『G』の日記   作:アゴン

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今回は一方その頃的な話。

間が空いてしまってすみません。


その204.5

 

 

 

 

────ユーラシア大陸で宇宙規模の激闘が始まる。矛盾を孕んだ弩級規模の戦い、次元の力を極大に高め、限界を超え、極致に至ったモノしか辿り着けぬ領域。

 

【太極】 事象を操り因果すら支配するその力を、彼等はただ暴力の為に奮おうとしている。ただ一つの目的の為に、命を懸けてぶつかり合おうとしている。

 

『──嗚呼、やはり貴方は美しい。この終わり征く世界の中で至高の輝きを放つ貴方は正に天に立てる存在なのでしょう。えぇ、えぇ、認めましょう。貴方様は強い、強くなってしまった。最早私の模倣程度では届かず、覆らぬ程に』

 

宇宙から遠く離れた木星付近、太陽系で最も巨大とされる惑星で、ソレは恍惚の表情を浮かべて嗤っていた。

 

『でも、それではつまらない。だってそうでしょう? 闘争とは相手と同レベルの存在でなければ成り立たない。戦いとは対等であるべき、どちらが一方的であってはならない。……ねぇ、そう思いますでしょう? ミケーネの皆々様』

 

『あ、あぁぐぅ……』

 

『と、溶ける。力が、意識が、自我がぁ……と、溶けてぇぇぇ……』

 

『い、嫌だ。こんな終わり方は嫌だ。こんな、こんなぁぁぁぁ……』

 

太陽系最大規模の大きさを誇る木星、その星を覆って余りある程に広がるのは……宇宙すら蝕む災厄の泥。嘗て翅であるミカゲが取り込んだものと同質のモノがソコに広がっていた。

 

その中心に立つのは歪んだ獣、四つの感情を内に取り込んだ事で捻れて拗れた災厄の獣が、数多のミケーネの神々を前に微笑みを浮かべる。

 

蕩け、溶かし、見る者全てを籠絡し堕落させてしまいそうな妖艶さ。奴の泥に捕まった者は皆須らく呑み込まれ魂諸とも吸収されてしまった。自我も意識も、記憶すらも消してしまう無慈悲の泥、力の優劣とは関係無い。呑み込まれれば死すらも超えた恐怖がそこにはあった。

 

ミケーネの神々の頭領、嘗てはZ-BLUEを圧倒して地球の支配に手を伸ばしたハーデスは、その顔を恐怖と怒りに歪めて泥の上に立つ獣を睨み付ける。

 

『お、おのれ、おのれぇっ! 何故貴様が此処にいる! まだ真戦の時では無い筈だ! まだ我等の戦いは終わってはおらん! なのに、なのに何故ェッ!?』

 

『いいえ、貴殿方の戦いはもう終わりました。この上ないほど決定的に、これ以上無いほど致命的に』

 

まだ自分は戦える。真戦に至り、真戦を越える為にこれまで力を付けてきた。ここで終わる自分達ではない。そんな彼等の訴えをその獣は両断した。

 

『だって、貴殿方はもう認めてしまっているんですもの。自分では彼等に……いえ、彼には勝てないと、真化へ至り太極となったかの原初の魔神に貴殿方の戦意は砕かれてしまってるんですもの。戦う気力もない、あるのはそんなバカなと吼える口だけ、でしたらここで私を育てる肥料となっても何の支障も無いでしょう?』

 

思い返すのは第三新東京跡地、アマルガムとZ-BLUEの決戦で目の当たりにした光景。圧倒的という言葉では足りない程の圧を持ち、ただそこに在るだけで星を砕く原初の魔神。一度棄てた真化への道程を再び獲得し、極大の太極として産まれた怪物の中の怪物。

 

唯の一度光を放つだけで使途達は消滅し、二度目の光で自身と同じ真化へ至ったズール皇帝が跡形もなく、二度と復活出来ないほどに魂ごと消し飛ばされた。自分達と覇を競い合い、真戦で決着を着ける筈だった相手が成す術なく消滅されたのを目の当たりにして───ハーデスは思ってしまった。

 

勝てない。勝てる筈がない。あんな怪物を前にして、形ある宇宙を前にして一生命体でしかない自分ではどうあっても勝てる道理がない。頭で理解したのではなく、本能で悟ってしまったハーデスは、この時無意識に真戦への挑戦を諦めてしまっていた。

 

力を蓄えると言い訳し、その時ではないと嘘を吐き、自分に付いてきた同胞達を騙し、今日まで無様に生き延びて───その代償がこれである。

 

怒りと羞恥で頭がどうにかなりそうだ。自分は神だ。真化へ至り、より高次の生命体へと進化した、広大な宇宙の中で限りある選ばれた存在。なのに、なのに何故自分はこんな目に遭っている? どうしてこれ程の屈辱を味あわなければならない?

