最後までやりきって取り敢えず一言。
ボッチ介入させてぇ……。
あ、今回も地味回です。
Z-BLUEとサイデリアル、メガラニカ周辺で行われる二つの組織の激突は苛烈の一途を辿った。バルビエルとセツコ、エルーナルーナとランド、尸空とクロウ………そしてヒビキがアムブリエルと激突し、その戦場はスフィアリアクターが主軸として争われていた。
バルビエルのスフィア、怨嗟の魔蠍によって自我を失うほどの怒りに染まったネオ・ジオンとの攻防、それに合わせてサイデリアルの追い打ちにZ-BLUEは徐々に劣勢の窮地に立たされていた。
そんな時だ。ヒビキとアムブリエルの間に黒いヘリオースが割って入ってくる。突然の強襲、予兆も前兆も無く、いきなり割って入ってきたその存在。シュウジから事前情報として知られていたが、突然の事態を前に、ヒビキの動きは一瞬止まる。
瞬間、ヘリオースの狙いがジェニオンに定まる。偶々なのか、それとも狙ってなのか、ジェニオンに狙いを定めたヘリオースはその手を掲げ膨大な熱量と光を収束していく。
回避、間に合わない。防御、不可能。眼前に迫る死を前にヒビキは硬直し────。
『ヒビキ君!』
刹那、アムブリエルの駆るジェミニアがジェニオンの前に立つ。聞こえてくる懐かしい声、その事に呆然としたヒビキが目にしたモノはヘリオースの光に貫かれて爆散するジェミニアの最期だった。
次に否応なしに突き付けられるアムブリエルとスズネの死、その事実を前にヒビキの感情は一気に振り切れる。即ち、事実の────現実の拒絶である。スズネの死を認めない、その醜くも他者を想うヒビキの願いが奇跡を呼び寄せた。
バルビエル、セツコ、エルーナルーナ、ランド、尸空、クロウ、アウストラリス、そして複数のスフィアを所持しているアサキム、ヒビキを除いた
クロウ達はヒビキと同じくスズネの死の拒絶を、そしてアウストラリス達サイデリアル側とアサキムはヘリオースを通してサクリファイの拒絶をそれぞれ願い、そして一つの奇跡を具現化させた。
時間の逆行。スズネの死を、サクリファイの目論見を根刮ぎ否定する奇跡の所業、しかしその事を認識出来るのはアウストラリスを含めて二人しか存在しない。
シュウジ=シラカワ。彼もまた時の流れを明確に認識し、戸惑いを見せる者だった。巻き戻っていく世界、全てがもとに戻りスズネの死も無かった事にする禁忌の所業。全てのスフィアがサクリファイを否定する事でこの一瞬だけ一つに纏まった。
そして時は再び動き出す。ヘリオースが攻撃を仕掛けてくる瞬間、割り込もうとしてくるジェミニアを押し退け、ヒビキは敢えて前に出る。
『っ!?』
『あっ、ぐぅぅぅっ!』
『ヒビキ!?』
『マジかよ、今の防ぎやがった!』
『凄いじゃないかヒビキ!!』
(皆、気付いて無いのか? 今のがさっきと同じことの繰り返しだってことに………)
ヘリオースの攻撃を防ぎ、その余波で苦悶の声を漏らしながら、ヒビキは訝しむ。どうして自分以外気が付いていないのか、混乱し、戸惑うも今は目の前の敵を排除する方が先決だ。
目の前にあるのは嘗て自分を守り導いてくれた恩人の機体、全ては自分を騙す為の方便であり、全てはアドヴェントの掌の上の出来事だった。もう彼はいない、シュウジから聞いたアドヴェントの最期に僅かばかりの逡巡を巡らせたヒビキは、背後にいるアムブリエルに呼び掛ける。
『アムブリエル、来い!! お前もジェニオンに乗るんだ!』
『なっ!?』
『ヒビキ、何を言ってるの!?』
突然の言葉にアムブリエルだけでなくZ-BLUEの面々も驚愕に目を剥かせる。
『お前、いきなり何を言っている? 今さっきまで私と殺し合いをしていた相手に………正気か?』
