『G』の日記   作:アゴン

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新作スパロボ情報まだかなぁ。


その160

 

 

「私が何者か、ですか?」

 

人気の無い通路、その突き当たりの場所でサクヤはC.C.に銃口を突き付けられていた。敵意、猜疑心、C.C.の瞳にはサクヤに対し一切の信頼を見せてはいない。C.C.は目の前にいる丸腰の女性に対し、殺意に近い感情を抱いている。

 

対するサクヤは銃口を向けられていながら、怯えるどころか動揺の一つも見せてはいない。まるで銃口を向けるC.C.を脅威と認識していないように、強がっている子供に向ける様な慈愛の笑みを浮かべている。

 

「あぁ、以前から薄々と気付いてはいたが、今のお前の笑みで確信したよ。お前、普通じゃないな。それもトンでもなく厄介な部類の」

 

敵意を、殺意を向けても笑みを浮かべるサクヤにC.C.は戸惑いを通り越して怖気を感じていた。サクヤの笑みを綺麗と感じる者はいるだろう、美しいと感動する者もいるだろう。事実、彼女は万人が認める美貌の容姿の持ち主、サクヤの容姿には既にZ-BLUEの多くの面々が男女問わず見惚れている。

 

しかし、そんな彼女の微笑みをC.C.は悍しいモノに見えた。感情が有る無しではない、彼女の微笑みは何に対しても(・・・・・・)同じ笑みを浮かべられているのだ。

 

他人が喜んでいる時も、他人が泣いている時も、悲しんでいる時も、怒っている時も、そして死んでいる時も、彼女は同じ顔で同じ笑みを浮かべていたのだ。

 

C.C.が疑問に思ったのはサイデリアルとある戦いを終えた時の事、不運にも戦いに巻き込まれ、飼い猫を亡くした子供に会った時の事だ。泣きじゃくる子供を前にサクヤは笑顔で諭した。家族同然と思っているのなら最期まで家族として埋葬してあげましょうと、聖女の如く慈愛の笑みを浮かべるサクヤにその場にいた住民は誰もが彼女に共感した。

 

その場に居合わせたZ-BLUEの多くの面々もサクヤに感激したりと感情を顕にしていた。しかし、C.C.は何故かそれが歪なモノに見えた。

 

人の感情は千差万別、多種多様の色合いを見せるもの、それなのにサクヤの感情は千差万別と言うには余りにも少なすぎた。

 

人を諭す彼女の笑みには怒りが見えた。人を慰める彼女の笑みには楽しさが見えた。人が努力し、奮闘している姿を見て微笑む彼女の笑みには憐れむような哀しみが透けて見えた。

 

彼女の向ける笑みには対象が無い。だからこそサクヤの笑みは万人に向けられる。何故なら彼女の笑みは最初から人に向けられるモノではないのだから。

 

人としては余りにも不自然で、それでいて逸脱しているサクヤ、そこから感じられるモノは、以前シュウジに触れた際にC.C.が感知した呪いに酷似していて────。

 

「答えろ。お前の目的は何だ? 何故私達に近付いた」

 

故に、C.C.は直ぐにこの女をどうにかする事を決断した。もし目の前の女がシュウジが危険視している奴と同類の存在なら、この艦に─────Z-BLUEに置いておくのは危険すぎる。

 

引き出せる情報が無いのなら、直ぐにでも脳天に風穴を開けて艦から放り投げるまで。Z-BLUEからは酷く追求されて非難されるだろうが、最悪の事態に陥るよりは何倍も良い。

 

────サクヤは何も変わらない。相変わらず見蕩れる様な笑みを浮かべているだけ、だったら此方もソレなりの対応をしようと、引き金に掛けた指に力を込めた時。

 

「あぁ、成る程、貴方は彼の…………シュウジ=シラカワの大切な人なのですね」

 

「なに? ─────っ!?」

 

瞬間、5mは離れていたサクヤとC.C.の距離はいつの間にかゼロにされ、銃を握り締められていた。C.C.はこれまでソレなりの修羅場を潜り抜け、力を付け、今はZ-BLUEの戦力の一つとしてその席に腰を下ろしている。

 

そんな彼女が知覚出来ない間に、サクヤはC.C.の間合いに入り込んでいた。一瞬の出来事に驚愕するC.C.、しかしそれならばと引き金を引いて撃とうとした瞬間、彼女が手にしていた拳銃はドロリと液体化し、ビチャリと床に落ちた。

 

物体の突然の液体化に今度こそ驚愕したC.C.は、その表情を真っ青にしながらその場から跳躍して遠ざかる。戸惑いと焦り、そして不安に染まり始めるC.C.を見て、サクヤはやはりあの微笑みを浮かべる。

 

「やはり、ここに来て良かった。僅かな情報を得てZ-BLUEに近付いた甲斐がありました」

 

