『G』の日記   作:アゴン

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今回は彼がメイン。


その161

 

 

 

 

 

ギルター=ベローネ、それはいつの日か世界を統べ、星間連合サイデリアルの頂点の座に付きこの宇宙の全てを支配しようと目論んでいた偉大なる知将、その大いなる真名である。

 

翠と蒼、それぞれの地球を制圧し、Z-BLUEを打ち倒し、傲慢なる幹部たちを退け、偉大なる皇帝陛下からその玉座を戴く者────それが、この私ギルター=ベローネである。

 

宇宙の全てが私に頭を垂れ、跪き、私にひれ伏す。私に戦き、私に怯え、崇め、奉る。それが私に支配される事の喜びであり、至上の至福なのだ。

 

逆らうものには死を、従順なる者には至福の隷属を、それがこの多元宇宙における絶対の法であり、何物にも勝る理なのだ。

 

…………なんて、一度でも考えた私への罰なのだろうか? 幾度と無く作戦を台無しにしてきた私に対する天からの報復なのか? どちらにしても今私に出来る事は何もない。ただ、私に許されたのは。

 

「フムフム。成る程成る程、一見無茶苦茶な作戦内容ですがその真理を探ろうとするならば強ち間違ってもいませんね。私が単独で基地内部に潜入し、撹乱、陽動を行いその間に貴方が捕まった人達の救出を行う。そしてその裏で私はサイデリアルの技術を盗み、そこから奴等の目論みを看破する。やれやれ、相変わらずヘビーな作戦ですね」

 

ちげぇよ。そんなんじゃねぇよ。これはただ適当に書き殴り、適当に文章を繋げただけの落書きだ。こんなモノは作戦でも何でもない。ただの自殺願書だ。

 

しかし、そんな事を幾ら思っても決して口には出せない。何故ならば目の前の男はこう言った私の作戦とも呼べない作戦を既に何度も完遂しているのだ。しかも、私の予想を遥かに超えた戦果を拵えて。

 

奴の手で幾つもの我がサイデリアルの拠点が陥落した。機動兵器を用いず、例の魔神も呼び出さず、単独で、生身で、多くの銃器と機動兵器が置かれている基地を静かに制圧していく。

 

規格外の化け物、我々サイデリアルは喧嘩を売る相手を間違えた。そう思わずにはいられない魔人の圧倒的過ぎる力、こんなん相手にどうすりゃあいいねん。そんなよく分からない言語を内心で呟きながら…………。

 

「ですがやり遂げて見せましょう。この程度の関門を潜り抜けなければ貴方を引き込んだ意味が無い。さぁ、行きましょうか」

 

嗚呼、今日も今日とて地獄を見るのか。これから自身に訪れる災厄を思うと…………死にたくなる。

 

いっそ誰か楽にしてくれないかなぁ、あはは。

 

そんな私、ギルター=ベローネの願いは永劫に来ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギル月ター日

 

あの日、私が奴の脅しに屈して奴────蒼のカリスマと行動を共にして数日、私は奴のその異常性に絶句した。

 

奴は死ぬことを恐れない。進行方向にサイデリアルの拠点を見付ければ当然の如く潜入し、瞬く間に制圧してしまう。必要以上の血を流さず、外に警戒に出ている兵士達に全く気付かれずに…………。

 

思えばここで奴の事を皆に話すべきだった。蒼のカリスマが潜入しているぞと、声を大にして彼等に教えてやるべきだった。そうすれば私は蒼のカリスマを追い詰めた功労者として再びサイデリアルのお抱えになれた筈。

 

しかし、そんな私の願いは瞬く間に崩壊する。奴が基地に潜入して十分弱、漸く侵入者に気付いた兵士が機動兵器を使って基地に戻ろうとした時だ。

 

妙な着ぐるみを着た何者かが、突然爆発する基地から飛び出し機動兵器に殴りかかったのだ。相手は末端とは言えサイデリアルの機動兵器、着ぐるみの…………それもクマだかネズミだか良く分からんユルフワなお惚け着ぐるみ風情が敵う筈がない。そう、思っていた。

 

繰り出される拳と蹴り、着ぐるみの放つ打撃は機動兵器の脆い部分を的確に打ち抜き、行動不能にして撃破していく。ユルフワな着ぐるみが巨大兵器を蹂躙する。そんな下手なホラーよりも恐ろしい光景に連携の取れなくなった兵士達は立ち所に瓦解し、着ぐるみに全滅させられた。

 

逃げれば良かった。しかし、震える足では満足に動かす事は出来ず、全て片付けて私に近付いてくる着ぐるみに私は為す術がなかった。

 