それはアムブリエルだけではなく、宗介達にとっても同意見だった。当然だ。確かにZ-BLUEは嘗て敵だった者達とも和解し、今は共に戦う仲間になっている者も多くいる。
しかし、アムブリエルにこれ迄の前例は当てはまらない。スフィアの力にて元のスズネの人格はアムブリエルによって上書きされ、現在の彼女はZ-BLUEの明確な敵である。説得するのは分かるし納得出来る。しかし、いきなり自分の所に来いと言うのは少々強引が過ぎるのではないだろうか。
戸惑うZ-BLUEを他所にアムブリエルの言動は熱を帯始める。自分はアムブリエルで西条スズネではない。現実を直視しないヒビキにいい加減怒りが押さえきれなくなった彼女に………。
『じゃあ、何でお前は俺を助けようとした!』
『っ!』
『お前は俺を殺したかった筈だ。俺を殺してジェニオンを自分のモノにしたかった筈なのに……どうしてお前は俺を助けたんだ』
『─────』
指摘されてアムブリエルは黙り込む。言い返すことは出来た。ジェニオンはいずれ自分が乗るための機体で無駄に傷を付ける訳にはいかないと、それらしい理屈を捏ねて誤魔化す事は出来た。
しかし、その言葉が上手く口に出せないでいる。アムブリエルの意思ではない、アムブリエルという人格に塗り潰された筈のスズネの意志がアムブリエルに必死に抵抗していたからだ。
『お前がどんな理由で俺を助けたのか、良くは無いが今は良い。お前はアムブリエルでもあり同時にスズネ先生でもある。だったら俺はそれを踏まえた上で二人を守るだけだ!!』
『っ!!』
ストンッ。と、アムブリエルの胸中に何かが収まった気がした。自分をスズネとしてではなく、アムブリエルとして守ると豪語するヒビキにアムブリエルは心の底で己の負けを認めた。
叶わないと、自身の自由の為に何処までも悪辣になれる女は青臭い少年の決意に負けた。フッと笑みを溢してアムブリエルはジェニオンの副座席へと転移する。それはアムブリエルがジェニオンのもう一人のパイロットとして認められた証しでもあった。
『其処まで言い切ったんだ。合わせろよヒビキ』
『あぁ!』
二人の呼応が合わせ、高まり、ジェニオンの奥底に眠るスフィアの力を呼び起こす。ジェニオンからジェニオン・ガイ、そしてジェミニオン・レイへとその姿を変えていく。
それでも尚、スフィアの輝きは止まらない。寧ろ更に高まり強くなっていく。果てなく、何処までも、限界なく強くなっていく二人の輝きはジェミニオン・レイに新たな力をもたらす。
『行くぞ、ヘリオース!!』
駆ける。音を越え、光に迫るジェミニオン・レイの動きはZ-BLUEは勿論サイデリアルの幹部達の目にも捉えきらなかった。振り抜かれる打撃の嵐、ヒビキのジークンドーを遺憾無く発揮したその打撃はヘリオースに容赦なく叩き込まれる。
『希望も、絶望も!』
『私達は乗り越えていく!』
『『これは、そのための力!!』』
ジェミニオン・レイの翼が分離し、一つの柄の形へと合体する。そこから伸びるのは希望と絶望を越えて放たれる人類の刃。
『『ジ・オーバーライザー・アーク!!』』
あらゆる悲劇を、惨劇を、絶望を両断する。そんな願いが込められた次元の刃は、そのままヘリオースへと叩き込んだ。
ヘリオースに抵抗は無かった。なすがまま、されるがままにジェミニオン・レイの刃を受けたヘリオースは爆発し、光と共に消えていく。倒したのだろうか? いや、派手に倒された雰囲気ではあるが、きっと完全に破壊できた訳ではない。
その光景を目の当たりにしたサイデリアル、Z-BLUEの両陣営は言葉を失う。ヒビキとアムブリエルが見せた輝き、二人の力に彼等はただ見入っていた。
しかし、その瞬間も長くは続かない。ネオ・ジオンをそのスフィアで操り、最もZ-BLUEに苛烈に攻撃してきたバルビエルが、その顔を憤怒に歪ませて吼える。
