『G』の日記   作:アゴン

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更新遅れてしまい申し訳ありません。
今回、遂に奴とご対面。
そして本作の最大の勘違いが発動


その158

 

 

 

 

 

 

翠の星、サイデリアルの重要拠点として建設されたターミナル・ベース。バルビエルという幹部の一人が支配するこの基地でZ-BLUEのカミシロ=ヒビキは己の兄貴分であるシュウジと再会した。

 

しかし、その顔には自分の知るシュウジの気安い笑みではなく、感情の読めない仮面が張り付いている。蒼のカリスマ、蒼の地球で魔人と恐れられている存在がその認識を正しく反映された形で眼前に佇んでいた。

 

その手には自分達が敵として定めたサイデリアル───もとい、皇国の幹部であるバルビエルが凄惨な格好で首下を握り締められている。

 

流石というべきか、自分達をこれまで幾度も窮地に追い込んできた敵の幹部をこうもあっさりと仕留めたその手腕と実力にヒビキは改めてシュウジの強さを実感した。

 

これで皇国側の戦力も落ちる。幹部の一人を捕まえた事で安堵するヒビキだが、拳を握り締めて放とうとする蒼のカリスマにその目をギョッと目を剥かせた。

 

(まさかシュウジさん、バルビエルを殺す気なのか!?)

 

バルビエルには最早抵抗するだけの気力はない。血だらけとなり、項垂れるだけの案山子に成り果てた彼に魔人と呼ばれる男に反抗するだけの力は残されていない。

 

だが、魔人の方は未だにその手を収めるつもりはなく、このままでは間違いなくバルビエルは殺されてしまうだろう。確かにバルビエルはそれだけの事をしてきたし、ヒビキとしてもそれが奴の末路と言うのならそれも仕方の無い事だと割り切れる。

 

それに───。

 

(もしかしてシュウジさん、怒っている?)

 

仮面を被り、表情こそは読み取れないがその上から滲み出る様に溢れる怒りという感情が魔人から読み取れた。怒っている。自分の兄貴分が敵対した時すら見せなかった怒りをバルビエルに向けて放っている。

 

一体何をしたら普段は温厚な彼が彼処まで怒りを露にできるのか、逆鱗に触れたバルビエルにヒビキは内心で黙祷を捧げていた時、同伴していたセツコ=オハラが待ったの声を挙げる。

 

その時だ。セツコの呼び止める声に魔人が此方の存在に気付いたと同時に、さらに彼の視線の矛先が全く別方向に向けられる。一体どこに? 確かあの方角は自分達が乗ってきたZ-BLUEの艦があるだけの筈だが─────

 

「く、ソガァッ!!」

 

何かに気を取られ、拘束が弛んだ所をバルビエルは全身の力を使って魔人の手から逃れた。どれだけ打ちのめされようが腐ってもそこはスフィア保有者、フラフラと足取りは覚束無いがそれでもその目には先程とは違う憎悪が色濃く滲み出してきた。

 

「許さない、絶対に許さないぞ! お前だけは、絶対に!!」

 

「先程まで借りてきた猫の様にグッタリとしていた癖に現金な奴だ。それとも、怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターは単純な所が取り柄なのかな?」

 

殺意と憎悪に彩られた視線に晒されながらも尚煽ることを止めない蒼のカリスマ、その口調は何処か荒々しく、聞いているヒビキが寒気を感じるほどに冷たいモノだった。

 

「────非常に腹立だしいが認めよう。蒼のカリスマ、お前の力はスフィアリアクターである僕の力を遥かに上回っている。スフィアなんて持っていないくせに、なんてふざけた奴だ」

 

「そういうお前は嘘みたいに呆気ないな。怨嗟の魔蠍、恨みや憎悪によって増幅されたお前は周囲を巻き込む破壊者だと聞いてたが?」

 

「………………」

 

