『G』の日記   作:アゴン

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相変わらずパッとしない話、申し訳ない


その177

 

 

 

♪月*日

 

連戦に次ぐ連戦、部隊を三つに分けた事で戦術的に各々に負担が大きくなってきている。その疲労を少しでも解消するべく、自分達宇宙組は一度拠点であるソレスタルビーイング号へ駐留する事となった。

 

シャア大佐がフル・フロンタルの下へ投降した事で不安を募らせる宇宙組、マリーダさんもここ最近辛そうにしていたから今は医務室で安静にしているし、今の彼等は疲労困憊の状態と言える。

 

自分も前回の真ゲッターとの一戦で肝を冷やしたし、精神的に疲れた所もあるので、今回の駐留は賛成だった。ただギルターだけは比較的平気なのか、生活班の人と一緒に炊き出しをしているのを見かけたから驚いた。

 

どうやらZ-BLUEに合流し、本来の役割で且つ余裕のある立場に腰を据えられた事から他の者達と比べて幾分か余裕があるらしい。………逞しいやつだ。や、嫌味とかそう言うの抜きで、本当にタフな人だと思う。

 

それに進んで自ら炊き出しの手伝いをしているのだから感心する。中には同じく疲弊している筈のクェスちゃんもいるし、自分だけが怠けている訳にも行かないと思い彼等の手伝いをする事にした。

 

顔を合わせた時のギルターは相変わらず死んだ魚の目をしていたが、クェスちゃんと一緒に料理をしている時は結構楽しそうにしていた。部隊の若い子達と仲良く出来ているか気になっていたから、仲良く炊き出しをしているギルターを見て少しだけ安心した。他の人達も彼を悪く言う人はいなかったし、皆気さくに彼と話をしていた。

 

これならギルターも孤立する事は無いだろう。……べ、別に自分よりZ-BLUEに馴染んでいるギルターに焦りを感じてたりなんかしてないんだからね。自分だって最近ハマーン様とかアムロ大尉とか、ギュネイ君とかカミーユ君とかハマーン様とかと色々話をしてるし、時々バナージ君とも話をしてるし! 決して羨ましいとか思ってないから!

 

………でも、総じて皆何処か一歩引いてた態度をしてたなぁ。何でだろ? ギュネイ君は割かしフレンドリーに接してくれるけど、アムロ大尉とか最近目を合わせてくれなくなったし、自分なにかしたかなぁ?

 

 

─────話が大きく逸れた。そんな訳で自分達はこれからソレスタルビーイング号に乗り込み、物資の詰め込みと僅かばかりの休息に務める事になる。今後も戦いはより苛烈さを増していくと思われるし、休める時に休める様にしておこう。

 

 

 

 

 

────そう、思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「動くなZ-BLUE、お前達は完全に包囲されている」

 

なんか、こう言うの久し振りじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、本当に久し振りだな。この扱いも」

 

ソレスタルビーイング号に残された独房と思われる一室、他のZ-BLUEとは異なり唯一この部屋へと連れてこられたシュウジは、手足を縛られた己の有り様を見て、何処か感慨深くなっていた。

 

部屋の四方に佇むのは何れも銃を手にしたネオ・ジオンの兵士達、全員目の前の男が不審な動きを見せたら、その瞬間引き金を引くことを上司から言い渡されている。

 

スベロア=ジンネマン、彼の手引きによってソレスタルビーイング号はネオ・ジオンに制圧され、Z-BLUEの面々は彼等に拘束という形でそれぞれ別室に案内されている。危機的状況、しかしそんな状況の中でもシュウジには焦りの色は微塵も無かった。寧ろいきなり殴られなかっただけでもアロウズよりマシだよねという良く分からない理屈で、ネオ・ジオンに対してある意味好印象すら抱いていた。

 

そんな緊張感の欠片も抱いていないシュウジに、ネオ・ジオンの兵士達は苛立ちを募らせる。仲間を別々に追いやられ、助けなんて期待出来る状況ではないのにこの余裕……シュウジのその態度は、ネオ・ジオンの兵士達の逆鱗を刺激するには充分過ぎる程の効果があった。

 

可能ならば今すぐにでも引き金を引いて蜂の巣にしてやりたい。だが敬愛するフル・フロンタルの命に背いて勝手な行動を取る訳にも行かない。そんな彼等の心情を知ってか知らずか、シュウジは悪びれもなく欠伸を晒す。

 

だって疲れてるんだもの、仕方無いよね。そんな彼の胸中など知る由も無く、兵士達が引き金に掛けた指に力を込めた瞬間………。

 

「フフフ、この状況に於いてその剛胆さ、流石はかの魔人と言った所かな?」

 

仮面を被るネオ・ジオンの総帥、フル・フロンタルが、側近であるアンジェロ=ザウパーを従えて部屋へと入ってきた。

 

「窮屈な思いをさせて申し訳ない。しかし君を放置しておいては、安心して彼等との会談には望めない。故に、今回の様な形を取らせて貰う事にした」

 

「……はぁ、そうですか」

 

仰々しく詫びてくるフル・フロンタルだが、本心では欠片もそんな事は思っていない。自らを器としているモノにそんな感情など持ち合わせてはいないかの様に。───そんなフル・フロンタルに対して、シュウジは気のない返事で応対する。

 

そんなシュウジの態度が気に入らないのか、アンジェロの眉間に皺が寄る。

 

「で? そんなネオ・ジオンの総帥様が何のご用かな? 見ての通り仮面を被っていない今の俺は唯の人間、蒼のカリスマと話がしたいのなら機会を改めて欲しいのだけど?」

 

「仮面を被っていようとそうでなかろうと君は君だ。そう己を定めているのは君自身、違うかね?」

 