『アムブリエル、何のつもりだお前ぇぇっ!!』
『悪いな、どうやら私もお前が嫌う半端者だったらしい』
『あーらら、まさかこんな大胆な裏切り宣言があったなんてね』
『………まぁ、想定内だ』
激昂するバルビエルに対し、エルーナルーナと尸空は然程驚きはなく、寧ろ納得した様子でアムブリエルの裏切りを容認している。その事が納得出来ないバルビエルは己の機体に力を込めて最大限の一撃をジェミニオン・レイに叩き込もうとするが。
『そこまでだ』
聞き覚えのある声が聞こえてきた瞬間、身動き一つ出来なくなる程の圧が両陣営にのし掛かる。出所を探った先にいるのはエルーナルーナのプレアデス・タウラ、そこに簡易に備えられた玉座に戻ってきた皇帝アウストラリスが座していた。
『なんだい大将、用事は終わったのかい?』
『あぁ、此方の用件は済んだ。撤退の準備を』
『アイアイサー』
瞑目し、もうこの場には用はないと全部隊に撤退を呼び掛ける。呆気ない幕切れ、アムブリエルの裏切りにも特に何かを言うつもりの無いアウストラリスにしかしバルビエルが噛み付く。
『ま、待てよアウストラリス! アムブリエルをこのまま放置するつもりか!?』
『あぁ』
『ふざけるな! どうして裏切り者をそのままにしておける!! ………もういい、アンタが何もしないのなら代わりに俺が───』
『バルビエル、止めておけ。それ以上動けば消されるのはお前の方だ』
『な、何を言って────ヒィッ!!??』
アウストラリスに呼び止められ、ふと視界を外すバルビエル、視線をジェミニオン・レイに戻した彼が次に目にしたのは此方をジッと見て佇むグランゾンがいた。
文字通り目の前に、何もせずただアン・アーレスを見つめるグランゾンにバルビエルは言いし難い悪寒と恐怖を感じた。一体いつそこにいたのか、気配もなければ音もなく、ただ唐突に現れた魔神にバルビエルは驚愕で呼吸すら儘ならなくなる。
Z-BLUE達も同様で、メガラニカにいる筈のシュウジがいきなり戦場に出てきている事に驚いている。ふとメガラニカの近くにいた者がそちらへ視線を向けると、搬出口からユニコーンガンダムが出てきた。
『どうした? やらないのか?』
低く、それでいて殺気の籠った挑発。バルビエルが動けばそれこそアン・アーレスごと砕くつもりでいる彼の魔人にバルビエルの憎悪は急速に萎えていく。
以前バルビエルがカミナシティで行った事、シュウジはその事を今でも忘れてはいない。
スフィアリアクターとしての資格が無くなるギリギリの所、折れそうな心を必死に繋ぎ止めるバルビエルのその姿は最早嘗ての脅威はなかった。
バルビエルは恐ろしい敵だ。スフィアで人身を憎悪で掻き立て、更なる悲劇を増幅させる。Z-BLUEの多くの人間にとってバルビエルは許されざる敵────
その不倶戴天の敵がグランゾンとシュウジという二つの魔を前に戦意を失い掛けている。いや、もう彼に戦えるだけの気力は残されていないかもしれない。その証拠にこれまで怨嗟の魔蠍によって自我を失い掛けていたネオ・ジオンの兵士達はバルビエルのスフィアから解放され、我を取り戻して気絶している。
許されない敵、セツコ=オハラにとって複雑な相手だった者、サイデリアルの幹部の一人が何もされずに心が折れそうになっている。憎悪に呑み込まれる処か、恐怖で竦み上がっている彼の姿を目の当たりにしたルルーシュは嘗て大きな借りがあった相手なのに今は何故か同情の念すら抱いてしまっている。
そんなバルビエルを一瞥した後、近くのサイデリアルの人間に運ぶよう促し、シュウジはグランゾンと共に後ろに下がる。彼にとって最早バルビエルは取るに足りない相手なのだろう。相変わらずシュウジにとってバルビエルは許しがたい敵だが、それ以上の存在になることはないだろう。
