『G』の日記   作:アゴン

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今回は説教回、詰まらなくてスミマセン。

読む人によっては不快な思いをさせてしまうかも……。


その183

 

 

 

────トップレス。それは超常の力を持った選ばれた者が人類の守護者となる選ばれし戦士、宇宙怪獣の脅威から人類を守る為に戦う者達。

 

英雄、トップレスを讃える者達はそんな僕らをそう呼んだ。嬉しかった。楽しかった。トップレスという類稀な能力に目覚めたお陰で、周囲の人間は僕達を持て囃した。

 

嘗て無い優越感、嘗て無い力、嘗て無い全能感、空を自在に飛べて、普通の人間には成し得ない偉業を容易く打ち立てる。特別、そうよばれるのが当然として受け止められる程、昔の僕は増長していた。

 

そして、そんな夢の様な人生がもうじき終わりを迎えようとしている。トップレスというZ-BLUEの中でも突出した超能力は“あがり”という瞬間が来るまでの期間限定の力だった。どんなに強力な力を持っていてもどんなに優れた力を持っていても、“あがり”を迎えた瞬間トップレスはただの人へと成り下がる。

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! トップレスの、この力は僕のモノだ! 何故奪われなければならない。どうして無くなってしまうんだ!

 

トップレスの力を失うのが怖い。バスターマシンに乗れなくなるのが怖い。ただの人間に成り下がるのが怖い。この恐怖から、トップレスの力を失わずに済むのなら、僕は魂を悪魔に売り払っても構わない。こんな思いをするのなら、レナードに与して自分の望む世界に逃げ込めば良かった!!

 

嘆いても遅い。分かっている。分かってるさ! だから僕は彼女を、ノノの力を求めた。彼女はバスターマシン7号でありバスターマシンそのもの、それはつまり永遠のトップレスという事だ。

 

彼女を手籠にすれば、彼女の全ては僕のモノになる。彼女の力が全部僕のモノになる。それはつまり、僕もまた永遠のトップレスになれると言うこと。

 

あぁ、それは何て素晴らしい─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尻を蹴り飛ばされたニコラはその勢いのまま吹き飛んで部屋の壁へと激突し、顔面を強打する。その痛みと衝撃に意識が飛び掛けたニコラは滴り落ちる鼻血を抑えながら、自身を蹴り飛ばした輩を睨み付けて─────凍り付いた。

 

絶対零度の眼差しでニコラを見下ろすシュウジ、その瞳に感情はなく、シュウジもまたニコラをZ-BLUEの仲間としてではなく、性犯罪者として見下ろしていた。

 

「ノノちゃん大丈夫!?」

 

「かなめさん、はい。私は大丈夫です」

 

そんなシュウジの後ろでは千鳥かなめがノノに駆け寄っていた。かなめの問い掛けに大丈夫と応えるノノだが、その手は微かに震えている。バスターマシン7号として生まれ、絶大な力を持っていても彼女は女の子、仲間と思っていた相手に突然襲われて平気な筈もなく、無理して笑うノノにかなめは言いし難い怒りを覚えた。

 

「何だよ、文句あるのかよ」

 

「アンタねぇ、自分が何をしたか分かってんの!?」

 

「別に、関係ないだろアンタ達には」

 

自分のやった事、それを分かっていながら尚悪びれもしないニコラにかなめは本気で怒りを覚えた。壁に鼻をぶつけた事で血を流しているが、そんな事関係無い。その整った顔をボコボコにしてやろうかと思い腕を捲った彼女を、シュウジが片手で制止する。

 

「………何故、こんなバカな真似をしたのかな?」

 

「バカ? そうだね。アンタからすればバカな真似何だろうさ。けどね、こっちはそれどころじゃないんだよ!」

 

感情を露に激昂するニコラ、そんな彼の叫びを聞き付けてシンジとノリコがやって来た。これ以上人が来れば面倒になると少し冷静さを取り戻したニコラは己の感情を無理矢理に押さえ付け、代わりに親の仇を見るようにシュウジとシンジを睨み付けた。

 

「タケルやシンジ、そしてアンタには分からないだろうさ。力を失う人間の気持ちが、二度と飛べなくなる人間の気持ちが!」

 

