『G』の日記   作:アゴン

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遂にアポクリフォが始まり、シンフォギア四期も開幕。
今年の夏は忙しいぜ!




その157

 

 

 

 

 

 

────Z-BLUEがオルソン救出の為にターミナル・ベースに潜入する数時間前、シュウジは自身のファンであるラケージから無事に情報を入手し、バルビエルの居場所に向かっていた。

 

「いやぁ、悪いねブレラ君。あの船団の修復作業を手伝ってくれただけでなく送ってくれるなんて」

 

「気にするな。お前にはギャラクシー船団から解放してくれた借りがあるし、あの船団の一部崩壊を招いた要因は俺にもある」

 

「いや、別に俺が何かしたって訳じゃないさ。奴等の洗脳から自力で脱出出来たのはブレラ君自身の力さ」

 

蒼のカリスマという魔人の出現により慌ててブレラとの繋がりを断ったギャラクシー船団、その影響で自我を取り戻したブレラは自らインプラントの装置を引き抜いてこれを破壊。

 

その際に当然のごとく頭部から出血し、負傷する事になるのだが、後からシュウジの手によって修復され、現在ブレラの頭部には丁重に治療された跡と包帯が巻かれている。

 

「ていうか、本当に大丈夫なの? 頭の怪我とか俺専門外だし良く分からないから応急処置程度しか出来なかったけど…………視界とか、思考感覚とか平気?」

 

「あぁ、その事に関しても大丈夫だ。奴等は使えない駒は躊躇なく棄てるが使える駒を簡単に捨てるような剛胆な胆力は持ち合わせていない。インプラント化というのも詰まる所命令信号を送り付ける装置みたいなものだ。これを引き抜いた程度で肉体に直ぐ様影響が及ぶ様な危険はない」

 

「…………まぁ、君がそう言うなら信じよう。でもあまり無茶はするなよ。君はランカちゃんの数少ない身内で実の兄なんだ。彼女に余計な心配を掛けたくないのなら、Z-BLUEに合流したら直ぐ様メディカルチェックをしておきなよ」

 

「あぁ、肝に銘じておこう」

 

シュウジからの忠告に素直に頷くブレラだが、直ぐにその目を細めて彼の男の様子を訝しむ。今自分達がいるのは地上から数千も上の空だ。加えて乗っているのは音速を余裕で超えるバルキリー、その中でも乗り手に一切の負担を考えないで作られた最新鋭の中でも狂気の沙汰と分類されるVF-27γ“ルシファー”だ。

 

窓もといハッチを破壊された事への謝罪という事で一時的にシュウジの手に委ねられたルシファーは無事に修理されたのだが、その際に複座を取り付けられてしまった。

 

確かにブレラはシュウジをターミナル・ベースに送り届ける事を良しとした。事前にその事で訊ねられたし、許可を得たのも他ならぬ自分だ。なにより自分をギャラクシー船団から解放してくれた礼もしたいし、その位なら別に良いと思っていた。

 

複座の方も簡単に取り外しが出来る仕様になっているので大丈夫だと言われたから気にしてはいない。いや、実際は複雑なバルキリーのコックピット部分にどうやったら複座を取り付ける程の余裕を作れるのか不思議で仕方ないが、聞いても仕方がないという諦めの気持ちでこれも許した。

 

自分をタクシー代わりにするのはいい。機体を弄られるのもまぁ許そう。何より気になるのが…………。

 

「…………うん? どうかしたブレラ君? もしかして君もお腹すいた? 待ってて、今出すから」

 

「いや、いい。大丈夫だ」

 

「そう? 欲しかったら言いなよ? 折角船団の皆さんから好意で貰ったお弁当なんだから、食べなかったら逆に失礼だからね」

 

何故、この男は音速を超える機体の中でのんびり弁当を口にしているのだろうか。

 

基地に潜入するんだろ? 何でそんな冷静なの? 何で優雅にお握りとお茶を飲んでるの? 一応音速で動いてるんだよ? パイロットの事なんかちっとも気にしない機体だよ? え?割と静かでゆったりできる? 知らねぇよなにその感想戦闘機に対する感想じゃないよね?

