『G』の日記   作:アゴン

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すみません、嘘ついちゃいました。


その182

 

 

 

マクロス・クォーター内部、アマルガムとの決着を付け、レナードとソフィアの野望を打ち砕き、千鳥かなめを無事に取り返したZ-BLUE、皆が次の戦いに向けて休む間もなく準備を進めるなか、シュウジとC.C.はある用事から独房室に足を進めていた。

 

暗闇の空間、備え付けられたベッドに腰掛けていたアサキムは部屋の灯りが付いた事に気にも留めず、部屋へと入ってきたシュウジに向き直る。

 

スフィアという次元力を引き出すコアを四つも手にしておきながらの完全敗北、しかしそれでもアサキムの表情から微笑みは崩れず、寧ろシュウジが入ってきた事でその笑みはより深さを増していた。

 

「君以外誰もここへは来てくれなくてさ、まさかセツコ=オハラすら僕には無関心だなんてね。スフィアリアクターとして成長してくれている事が嬉しく思う反面、少し寂しいかな」

 

「セツコさんとお前はZ-BLUEの中でも特に強い因縁を持ってるからな。悪いがここへは来れない様にしている」

 

アサキムからの問い掛けをシュウジは事務的に淡々と応えていく。セツコを始めとしたスフィア=リアクターの彼等はアサキムとの接触を固く禁じられており、この部屋には生身での戦闘に自信があるものしか近付く事すら許されない。

 

アサキム=ドーウィンという男の危険さと狡猾さ、その恐ろしさを骨身にまで刻まれているZ-BLUEからすると、捕虜となったアサキムに対する今回の対応は当然とも言えた。アサキムという何をするか分からない爆弾を敢えて抱える事にしたZ-BLUE、彼の目的を聞き出すべく、彼等は敢えてアサキムを捕らえるという賭けにでた。

 

「分かっていると思うが一応言っておく。下手な動きはしない方がいい。この独房は常に監視カメラを通して全艦に逐一様子を見られる様にされているし、両隣の部屋にはくろがね五人衆の皆さんがお前の動きに機敏に反応している。彼等にはお前に不穏な動きがあれば直ぐ様仕留める様にお願いしている」

 

「フフフ、怖いなぁ。確かに彼等が相手では流石の僕も分が悪いし………何より今は君が目の前にいる。確かにこれは下手な動きは出来そうにないな」

 

口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべるアサキムに、シュウジは内心で警戒レベルを引き上げる。確かに今のシュウジは生身でもアサキムを圧倒出来るかもしれない。それこそ命を奪わずに無力化させる位の力の差が、二人の間に明確に存在している。

 

しかし、それだけで油断出来るほどアサキムという男は甘くはないし、何より彼には死しても甦る絶対の不死性が存在している。喩え此処でアサキムを殺しても何れ何処かで復活し、此方を虎視眈々と狙ってくる事を考えれば、今彼を手に掛けるのは愚策だと言える。

 

その事を理解しているからこそ、くろがね五人衆も手出しが出来ずにいた。アサキムを手に掛けるのはそれこそ彼が明確な敵対行為、或いは怪しい破壊工作を仕掛ける素振りを見せた瞬間のみに絞られる。下手に手出しを出来ないと察したくろがね五人衆は現在、其々の監視部屋で気を抜かない程度に寛いでいる。

 

しかし、何時までもこの男をここで野放しにしておく訳には行かない。手出しが出来ないなら少しでも情報を引き出すしかない。故にシュウジはアサキムという怪物を相手に、自ら事情聴取の役割を立候補した。

 

本来ならここへはルルーシュや竜馬といった知謀策略や腕っ節に自信がある者を連れてきたかったのだが、彼等は彼等で次の戦いの機体整備に追われており、とてもこの場へ来てくれる余裕は無い。来てくれたのは相変わらずシュウジに借りを作ることを企む緑の魔女ただ一人だった。

 

無い物ねだりをしても意味はない。話を長く続けるつもりも無いシュウジは、アサキムに単刀直入で問い質した。

 

「アサキム=ドーウィン、お前の機体であるシュロウガからスフィアを取り出す事は可能か?」

 

「無理だね。スフィアは既に僕をリアクターとして認めている。僕をここで殺した処で次の瞬間にはシュロウガの中で目覚めるだけ、仮に機体ごと破壊したとしても、其々のスフィアは直ぐ様次の適性者を探して次元を超えて様々な並行世界へ飛び散っていくだろうね」

 

「…………」

 

概ね予想通りの答えだった。現在アサキムの愛機であるシュロウガの機体に秘められた四つのスフィアは、何れもアサキムが己を扱う主人として認めている。四つのスフィアを使いこなし、シュロウガをシンの姿へと変貌させた事から、その事実は覆る事はない。また、仮にシュロウガ・シンを完全破壊したとしても、並行世界へ飛び散った四つのスフィアを探し出す時間は今の宇宙には残されていない。

 

「────なら、その四つのスフィアを使ってお前は何がしたい。セツコさんやクロウさん達にちょっかいを出して彼等の成長を促したお前はその果てに何を願う?」

 

「聞いた所で君には理解出来ない事さ、僕はただ」

 

「死ぬこと、だろう?」

 

「……………っ」

 

アサキムの目的を問い質すシュウジ、当然素直に応じようとはしなかったアサキムだが、横から図星を突いてくるC.C.にアサキムは初めて表情を曇らせた。

 

