『G』の日記   作:アゴン

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今回はリクエスト(?)の多かったシオニーの救出劇をシオニー視点で書いてみました。

……まぁ、殆ど書けていませんが、楽しんで頂ければ幸いです。


幕章
幕間その1


 

 

 ────陰月。

 

そこに待ち受けるインペリウムとの最終決戦、破界の王ガイオウ達と決着を付ける為にZEXISは幾度も窮地と危機を乗り越え、遂にここまで来た。

 

爆炎をあげるグレートアクシオン。ガイオウに預けられた次元獣は全てZEXISに倒され、インペリウムそのものと言える巨大戦艦はその機能の全てを停止し、いよいよ……帝国が終わりの時を迎えようとしていた。

 

グレートアクシオンのブリッジ。元リモネシアの外務大臣シオニー=レジスは、炎に包まれつつあるその場所で、彼女は嘆く気力も無くし、目の前に揺らめく炎を見つめていた。

 

『………私、どうしてこんな所に来たんだろう』

 

全ては祖国の為だった。大国に呑まれ、属国として生きていくのではなく、リモネシアはリモネシアとして立派に生きていける事を証明したかった。

 

大国に支配された世界で祖国の平和と繁栄を望み、奔走していた日々。……だけど、どこかで間違っていたのだろう。愛していた祖国は自らの手で消し、ガイオウとアイム=ライアードの影に怯え、いつの間にか威を借る張り子の独裁者となってしまっていた。

 

アイム=ライアードの指示に従い、言われるまま世界を蹂躙した今、彼女の居られる場所は何処にもない。それが自業自得と知りながらも、シオニーは何故と自問せずにはいられなかった。

 

過去を振り返り、何処で間違ったか振り返る最中、シオニーはある出来事を思い出し、宇宙服のメット越しにクスリと笑みを浮かべる。

 

『あぁ……でも、あの時だけは楽しかったなぁ』

 

プロジェクト・ウズメを発動させる数日前、リモネシアでは滅多に訪れない居酒屋。あの頃の自分は仕事の忙しさと責務、重圧によって精神的に参っていた。

 

だから魔が差したのだろう。お酒を飲んで一時だけでも楽になろうと、彼女は珍しくその暖簾を潜った。

 

その時出会ったのが自らを旅人だと自称する青年、シュウジ=シラカワだった。ヘラヘラ笑う彼を最初は気に入らないと嫌っていた。

 

けど、自分の愚痴を真剣に聞き入れて、酔っていた自分の事をまるで気にしないように振る舞う彼に、自分はいつの間にか声を大にして叫んでいた。

 

いや、寧ろ罵倒していたと言っても良い。何の苦労も知らず、呑気に旅なんてしているシュウジを嫉妬し、妬んだのだ。あの時は慣れないお酒を飲んだ為に朧気にしか覚えていないが……それでも、随分酷い事を言ったと思う。

 

けど、そんな自分の言葉を彼は受け止めてくれた。行き場のない苛立ちを、理不尽な八つ当たりを、彼は真剣な顔で受け止めてくれた。

 

“俺はまだガキですから、アナタの苦労は分かりません。けど、生まれ故郷の為に頑張るアナタを俺は尊敬します”

 

顔を合わせられなかった。若造がと、世間を知らない子供がと、知った事を口にする目の前の男が益々気に入らなかった。

 

……いや、本当は違う。嬉しかったんだ。初めて尊敬するなんて言われて、そんな事言われたらなんて言えばいいか分からなくて、憎まれ口を叩いて誤魔化すので精一杯だった。

 

赤くなった頬を酒の所為にして逃げる事しか出来なかった自分は、やはりこの時から卑怯者だったのだろう。

 

けど、それでも良かった。彼の所で飲むお酒は気分だけでなく心の底から軽くなれた。また明日も頑張ろうと元気を貰えた。

 

彼自身は未成年である為、一緒に飲むことは出来なかったが、それでも成人したらここに飲みに来ますと言ってくれた。

 

つくづく、生意気だと思いながらそれを嬉しく思う自分がいる事に気付いたのは……プロジェクト・ウズメの発動当日の日だった。

 

自分の選択が国を滅ぼし、自分の決断があの店を壊した。彼と一緒に飲むと決めたあの店を、自分の手で消してしまった。

 

結局、自分は道化のまま終わるのだろう。アイムに利用され、ガイオウには捨て駒にされ、ZEXISの足止めを命じられたままに実行する。

 

『でも、これが私の罰ならそれも仕方ないかな』

 

渇いた笑みを浮かべながら、シオニーは誰もいないブリッジで一人膝を抱いて目を瞑る。せめて楽しかった頃の夢に包まれながら死んで逝きたいと、彼女はそう願いながら瞼を閉じた。

 

……が。

 

『か、艦長! 後方から高エネルギー反応が急速接近! これは……グランゾンです!』

 