 

沸き上がる疑問と驚愕は数知れず、溜め込んでいくブレラの胃がキリキリと悲鳴が上がる。オカシイナー、俺サイボーグナノニナー。

 

「…………シュウジ=シラカワ」

 

「うん? やっぱり何か食べたい? それとも飲み物?」

 

「いや、飲食関係は大丈夫だ。それよりも、何故ワザワザ俺を頼る。お前とグランゾンならばより確実に奴等の基地に近付けるのだろ?」

 

「君の疑問も尤もだ。確かにグランゾンの力を使えば基地に近付けるのは簡単さ、でもそれだと気付かれてしまう恐れがある」

 

「それは、どういう意味だ?」

 

「うーん。何と言うか、感覚的? 連中の幹部ってどいつもこいつも感知能力が無駄に高くてさ、強い力に過敏に反応するみたいなんだよ。今俺のグランゾンは少し調子が良すぎるからさ、近付いたらそれだけで相手に気付かれてしまうかもしれない」

 

「成る程、だから足の速い俺の機体の出番だと」

 

「タクシー代わりにした事は謝るよ。でも、奴に気付かれず基地に潜入するには君の力がどうしても必要だったんだ。ごめん」

 

「謝る必要はない。元よりこれは俺も望んだこと、気にするな」

 

その説明に納得し、理解を示したブレラは後で頭を下げるシュウジにその必要はないと語りかける。抜けているようで人として当たり前の礼節を重んじる男、魔人と恐れられている男の意外な側面を目の当たりにしたブレラは…………。

 

「────そろそろ目的の場所だ」

 

間もなくその場所に到達するというブレラからの報告に魔人の眼光は鋭くなる。あぁ、やはりこの男は魔人なのだなと改めて戦慄するブレラ、目前に迫る基地を前に着陸しようとするとシュウジは御馳走様と手を合わせて呟き、残りの弁当を自身の脇にそっと寄せていく。

 

「それじゃあブレラ君、お弁当はここに置いていくね」

 

「何? おい、ちょっと待て────」

 

「ここまで送ってくれてありがとう。それじゃあ─────」

 

呼び止めるブレラの声を振り切ってハッチを開いたシュウジは直ぐ様外へ飛び出し、同時にハッチが閉まる。普通なら複座からハッチを開ける事は出来ないとされている。こんな細工までしていたのかと驚くよりも先に、ブレラは魔人の起こす行動に大きく目を見開かせる。

 

跳んだのだ。音速を超える速さで飛ぶ機体から、未だ高高度を保っているこの場所から、何の準備もなしに飛び降りたのだ。

 

自殺行為…………いや、自殺そのものに等しい魔人の行動にブレラは血相を変えて彼を拾いに行く。しかし、魔人本人が急降下の姿勢で落下速度を速めている。

 

このまま地面に叩き付けられれば赤い染みが大地に広がる。その光景を幻視したブレラが次に見たものは…………。

 

「─────何て奴だ」

 

足から膝、肘、流れるように転んでいき、軈ては無事に着地を果たす魔人にブレラは言葉を失う。一歩間違えれば惨劇になるはずだった未来を、あの魔人は顔色一つ変えずに乗り切ったのだ。

 

やはり怪物か。あの剛胆な人格も納得だと変に勘違いをしたブレラは、こちらに向けて手を振ってくるシュウジを尻目にその場から去っていく。

 

(今後、奴と直接関わるのは控えた方がいいな)

 

でないと俺の何かが音を立てて崩れていきそうだ。目眩を覚えるブレラはやはり診て貰った方がいいなと思いながらZ-BLUEに合流するのだった。

 

去っていくルシファーを見送ったシュウジは土埃を払い、ワームホールを開いてトレードマークである仮面と白いコートを取り出す。

 

「さて、行くか」

 