この時、C.C.は初めてサクヤの笑みを見た気がする。歪みに歪み、ドロドロと濁りきった瞳を晒して伽藍堂の笑みを浮かべている。本性というには余りにも醜悪、正体と言うには余りにも歪んでいる彼女に今度こそC.C.は戦慄する。歪んでいく周囲の空間、液体化した拳銃だったモノはサクヤの(ナカ)へと消えていく。

 

「貴方を消したら、あの方は悲しむでしょう。怒り狂う事でしょう。太極に至り、その深淵へと進む彼の者は総てを消して尚止まらないでしょう。しかし、それでも私は成さねばなりません。嘗ての同胞の、楽しみの、怒りの代行者として彼に天罰を下さねばなりません」

 

天を仰ぎ淡々と語るサクヤ、歪んでいく空間はその侵食を早め、内側からマクロス・クォーターを呑み込もうとしている。

 

『そう、我等こそが天の遣い。総てを識り、総てを見据え、遍く世界を守る守護者にして至高の神の代弁者である』

 

サクヤの内側から何かが生まれようとしていた。哀しみを、怒りを、楽しみを、彼女の備えた感情が絶頂(ピーク)を迎えようとした時。

 

「あ、 C.C.さん、サクヤさん、こんな所にいたんですか」

 

「っ!?」

 

唐突に聞こえてきた第三者の声、振り返ればユニコーンガンダムのパイロットであるバナージ=リンクスが、こちらに向かって駆け寄ってきていた。

 

来るな。そう叫ぼうにも声が出ない。圧倒的存在に魂ごと鷲掴みにされた様な感覚に陥ったC.C.は、駆け寄ってくるバナージに逃げろと視線で訴える事しか出来なかった。

 

汗だくで、酷く憔悴し切ったC.C.に不思議に思ったバナージは足を止める。どうしたのだろう。彼女らしからぬ姿に戸惑うも───。

 

「バナージさん、私に何かご用がありましたか?」

 

「え? あ、はい。サクヤさんの姿が見えなかったから皆心配してたので…………そろそろ次の作戦が始まりそうでしたし、一応声を掛けておこうかと」

 

「あらあらまぁまぁ、それはお手数をお掛けして申し訳ありません。実はその…………迷ってしまって、通信で誰かに助けを求めようかと考えたのですが、皆さんも忙しい様でしたので…………」

 

「あぁ、そうでしたか。確かに複雑ですもんね、マクロス・クォーターは」

 

「はい。でもC.C.さんにこうして見付けて貰いましたので問題は無いかと思います。バナージさん、重ね重ね、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 

頭を下げ、謝罪をしてくるサクヤには先程までの狂気は感じられなかった。

 

「あ、頭を上げてください。大丈夫です。皆分かってくれますから。兎に角サクヤさんの事は僕から話しておきますので、サクヤさんは自室で待機してください」

 

「はい、分かりました」

 

そう言い残し、立ち去っていくバナージ。ニュータイプとして感受性の高い彼がサクヤに対してあの反応と言うことは、アムロやカミーユでもサクヤの内側に眠るあの狂気に気付くことは難しいだろう。

 

既にサクヤには先程までの狂気は微塵も無く、今C.C.の前には誰もが見惚れる美貌を持った美しき女性が佇んでいる。まるで、先程までの出来事が悪い夢であったように────。

 

「ふふ、それではC.C.さん。ごきげんよう。────貴方を頂く日を、楽しみにしてますね」

 

微笑みながらすれ違い様に口にするその一言に再び怖気を覚えたC.C.は飛び退く。しかしそこには既にサクヤの姿は何処にも無く、嫌な沈黙だけがそこにあった。

 

「くそ、まさかあんな怪物に狙われるとはな。恨むぞシュウジ」

 

壁に寄り掛かるC.C.、あの怪物を生み出した原因とされる魔人に愚痴を溢しながらマクロス・クォーターの天井を仰ぐ。

 

けれど彼女は気付いていない。己の望みを理解しておきながら生きている自分に安堵している事を…………。C.C.は、その矛盾に気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、蒼のカリスマことシュウジ=シラカワは────。

 

「成る程、グランゾンではなく敢えて鹵獲した敵側の機体を使用して敵陣を突破する。ですか。サイデリアルの撹乱と混乱を引き起こしながら同士討ちを狙うとは、流石ギルター=ベローネ、考えることがえげつない」

 

「ち、違う! 私は別にこんな事をしたかった訳では…………た、助けてくれぇぇぇっ!!」

 

捕虜にした知将(ボッチ視点)と共に戦場を駆け巡っていたのでした。

 

 

 

 




次回、G(ギルター)の日記

君は、知将の涙を見る。

次回も、また見てボッチノシ

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