『G』の日記   作:アゴン

2 / 266
主人公の知識は知っているモノは知っているけど、知らないモノは知らないと言った感じです。


その2

 

○月A日

 

この多元世界と呼ばれる異世界に来てから数日、相変わらず忙しなくバタバタしているがここで一つ朗報が入ったので追記しておく。

 

ここまで無一文の戸籍無しで端から見れば怪しさ全開の自分だが、どうにかここエリア11でお金を稼ぐ方法を見つけた。

 

雑用係として雇用してくれたゴウトさんには本当に感謝している。……凄まじくこき使ってくれるが。

 

元々エリア11のシンジュクゲットーには犯罪者や密業者など多くの不審者で賑わう吹き溜まりとなっているようで、自分の様な輩は珍しくないらしい。

 

流石に住まいは提供してくれなかったが……まぁ、給料が貰えるだけでも有り難く思った方がいいだろう。グランゾンのコックピットも今では自分の生活空間の一部となっているのだから……。

 

そんなゴウトさんの仕事はバトリング試合の組みの際のスポンサーで、腕の良いアーマードトルーパー(通称AT)乗りやナイトメアフレーム(通称KMF)乗りを見つけては短期契約をし、十全なバックアップを約束する代わりに試合報酬の分け前を頂くという商売をしている。

 

商魂逞しいゴウトさんに感心しながら、一方で自分は慣れない仕事に日中殆どゴウトさんに怒鳴られていた。

 

ATのパーツ整備が甘いとか入荷したパーツのチェックが遅いとか、怒られる事は多々あったがそれでも自分はそれとなく充実した時間が送れたと思う。

 

色々危険がある所だけどゴウトさんはこの界隈では結構顔の広い人間らしく、最初の時と比べて自分を危険な眼差しで睨んでくる輩は大分減った事が自分の中で一番嬉しい事だ。

 

まぁ、商売敵のココナやバニラには度々イジられるのが玉に瑕なのだが……けど、自分がいた世界でもこういった人間関係はあったし、何より自分も悪くないと思っている為さほど気にした事はない。

 

やはり人間には適度なお付き合いも必要なのだと改めて思った日々でした。

 

ただ、ゴウトさん達やアストラギウス、ATとかの話を聞くとな~んか忘れている気がするのはなんでだろう?

 

確か……き、き、キリ……キリト? いや違うな。キリヤ? カリヤだっけ? ───(以下むせる男の名前に付いて一人議論が続く)

 

 

 

○月α日

 

更に数日後。ゴウトさんから預けられた仕事にも大分慣れ、この日も順調に仕事内容を消化してあと少しで終わる所で意外な来客がやってきた。

 

それは以前、自分をグランゾンのある廃棄工場近くまで送ってくれたあの勇ましい紅髪のバンダナ少女だった。

 

改めてお礼を言ったときに名前を教えて貰い、ああやっぱりなと思ってしまった自分はやはりこの世界についてまだ馴染めていないのだろう。

 

“紅月カレン”エリア11を……旧日本をブリタニアに奪還すべくレジスタンス組織の一つである扇グループに所属し、兄の意志を受け継ぎながら戦う紅蓮の少女。最初に気付いた時は勢い余ってサインを強請ろうと思ったが、出会って間もない相手にサインを強請るのは流石にアレなので自粛した。

 

なんでもバトリングに参加し、レジスタンスの資金を集めながら自身のKMFの操縦技術向上の為に活用しているとか。

 

しかも彼女のKMFが赤い事から対戦相手から赤い悪魔として恐れられているとか……赤い彗星と連邦の白い悪魔の両方の名を持っているとは流石はカレン=サン。

 

なんて言ったら確実に後で“チンッ!”されるから言わないけどね。

 

ゴウトさんも久し振りのお得意さまに張り切って契約を交わしている。自分もゴウトさんに言われてすぐ様カレンちゃんの駆るKMFの整備に乗り出した。

 

そうそう、呼び方の件だが年上にさん付けで呼ばれるのは抵抗があるからと呼び方を変えて欲しいといわれたのでカレンちゃんと呼ぶようにした。本人を前にそう言ったら何故か蹴られたけど、この方が呼びやすくなったので以降はちゃん付けで呼びたいと思う。

 

それにしてもバトリングかぁ、それに参加できれば自分も結構なお金を稼げたり出来るのだろうか? ……いや、無理だな。あのグランゾンではバトリングで戦うには狭すぎるし、下手したらゲットーごと吹き飛ばしてしまう。

 

自分にもっと操縦技術があれば手加減も出来ただろうが……てか、あの機体に手加減とか出来たっけ?

 

兎も角、帰ったらグランゾンのコックピットに内蔵されたシミュレーションで色々と試してみようと思う。

 

 

 

 

○月Ω日

 

今日、スンゴい人達を目の当たりにした。まずは“キリコ=キュービィー”異能生存体として知られる不死身の男。そのむっつり具合とむせかえる程の硝煙の臭いを纏わせた男に思わず俺も「むせる!」と叫んでしまった。

 

当然ゴウトさんやバニラ達からは白い目で見られたが……何、悔いは無い。

 

寧ろキリコさんに名前を覚えて貰った事実が大きすぎてもう俺のアドレナリンはドッパドパである。

 

え? お前最近まで忘れてただろうって? ち、違げぇし、忘れてたんじゃねぇし。アレだ、きっと何らかの組織が俺の脳内に封印処理を施したんだ。組織の連中の仕業なんだ! 俺は悪くねぇぇ!

