ユニコーンガンダムにより示されたラプラスの箱への最後の座標、記されたインダストリアル7の工業地帯であるメガラニカ周辺に部隊を配置させたZ-BLUEは箱の真実を確めるべく、オードリーことミネバ=ザビとバナージをメガラニカへ送り出そうとしていた。
既にブライト艦長達は裏で暗躍する者達を摘発するために地球へ降下している。作戦開始まで残り僅かな時間、Z-BLUEの面々は二人を勇気づけてやろうとしていた。
「それでは姫様、道中お気を付けて」
「ありがとうマリーダ」
「バナージ=リンクス、姫様の事………頼んだぞ」
「はい。オードリーは必ず俺が」
メガラニカにはラプラスの箱の真実が封印されている。道中何があるか分からない以上気を緩める訳にはいかない。最悪MSで強引に突入することも辞さないつもりでいろと、ハマーンはバナージに強く言い含めるが。
「皆さんが心配になる気持ちは理解できますが、そんなに気を張り詰める必要はありませんよ。以前私もここへお邪魔していますので、この施設の警備網はその時既に熟知しております。まぁ、その前例があるから幾分か警戒レベルは上がっていると思いますが………然程気にする事はないでしょう」
横から善意全開で色々と台無しにしてくる仮面の魔人にミネバ達の表情が凍り付く。これから宇宙世紀における歴史的瞬間が待っているかもしれないという時に、なんて事を平然と言ってのけるのだ。
人の気持ちを土足で踏みにじるのはハマーンにとっても許しがたい所業だが、この魔人がしているのは人の
より分かりやすく説明するのならば思春期の少年の部屋を母親が善意で秘密裏に掃除する様なもので、更に言えば隠された
正に人によっては悪魔の所業とも言える魔人だが、本人は一切の悪気のない100%の善意から来るのだから、ハマーンも怒るに怒れない。
目頭を抑え、必死に気持ちを落ち着かせるハマーン。ミネバもバナージも遠い目をして明後日の方へ視線を向けている。唯一マリーダだけはどうすればいいか分からずオロオロしていると、気持ちを切り替えたハマーンは魔人───蒼のカリスマへと向き直る。
「シュウジ────いや、今は蒼のカリスマだったな。お前にも頼りにさせてもらう。姫様の事、本当に頼むぞ」
「任せてください。バナージ君共々傷一つなく無事に連れ帰って見せますよ」
「あぁうん、頼んだ」
何となく察したハマーンはそれ以上蒼のカリスマへの追及をする事はなく、ただ達観した様子で三人の見送りを行った。ユニコーンのコックピットに乗り込むミネバとバナージ、その手には蒼のカリスマが捕まり、三人はラプラスの箱の待つメガラニカへと進んだ。
そして、そこからはトントン拍子で話は進んだ。バナージとミネバ、共に時代を背負うべき若き世代の進入にメガラニカは招くように二人を奥へと誘導していく。
一角獣の描かれた絵画、聞こえてくる宇宙世紀の始まり、その際に引き起こされたテロによる悲劇、ラプラス事件。聞こえてくる声に戸惑いながらも二人は先へと進んでいく。因みに蒼のカリスマは普通に侵入者扱いだが、本人は用意された対侵入者用のトラップを片手間に無力化していく。尚二人はその間これを必死に見ない振りをしていた。
そして、メガラニカの最奥に待っていたビスト財団の屋敷。嘗て自身がここに住んでいた事を思い出したバナージは様々な思いを胸に抱え、ミネバと共に足を踏み入れる。
…………そこに待っていたのは父の秘書をやっていた男と、微睡みの中から意識を覚醒させるビスト財団の創始者、サイアム・ビストの姿があった。
「───漸く、たどり着いてくれたか。ザビ家の姫君」
「貴方が、箱の秘密を知る者……?」