明神タケルは“あがり”という制限の無い永遠の超能力者、シンジは親からEVAを与えられた坊っちゃん、そしてシュウジには最強無敵のグランゾンを持ち、その力を大いに奮っている。“あがり”という制限時間に常に怯えているニコラにとって彼等の存在はこの上なく不快で、そして羨ましかった。

 

どんな事情を彼等が抱えているのかは分からない。しかしそれらを差し引いても、ニコラにとって自由に、永遠に力を行使できる彼等が羨ましくて、煩わしくて仕方がなかった。

 

「僕は怖いんだよ、力を失う事が! それは死ぬのと同じ事だ」

 

「……それだけか?」

 

「何っ!?」

 

「言いたい事は、それだけか?」

 

心が死にそうになった。小さく、ニコラにしか聞こえない小声だったが、シュウジの圧に完全に呑まれたニコラは心臓を鷲掴みにされる感覚に身動きが取れなくなった。

 

そんな彼を尻目に、シュウジはかなめとノリコに視線を向けて、ノノのアフターケアを求めた。

 

「ごめんかなめちゃん、俺このあと彼と少し話がしたいからさ、ノノちゃんと一緒に食堂へ行っててくれる? ノリコさんも出来れば二人の事をお願いしたいのですけど………」

 

「あ、うん。それは別に構わないですけど」

 

「あまり、手荒な真似は……」

 

「それは彼次第ですね。それとシンジ君」

 

「は、はい」

 

「君がこの世界に来る前にアスカちゃん達と何があったのかは知らないけど、きっと大変な事だったんだろう。そんな君達に気軽に割って入ることは出来ない。けれど敢えて言わせてもらおう。こんな戯れ言に負けるな」

 

「………で、でも」

 

「少なくとも、君は恐怖に打ち克つ強い心の持ち主だ。時獄戦役の時、自分とグランゾンを前に最後まで戦い抜いたんだ。もっと胸を張ると良い」

 

では自分はこれで、とそう言い残してシュウジはニコラの胸倉を掴み部屋を後にする。放せと抵抗するニコラだが、シュウジがそれで止まる筈もなく、二人は通路の奥へと消えていく。

 

一抹の不安が残るが、今は彼に任せるしかないだろう。それよりも今はノノのケアの方が大事だと思い、ノリコとかなめはノノを連れて同じく部屋を後にする。残されたシンジも、冷たくなった心の内側が少しだけ暖かくなっていくのを感じながら、自室へと戻るのだった。

 

────そして、場面は格納庫へと移る。時間も時間で人気の無く、整備員の人達も出払ったこの格納庫にはシュウジとニコラ二人しかいなかった。

 

「こ、この、いい加減放せ!」

 

「…………」

 

「うわっ!」

 

放せと叫ぶニコラにシュウジは彼を乱暴に投げ捨てる。シュウジの腕力にフワリと浮かぶニコラは受け身もままならず固い格納庫の床へと激突、ゲホゲホと噎せながら立ちあがり、シュウジを睨み付けた。

 

「何だよ、体罰のつもりか? 意外だな。アンタはもっと冷静な人間かと思ってたよ」

 

「……………」

 

「だが生憎、僕にはアンタの説教に付き合うつもりは無い。悪いがこの事は艦長達に報告させてもらう。同じ部隊の人間に手を挙げたんだ。覚悟は出来てるんだろうな?」

 

「────なぁ」

 

「あぁ?」

 

「どうして、お前は“そう”なんだ?」

 

襟元を正し、余裕ぶるニコラに投げ掛ける問い。シュウジの言いたい事を今一つ理解出来ていないニコラはふんと鼻息荒くさせ、腕を組んで吐き捨てる様に口にした。

 

「………何が言いたい。僕がノノを押し倒した事か? それとも君を常日頃睨んでいた事?」

 

「………そうか、分からないか」

 

失望。そう思わせるには充分な程吐かれる深いため息、一体何が言いたいのだと苛つきを募らせるニコラを前に、シュウジは改めて問い詰めた。

 

「なら質問を変えよう。どうしてお前はそんなにも未来に怯えているのにそれに抗って来なかったんだ?」

 

 

「…………はぁ?」

 

「トップレスの力が失うのが怖い? バスターマシンに乗れなくなるのが怖い? なら、何故お前は───君はその未来を変える努力をしてこなかったんだ?」

 

