『G』の日記   作:アゴン

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明けましておめでとうございます。

クリスマスでも年末でも更新しなかった癖に、新年一発から番外編を挟んでしまう作者で申し訳ありません。

今執筆している外伝を仕上げた後、此方に集中していくつまりですのでどうかご容赦下さい。




if

 

 

 

 

─────音ノ木坂学院。古くからの伝統と地域の人々の想いによって受け継がれてきた歴史ある学舎。

 

三年後に控えた廃校。その運命を覆し、ラブライブの優勝を目指す9人の少女達が今日も屋上で奮戦していた。歌と躍りで人々を魅了し、世間を盛り上げるスクールアイドル。【μ's】それが彼女達の名前である。

 

学院の屋上で踊りの練習を続けるμ'sの顔は真剣そのもので真面目に反復練習を繰り返し、その度に肉体を無理が無いギリギリの所まで追い込んでいく。

 

「はい、それじゃあ今日はここまで!」

 

「お、終わったにゃ~」

 

「つ、疲れたぁぁ……」

 

金髪の少女の合いの手と共に告げられる本日の練習の終了の合図に幾人もぐったりと床に倒れる。はしたないと注意する者もいるが、疲労困憊な彼女達には届かない言葉だった。

 

「もう、だらしないですよ穂乃果」

 

「うぇぇ~? 海未ちゃんだって肩で息してるじゃんか~。ほらほら~、こっち来て一緒に床のシミになろう~?」

 

「な・り・ま・せ・ん! 全く、ラブライブの本選が始まるこの大事な時期になんて怠慢な。そもそも穂乃果は生徒会長としての自覚が足りないのです!」

 

「まぁまぁ海未ちゃん、練習終わったばかりだし、それ以上は……」

 

「ことりは穂乃果に甘すぎなのです!」

 

「二年生組は元気ねぇ」

 

「凜はもうクタクタにゃ~」

 

「はぁ~、早く帰ってお米食べたい」

 

練習が終わって談笑する少女達、もうじき大事な大会が迫っているのにその表情には微塵も揺らぎがない。皆、それぞれ自分の気持ちを固めているのだろう。強い決意を感じさせる彼女達の雰囲気に年長者である三年生はそれを頼もしく思っていた。

 

「ふふ、皆気合い入ってる。ラブライブへの意気込みも充分って感じやね」

 

「そうね。後はこの気持ちを途切れずに本選まで持ち込めば、きっといい結果が待ってる筈よ」

 

「ふん、精々空回りしないよう気を付けて欲しいものね」

 

「もう、にこってば」

 

「そんな憎まれ口を叩く悪い子にはワシャワシャするで~?」

 

手を怪しく動かして詰め寄ってくる東條希に、矢澤にこは咄嗟に距離を取り威嚇する。馴れしたしんだ光景、しかしそこにはいつもと違う違和感の様なものがあった。

 

「あれ? にこちゃんてばもう帰るの?」

 

「え? まぁうん。今日は妹達の面倒も見なくちゃいけないし買い出しもあるから。わ、悪いけど今日はこれで失礼するわ」

 

視線を泳がせて歯切れの悪い言い方をするにこ、明らかに何かを隠している彼女を怪しく思ったメンバーは視線で問い質す。

 

すると、何か心当たりがあるのか。思い付いた顔をする希は両手をポンと叩き……。

 

「あぁ、そっかー。今日は彼氏さんとお買い物する日なんやね。それじゃあにこちゃんが逸るのも無理無いなぁ」

 

「んなぁ!?」

 

「にこちゃんに!?」

 

「彼氏ぃ!?」

 

「うそぉ!?」

 

「にこちゃんの頭の中だけの彼氏じゃなくて!?」

 

「実在の!?」

 

「どういう意味よ!」

 

希の爆弾発言とも取れるカミングアウトにメンバーの視線が一気に驚愕のモノに変わる。あの矢澤にこが、スクールアイドルに対して誰よりも真剣な気持ちで接してきた彼女がまさかの彼氏持ちという事実。

 

ラブライブ本選間近で発覚するまさかの事実、スクールアイドルとしての云々はさておき、メンバーの興味は既にその彼氏の人物像にあった。

 

「にこちゃん! 彼氏ってどういうこと!?」

 

「ずるいよ! 私だって彼氏とかまだなのに抜け駆けなんて!?」

 

「年齢は!? 年上? それとも年下!?」

 

「不純異性交遊なんて不潔です! 不健全です!」

 

「何処までいったの!? ま、まままさかキスはもう済ませたとか!?」

 

「ち、違うわよ! アイツは別に彼氏でも何でもなくて、アイツはただの……そう、ファン! アイツは私のファン1号なの! ほら、私ってばファンを大事にするアイドルだから」

 

「ふーん、忘れたお弁当をワザワザ届けてくれるファンねぇ」

 

「ちょ、希!?」

 

「あれ? なんだかその話どこかで聞いたような……」

 

「というか、エリチーも知ってる筈やん。ほら、昔エリチーが不審者ーって騒いで職質紛いの事をやった日」

 

「え? あ、あー! あの人かぁ」

 

希の言葉に絵里は思い出し頷いた。どんどん信憑性が増していく矢澤にこの彼氏持ち疑惑、どういうことなのか詳しい説明を求める穂乃果達に対し……。

 

「べ、別にアイツはただの幼馴染みで、ファンで───その、ち、違うからー!」

 

遂に居たたまれなくなったにこは脱兎の如く逃げ出した。

 

「逃げたにゃ!」

 

「皆、追うよ!」

 

『了解!』

 

先程までの疲労困憊は何処へやら、逃げ出したにこを追ってメンバー達も逃がすまいと駆け出すのだった。

 

