさんも災難だったな。よりにもよってこんな時に俺達と一緒になっちゃって」

 

サクヤと名乗る女性は、先の皇国の妨害に遭った際にヒビキの手によって保護された女性である。その身嗜みや仕草、礼儀ただしさから高貴な人物であろうと思われる彼女は人質として利用されそうだった所を救出され、その後も成り行きでZ-BLUEと行動を共にしていた。

 

本当ならもっと安全な所に降ろして身を隠してもらうべきだった。だがタイミング悪くその機会を得ることなく今日を迎えてしまった。申し訳ないという気持ちがヒビキ達の中に積もっていく。そんな彼等の心境を知ってかサクヤはニコリと頬笑み───。

 

「お気になさらないで下さい。元より私は天涯孤独の身の上、家族は先の大戦で亡くなり、頼る所もありません。差し出がましい事ではありますが、もう少し私をここに置いては下さいませんか?」

 

「…………了解した。貴女がそう言うのなら俺達からは言うことはありません。貴方の希望が叶うよう艦長達には俺から話を通しておきます」

 

「ありがとうございます。アムロ大尉」

 

紳士的なアムロの対応に笑みを浮かべるサクヤ。その美しくも儚い彼女の笑顔に男女問わず一瞬ドキリと心音を高鳴らせるが、次に艦内中に発せられる警報に直ぐ様その表情を戦士のそれに変える。

 

どうやら作戦決行の時間らしい。サクヤに握り飯の礼を言いながら、それぞれの持ち場へと駆けていく。

 

その様子を悲しげな表情で見送るサクヤ、その様子から彼女がZ-BLUEの安否を気遣っているという事が見てとれる。

 

しかし、彼等は気付かない。一見薄幸美人なサクヤの瞳に哀しみと怒り、そして楽しみで渦巻きドロドロと濁った色で溢れていた事を…………彼等は、未だ気付けていない。

 

「………………」

 

ただ一人、彼女と同じ翡翠色の髪を靡かせた魔女を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異点であるオルソンを救出するにあたり、Z-BLUEが用意した策は至ってシンプルなモノだった。自分達の艦を囮に使った陽動作戦、火力もあり機動力にも優れたマクロス・クォーターを用いての電撃作戦は順調過ぎるほどに上手くいった。

 

マクロス・クォーターが時間を稼いでいる合間に、突入部隊がオルソンを救出しようと基地に潜入する。その際に更なる陽動を仕掛けようと突入部隊を二つに分ける大胆な作戦、陽動を受け持ってくれた竜馬達に感謝しながらヒビキとスズネ、セツコ=オハラと桂木桂はオルソン救出の為に基地内をひた走る。

 

セツコ=オハラは知りたかった。どうしてバルビエルはあそこまで自分を殺そうとしているのか、何故そこまで自分を憎悪の対象に見ているのか。

 

スフィアの相性? 人間としての価値観の差違? それとも男女の意味で? どんなに考えを巡らせようと答えは出ず、堂々巡りな自問自答だけが過ぎて行った。

 

もし、もし本当の意味で彼が憎む理由を知っているのなら、自分は彼の助けになってやりたい。傲慢な考えかもしれないが、そうでもしないと彼が余りにも救われない。

 

憎むことしか知らない生き方なんて悲しすぎる。そう思いながら眼前の扉を開き、中の広い空間に出てきたセツコ達は…………信じられない光景を目の当たりにする。

 

「あ、あ…………ぐぁ」

 

「───────」

 

全身を血で染め上げながら呻き声を上げるバルビエル、その彼の首を持って締め上げているのは仮面を被った蒼い魔人。

 

「まさか、こんなもので済むとは思ってないよな」

 

顔を隠した仮面、しかしその奥では純粋な怒りに満たされた殺意の眼光が、怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターを射抜いていた。

 

 

 

 




とあるアニメを見て思い付いたタイトル。

白河修司はボッチである。

…………うん、大赦に向けてうどんを使ったテロをする未来しか見えない(笑)


次回は少し時間軸を戻してボッチの視点からスタートです。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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