『ナニィッ!?』

 

辛うじて生きていた通信機器、そこから発せられるZEXIS達の驚きの声が上がっていく。何だと思い、顔を上げたシオニーが目にしたモノは……。

 

『ひっ』

 

既に目の前に迫った魔神の姿。所々損傷してはいるものの、その禍々しさは未だ健在。サンクキングダムであのガイオウを一方的に蹂躙した様子は、シオニーにとってガイオウ以上にトラウマとなっていた。

 

それを目の当たりにしたシオニーが悲鳴を上げるのは仕方がない事だと思う。少しばかりチビってしまってもしょうがない事だと思う。

 

恐怖で身が竦む。魔神が自分を握り締めようとブリッジにその手を突き入れて来た時は、気絶しなかった自分を褒め称えて欲しい所だ。

 

このまま握り潰されるのか。覚悟もままならなかったシオニーだが、意外にも魔神はそのような事はせず、寧ろ炎や瓦礫に押し潰されないよう包み込むと、そのまま離脱。後ろで何か言っているZEXISを無視してシオニー=レジスは訳が分からないまま戦場から離脱する事になった。

 

……結局、自分は最後まで何も出来ないままだった。死ぬこともなく、だけどその事に深く安心している自分がいる事に気付いたシオニーは、惨めな自分を消すように延々と謝罪の言葉を呟いていた。

 

その最中、魔神の彼女を見る目が───どこか優しかったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、今回は色々惜しかったね。グレイス=オコナー」

 

『慰めならいらないわ。結果を出せなかった事は事実ですもの、笑いたければ笑っても結構よ』

 

「そんな事はしないさ。あの魔神を相手に出し抜こうとする君の胆力をボクは素直に賞賛するよ」

 

『それはどうもありがとう。褒め言葉として受け取っておくわ』

 

「さて、ひとまずガイオウは滅んだ事だし、僕たちもそろそろ舞台を整えるとしようじゃないか」

 

『そうね。……ではミスター、機会があればまた次にでも』

 

「そうだね。その時を待っているよ」

 

何も見えない暗闇の空間、唯一灯りとなっているモニターを消し、彼は一人楽しそうに口元を歪ませる。

 

「……フフフ、ダメだよグレイス=オコナー。あの魔神を御するにはまだ人間の域を出ていない君では不可能だ。そう、あの魔神を制するのはこのボク」

 

“イノベイター”なのだから……。

 

暗闇の中、金色の瞳が妖しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私、どうして」

 

波の立つ海岸。砂浜に降りたったシオニーは混乱の中に叩き込まれていた。

 

何故自分は生きているのか。何故魔神は自分を助けたのか、何故魔神は……リモネシアに連れてきたのか。

 

答えを知るものは誰もいない。魔神も自分をリモネシアに置いた後、何処かへ飛び去ってしまった。

 

何故、何故と口ずさむシオニー。既に太陽は水平線の彼方に沈み始め、夕陽の光が彼女とリモネシアを包み込む。

 

分からないとただ呟くシオニー、壊れたラジオの如く繰り返す疑問に誰も返す事はなかった。

 

だが、そんな彼女に足音が近付いてくる。……誰だろうか? 背後から近付いてくる人間に心当たりがないシオニーは疲れ切った表情で振り返ると──。

 

「………あ」

 

涙が、こぼれた。

 

一滴だった涙は途端に川となり、彼女の頬を伝ってポロポロと流れ落ちていく。

 

そんなシオニーの前にその人物は慌てふためく、変わってないその人を前にシオニーはただただ涙を流し……。

 

「えっと、俺が言うのもおかしいけど……お帰りなさい。シオニーさん」

 

「う、うぅ……うぁぁぁぁぁぁあっ」

 

遂に、堰を切った様に泣き出した。いつぞやの誰かさんの様に無様に、涙と鼻水でグシャグシャになりながらみっともなく泣き喚く彼女を、青年は自分がして貰った時の様に側に寄り添った。

 

彼女の涙が止まるまで……ずっと。

 

 

 

 

後に、世界は公表する。新帝国インペリウムと名乗るテロ集団は国連に属する部隊が撃破。ガイオウは滅び、インペリウムの筆頭政務官シオニー=レジスは死亡と。

 

だが、その後に旧リモネシアにある小さな学校に彼女に酷似した女性教師がいるという噂が一時的に広まるが、誰もその事実を確認したモノはおらず、噂はすぐに収まった。

 

ただ、その噂に乗せられ、冷やかし気分でリモネシアに訪れた観光客は暫くの間、魔神と青いツナギ姿の仮面男に追いかけ回される悪夢を見る事になるとかならないとか……。

 

 

 

 

 

 

 




次回は復興の話をベースに日記を書いていきます。

あと、何回か感想で返しましたがこの作品に明確なヒロインはいません。

そこの所はご了承下さい。

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