「…………」

 

仮面の奥で頬笑むフロンタルに対しシュウジは押し黙る。まるで自分の事などお見通しだという様なフロンタルの態度に、シュウジの目が僅かに鋭くなる。

 

「で? マジで一体何の用だ? Z-BLUEとの会談はもう少し時間があると思ったけど?」

 

「単刀直入に訊ねよう。蒼のカリスマ……いや、シュウジ=シラカワ、君はラプラスの箱の真実を知っているかね?」

 

「うん、まぁ大体検討は着いてる」

 

ラプラスの箱の真実。ネオ・ジオンと連邦、その両方に多大な影響力を持つとされている禁断の箱。その奥底に眠る真実について直球で訊ねるフロンタルに対し、シュウジはあっけらかんと即答した。

 

周囲のジオン兵士とアンジェロが驚愕に目を剥いている一方、フロンタルはやはりかと思案する。

 

「では、今一度問おう。ラプラスの箱の真実を知り、それでも君はクロノとサイデリアルに敵対するつもりなのかね?」

 

「そうだけど?」

 

やはり即答。迷い無く、いっそ清清しい程に言い切るシュウジにフロンタルは笑みを浮かべる。成る程、これが魔人と呼ばれる人間かと一人納得すると己の理想を語った。

 

地球の支配からの脱却、スペースノイドの自治確立、ジオンの意思、人の総意、そして未来。淡々と語るフロンタルを余所に、シュウジは終始退屈そうにしていた。

 

「────どうかな? もし君がコロニーの自治確立を認めるなら、地球のサイデリアルからの解放に私達も協力する事を約束しよう」

 

「いや、なんで俺? なんで俺に地球をどうこう出来る力があると思ったし」

 

「君には力がある。比類なき力が。そしてサイデリアルとクロノに対して絶対的な敵対心がある。彼等を一掃する事が出来る君ならば、私の同盟者に相応しい」

 

「力で物事を自由に出来ると思うのはお山の猿大将と同じだと思うんですけど?」

 

「貴様、総帥になんて無礼な!」

 

「それにな、地球には俺なんかより皆を纏めるのにずっと向いている人達が大勢いるの。そんな彼等を差し置いて地球を統一するとか、マジないわー。つーか無理だわー」

 

フロンタルの理想を聞いても何一つ思う所はない。そう暗に断言するシュウジに、それでもフロンタルの表情が崩れる事はない。

 

アンジェロが敵意を剥き出しにするが、それを介すること無く向かい合うシュウジとフロンタル。

 

「………成る程、どうやら私は交渉する相手を間違えた様だ。君とは同盟を求めるのではなく、不可侵を結ぶことを目的にするべきだったか」

 

「───いや、どちらにしてもお前と何かを与する事はねぇよ」

 

「ほう? その根拠は?」

 

「だってお前、未来なんて微塵も見てないんだろ? 在るのは現状維持の続き、そんなのは末期の老人に対する生命維持装置の延命みたいなモノ、未来と語るには程遠い」

 

理想を語るフロンタルを見て、シュウジは確信した。自らを器としているこの男は自分というモノがない。あくまで器であり、人の総意を受け止めるコップでしかない。

 

トレーズやシャルル皇帝とは全く別の王の在り方。それ自体は否定しないが、それを加味してもフル・フロンタルという男には余りにも熱がなかった。

 

未来と停滞は違う。未来とは未知であり、絶望と不安で彩られており、それを打倒して掴み取るからこそ未知は希望となり未来へと至り、人は夢を語るのだ。

 

「現状維持を望むなら一人で時の牢獄にでも入ってろ。永遠の今を望むお前には相応しい墓標だ」

 

「………そうか、絶望の未来を知って尚進むか。果たしてそれは勇者の行軍か、それとも狂人の暴走か、楽しみにしておこう」

 

根底から相容れない両者、それを受け入れたフロンタルは無表情のまま部屋を後にする。あとに続くアンジェロが兵士達に何かを指示すると、フロンタルの後を追う。

 

アンジェロ達の気配が遠退くのと同時に、兵士達の手にした銃から弾丸が飛び交う。たった一人の人間に対して行う一斉射撃、跳弾や同士射ちの危険性を考慮しない射撃。そう、既にフロンタルという男に身も心も捧げた彼等にとって、己の命など勘定に入ってはいなかった。

 

故に魔人討伐を一切の迷い無く遂行する彼等は正しく組織の歯車の一つだった。彼等の命をもってして任務は遂行される。そう、並みの人間が相手ならば。

 

「さて、そろそろお休みも終わりか。ソレスタルビーイング号にいるネオ・ジオンの兵士達を無力化しつつ、皆と合流するかな」

 

あれだけの銃撃の中で当然のごとく無傷で佇むシュウジ、縄を掛けられていた手を擦り、その場を後にする彼の背後には気絶した兵士数名と、無数のひしゃげた弾丸が散らばった独房だけが残されていた。

 

 

 

 




「くっ、事前に反抗作戦を企てていたか!」
「バカな! この監視された状況でっ!」
「こんなものはアドリブだ!」
「だが、我々の想いは一つ、それが連携となる!」
「そうだそうだー!」
「お前には分かるまいフル・フロンタル! これが人間の信頼が生む力だ!」
「そうだそうだー!」
「………なぁキラ」
「黙ってアスラン、それ以上いけない」
「いやだって、視界の端で重装備の兵士が一撃で倒されてるんだけど……うそ、銃弾を素手で弾いた」
「アスラン、世の中には気付いてはいけないモノがあるんだよ。無くなるよ、色々と」
「アッハイ」

※本作品のこのルートではブーストなヒビキ君に変わって主人公が対応する事になりました。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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