 

────(以下字が汚い)

 

漸く落ち着いたので執筆を再開する。兎に角キリコという男の凄さを直感で感じ取ったゴウトさんはキリコさんをATに搭乗させ、商売を始めた。

 

対戦相手は赤い悪魔として知られるカレンちゃん。最初こそは危うい戦闘だったが徐々にキリコの方が圧し始めた時、アクシデントが起きた。

 

なんとアストラギウス傭兵崩れと警察隊がいきなり押し寄せてきたのだ。慌てて自分とゴウトさんは身を潜め、事の成り行きを見守っていると二体のガンダムが参戦。傭兵と警察隊をあっという間に撃退してみせた。

 

まさかコロニー側のガンダムまで出てきた事に素直に驚いたが、そう言えばグランゾンで色々調べた時にそれらしい資料があったなと今更ながら思い出す。

 

いやだってさ、つい先日“ソレスタルビーイング”の犯行声明で世界中が大騒ぎなんだもの、てっきりガンダムは彼等だけかと思ってたんだもの、忘れちゃっても仕方ないよね。

 

ともあれそんな出来事があって仕事は中断。今日はその場で解散となった。

 

 

 

○月G日

 

……今、俺の手にはゴウトさんから手渡された今までのバイトの代金を握り締めている。

 

今何が起きているのか分からないが銃声やら悲鳴やらが聞こえてくる事から、どうやらシンジュクゲットーはかなりマズい状況に陥っているのだろう。

 

いつも通りにゴウトさんの所に顔を出してみれば、真剣な顔で扇さん達と話し合っている皆に思わず面食らってしまった。

 

そしてそんな自分に気付いたゴウトさんが自分の手に今まで働いた分だと言って、今月の給料を握り締めさせた。

 

まだ給料日は先だっていうのに、昼飯代の分は引いておくと言っていたのに、自分の手に握られたお金の金額は自分が想像していた以上に多かった。

 

「これを持って早くゲットーから逃げろ」そう言ってきたゴウトさんに理由を尋ねると、どうやらエリア11を統括するブリタニア軍が特殊な毒ガスを開発、これを全ゲットーにぶちまけるという情報を入手したという。

 

愕然とした。まさかこの時かと自分の中で何か崩れた様な錯覚に陥った。

 

どこかで安堵していた。異能生存体やガンダム達がいるからこんな事にもならないと、どこかで安堵していたのだ。

 

そして、そんな自分の前で先ほど見知らぬ誰かがブリタニアの兵士に撃たれる光景を目の当たりにしてしまった。

 

手が震える。こうして日記を書くことでしか平静を保てない自分が恨めしい。

 

……いや、これが普通なのだ。見知らぬ誰かが撃たれ、次は自分かもしれないと思って恐怖で震えるのは何ら不思議な事じゃない。

 

もうこの世界に馴染めていないとか悠長な事を言っている場合じゃない。ゴウトさんの言うように早急に逃げなくては……。

 

自分はただの素人だ。ちょっとこの機体を動かせるだけの……ちっぽけな人間だ。

 

だから逃げる。その事自体自分に負い目はないし負うつもりもない。

 

カレン達が戦っている隙を狙って自分は悠々とこのグランゾンで逃げる事にする。

 

────ただし。

 

 

 

「どうせ逃げるなら、まっすぐに突き進んでぶち抜いてやる」

 

 

そう言って俺は日記を横に置き、操縦桿を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───拠点車両。作戦の指揮官とその補佐役達が乗り込んでいる移動要塞で、一人の男性の声がブリッジに響きわたる。

 

 

「えぇい! まだ見つからんのか!」

 

「も、申し訳ございません殿下。テロリスト共の反抗が激しく、依然として確かな情報が入ってきておりません……」

 

「言い訳はよい! テロリストなぞ物量で押しつぶせ! 何のためにアストラギウスの野蛮人共に協力を求めたのだ!」

 

「は、ははぁ!」

 

部下の不甲斐ない報告にブリタニア皇子であるクロヴィスは苛立ちを募らせていた。

 

このままでは私の皇族としての立場が危うい。何としても“例のモノ”を発見せねば……。

 

そんな焦りと苛立ちの募ったクロヴィスの前にあるモノが映像として目の前に映し出されていた。

 

「く、クロヴィス殿下! アレを!」

 

「何だ……アレは?」

 

攻撃が鳴り止まないゲットーから現れる影、それを目にした時クロヴィスはその風貌から並々ならぬナニかを感じ取った。

 

 蒼く禍々しい巨大な魔神。“グランゾン”

 

その姿に誰もが畏怖を感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 




ゴウトさんはこんなに綺麗な人じゃねーよという方。
すみません、これが精一杯です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。