蒼のカリスマの指摘にバルビエルは奥歯をギリギリと噛み締める。サイデリアルの幹部である自分が何故こんな目に合っているのか、何故目の前の男がこれ程までに力を付けているのか、焦りと怒り、痛みと憎悪で感情が振り切れ掛けているバルビエルはそれらの感情を必死に抑えながらこの場から逃げる算段を企てていた。

 

が、そんなバルビエルの考えなどお見通しと言うように蒼のカリスマは一歩前に進む、足を一歩前に出す、それだけで凄まじい圧を感じたバルビエルは爆発しそうになる感情ごと押し潰される錯覚を覚え、踏み出した魔人に合わせて後退る。

 

バルビエルは気付いていない。既に己の心は目の前の魔人に折られているという事実に、痛め付けられた怒りや憎悪は折られた心に気付かない様にするための最後の防波堤の様なもの、今魔人が何かをすればその拍子にスフィアが奪われる程バルビエルは弱っていた。

 

無論、蒼のカリスマことシュウジはそんなバルビエルの様子など気付いてはいない。────否、知った所で彼がするべきことは何も変わらない。弱っていようと死にかけていようと報いを受けさせようと決めた以上、余程の事が無い限りシュウジはその振り上げた拳を収めようとしないだろう。

 

進退窮まった。逃げ場もなく、逃げられる算段も立てられないバルビエル、迫り来る魔人の歩みに圧され、とうとう壁際に追い込まれた彼はその顔に幾つもの大粒の汗を張り付けさせていた。

 

「─────待ってください」

 

そんな時だ。セツコが魔人とバルビエルの間に入り、バルビエルを庇うように両手を広げた。

 

「…………何のつもりです?」

 

「蒼のカリスマ…………いいえ、シュウジ=シラカワさん。お願いです、どうかここは私に預からせて下さい」

 

「お断りします」

 

懇願するように頼み込むセツコの言葉をシュウジは即答で返す。

 

「貴方が何故バルビエルにそれほどの怒りを抱いているのかは分かりません。きっと私では計り知れない事情を持っているのでしょう。そして私ではそんな貴方を止められる言葉を持ち合わせてはいません」

 

「………………」

 

「でも、それらを踏まえて敢えて私の言葉を聞き入れて欲しい。お願いします、どうか私に彼と話をさせる最後のチャンスを下さい」

 

セツコ=オハラはこれまで何度もバルビエルから命を狙われ、卑劣な手段とやり口で自分の心を折ろうと画策してきた。

 

他のZ-BLUEの面々もバルビエルに対して怒りは募らせている。この男の所為で国を焼かれ、人々の心を壊し、大勢の人間を傷付けてきた。それをまるで正当な権利であると主張するように。

 

蒼のカリスマの抱く怒り、恐らくはZ-BLUEの多くが共感できる思いだろう。しかし、だからこそ彼一人に任せる訳には行かないのだ。

 

バルビエルの処遇に関しては自分達全員で決めるべきだ。捕虜にして情報を引き出すか、それとも然るべき所に連れて幽閉させるか、彼のその後を決めるのはそれからで十分の筈、言葉や言い方を変えて以上の事をセツコは目の前の魔人に伝える。

 

それを聞いたシュウジはセツコを意外にも優しく甘い女性だと感じた。芯は強く、戦いにおいては容赦を無くす彼女は正しく軍人気質の人間だと言える。冷静沈着で視野の広い女性、それがシュウジの抱くセツコ=オハラの印象だった。

 

しかし、スフィアという要素がセツコ=オハラの印象を少しばかり変えてしまう。恐らく悲しみの乙女であるセツコは憎しみを司るバルビエルのスフィアと何らかの相互関係にあるのだろう。揺れる天秤と尽きぬ水瓶や傷だらけの獅子と欲深な金牛の様に恐らくこの二人もスフィアによる干渉を受けていて互いに無視できない関係になっているのだろう。

 

厄介な性質だ。いや、この場合はセツコ=オハラという人格も関係しているのだろう。どうにか言葉を変えて自分を納得させようとしている当たり、相当バルビエルの事を気に掛けているのは目に見えて分かる。

 

