『G』の日記   作:アゴン

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今回はZ-BLUEでの日常的な話。


その168.5

 

 

Z-BLUE、現在地球圏の人類が有する最強部隊。年若い若者やベテランの戦士、傭兵が多く属するこの部隊に今日も変わらず朝がやって来た。

 

朝───といっても、実際彼等が現在いるのは宇宙空間、日の出など無く徹底した時間管理の中で睡眠と起床が行われている。

 

起床の時間に覚醒し、時間通りに起き上がる。Z-BLUEの一員である早乙女アルトは未だ寝惚け眼な自身の顔に備え付けの簡易シャワーで寝汗を落とし、完全な覚醒を自ら行った。

 

髪を乾かし、解かし、整えながら着替えを済ませた彼は朝食を済ませる為、マクロス・クォーターの食堂に向かう。

 

Z-BLUEの食事事情は他の部隊と比べて比較的恵まれている。戦闘員だけでなく彼等を支える生活班の手で作られる料理の数々は暖かく、戦いの日々で廃れた彼等の心を内側から癒してくれている。

 

今日の当番は21世紀警備保障───ダイガードのサポート達が担当している筈、彼の会社の殆どが日本出身である事から今日の朝食は和食である可能性が高い。早乙女アルトも日本に縁のある人間なので、日本の料理には一目置いている。

 

楽しみだ。戦いばかりをする今の状況、不満を言うつもりはないが、せめてこの時間だけは静かに緩やかに過ごしたい。そんな淡い希望を胸に食堂へやって来た彼が目にしたものは………。

 

「はい、焼き鮭定食お待ちどうさま。ミカンをオマケにしておきましたから、沢山食べて下さいね」

 

「サンキュー蒼スマの兄ちゃん!」

 

割烹着を身に纏い、仮面を被る嘗ての魔人が厨房に立っていた。

 

思わず腰が抜けそうになる。朝から衝撃的過ぎる光景を目の当たりにしてしまったアルトは、顎が外れそうになる程口を開き、目をこれでもかと剥かせ、プルプルと指を震わせながら厨房に立つ魔人を凝視する。

 

蒼のカリスマ、先の時獄戦役で隔絶宇宙にて彼の者と戦闘、死闘の末辛くも何とか勝利した、Z-BLUEにとって過去最強の難敵だった者。

 

その裏で隠されていた真実、やむを得ない事情の下自分達と戦うしか道が無かった彼の当時の立場の辛さは、同じ大事な者を抱えるアルトとしても他人事ではなく、そして充分過ぎる程理解できた。

 

そして全ての垣根が消え、漸く和解する事の出来た自分達は、遂にあの蒼のカリスマを仲間にすることが出来た。心強い味方だ。一部………特に時獄戦役以降に新しく加わった人間が未だ訝しむ中、手放しで喜ぶ事は出来ないが、それでも一つの大きな問題点が改善された事に、その時のアルトは大きな安堵を覚えた。

 

────それなのに、目の前の混沌とした光景がその時の自分の気持ちを台無しにしている。何故割烹着なのか、何故厨房に立ちながら仮面を被っているのか、コック帽の代わりのつもりなのか? なら何故三角頭巾をしている。そもそも何故彼が厨房に立ち、朝食なんて作っているのか。

 

可笑しいと思うのは自分だけなのか、食堂をグルリと見渡すが特に誰も不思議に思うことが無いのか、皆それぞれ黙々と朝食を食べている。

 

特に小学生組であるワッ太は和気藹々と白米を頬張っている。隣の金田正太郎は若干戸惑いながらも特別何か気にした様子もなくパンを齧っている。

 

確か小学生組は前に蒼のカリスマ────シュウジに勉強を教えて貰ったり、勉学の楽しさと難しさを教え説かれたと聞いており、比較的他のZ-BLUEの面々よりも親しかった。故に先日のシュウジからの事の真実を聞いて、ヒビキに次いで関係を修復出来たのは当然の帰結とも言えただろう。

 

(でも、だからってああも受け入れられるモノなのかよ、割烹着だぞ割烹着!)

 

仮面と割烹着というミスマッチ過ぎる格好、端から見れば人を小馬鹿にしているとしか思えないその姿に、何故誰も指摘しないのか。誰か自分と共感出来る者はいないのか。

 

───いや、いた。テーブルに伏している一人の女性が、あれはチームDの一員であり実質のリーダー格である飛鷹葵だ。

 

「なんで割烹着なのよなんで仮面付けてるのよなんで仮面の上に三角頭巾を付けてるのよなんで自然と厨房に立ってるのよ」

 

どうやら自分と全く同じ感想らしい彼女に、アルトは言い難い安堵を覚えた。一人彷徨う荒野に自分と同じ境遇の人間を見た。そんな気持ちだ。

 