「お前も私も、死ねないという意味では同じ立場だ。終わることの無い生、それは言い換えれば永劫に続く地獄と大差ない。お前はそんな終わりの無い連鎖を断ち切りたいと願うから、スフィアを集めて力を蓄えているのだろう?」

 

「…………」

 

C.C.の追求をアサキムは沈黙で返した。その姿勢を肯定と認識したシュウジは、この時初めて同情の念を抱いた。決して死ぬことの無い生命体、命として完全とされてあるその存在を、シュウジは欠片も感心が湧かなかった。

 

命は終わるから美しいのではない。尽きるから、いつかは消えるから、その間に自身が通り、刻んだ道があるから、だからこそ意味があり、自分の思いを誰かに託す事が出来るのだ。不老に満ちた世界は幸福か? 死ぬことも出来ず、ただ在るだけのソレを、シュウジは少なくとも進んで成りたいとは思わない。

 

瞬間、シュウジは思い付いた。アサキム=ドーウィンを少なくとも敵対せずに済む方法が一つ頭に浮かんだ。少々卑怯な取引だが、今はこれしかないと思い、シュウジは固くなった口を開いた。

 

「………分かった。アサキム=ドーウィン、お前がそんなに死にたいなら─────俺が殺してやるよ」

 

「へぇ?」

 

「お前も味わった筈だ。俺とグランゾンの力を、真化した俺達の実力を。今はまだ完全には力を使いこなせてはいないから確証出来ないが、少なくともテンシ二人を消滅まで追い込んだ。もしお前が俺達に協力的になるのであれば、お前の望みを俺が叶えてやるよ」

 

自らが死刑執行人になるのは多少処ではない抵抗感がある。だが、今優先させるべきはアサキムという脅威を早く無くすことに在る。アサキムの不死性を破れるとすれば、それは原初の魔神と化したグランゾンしか今の所存在しない。

 

それを耳にしたアサキムはこれ迄見たこと無いほどに動揺していた。大きく揺れる瞳、震える唇、体全身はプルプルと震え、その手は痛いほどにキツく握られていた。

 

「………期限は?」

 

「宇宙の大崩壊を防いで、時空修復を完全な形で終わらせる迄」

 

「…………良いだろう」

 

初めてアサキムと交わされる約定。これまで幾度となく敵対してきた相手との突然の和解にZ-BLUEの面々は動揺が隠せずにいた。しかし、誰もシュウジに異を唱えるモノはいない。皆、気付いているのだ。アサキムの願望を、願いを、終わりたいと願う彼の気持ちに応える事が出来るのは現在にシュウジ=シラカワただ一人なのだと。

 

交わされる二人の握手、本来なら友好的な場面である筈なのに何故か凄く不安を煽ってくる。黒の死神であるアサキムと蒼の魔人であるシュウジ、二人の因縁は一つの約束を結ぶ事によって、一旦幕を下ろすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー、取り敢えず今日はこれくらいでいいかなー?」

 

「すみませんシュウジさん、後片付けまで手伝わせちゃって」

 

「なに言ってんの、役割は違えど皆同じ部隊で戦う仲間何だからそんなこと言いっこなしだよ。かなめちゃんこそ無傷だったとは言え体に掛かる負担は大きかったんだから、無理しなくても良いんだよ?」

 

「それこそ心配要りませんよ。皆のお陰でこうして私は此処にいられるんだし、お医者さんからはもう大丈夫だって言われたんです。出来ることは率先してやらないと」

 

「相変わらず頑張り屋さんだなぁ。本当、無事で良かったよ」

 

本日の仕事も一通りこなし、後は其々の部屋で就寝するのみ、遅くまで生活班の仕事をしていたかなめをシュウジは部屋まで送ろうとする。

 

「でも、信じられないなぁ。あの蒼のカリスマがまさかシュウジさんだったなんて、今もちょっと実感沸かないや」

 

「そう言えば、俺も最近仮面被って無いなぁ。アレかな、多分それだけZ-BLUEでも素で要られる様になったんだな」

 

「だとしたらちょっと残念かなぁ。私、実は蒼のカリスマのファンなんですよ。映画も持ってましたし、確かノリコさんも持ってるみたいですから今度一緒に観てみません?」

 

「止めて、本当に止めて。アレ話題に出されるとキツイから、中2特有の黒歴史を目の当たりにしてるみたいで辛いから、お願いだから止めてください」

 

本気で嫌がる素振りを見せるシュウジにかなめは楽しそうに笑みを浮かべる。陣代高校での用務員として働いていた頃から顔見知りだった二人は、共通の話題で盛り上がっていた。

 

そんな時だ。偶々通り掛かった部屋から激しい物音が聞こえてきた。何事かと思い先のアサキムとのやり取りもあって警戒レベルを最大に引き上げたシュウジはかなめを自身の背後に隠して、扉を開ける。

 

「や、止めてくださいニコラさん!」

 

「うるさい黙れ!」

 

ノノを押し倒し、強引に迫るニコラを見て。

 

「何やってんだお前」

 

シュウジは取り敢えず加減した蹴りでニコラの尻を蹴り上げた。

 

 

 

 




次回こそ、次回こそボッチがキレますので、どうか少しばかりお待ちください。


それでは次回もまた見てボッチ。


PS
英雄伝ワタルが参加したのだからそろそろグランゾートもスパロボ参加しても言いと思う。


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