見逃してくれた事を内心で感謝しながら、アウストラリスは主力部隊と共に戦線から離脱する。その様子を黙したまま見送るZ-BLUE、彼等が次元力で跳躍したのを見計らうと、ユニコーンガンダムを駆るバナージが、メガラニカで起こった事を皆に伝えていく。
そんなバナージを見守りながらシュウジはグランゾンを操り、ジェミニオン・レイの隣へ並ぶ。一瞬向こうからアムブリエルらしき女性の悲鳴が聞こえてきたが、聞かなかった事にしてシュウジはヒビキに語り掛ける。
『いやー、凄かったねヒビキ君。見てたよさっきの一撃』
『い、いえ、俺だけの力ではないから……』
『謙遜……いや、事実か。この場合礼を言うべきかなアムブリエル、弟分を守ってくれた事に対してさ』
『べ、別に成り行きでそうなっただけで、結果論に過ぎないからね。れ、礼を言われる筋合いは無いさ』
何故だろう。アムブリエルが思っていた以上に吃ってしまっている事に違和感を感じるシュウジだが、アムブリエルからしてみれば挑む度に瞬殺されてきたので目の前の魔人は恐怖の対象以外の何者でもなかった。
あれほど恐ろしく強敵だったアムブリエルが借りてきた猫の様に大人しくなってしまっている。それが何だか可笑しくてつい噴き出しそうになってしまうヒビキ、するとその時、Z-BLUE全体に向けてオットー艦長から緊急通信が開かれてきた。
『みんな、大変な事になった!』
『オットー艦長、何があったんです?』
『たった今ブライト艦長から連絡があった。ここにコロニーレーザーが発射される様だ!』
コロニーレーザー。オットー艦長から聞かされるその言葉にZ-BLUEに動揺が広がる。それは宇宙世紀に置いて最悪の代名詞とも取れる戦略兵器、一度火を入れれば何もかも消し去る破壊の光、それが間もなく発射される事態にZ-BLUEは決断を迫られた。
『早く現宙域から離脱しないと!』
『待ってください! メガラニカにはまだオードリーが!』
『ネオ・ジオンの兵士達も見捨てられん!』
『でももう時間が!』
慌てながら、それでも行動に移すZ-BLUE。人命は無視できない。ネオ・ジオンも、オードリーも、どちらも救いたい。時間と事態に板挟みになり、もがき苦しむZ-BLUE。
そんな彼等に対し。
『そこか───ワームスマッシャー』
シュウジはグランゾンのほんの僅かな力を解放させる。グランゾンから放たれる光は遠く離れたコロニーレーザーの動力部を的確に撃ち抜き、その機能を停止させる。
『………ふぇ?』
ふと、そんな間の抜けた声を漏らしたのは誰だったか、グランゾンのしたことに一瞬理解出来なかったZ-BLUEはその目を重力の魔神に向け………。
『ん? あぁ、ご安心下さい。コロニーレーザーはたった今動力部を撃ち抜いたので機能を停止しています。一応暴発しないよう気を付けて狙ったので大丈夫だと思いますが、念のためここで向こうを監視してますね』
『『『あ、はい』』』
と、相変わらず善意全開で宣うシュウジにZ-BLUEは力なく答えるのだった。
Q.ボッチに睨まれたバルビエルの心境は?
A.ブチギレした某悪魔探偵を前にしたアザゼルさん。
Z-BLUEから見たボッチpart3
コードギアスの場合。
スザク
「そうだね。彼は色々やらかしてたし、僕も以前手酷くやられた事もあったけど、彼自身は悪人ではないと思うよ。………まぁ、時折やり過ぎな時もあるけどね」
カレン
「勝手な男よ。一人で決めて一人でやりきって、こっちの気持ちなんて考えもしない。………ホント、勝手なんだから」
C.C.
「私がアイツに抱く気持ちなんて一つしかないだろう?」
ルルーシュ
「取り敢えず潜入と言えば女装か段ボールの二択というのは止めて欲しい」
それでは次回もまた見てボッチノシ。