『G』の日記   作:アゴン

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暑くて死にそうな毎日、皆さんも熱中症には充分にご注意下さい。




その196

────数日前、ラース・バビロン内にて。

 

コツンコツンと床を叩く音が響く。広い敷地内で女性────シオは皇帝であるアウストラリスに呼ばれ、牢獄となった居住区より玉座の間へと出頭していた。

 

既に地球に王手を掛けつつあるサイデリアル、その皇帝が一体今更自分に何の用があるというのだろう。皇帝が欲する情報は全て吐いた、皇帝が求めていた彼に関する話しは全て口にした。

 

皇帝が求めていた彼も時空振動により元の世界へ戻ったとその皇帝自身が言っている。もう私に………私達リモネシアの住民に利用価値は無い筈だ。彼を呼び寄せる撒き餌として選ばれた自分達だが、その目的たる彼がいないのでは最早丁重に扱われる意味もない。

 

───とうとう、処理される時が来たか。玉座の間へ後少しという所で死を意識した事で、シオの体は恐怖で震え始めていた。分かっていた事だろう、こういう結末になるのは。覚悟していた筈だ、こういう最期になるのは。

 

今更怯える自身を叱咤しながら、シオは玉座の間へと到達する。相変わらず開けた場所だ。そしてその開けた空間を全て見下ろせる位置に────彼奴はいた。

 

皇帝アウストラリス。サイデリアルという軍勢を率いて地球に侵略してきた新地球皇国の皇帝、静かにただそこに居るだけで他者を圧倒する存在感を放つかの男は、瞑目していた目をシオがやって来た事を察知して開いた。

 

「………来たか」

 

「待たせてしまって………申し訳ありません」

 

「構わん。貴様は、貴様達は私にとって重要な存在だ。奴を誘き寄せる為、奴を私の糧にする為、撒き餌として………な」

 

何を今更、とシオは内心で呆れた。私達を撒き餌と言っておきながら、その目的である彼はもうこの世界にはいない。今頃は彼の元いた世界で平和で穏やかな日々を送っている筈だ。

 

悲しくもない。逃げ出したとも思わない。彼は充分に戦い、世界に貢献した。自分を守り、リモネシアを守り、ボロボロになっても世界を守ってくれた。

 

充分だ。彼はもう充分過ぎる程戦ってくれた。だからもういいんだ。ただ惜しむのは元の世界へ戻り平和を謳歌する彼を見届けられないのが残念というだけで────。

 

「奴が戻ってきた」

 

「───────え?」

 

瞬間、シオの思考は真っ白になる。今、目の前の皇帝は何を言った? 奴? 奴とは誰の事だろう? 誰が何処へ戻ってきたというのか?

 

混乱する意識の中、ふと此方を見て笑みを浮かべる皇帝の姿があった。

 

「────ふっ、そんなに奴の帰還が嬉しいのか? 意思の強い女と思っていたが、存外分かりやすいのだな」

 

「な、何を言って………」

 

「自覚がないのか? 顔、笑っているぞ」

 

言われて自分の顔に触れる。僅かに吊り上がった頬の筋肉、その表情は皇帝が指摘した通り笑顔の形をしていた。

 

「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁ………っ!」

 

言われて、指摘されて、自覚してしまう。自分は彼が………シュウジが戻ってきている事に喜んでいる。彼はもう充分に戦ったと宣いながら、もう充分だと口にしておきながら、その自分が何より彼が戻ってきた事に嬉しく思っている事実に。

 

醜い。嘘と虚実で彩られ、薄っぺらい自分に絶望したシオは嗚咽を漏らしながら膝を付く。

 

そんな彼女を冷たい目で見下ろしていた皇帝は、シオから視線を外し、玉座から立ち上がる。

 

「………待ち続けるのも些か疲れた。今度は此方から出向くとしよう」

 

シオに伝える事は伝えた。後は本人次第、玉座の間を後にする皇帝アウストラリスは最後にシオを一瞥すると、今度こそ玉座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、アウストラリス………」

 