努力をしていない。その言葉はニコラの逆鱗を踏み抜いた。

 

「努力をしてこなかった………だと? ふざけるな! 僕が何もしてこなかったと思うのか!!」

 

これまでニコラは自分なりに最善の努力をしてきた。トップレスの力を失わない為に、バスターマシンに乗り続けられる様に、彼はZ-BLUEの視線を掻い潜り、独自に調べ続けてきた。時には秘密サークルのサーペンタインの双子に怪しい料理を食わされてまで“あがり”を抑え込もうとしていた。

 

必死に努力した。力を失わない様に、バスターマシンに乗り続けられる様に、それなのに目の前の男は自分を努力していないと断言しやがった。

 

許せない。許せない許せない許せない! 何も知らない目の前の男にニコラは嘗て無い程に怒りを滾らせる。それは既に殺意と呼べるモノであり、正しくニコラはシュウジに殺気を向けていた。

 

しかし。

 

「バスターマシンに乗れなくなるのが怖いなら、何故君は他のマシンに乗れる努力をしてこなかった?」

 

「…………え?」

 

「君はバスターマシンに乗り続ける努力をしてきたと言う。それに対して俺は敢えて言わせて貰おう。そんなものに意味はない」

 

断言した。両断した。ニコラの必死の抵抗を、抗議を、シュウジは一言で粉々に打ち砕いた。そもそも論点が違っていた。ニコラはバスターマシンに乗り続けたいと言い張るが、シュウジはバスターマシンに乗れなくなるならば、何故別の戦う術を身に付けなかったのかと素直に疑問に思っていた。

 

戦えなくなるのが怖いなら、バスターマシンで空を飛べなくなるのが怖いというのなら、何故ニコラは別の力を探す努力をしてこなかったのか。

 

此処にはVFシリーズという空を飛ぶにはうってつけのマシンがある。他にも航空機能を搭載したMSなど、このZ-BLUEでは戦う術は探そうと思えば幾らでも見付けられる筈なのだ。

 

Z-BLUE(ここ)には様々な人がいる。シャアやアムロといった凄腕のパイロットや同年代の少年少女達が沢山いて、皆誰もが日々努力を重ねている。戦える術を持っていない人も生活サポートという形で部隊を支えている。

 

アルトもシンもキラやカレンも、皆自分の出来ることを精一杯取り組み、明日への糧にしている。

 

成る程、確かにシュウジは恵まれているのだろう。グランゾンという力を与えられ、自分の自由意思で行動し、戦ってきた事を妬むニコラの気持ちも理解出来なくもない。

 

それはシュウジ自身が誰よりも分かっていた。グランゾンという力だけでなく、これ迄彼は出会ってきた全ての人達に恵まれてきた。

 

嘗てのエリア11でゴウトに機械の扱いを学び、暗黒大陸時代の黒の兄弟………キタンから狩りと生き延びる方法を学び、リモネシアでは店長に住み込みで働かせて貰い、そこでシオニーと出会えた。

 

様々な出会いと学びがシュウジを強くした。グランゾンにばかり頼らない様にアムロ達からMSの扱いの手解きを受け、他にも色んな機動兵器に触れた事で、グランゾンが使えなくなった合間もシュウジは戦い続ける事が出来た。

 

────分からないのは、理解できないのはニコラだ。自分を妬むのは良い。心当たりは無くとも、それで彼の気が晴れるならそれでも良いかと思っていた。

 

バスターマシンに乗れなくなる? なら他のマシンに乗れる様になれば良い。トップレスの力が使えなくなる? なら自衛の手段を相良や武術に心得のある人物に教われば良い。

 

シュウジが理解できないのは怖いと、嫌だと嘆いていながら、それを改善できる場所にいながら、何もしてこなかったニコラの性根だった。

 

一緒に訓練しようと言ってもその気にはなれないと誘いを断り、一緒に料理をしようと誘われても自分には向かないと袖に振り、いつも斜に構えて薄ら笑いを浮かべる。

 

挙げ句の果てにはノノを襲って我が物顔、それなのに反省の色が見えないニコラに流石のシュウジも我慢の限界だった。

 

「───あぁ、そうか。そう言うことか」

 

「な、何だよ、何が言いたいんだよアンタ!」

 