「然様。そして、そちらの魔人も会うのは久し振りじゃな」
「先日は強引な訪問、誠に失礼しました。サイアム翁」
魔人らしく白々しい振る舞いで頭を下げる蒼のカリスマ、事実ビスト財団の最高のセキュリティが現在進行形で突破されている事から、サイアム=ビストにとって蒼のカリスマは色んな意味で目の上のたん瘤でもあった。
魔人の謝罪を取り敢えず受け入れたサイアム=ビスト、戯れも程々にもうすぐ寿命が尽きることを予見しているサイアムは魔人に構うことなく、ミネバとバナージに真実を告げた。ラプラスの箱の真実、自身の経験と箱の秘密を知る経緯、そこから始まる連邦との癒着。裏と表、宇宙世紀の全てを語り終える頃には既に二人とも何とか理解してこれらを受け入れた。
そして明かされるラプラスの箱、宇宙世紀がその始まりを告げる際に人々に告げた本当の宇宙世紀憲章、その秘められた最後の条項。その一文を静かに読み終えたミネバは一瞬乾いた笑みを浮かべて遠い目をしていたが、すぐにいつもの凛々しい顔付きに戻り、サイアムにこの憲章を正しく使うという誓いを立てた。
───その時である。影の中から這い出るように現れた器を自称するもう一人の赤い彗星、フル=フロンタルが彼等の前に姿を見せたのは。
拳銃を片手に憲章を渡せと口にするフル=フロンタル、最早ザビ家の忘れ形見であるミネバの言葉も届かず、遂に銃口が彼女に向けられ。
「子供になに危ないもん向けてんだよ」
「ゴッペパ!?」
局面は戻る。危険に晒されたミネバとそんな彼女を守るために庇うバナージ、そしてその危険そのものを排除する為に拳を容赦なく振るう魔人。
軍人であるフロンタルが死なない程度という曖昧な力加減で振り抜いた魔人の拳はフロンタルの頬を綺麗に撃ち抜き、衝撃で仮面は吹き飛び、その体を宙に浮かせる。
宙に浮かび、錐揉み回転しながら落ちるフロンタル。その光景に何処か既視感を覚える魔人は二人を己の背後に隠すように立ち、警戒しながら呻く自称人の器へと歩み寄る。
「多少は加減したから死にはしないが、動けなくする程度には力を込めた。諦めろ、お前の目論見はこの瞬間潰えた」
「あ、ぐ、ぐ………」
プルプルと体を震わせ、それでも何とか立ち上がろうとするフロンタル。その気合いと根性は素直に称賛に値するが、如何せん彼は未だに諦めてはいないようだ。
「何故だ」
「ん?」
「何故、君達は抗う。サイデリアルに、クロノに、絶対的絶望にどうしてそこまで抗える。人類は絶望に抗えない。ラプラスの箱の真実を知れば人類はもう後戻りできなくなる」
「……………」
「必要ないのだ。その絶望は人類の可能性を殺す。箱はその存在だけで十分なのだ。後の事は私に任せておけばいい。それが人類の為だ」
傲慢。フル=フロンタルの言い方は他者を鑑みない傲慢そのものな物言いだが、不思議と蒼のカリスマにはそれが責任感のある男の言葉に聞こえた。どれだけ痛め付けられても、どれだけ追い詰められても、最後まで自分の考えを曲げない。
フル=フロンタル、自らを器と称して人類の総意の受け皿と自称としている男、蒼のカリスマ─────シュウジ=シラカワは初めて目の前の男の意地と呼べるモノに触れた気がした。
しかし。
「フル=フロンタル、赤い彗星の役割を宿命付けられた男、それは違います」
「ミネバ=ザビ?」
「人は、人類は、もう人一人に全てを押し付ける愚行は犯しません。喩え未来が絶望に染められていようとも人類にはそれを乗り越える光がある」
「だが、何度人がその光を示しても人類は変わることはなかった。幾度となく希望を見せても、幾度も絶望に沈んで行く。信じられる訳がない」