インダストリアル7、工業地帯メガラニカ。ラプラスの箱を巡る旅の終着点、ネオ・ジオンと地球人類の両方の今後を決める重要局面にてサイデリアルの最大戦力であるスフィアリアクターの乱入にZ-BLUEは最大の警戒と共に彼等を睨み付けていた。

 

バルビエルはセツコを、エルーナルーナはランドを、尸空はクロウを、そしてアムブリエルはヒビキを、互いに互いを無視できないそれぞれの両者は今にも戦闘を始めそうな程に緊迫していた。

 

しかし、その緊迫した空気も皇帝の一言により四散する。敵も味方も問わず、“鎮まれ”というただ一言によりその場の全員の戦意を根刮ぎへし折った。

 

圧倒的、ただそれしか頭に浮かばなかった。これがサイデリアルの皇帝なのかと、初めて目にした時よりも桁違いな力の昂りにZ-BLUEは戦慄した。

 

スフィアで自我を失いつつあったネオ・ジオンの兵士達を皇帝の発する圧で気を失わせる事で無理矢理解き、その事で異を唱えようとしていたバルビエルを一睨みで黙らせる。同じスフィアリアクターなのに何故こうも格差が生まれているのか、困惑するZ-BLUEを尻目に皇帝アウストラリスはプレイアデス・タウラに簡易に備え付けられた玉座から立ち上がる。

 

「エルーナルーナ、ここは任せるぞ」

 

「あいよ、邪魔はさせないからゆっくりしてきな」

 

「それには及ばん、今回のは顔見せ程度だ。用が終わればすぐに戻る」

 

「そうかい」

 

そう言い残して皇帝はその手を掲げると、空間に亀裂が入り、皇帝は躊躇なくその中へ足を踏み入れる。次元の壁を片手間で割って見せる皇帝に驚き、呆れたエルーナルーナは改めてZ-BLUEに向き直る。

 

「さぁて、我等が皇帝様の用事が済むまで、楽しませて貰おうじゃないか!」

 

一方的に告げられる開戦の合図、しかしZ-BLUEも負けてはいない。メガラニカにいるバナージとミネバを守るため、スフィアリアクターを止める為、彼等は全力でバルビエル達を迎え打つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝、アウストラリス!」

 

「サイデリアルのトップが、どうしてここに!?」

 

空間を割り、虚数空間から這い出てくる皇帝にバナージとミネバは戦慄する。Z-BLUEにとって最大にして最強の敵、その人物が単身で乗り込んできた事実に。

 

サイアム=ビストの側近であるガエルはその屈強な体で彼を守るように前に出る。勝てるとは思えない。対峙するだけで戦意がへし折れそうになる程の威圧感を放つ皇帝を前に、ガエルはサイアムの盾になるだけで精一杯だった。

 

バナージも惚れた女が隣にいるという理由でどうにか立っていられるだけ、………いや、実際は自分の手を握ってくれるオードリー(ミネバ)のお陰で、そういう風にいられるだけであった。

 

此処で自分達を始末するつもりか。ラプラスの箱の秘密を明かさない為に、しかし、その割には皇帝に敵意は無かった。

 

彼の視線はただ一人の男に向けられていた。

 

「こうして面と向かって会うのは初めてだな」

 

「………一度は、そっちに顔を出そうとしたんだけどな」

 

皇帝アウストラリスの視線の先にいる男、蒼のカリスマは仮面を外し、シュウジ=シラカワとして対峙する。全てを屈服させる程の威圧感を無意識で垂れ流す皇帝を前に平静でいられるシュウジ。二人の会話に割って入れる者はおらず、サイアムもミネバも、そしてフロンタルも事の成り行きを見守るだけだった。

 

「それで? 皇帝様がワザワザここへ何の用だ? ラプラスの箱の開封を防ぐ為? まさか、お前等にとって箱は然程重要な意味は無いだろう? 箱の底にあるクロノの教義とやらも」

 

「然り。箱や教義に関して我等が知る所ではない。我々が………いや、私がここに来た目的はシュウジ=シラカワ、貴様だ」

 

「…………」

 