それに彼女の言い分にも分からない事もない。バルビエルは自分に対してだけでなく多くの人達を巻き込んできた事がある。この男に復讐してやりたいと願っているのは自分だけではない。そう言われてしまうと少しばかり考えてしまう。

 

本来ならバルビエルに仕返しを目論む人達にも納得して貰うような凄惨な仕置きを考えていたのに、ここへ至ってそれも萎えてしまった。壁に寄り掛かる様に座り込み、項垂れているバルビエルを見てセツコの言い分を聞いてみようかと思ったその時───。

 

「僕を、俺を、バルビエル=ザ=ニードルを、見下すなァァァァっ!!」

 

鼬の最後っ屁宜しく、バルビエルの発するスフィアの力がその場一体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

δ月δ日

 

してやられた。先日の出来事はこの一言に尽きるだろう。セツコちゃんの言うことを考えて改めようかと思ってた自分が少しばかり甘かった様だ。

 

バルビエルの野郎、最後にスフィアの力で憎悪を促進させるウイルス見たいなモノをばら蒔いた瞬間体を引き摺らせて逃げやがった。まぁスフィアの力自体はセツコちゃんのスフィアで相殺したからヒビキ君は何ともないからその時は良かったと思ったんだけど、問題は其処から始まった。

 

西条鈴音さん、ヒビキ君や宗介君達が通う陣代高校の教育実習生の人だったのだけど、何故か彼女だけがスフィアの影響を受けて凶暴化してしまったようなのだ。

 

ウイルスは遅効性のモノだったのか、自分とヒビキ君達が別れて暫く経った後に効果が現れ、彼女はジェニオンから降りてサイデリアルの連中と共に何処かへ雲隠れしてしまった。

 

この時の自分は先も述べた様に既にヒビキ君達から離れて行動してたし、止めに行こうにも既に遅かった。

 

…………やはり、残酷だろうとあの時にバルビエルを仕留めるべきだったか。後悔ばかりが募るが起きてしまった事は仕方がない。ヒビキ君とマトモに会話出来ていない事や彼等の今後の事など考えるべき事は山ほどあるが、対応出来るところから順に答えていくしかない。

 

それにあのとき感じた奇妙な感覚、恐らくはあの怒り野郎や楽しみ女と同じ超常の存在が近くにいたのだろう。それも多分Z-BLUEの皆の所のすぐ近くに。

 

喜び野郎の時を思い出し暫くは彼等との接触を控えようと直ぐ様あの基地から離脱したが…………やれやれ、問題は山積みだ。

 

真化融合を経て、少しは片付けられると思っていた問題がここへ来て急に増えてきた。やはりどんなに力を得ても人は人、今後も下手に慢心しないで気を引き締めていこうと思う。

 

と、ここまでは反省として書いておくとしてここからは嬉しい誤算について語ろうと思う。事の発端は自分がヒビキ君達から別れて基地を離脱した所から始まる。大破したサイデリアルの機体から必死に逃げ惑うサイデリアルの指揮官を捕獲出来たのだ。

 

一見すればただの量産型にしか見えない機体、しかしそこから這いずるように出てくる現れる奴の姿に自分は驚くと同時に納得した。奴の用意周到さと用心深さを考えれば当然の策略だ。

 

ここまで伝えれば分かるだろう。運良く捕獲出来たのだ奴の事を、これから自分の陣営に引き込むための交渉に向かおうと思う。奴が此方に寝返れば相当な戦力の向上に繋がるだろう。…………まぁ、自分とグランゾンしかいないけどさ。

 

ともあれここからが正念場だ。バルビエルに引導を渡す事は出来なかったが、それを補って有り余る人材を確保しようというのだ。下手にテンションを上げず、真剣に取り組もうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わ、私は一体どうなってしまうのだろう)

 

人気の無い廃屋の一室で手足を縛られた男、ギルター=ベローネは焦りと恐怖にその思考を埋め尽くされていた。

 