「君は、子供なんだな」

 

「なっ!?」

 

「怖いのに、嫌なのに、それなのに何も変えようとしない。分かっていながら自分を変えようとしない君がやっているのは子供の駄々と何ら変わり無い」

 

「僕が、僕がガキだと!? お前に、お前なんかに何がわかる!」

 

「分かって欲しいと思うならそうなる様に努力しろよ。斜に構えて、ヘラヘラ笑っていれば皆が分かってくれると思ったのか? どんだけ愉快な脳ミソしてんだよ」

 

「な、な、な………」

 

「そもそも、普段からヘラヘラしているだけのお前がシンジ君達を妬む事自体筋違いだと知れ。お前だって彼等の事何も知らないだろうが」

 

言葉の端が強くなる。口調が荒くなる自分に呆れながら、シュウジはニコラに突きつけた。

 

「自分を変えようとせず、何もしてこなかった人間が、一端に恨み節を語ってるんじゃねぇよ」

 

恨みを口にするなら、羨ましいと妬むなら、それ相応の努力を、自分のしてきた道を示して欲しかった。そうであったなら、お節介だと言われようと、シュウジはニコラに手を貸すつもりでいた。

 

しかし、彼はノノを襲うという過ちを犯した。それだけでなく、自身のエゴでシンジを傷付けた。もう、シュウジはニコラに協力する事は無いだろう。少なくとも彼がノノ達に謝るまで、シュウジはニコラを仲間とは思わない。

 

膝から崩れ落ちるニコラを尻目にシュウジは格納庫を後にする。後ろから啜り泣く声を耳にしながら、シュウジはため息を吐いて立ち去った。

 

「───随分と辛辣だったな」

 

「ハマーンさ───ん」

 

その時、横から現れたハマーンに思わずシュウジは彼女を様付けで呼びそうになる。突然現れたカリスマ女帝にシュウジは慌てながら佇まいを直す。

 

「スマンな。盗み見るつもりはなかったんだ。私も自分の機体が気になってな」

 

「そ、そうでしたか」

 

「しかし、貴様ほどの男がああも生の感情を曝け出すとはな。余程あのニコラとやらに腹を据えかねていたのだな」

 

「………情けない話です。結局俺は彼を責める事しか出来なかった」

 

「ふん、私から見ればまだ相当甘いがな。もっと強く責め立てる事を期待していたのだぞ?」

 

どうやらハマーン様もニコラには常日頃から言いたい事があったらしく、その表情には不満が現れていた。そんな彼女に苦笑いしつつ、ふと格納庫の方へ視線を向ける。

 

其処には項垂れるニコラの下へラルクがオズオズと歩み寄っていた。最初は何て声を掛けたら良いか分からないと言った様子の彼女だが、次第にニコラの側へと歩み寄り、拒絶されながらも真摯に彼と向かい合っていた。

 

軈て彼女の優しさに触れたニコラは酷く落ち込んだ様子でもラルクと一緒に格納庫を離れていく。そんな二人を見送ったシュウジとハマーンはやれやれと肩を竦めた。

 

「どうやら、これで奴の事は何とかなりそうだな」

 

「そうですね。そうあってくれれば良いのですが」

 

「後はこのあとの展開次第だろう。それでもダメな時は………本気で引導を渡せば良い」

 

「流石ハマーン様」

 

平然と恐ろしい事を口にするハマーン様にとうとう素で様付けしてしまう。そんなシュウジにフッと笑みを溢したハマーン様はシュウジの胸元をトンと叩き。

 

「貴様もだ。あまり過ぎた事を気にするべきではないぞ。………私が言うのもなんだがな」

 

それだけを言い残し、ハマーン様は格納庫へと入っていく。己の愛機を見直す生真面目な彼女にシュウジは礼の言葉を口ずさみながら部屋へと戻るのだった。

 

また、その後生活班と一緒に朝食を作ったり、ノノやシンジ、そしてタケルに頭を下げるニコラを見たという目撃情報があったが、シュウジは敢えて聞かない事にした。

 




ボッチとニコラ、一応決着。

次回は原作42話の“炎”でそれが終われば分岐ルート。

その時のボッチの物語────その名も“帰還編”

シュウジに最後の選択の時が迫る。


それでは次回もまた見てボッチノシ


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