「というか希、貴女知っててやってるでしょ?」

 

「んー? なんのことかなー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、お先に失礼しまーす」

 

「修司君、お疲れ様ー」

 

バイト先の先輩に挨拶を告げ、店を後にする。外を出ると外気の風が頬を撫でて肌寒さを実感させる。

 

時期はもうすぐ春に差し掛かりその度に季節は巡ってくる。何も変わらない日常、過度な変化は無く穏やかで平穏な日々、いっそ退屈とさえ思えるこの時間が、最近青年────修司にとってとても得難い時間だと実感していた。

 

「やれやれ、幼馴染みからのプレゼント一つで浮わつくとか、俺も結構分かりやすいな」

 

先日、誕生日と称されて幼馴染から渡されたプレゼント。時にはメモ帳として使い、時には日記としてその日の出来事を書いたり等、色々多様な使い方をしている今は手離せない一品となっている手帳。

 

今度、自分も何か返した方がいいな。彼女に贈るのはどんな品がいいだろうか。まだ彼女の誕生日は先だというのに、今からプレゼントの事を考えるのは我ながら呑気なものだろう。

 

ふとそんな時だ。背後からやたらと慌ただしい足音が聞こえてくる。聞き慣れた足音だ。走ってくるだろう彼女の姿を容易に想像出来た修司は苦笑いを浮かべて後ろに振り返る。

 

「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……」

 

「どうしたんだよにこちゃん、そんなに慌てて。買い出しの待ち合わせはまだ先の筈だろ?」

 

全力疾走でここまで来たのだろう。肩で息をして呼吸を整えようとする幼馴染みに修司は苦笑いを浮かべる。

 

「ちょ、ちょっとね。ラブライブの本選も近いし、今のうちにスタミナを付けておこうかと思って……」

 

「頑張るのは良いけど程々にな? 過度な追い込みは自分の体を壊しちゃうからさ」

 

「分かってるわよ。さ、そろそろ行くわよ」

 

「今日の夕飯は何にするんだっけ?」

 

「そうね。最近また寒くなってきたし麻婆豆腐なんてどうかしら?」

 

「よっしゃ任せろ」

 

「アンタは手出ししない。今日はこっちがホスト何だから大人しくしておきなさい」

 

「ウェーイ」

 

手厳しくあしらわれながらも、それでも練習で疲れているにこの荷物を持とうとする修司。「持つよ」「ありがと」幾度目かなんて分からなくなる位やり続けたやり取り、しかしそんな二人の間には言葉にしなくても以心伝心で伝わる程の絆が確かにあった。

 

そんな二人の様子を遠巻きで見つめる八つの影。

 

「な、ななな何なんですかアレ!?」

 

「あれじゃ彼氏彼女って関係って言うより」

 

「熟練夫婦」

 

「おしどり夫婦だにゃ~」

 

顔を赤くしたり、羨ましく思っていたり、和んだりと多様な反応を見せる少女達。ラブラブという枠を越え、一心同体とさえ言える二人の様子に少女達は何も言えなくなっていた。

 

「と言うか、あれがにこちゃんの彼氏さんなんだー。なんか優しそう」

 

「いけません。あのような男は押しに弱く、きっと他の女性に言い寄られればコロッと流されてしまうのです」

 

「海未ちゃんそれ誰目線?」

 

先行く二人にあーだこーだ言い合う少女達を余所に二人の三年生の片割れ、東條希は安堵した様に微笑んでいた。

 

「希? どうかしたの?」

 

そんないつもと違う希に違和感を覚えた絵里がどうしたのかと訊ねると、彼女の手には一枚のタロットカードが握られていた。

 

「今ちょっと二人の行く末をカードで占ってみたんやけど、中々好感触でね」

 

そう言って見せてくるのは【世界】のカードでその方向は正位置を指し示していた。カードに詳しくない絵里ではそれが何を意味するのかは分からないが、少なくとも悪い意味では無さそうな事に安堵する。

 

「希ちゃん絵里ちゃん! 早く行くよ!」

 

「見失っちゃうにゃ~!」

 

二人の後輩に引っ張られる形で走り出す希と絵里、まだ出歯亀する気なのかと呆れてしまうが、たまにはこんな日も良いだろう。

 

先行く二人に追い付くために走り出す少女達。そんな時、ふと希はにこの隣に並ぶ男性の背後から一人の老婆の姿を目にした気がした。

 

優しく、慈愛に満ちた老婆の笑み。その姿は一瞬で掻き消えてしまうが、希はそれが気のせいだとは思わなかった。

 

そうか、彼女があの人を守っているのか。どこか納得した希は今度こそ二人に追い付くために皆と一緒に走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

それは魔神に見初められなかった男の、有り得たかもしれない世界での日常の一コマ。

 

シュウジが修司として生きてこれた───穏やかな一時である。

 

 

 

 

 






と、言うわけで“もしも主人公が魔神に見初められなかったら?”という前提でのお話でした。

タイトルではifと書きましたが、本質はどちらかと言えば並行世界に近く、数多く存在する世界線の中にはこう言う穏やかな人生を送る日常的な話です。

この世界線での主人公は特に命に脅かされることもなくテロリストを名乗る事もありません。きっと幼馴染みの少女と共に将来はアイドル業界に殴り込む事でしょう。

たまにはこんな穏やかな主人公がいてもいい。そんな思いで書いてみた日常の一コマでした。





───尚、この世界線の主人公の最近の悩みは心当たりもないのに身体中に刀傷や銃創の様なものが出来たり、身体能力がバカみたいに向上している事だとか。


それでは次回もまた見てボッチノシ
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