そして、「やぁ」と気軽に挨拶をしながら着ぐるみを脱いでその姿を露にする蒼のカリスマに私は今度こそ確信する。私がこの怪物から逃げ出す事は不可能なのだと。

 

誰か、助けてくれ。

 

 

 

ギル月ベル日

 

私にはもう、逃げ場はない。先日蒼のカリスマが私の存在は此方が預かっているという一言に私は野に逃げ果てる処か味方であった筈のサイデリアルにさえ狙われるようになった。

 

それはつい昨日の事、偶々立ち寄った町で珍しく酒にありつけた私が酔いの勢いで溢してしまった本音が原因だった。

 

私は、誰かに認めて欲しかっただけなんだ。自分という存在を、誰かに、僅かでも、ほんの少しでいいから必要とされたかったんだ。

 

酒に溺れ、ふと溢れた私の本音。あぁ、この程度の幸福で満足できたのだと、今更ながら思い知った私はこの時感極まって泣きそうになった。

 

そんな時だ。奴は私に次の行動の指針とその詳しい内容を訊ねてきた今更何だと、そんな私の疑問にも答えず、ただ次はどうすればいいと聞いてきた。

 

目の前にいる男こそが私をここまで追い詰めた元凶だというのに、今は何故か私に此れからの事を尋ねてくる。知るか、全てはお前が原因なのにどうして私が助言をしなければならないのだ。

 

とはいえ、このまま奴に好き放題にされるのも癪に障る。これまでの憂さ晴らしも含め今度こそ殺してやるという意気込みを込めて私は奴にある一つの作戦を提案した。

 

それは、言い換えれば死刑宣告。遠回しに死んでこいと言う作戦とも呼べない暴挙だった。潜入する基地、その場所以外規模も配置された人名の数も何一つ分からず、更にはいる筈の無い人質の救出という出鱈目な作戦を奴に叩き付けてやった出来るものならやってみるがいい、挑発を込めてそう言い放ってやった。

 

ザマァミロと、黙する奴に私は痛快な気持ちになった。しかし、それから時間もおかず奴は基地へと向かい、いないと思われていた人質を救出し、おまけに基地を制圧してきた。

 

開いた口が閉じれなくなった。近くのコンビニに足を運ぶ気安さで、この化け物は一つの基地を制圧してみせやがった。何故思い出さなかった。目の前のコイツは生身で機動兵器を圧倒するんだぞ!

 

あ、因みに人質にされた女性は何でもサイデリアルに慰み物として献上という名の略奪でこれまで基地内部で監禁されていたのだとか。マジでか。それが、今回私の作戦で救われたと解釈され、私はその女性からありがとうと礼を言われた。

 

…………いつ以来だろう。ありがとうなんて言われたのは。 誰かに感謝をされたのは、こんな気持ちになれたのは。

 

もしかしたら、私が本当に望んでいたのはこれなのかもしれない。それならこの怪物に付き合うのも悪くはないのかもしれない。

 

 

 

ギル月ベローネ日

 

前言撤回! この蒼スマ野郎やっぱりとんでもない怪物だった!

 

前回私が行った作戦で完遂したと言われる作戦、その事をあの野郎、翠の地球にあるサイデリアルの拠点基地に私の事を暴露しやがった!!

 

あぁ、確かに私は誰かに認めて貰ったさ。必要とされたかったさ!! けどさぁ、こんな事全然望んでいなかったんだよぉ。

 

なんだよあれぇ、あれじゃあどうみても宣戦布告だろう。何が彼の妙策に気を付けるが良いだ。それ実行してるのお前だろう! 何で私が狙われる様な言い方をするんだ。

 

これでバカにしてきた奴等に見返してやれる? いらねぇよそんな気の使い方! 頭おかしいんじゃないのか!? そんなんだから蒼の地球でなまはげとかいう化け物扱いされるんだよ!

 

…………なんて、力強く言い返す事なんて出来る筈もなく、今日も私はこの出鱈目な化け物に付いていくしかないのであった。

 

嗚呼、これが私がしてきた事への罰なのか。もし神様と言うのが存在しているのなら、きっとソイツは私の事が嫌いに違いない。

 

私だって嫌いだよバーカ!!

 

はぁ、いつか、私に安寧の時は訪れるのだろうか。

 

誰か、助けてくれくれ……。

 

 

 

 

 

ギルター=ベローネ、サイデリアルの知将と呼ばれる彼に果たして安らぎの時は来るのだろうか。

 

(絶対に)ないです。

 

 

 

 

 




ボッチ「これで皆に見返せるよ。やったね!」
ギルター「余計なお世話だヨォぉぉ!!」

ボッチの善意は常に人の心を抉っていく。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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