度重なる失態と敗北、Z-BLUEという疫病に関わってから私の栄光の架け橋は脆くも崩れ去ってしまった。既に部隊の中に私の居場所は無く与えられる機体も動けないがらくたの様な機体ばかり。

 

事実上、既に私は死兵の様な扱いなのだろう。地位も失い、立場も無くなった私はサイデリアルにとって最早いないモノと同然。

 

それでも死にたくないと無様に足掻き、運良く生き延びた私は鉄屑となった機体から這い出るように抜け出した。一命を取り留め、生き長らえた私は唐突に訪れた自由と生に酔いしれた。これでもう私を追い詰めるものはいない、これで私は自由の身だと、撤退していく我が軍とZ-BLUEに私は歓喜の雄叫びを挙げた。

 

これからは安寧に、慎ましく生きていこう。これまでの自分の悪行に目を瞑りながら人知れず生きていこう、それが私に残されたささやかな幸せなのだと自分に言い聞かせながらその場から離れようとして─────。

 

奴に出会した。

 

「おや、起きていましたか。これは都合がいい。(起こす)手間が省くというモノです」

 

「っ!?」

 

ギィッと音を立てて扉の向こうから現れる仮面の男に私は一瞬心臓の音が止まるのを感じた。

 

手間、手間とはなんだ? ま、まさか、この私を拷問に掛けるつもりか!?

 

混乱と恐怖に怯える私を愉快に思ったのか、目の前の仮面の男はクククと嗤いながら此方に歩み寄ってくる。

 

「流石はサイデリアル随一の智将、そうまでして自分の所属組織を庇い立てますか」

 

目の前の仮面の男は私を今の立場まで落とし込めた張本人、私を辱しめ、追い立て、追い詰めた憎い仇の筈。しかし、怒りよりも恐怖が、恐怖よりも絶望が私の胸中を襲い、言葉も挙動も制限していく。

 

「圧倒的不利な状況にも関わらず沈黙を保つその度胸、作戦を立てる時と違い寡黙な人なんですね。…………いや、成る程だからこそ智将足り得るわけですか」

 

仮面の男、魔人が何かを言っているがその全てが耳に入ってこない。今自分の頭にあるのは生きたいという純粋な願いだけだ。

 

(頼む、見逃してくれぇ! もう私には何もないんだ。もうお前達の前には現れない、だから頼む。見逃してくれぇ!!)

 

緊張と恐怖、絶望で言葉も発せられない私は黙って頭を下げることしか出来なかった。一秒か、一分か、はたまたもっと長い時間が経過したのか、いい加減何か反応して欲しいとゆっくり顔を挙げようとした時。

 

「…………まさか、仲間を売りたくないが為に自ら首を差し出してくるとは、どうやら私はあなたの事を未だ見くびっていた様です」

 

「──────はい?」

 

「分かりました。ならば私もしつこくは問いません。もし貴方が私の願いを聞き入れないのであれば貴方の覚悟に応える為その首を切り落としましょう」

 

 

え? え? なに? ちょっと、え?

 

「ではギルター=ベローネ、誇り高い貴方に一度だけ問います。その知力を生かす為、私の下でその力を振るうつもりはありませんか?」

 

なんで? なんでどうしてこうなった? 私はただ命乞いをしただけ、なのになんでこんなことになった?

 

噛み合わない話の内容、混乱する私の脳にあるのはたった一つのシンプルな答え。

 

従わなければ殺される。話の内容的に頷かなければ首がポーンされギルターがギ/ルターにされてしまう事を悟った私は静かに頷く事しか出来なかった。

 

平穏な生活、この男に関わった事でそれが宇宙の彼方にすっ飛んだ様な気がした。

 

 

 




ギルター(どうか命だけは、命だけは助けてください!)
ボッチ(仲間の為に自ら首を差し出すだと!?)

大体こんな感じ。ボッチから見れば某忠義の嵐な人並の忠義の厚い人に見えたギルターさんなのでした。(笑)

そして彼の苦難はここから始まる(暗黒微笑)


それでは次回もまた見てボッチノシ

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