それは、黒の英知に触れたことであらゆる絶望と根源的災厄を見せ付けられた男の慟哭だった。何度も希望を見てきた。幾度となく人類に光が宿る瞬間を見てきた。
しかし、それ以上の絶望が人類を覆った。人が希望を見せても、同じく人類のエゴが絶望となって押し潰したのだ。
(あぁ、そうか。コイツ、俺と同じなんだ)
絶望に呑まれ、希望を信じられなくなったフル=フロンタル、それは未来に敗れ過去にやり直しを繰り返してきた嘗ての
未来に希望を見出だせず、過去の自分に押し付けて来たシュウジ、未来への第一歩を踏み出す難しさが如何に難しいか、その身で直接体験してきたシュウジにとって、フロンタルの嘆きには他人事に聞こえなかった。
────しかし。
「それでも」
「っ!」
「それでも、俺達は決めたんだ! 立ち止まらず歩き続けるって! どんなに辛くても、悲しい現実に押し潰されそうになっても、だから託すんだ! 託して、歩き続けるんだ!」
バナージ=リンクス、彼もミネバと同様に世界をZ-BLUEと共に歩き続けてきた人間だ。人の悪意に翻弄された時もあった。人のエゴに心が折れそうになった。数々の理不尽に声を上げて叫ぶときもあった。
けれど、それと同じくらい人の優しさに、暖かさに触れた時もあった。絶望に呑まれるのは簡単だ。自暴自棄になり破滅に向かうのは簡単だ。けれど、抗う事こそが人の本懐なのだとバナージはラプラスの箱を巡る旅で知った。
それでも、と。何度絶望に負けそうになってもそれでもと言い続けろ。自分に人としての心の在り方を知ったバナージ、その彼の瞳には絶望に抗う強い意思の輝きが宿っている。
(そうだよな。そうなんだよな、人は歩き続ける。それが喩えどんなに困難な道程なのだとしても)
絶望も希望も人が抱える一面に過ぎない。希望に溺れるのも絶望に沈むのも違う、抗い進み続けるのが、人類という知的生命体の本質なのだから。
「フル=フロンタル、もう一度人類を信じてみないか?」
「なに?」
「俺はお前と違って人の総意と言うのがイマイチ分からないし、それがどんなに重要かなんて知らない。だが、お前が自分なりに人類の事を考えているというのは何となく理解した」
「シュウジ…………シラカワ」
「正直、今でもお前の考えは好きになれない。でも、考えてみたらそんなの当たり前だもんな。だって俺達人間だもの」
「人間……? 私が?」
「お前だって何かに苛ついたり不愉快に思ったりするんだろ? だったら十分お前も人間だよ。出自なんて関係ない。器としてじゃなく、フル=フロンタルという一人の人間として、俺達と組まないか?」
「シュウジさん……」
差し伸べられた手にフロンタルの目は丸くなる。器と自ら律し、これまでシャア=アズナブルの代わりとして文字通り作られてきた人生、人の可能性は信じるに値しない。
けど、それなのに、今更になってその可能性に手を伸ばしたくなっている自分がいる。 Z-BLUEという人類最強の部隊に? …………いや、違う。
目の前の男、蒼のカリスマことシュウジ=シラカワという一人の人間に。フル=フロンタルは初めて自身の心が揺れ動くのを感じた。
バナージ=リンクスの言葉に拐かされたのか、それともミネバ=ザビの説得に揺れたのか、しかし、何れにしてももう遅い。
彼等の、彼の手を取るには自分は些か絶望に呑まれすぎている。今更自分が彼等の仲間に加わるのは余りにも都合が良すぎる。
「申し訳ないがそれは────」
『そうだよな。出来ないもんな、今更お前が彼等の下に降るなんて、立場的にも心情的にも許されないものな』
「こ、この声って!?」
「バルビエル………」