すると向こうも此方に気付き、視線を向けてくる。その顔は時間帯は朝なのにも関わらず酷く疲れた顔をしている。目が合い、葵はフッと乾いた笑みを浮かべている。どうやら自分も似たような顔をしていた様だ。

 

「ここ、座っても良いか?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

向かい側に座ることを快く承諾してくれた彼女に、アルトも自然と笑みを浮かべた。同志、そう言っても過言ではない関係が二人の間に出来ていた。少しばかり話をしよう。普段あまり接点の無い自分達だが、これを機に色々話すのもいいかもしれない。

 

「おはようございます、葵ちゃんアルト君。今日も一日頑張りましょう。はいアルト君はブリの照り焼きと白菜の浅漬け、お味噌汁は赤味噌が好きだったよね。葵ちゃんはスクランブルエッグとコーヒー、パンは表面固めに焼いておきましたよ」

 

「「──────」」

 

頼んでもないのに出てくる朝食、別にそれは良い。どちらにせよ食べるつもりだったし内容もほぼ自分の望み通りの品だ。

 

ただ、一つ言えることが在るとすれば………………。

 

「どうして俺の好みを知ってるんだよ」

「どうして私の好みを知ってるのよ」

 

「? 同じ生活する仲で相手の好みを把握するのは普通の事では?」

 

心底不思議そうに首を傾げる魔人に、二人は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼のカリスマ───もとい、シュウジ=シラカワのZ-BLUEに合流してからの行動は献身的に尽きるモノだった。格納庫に行けば整備班と共にZ-BLUEの各機体の整備調整を手伝い、食堂に行けば生活班と一緒になって厨房で料理を作っている。

 

シミュレーションを行いたいと誰かが言えば率先して付き合い、腕を磨きたいと誰かが言えば護身術程度で良ければと自称し組手に付き合う。

 

そんな献身的過ぎるシュウジの生活態度はZ-BLUEに属する殆どの人間の警戒心を弛めた。トップレスの少年少女達はZ-BLUEに入って日が浅い事もあり当初は蒼のカリスマの存在に懸念していた節があったが、魔人と恐れられる人間の人となりを知ることでその懸念は杞憂のモノへと変わっていった。

 

「でもさぁ、もう少し手を抜いても良いと思うんだよ俺ァ」

 

ドラゴンズハイヴにある休憩室、その隅で間の抜けたボスの声が響く。その声には覇気がなく、やるせなさと気疲れの色が濃く滲んでいた。

 

そんなボスの一言に同調したのか、周囲にいる他の面々も同意する様に何度も頷く。

 

「だよなぁ。働き過ぎるよあの人、あのままじゃあいつ、いつか倒れちまうんじゃねぇのか?」

 

同意しながら付け加えるのは貧乏クジ同盟の一人、デュオ=マックスウェル。その言葉には心配というよりも呆れの意味合いが強い。

 

「いや、本人によればどうも好きでやってるみたいだぞ。共同生活が楽しいとか何とか………………と、生活班と話しているのを偶然聞いたな」

 

「流石にそれはねぇだろ」

 

「寧ろ献身的に働いて此方の反応を楽しんでいる。と言った方が俺は納得するね」

 

トロワの話を即答でデュオが否定し、同じ貧乏クジ同盟の青山が付け加え、他の皆がそれに同意する。シュウジの働きは献身的を通り越して過剰と思えるもので、その働きぶりは同じ部隊で生活するデュオにとっては、数日経過した今も違和感を感じるモノだった。

 

というより慣れる方が可笑しい。幾ら操られ、やむを得ない事情があった為とはいえ、自分達は一度あの男と本気の殺し合いをしたのだ。表向きは献身的な態度のシュウジにZ-BLUEの多くは心を許しているが、一部の人間は彼を信じきってはいない。

 

特にトップレスのリーダー役であるニコラス=バセロンは蒼のカリスマに並々ならぬ悪感情を抱いているのか、彼を見るニコラスの眼は鋭いモノになっている。

 

他にも因縁からエレメントのカイエンや、何故かノノも蒼のカリスマを目の敵にしている。カイエンは以前背後を蒼のカリスマに容易く取られている事から、軍人気質であるカイエンが彼に対抗意識を持つのは無理もない話である。

 

一方ノノはどうなのか。彼女の姉貴分(本人は否定しているが)であるラルクが訊ねた所によると、何でも台詞を取られたらしいのだ。要領の得ないノノの言い分に理解出来ないラルクはお手上げ、蒼のカリスマ本人にも聞いたが、彼自身も心当たりは無いのか首を傾げているばかり。

 

話は大きく逸れたが、ここにいる全員が抱いている思いはただ一つ、あの魔人こと蒼のカリスマは本当に信用出来るのか?