コートを羽織り、仮面を被った事で蒼のカリスマへと姿を変えたシュウジはその左脇に折り畳まれた段ボールを抱え、正面からターミナル・ベースへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、Z-BLUEの奴等ワザワザ陽動を仕掛けてくるとはな。やはり特異点の在りかを嗅ぎ付けてきたか」

 

ターミナル・ベース内、基地の司令塔を担うバルビエルは人気の無い管制室でモニターに映るZ-BLUEの艦、マクロス・クォーターを見やる。

 

分かりやすい挑発行動、奴等の目的はここに投獄している特異点(オルソン)の奪還と見て間違いないだろう。何処からその情報が出てきたのか興味はあるが、今はそんな事はどうでもいい。自分が行う目的にとって今の状況は寧ろ好都合と言えた。

 

「感じるぞセツコ=オハラ、お前もここに来るんだろ? ハハハ、調度良い、いがみ合う双子のリアクター共々歓迎してやろうじゃあないか」

 

そう言うとバルビエルは通信端末を取り出し、外にいる部下達に指示を飛ばす。

 

「おい、ギルターを出せ。あんな奴でも多少の時間稼ぎには使えるはずだ。精々奴等を引き付けて手柄を立てろとでも言って煽っておけ」

 

乱暴に通信を切り、端末を投げ捨ててバルビエルは管制室を後にする。既に彼にはターミナル・ベースの守衛を目的にはしておらず、特異点の回収もその頭に無かった。

 

今のバルビエルに興味があるのは自分と対を為すスフィアの担い手、悲しみの乙女のリアクター、セツコ=オハラにしかない。彼女を生かすべきか殺すべきか、己のスフィアが司る憎しみを全身から滲ませて通路を歩いていた時─────ふと、違和感を感じた。

 

静かすぎる。Z-BLUEという敵対組織がターミナル・ベースに襲い掛かって来ているというのに、基地内部はまるで無人の様に静まり返っている。外では生け贄の様に差し向けられたギルターと複数の部下達が連中と戦闘を繰り広げている。

 

普通、敵に襲撃を掛けられたと言うのなら基地内部も慌ただしくなる筈だ。迎撃による部隊編成、各々の機体の発進音、大小問わずその音というものは基地全体に伝わってくる筈だ。

 

まるで外とは完全に隔離されたかの様な静寂、不気味とも呼べる異様な静けさにバルビエルは僅かばかり怖気を感じ、次に自身が向かう場所へと足を進める。

 

開かれた空間、多くの兵士が通るときや資材を運ぶときに使われる大空間、その開かれた場所の中心に────ソイツはいた。

 

「────初めまして、今日は。突然の事で大変失礼致しますが、貴方に一つ訊ねたい事があります」

 

「な、に?」

 

「貴方の名前はバルビエル=ザ=ニードルで間違いありませんね?」

 

白いコートに身を包み、蒼い仮面を被った男。その男が唐突に自分の事を訊ねてくる。一体何なんだコイツは、何でこんな奴が基地の中にいる。不穏と不可思議な出来事に戸惑うバルビエルだが、仮面の男の声にハッとあの時の事を思い出す。

 

忘れもしない大気圏での攻防、あの時自分はまんまと一機のMSに出し抜かれた。その後も度々サイデリアルの前に現れては自分達を翻弄し、良いように虚仮にしてくれた最悪の魔人。

 

「何故僕の名を、まさか…………きさ────」

 

蒼のカリスマ、仮面の男の正体に気付いたバルビエルが懐から武器を取り出すよりも早く、魔人の拳がバルビエルの顔面に深々と突き刺さる。

 

「これは、お前の所為で自我を失った人達の分」

 

メキメキと軋む音とバキリと骨が折れる音が拳を通して伝わってくる。人体が破壊される嫌な感触を前に、魔人は仮面の奥で表情一つ変えずに拳を振り抜く。

 

勢いのままに吹き飛ぶバルビエル、体勢を立て直そうにもダメージが大きすぎる所為で、満足に視界も開かれない。

 

「そしてこれは、お前の所為で泣くことになったキヤルちゃんの分」

 