辺りに響き渡る他人を嘲笑う嫌な笑い声、その声の主が突然現れた事に驚きながらもZ-BLUEは部隊を展開させる。
バルビエルの愛機アン・アーレス、その背後には彼の直属の部隊と、ネオ・ジオンの全戦力が控えていた。
「アンジェロ!? 何故彼がバルビエルの下に!?」
『あ、あ……ぐ、大佐、大佐ァァ』
「まさか、奴はネオ・ジオンの戦力をスフィアで!?」
『おっと、特別ゲストは僕だけじゃないよぉ! さぁ、皆、出てきなよ!』
嘗てないテンションでカーテンコールをするバルビエル、今まで見たことのない様相の彼にセツコ達も動揺を隠せないでいると、空間が歪み巨大な戦艦と幾つもの機体が姿を現した。
『やっほーダーリン、またあったねー!』
『エルーナルーナか!』
『…………』
『尸空も来たのか』
『ハロー、ヒビキ。決着を付けに来たよ』
『アムブリエル!』
サイデリアルの最大戦力、スフィアリアクターの総出にZ-BLUEは動揺する。ここで地球解放の最後の戦いが始まるのか。誰もが緊張に包まれた時。
『戦士達よ、鎮まれ』
瞬間、時間が停止した錯覚を味わう事になる。体験したことのない威圧感、あの黒いアンゲロイとは違う、何かに縛られるような畏怖ではない。
圧倒。ただ圧倒的な存在感にZ-BLUE達は震え上がっていた。これ程の圧力は幾度となく激戦を潜り抜けたZ-BLUEでも未経験のモノ、他のスフィアリアクターと対峙したときも感じられなかった圧倒的強者の存在感が、その場にいる全員を縛り付けていた。
Z-BLUEもサイデリアルも関係なく強制的に行動不能にする存在感、これに該当する者はZ-BLUEにとって一人しか心当たりがいない。
『まさか、そこにいるのか!? サイデリアルの皇帝、アウストラリスが!?』
エルーナルーナの駈るプレイアデス・タウラ、その操縦席の後で玉座の如き椅子に座る一人の男。静かに瞑目し、それでいても尚圧倒的強者の存在感を垂れ流しにしてしまうその男は、ここへ来て初めてその閉じた瞳を開いた。
皇帝の視線の先に映るのはメガラニカ、地球の人類史に於いて最大の秘密を封印されたその場所を射抜く様に見つめる先にいるのは。
『────すまんな、待っていると言っておきながら、つい気持ちが先走ってしまった。許せ』
「………………」
蒼のカリスマ────いや、シュウジ=シラカワ。彼もまたアウストラリスが居るであろうプレイアデス・タウラに視線を向けている。
初めて合う二人、名前しか知らず顔もまともに見てはいない。しかし互いにこの瞬間理解する。
コイツを倒すのは自分なのだと。
Z-BLUEから見たボッチ。
part1ガルガンティアの場合
エイミー
「シュウジさん? んー、普通にイイ人だと思うけど? 私達のお仕事ちょくちょく手伝ってくれるし、分からないことがあったら親切に教えてくれるもの」
ピニオン
「蒼の旦那ねぇ、悪い奴じゃあねぇのは俺も分かってるよ? 気さくだし俺の事もちゃんと対等に接してくれるし、色々と気遣いの出来る人……なんだけどなぁ、色々加減知らずなのがちょっとなぁ」
ラケージ
「蒼のカリスマ、悪の頂点にして孤高の王者、私が目指す理想の君。ですわ」
レド
「俺も時々彼を見掛けるが、パッと見た感じだと他の皆とあまり変わらない気がする。なのにどうして皆は恐れたり呆れたりしているのだろう?」
チェインバー
『以前、当機に類似した機体は他にもあるのかと問われたのでその理由を求めたら、どうやら蒼のカリスマは他のマシンキャリバーと接触していたらしい』
レド
「え!?」
ガルガン勢はボッチを強いけどイイ人という印象の模様。
それでは次回もまた見てボッチノシ