 

自分達と戦った理由は聞いた。その事情にも同情しているし、彼が真に自分達と一緒に戦おうとしている気持ちも、ここ数日彼の行動を見ていれば嘘ではないと理解できる。

 

だがそれでも、どうしてもと思う気持ちが出てきてしまう。どれだけ蒼のカリスマが献身的だろうと、そこに何らかの裏があるのではと勘繰ってしまうのだ。

 

だって、だって………………物凄く胡散臭いんだもの。四六時中仮面を被るのもそうだが、彼が丁寧な敬語で話していると凄まじく怪しいのだ。

 

嘗て破界事変の時、ヒイロや当時のソレスタルビーイングの面々が彼を遠巻きに監視していた時期があったが、そんな彼等でも彼の蒼のカリスマの真意を見抜く事は出来なかった。

 

蒼のカリスマ────シュウジ自身は良かれと思って行っている献身的行動も、その話し方と身に纏う雰囲気で台無し処か、マイナス方面に振り切っている。

 

いっそのこと艦長達と同じ部隊を引っ張る立場となってブリーフィングに出れば良いのに、それらの役割は専らギルターが出席していて、心なしかそのギルターも何処か悟った顔をしている。

 

蒼のカリスマ、シュウジ=シラカワの行動、その全てが裏があるような気がしてならない。噂によるとテレサ=テスタロッサもその聡明さ故に、シュウジの思わせ振りな行動にやきもきしているらしい。御愁傷様である。

 

因みに他の艦長達は諦めの境地でいる。気にしているだけ無駄と悟ったのだろう。ギルターと並び正しい選択である。

 

そんな訳で蒼のカリスマの事を今一つ信用出来ていない一同は深いため息を溢す。と、そんな時だ。

 

「成る程、皆さんの私に対するお気持ちは良く理解しました」

 

「「「っ!?」」」

 

突然聞こえてきた声、振り返れば自分達の背後で佇んでいる件の張本人がいる事に彼等は揃って驚き、そしてしまったと愕然となる。

 

「あぁ、そんなに動揺なさらなくて結構ですよ。盗み聞きしていたのは此方でしたから。…………しかし、確かに皆さんの懸念は理解できます。事情があったとは言え私達は一度本気で殺し合った間柄、いきなり全て受け入れろと言うのは無理があります」

 

「え? あっ、そう?」

 

「ですので、次の戦闘は私一人で出撃させて頂きたいと思います」

 

「─────ファっ!?」

 

「Z-BLUEの皆さんはここ最近度重なる戦闘で疲弊していると聞きます。幸い私とグランゾンの消耗は軽微」

 

「ちょちょ、ちょっと待って───」

 

「既にこの事は各艦長達に伝えてあります。何故か全員顔が引きつっていましたが、承諾してくれました。そこで皆さんには私が本当に共に戦うに足るか否か、どうか見定めて欲しい」

 

では、と軽く挨拶をした蒼のカリスマは部屋を後にしていく。それから少しして艦内に警報が鳴り響き一機の機体が艦から飛び出した。

 

一方的、蹂躙とも言えるその光景に誰もが言葉を失った。もういい、もういいからその位にしてやれ、相手泣いてるじゃん。いつもは戦意マシマシで戦場に出るZ-BLUEの猛者達も、この時ばかりは少ししおらしかった。

 

その一方で真剣に、全力で戦ったと自負する蒼のカリスマことシュウジはホクホク顔で帰還、これで皆も自分の事を認めてくれるだろう。そんな気持ちで艦に着艦する彼が待っていたのは苦笑いを浮かべるシャアとアムロだった。

 

「どうでしょう。私なりに全力を尽くしたつもりなのですが………」

 

「あぁうん。そうだね、まぁ伝わってはいると思うよ、うん」

 

「君が真剣なのは………………まぁ、分かったと思う」

 

何処か歯切れの悪いアムロとシャア、しかしそんな事も気にもせずシュウジは意気揚々と格納庫を後にする。そんな彼の後ろ姿を見て二人は思う。

 

「仮面を外して敬語を止めれば親しみやすくなると思うんだがなぁ」

 

「怖いものだな。若さ故の過ちというのは」

 

尚、どんな相手でも一切手を抜かないシュウジのやり方を見たZ-BLUEの面々は、少しシュウジと距離を置いたという。

 

「何故だっ!?」

 

「バカは死なないと直らないと言うが、死んでも直らない場合はどうすればいいのやら」

 

ただ唯一、C.C.だけはいつも通り辛辣だった。

 

 

 

 

 




ボッチ「今まで迷惑掛けてきたし、これからは一所懸命頑張るぞ!」

本人は大体こんなのり。

尚、ノノがボッチを敵視している理由は。

ノノ「悪者達よ、ここから先はあなた達の思惑通りにはなりません。何故ならば────」

ボッチ「私達が、来た!」

ノノ「(# ゜Д゜)」

見たいな感じで台詞を取られたから。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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