静かに、淡々と吹き飛ぶバルビエルに追い付いた魔人は、今までバルビエルがしてきた報復とでも言うように拳や蹴りの雨を叩き付けた。

 

血を吐き、骨が砕かれ、顔は別人の様に腫れ上がっていく。軈てその場所が血に染まりきった所で、漸く魔人の手は一旦そこで止まった。

 

「どうした。やり返さないのか? お前は恨みや憎しみで力を増していく怨嗟の魔蠍だろ? こんなに好き放題されて、何も感じないのか?」

 

「ぎ、ぎざ、まぁっ!」

 

「不意打ちで腹が立ったか? いきなりの強襲で反応が遅れたか? 言っておくがな、これでもお前がしてきた事に比べれば俺のはまだまだ優しい方だぞ?」

 

ここまで虚仮にされ、一方的に嬲られた事でバルビエルの怒りは頂点を突破している。よくもと、お前のような奴に、と。

 

しかし、仮面の奥から垣間見る瞳、その奥から感じられる感情にバルビエルは押し黙る。

 

“怒り”だ。今この男は自分に対して最大限の怒りを以て自分と相対している。完全なる感情の発露、しかしその純粋な怒りにバルビエルのスフィアの力が入り込む余地は何処にもなく、バルビエルはその視線に押し黙る。

 

首下を捕まれ、戦意を無くしていくバルビエル。抵抗する意識すら無くした彼に、しかし魔人は再び拳を放りあげようとした。

 

戦意を無くした? 戦う意志が無い? それがどうした。そもそもこの戦いはお前達が一方的に仕掛けてきたのが始まりだろうが。

 

脳裏に浮かぶのは自分に泣いて謝るキヤルの顔だ。ゴメンねと、悔しそうに、悲しそうに謝るキヤルの無理して作った偽りの笑顔だ。

 

キタン、キヨウ、キノン、そしてキヤル達黒の兄妹は暗黒大陸時代で蒼のカリスマ─────シュウジが世話になった恩人達だ。その人達に手を出して、どうしてそのまま放っておける。

 

どうして兄貴分であるキタンの妹があんな目に遭ったのに、その張本人を許しておける。シュウジは聖人でもなければ優れた人格者でもない、普通に感情を有する人間だ。

 

故に、この男は許さない。首を握り、拳で今一度その顔に叩き付けようとした時─────。

 

「待ってください!」

 

第三者の声がシュウジの耳に入ってきた。

 

セツコ=オハラ、ヒビキ=カミシロ、そして西条鈴音と懐かしい面々がシュウジの横で待ったを掛けていた。随分と早かったなと関心する一方で、良いところで割って入られたと小さく舌を打つ。

 

これではバルビエルを討つ事ができない。それとも適当にあしらってコイツのスフィアだけでも抜き取ってやろうか。そう思考を巡らせていた時。

 

「っ!」

 

ふと、巨大な何かの気配を感じ取った。驚愕に目を見開くシュウジはバルビエルを解放してしまい背後を振り返る。

 

だが、そこには何もないただの空間が広がっていた。気の所為? いや、そんな筈はない。

 

(あの方角、まさか…………Z-BLUEにアイツ等みたいなのがいるのか?)

 

感覚からして思い付くのは、嘗て自分を嵌めて陥れた喜び野郎と、楽しみ女と怒りの老人だ。だが、あの時の戦いで楽しみと怒りは屠った筈だ。

 

では一体誰が? 僅かな動揺を見せるシュウジの視線の先にいるその者は…………。

 

「あぁ、漸く見付けました。そこにいるのですね。私の魔人(ヒト)

 

まるで愛おしいモノを見つめるように、まるで楽しむモノを見ている様に、まるで憎い仇を睨むように、まるで悲しいものを慈しむ様に、翡翠の女は遠巻きにターミナル・ベースを捉えていた。

 

 

 

 

 

 




バルビエルへのお仕置きタイムは一旦終了。(終わったとは言ってない


因みに喜び野郎にはこれ以上の怒りを募らせております。お楽しみに(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ

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