「よくぞ戻ってきた。────などとつまらん世辞は不要だろう? 私が来たのは貴様に聞きたい事と伝えたい事があるからだ」

 

「聞きたい事?」

 

「然り、先ずは聞きたい事から片付けよう。───我が盟友、ヴァイシュラバはどのような最期を遂げた?」

 

「ヴァイシュラバ?」

 

「再世戦争の折り、貴様が打ち倒した次元将の事だ。此方の世界ではガイオウと名乗っていたそうだが?」

 

ガイオウという懐かしい名前を耳にしてシュウジの目が見開く。次元将の盟友、即ち目の前のこの男もガイオウと同じ……いや、詮索考察は今は不要だろう。

 

「別に、大したモノじゃないさ。ガイオウは………アイツは最期まで自分に正直だった。素直で、勝手で、何処までも自由な奴だったよ」

 

ホットドッグを頬張り平和の味だと語るガイオウ、次元将とやらの使命で戦い続けてきた男だが、再世戦争の時の奴は何処か楽しそうにしていた。

 

自由に生きて自由に戦い、そして自由に死んでいった。ただ自分の心のままに駆け抜けて、そして死んで逝った。閃光の様な男、それがシュウジから見たガイオウという男の在り方だった。

 

「…………そうか」

 

そのシュウジの口から聞かされる盟友の最期に、皇帝アウストラリスは瞑目して頷いた。目の前に盟友を屠った男がいる。しかし皇帝はシュウジを前に驚くほど静かだった。

 

「それで? 伝えたい事ってのは?」

 

「リモネシアの住人、そしてシオニー=レジス、お前の大切なモノ達はお前を呼び寄せる餌として大切に保管している」

 

餌、保管。シュウジにとって恩人とも呼べる人達に対してのアウストラリスの言葉にシュウジの目は細くなる。拳を握り締め、全身に気力を巡らせる。今にも殴り掛りそうなシュウジに皇帝アウストラリスは不敵に笑みを浮かべる。

 

「良い気迫だ。敵意と殺意に満ちている。そうだ。そうでなくてはつまらん」

 

「………御託はいい。来るなら来いよ、次元将だろうと何だろうと関係ない。元々俺はお前をブチのめす事を目的としてきたんだからよぉ」

 

「そうか、それは気が利かなくて済まないな………フフフ」

 

「ククク………」

 

「フフフ、フハハハハ」

 

「ククク、クハハハハ」

 

「フハハハハ!!」

 

「クハハハハ!!」

 

刹那、拳が放たれる。皇帝が、シュウジが互いに相手の顔面目掛けて握り締めた拳を放つ。人一人を撲殺して余りある威力を持った拳、二人の拳がぶつかり合った瞬間何が起こるか分からない。バナージはミネバを庇い、ガエルはサイアム翁の前に立ち、フロンタルだけはその光景を目に焼き付かせていた。

 

そして、遂に両者の拳が激突しようという所で───。

 

『お二方だけで狡いですわ。私も混ぜてくださいまし』

 

「「っ!?」」

 

どす黒い泥の影が、二人の間に割って入ってきた。

 

極限に高まった思考、周囲の時間が緩やかになっていく中、アウストラリスとシュウジは見た。刹那の時間の中で何事もなく介入してきた愛を騙る獣(サクリファイ)、突然の乱入にアウストラリスが舌打ちを打って距離を開けようとする最中、シュウジはある異変を感じ取る。

 

何だ? 何かがおかしい。時間の間隔が緩やかに感じているのは極限の集中力における時間の遅滞錯覚かと思ったが、それにしたって遅すぎる。

 

いや、遅すぎるのではない。巻き戻っているのだ(・・・・・・・・・)。ミネバを庇おうとしているバナージが、サイアム翁を守ろうとしているガエルが、それぞれ元いた位置に戻ろうとしている。不可解な現象、しかし自分とアウストラリスには変化がない。

 

どういう事かと戸惑った時、ヒビキの叫び声が周囲に響き渡っていた。

 

『スズネ先生、あ、あぁぁぁ………うわぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

「ヒビキ君!?」

 

断末魔の様なヒビキの叫び声、何故彼の声が聞こえてくるのか、戸惑いよりもその尋常ではないヒビキの様子に不可解に思ったシュウジが外を見渡し………。

 

そして、目撃する。黒いヘリオースの光に貫かれ、爆散するジェミニア。あの機体には確か、スズネ先生ことアムブリエルが乗っていた筈。

 

『ヒビキ=カミシロ、貴方の感情の爆発により彼は禁忌の扉を開かせる。ウフフ、よもやこの世界に太極が二つ────いえ、三つも顕れるなんて、なんて恐ろし(楽し)いのでしょう』

 

完全に余計な事をしてくれた奴にシュウジは無言で拳を繰り出す。ニヤニヤと笑みを浮かべるサクリファイに吸い込まれる様に叩き込まれる二つの拳、横目で見れば憤怒の形相のアウストラリスがいた。

 

「消えろ」

 

「死ね」

 

二つの拳を受けて、それでも尚笑みを消さないサクリファイは嗤いながら四散する。煙の様に消えていくサクリファイを無視して辺りを見渡すが、やはり巻き戻る時間の流れは止まる様子はない。

 

「………興醒めだな」

 

「……………」

 

「シュウジ=シラカワ、蒼の魔人よ。改めて貴様に布告しよう。我が新地級皇国(ガイアエンパイア)の本拠地、ラース・バビロンにて待っている。リモネシアの人々を、シオニー=レジスを救いたければ、俺の下まで来い」

 

それは明確な宣戦布告だった。貴様を倒すのは俺だと、誰にも譲れはしないという意味を込めていい放たれた皇帝の言葉は、しっかりとシュウジに刻み込まれた。

 

シュウジは応えない。ただ敵意と殺気でアウストラリスを睨み付ける。ギラギラと珍しく闘志を剥き出しているシュウジに満足した皇帝は巻き戻る時間の中でも自由に動き、空間に孔を開けてメガラニカを後にする。

 

巻き戻るスピードがドンドン速くなっていく。まるで波に取り残される様な感覚、取り合えず倒れ伏しているフロンタルの手足だけでも縛っておこうかとシュウジは予め持っていた捕縛用の縄を取り出し、フロンタルの身柄を封じていく。

 

これで一先ずバナージとミネバの安全は守られた。取り敢えず一つの仕事をやり終えたシュウジは、いつでも出撃出来るようにワームホールをいつまでも開いておける準備をして………。

 

 

そして、時は巻き戻る。

 

 

 

 




今回の話を一言で表すと。

サイアム=ビスト「他所でやれ」

Z-BLUEから見たボッチpart2

フルメタルパニック編

かなめ
「シュウジさん? んー、少なくとも悪い人ではないわね。寧ろ良い人、私や小学生の子達を良く見ていてくれたり、何かと手伝ってくれたりして、凄く優しい人よ。まぁ、確かにちょっとズレてる所はあるけれどね。彼結構天然ぽいし」

マオ
「お酒に合う摘まみとか用意してくれるから良い奴よ! ………まぁ、あんな奴が傭兵なんて始めたらアタシラの仕事無くなりそうだから何とも言えないけどね。ハハ」

クルツ
「よき隣人としてならまぁ許す。マオの事を狙ってるなら容赦しねぇ。え? お前には無理だ? ウッセェ! 言うんじゃねぇよ!! 料理も出来て学もあって止めに喧嘩も強いとか反則だろ! そんなアイツに対抗出来るとしたらこの甘いマスクしか無いんだからよぉ!!」


クルーゾー
「まさか奴がジ○リ作品まで網羅していたとはな。思わずジブ○作品の各ヒロイン達について熱く語ってしまった」

テッサ
「ごめんなさい勘弁して下さいごめんなさい勘弁して下さいごめんなさい勘弁して下さいごめんなさい勘弁して下さいごめんなさい勘弁して下さいごめんなさい勘弁して下さい…………」

宗介
「ノーコメントだ」



それでは次回もまた見てボッチノシ


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