 

『答えは単純にして唯一つ、貴方が敗北者だからですよ。自ら挑み散る道を選ばず、怠惰に、無様に生き延びる道を選んだ。ウフフ、なんていじらしい。嘗てはその名を轟かせたミケーネの神々の一柱がまさか其処まで落ちぶれるとは……』

 

『き、貴様ァァァッ!!』

 

『ですが、嘆く事はありません。敗退し、負け犬となった貴方でも、私に掛かれば有用なエネルギー資源となります。良かったですね、貴方のこれ迄の存在に意味を見出だせて』

 

そう言って頬笑む目の前のケダモノにハーデスは遂に我慢が出来なくなった。もう自分に出来ることはない。真戦への参加を諦め、戦う気概を失い、生きる意味すら無くし掛けた今ではこうして目の前のケダモノに一太刀見舞う事しか出来ない。

 

だが、それも次の瞬間には叶わない事に気付く。ケダモノの足元に広がる泥は尚拡大を続け、更にその範囲を広げていく。侵食し、浸透し、蝕んでゆく歪みの泥、一度触れれば魂まで融解する“消滅”の具現。全てを呑み込もうと広がる泥がハーデスを捉えた時。

 

『ハーデス様!』

 

双頭の龍と髑髏の顔を持つミケーネの勇者、ガラダブラがハーデスを跳ね退ける。

 

『が、ガラダブラ! 貴様何を!?』

 

『生きてくださいハーデス様! 貴方の、あなた様の戦いはまだ終わってはおりませぬ!』

 

『っ!?』

 

『無礼は承知! しかしそれでもあなた様には生きていて欲しい! 我等の偉大なる大神よ、真戦を越え、新世界をその手に掴んで下され! そのお力で今度こそ我々ミケーネに永遠の栄光を!』

 

『が、ガラダブラ……』

 

魂が融解し、自我を蕩けさせ、記憶すらも蝕む泥に浸かってしまったガラダブラに最早生存の術はない。もう意識を保つのも億劫な筈なのに、それでも意地を以てハーデスに後を託すその姿は正しく勇者だった。

 

『なんて瑞々しくも荒々しいのでしょう。嗚呼、いけません。私の内でそのように荒ぶまれてしまっては……私、私ぃ────昂ってしまいますぅ』

 

しかし、そんな勇者の奮闘も虚しく、淫蕩に湯だったケダモノの泥に取り込まれてしまう。呆気なく、トプンと静かに音を立てて、ミケーネの神々の中でも勇者として称えられた強者は、まるで最初から其所にいなかったかのようにこの世から消滅した。

 

『ウフフ、中々良い味わいでした。さて、それでは改めて………あら?』

 

気が付けば、其所にハーデスの姿は無かった。先程まで挑発に乗せられて此方に言われるがままだったミケーネの大神は、此処で果てるよりも惨めに生き延びて逃走するという選択肢を選んだ。

 

 

『まぁいいでしょう。虱風情に時間を削ぐのも可笑しな話です。………さて、そろそろ頃合いでしょうか』

 

その事を蔑みはしない。元々そんな価値すら無いと断じていたケダモノ────嘗てサクリファイと呼ばれていたモノは、興味をハーデスから二つの地球、その片割れである蒼の地球へ向ける。

 

彼処には今、二人の怪物が争わんとしている。二人が今どれだけの力を持っているのか、これからどれだけ成長し進化を続けるのか、これまで命という命を貪るだけだったサクリファイには、その片鱗程度しか推し量れない。

 

『なら、もう少し摘まみ食いをしておきましょうか』

 

そう言ってサクリファイはその手を横に軽く振るう。瞬間、木星を包んでいたガスの一帯は吹き飛び、そこに隠れていたモノを露にする。

 

【E.L.S.】地球外生命体とされる命ある金属、地球から離れこれ迄生き延びてきた彼等は極大の邪悪を前に怯えるように身を寄せ合わせている。群にして個である存在である彼等に感情があるのかは定かではない、だが命あるモノとして本能的に目の前のサクリファイに言いし難い悪寒を感じているのもまた事実。

 

『フフフ、金属が怯えるとはなんて愉快な事でしょう。ですがそれもこれまで、私の内では命も金属も全てが平等、さぁ、共に至高へ至る糧になりましょうや』

 

泥がE.L.S.に伸びる。光を呑み、神々すら喰らい尽くす不浄の闇、迫り来る泥を前にE.L.S.は身動き一つ出来なかった。

 

瞬間、その汚泥は二つの光によって切り裂かれた。これ迄なかった現象、自分の力にここまで対抗した何者かにサクリファイは訝しみ……。

 

『成る程、貴殿方でしたか。随分甲斐甲斐しいのですね。これまで観測するしか無かった貴殿方がここまで干渉するとは』

 

『然り、本来我等は、かの者達の行く末を見守る見届け人に過ぎない』

 

『しかし、事此処に至ってはそれも叶わぬだろう。今の貴様は剰りにも度し難い』

 

光に包まれながら現れるのは共に不動の名を冠し、太陽の翼の担い手達を導く役割を持った者。不動GENと不動ZEN、嘗ては一つの存在だった彼等は目の前のケダモノに対し微かな、されど確かな敵意を以て立ち塞がっていた。

 

『あぁ、今日は何て良い日取りでしょう。ミケーネの神々に続いて今度は嘗ての太陽の翼の担い手まで頂けるなんて……嗚呼、はしたないのに、こんな事いけませんのに、私、再び昂ってしまいます』

 

二人の不動を前にサクリファイは恍惚の表情を浮かべる。獣に堕ち、その力を際限なく蓄えようとする悪食と化した化生の女、悍ましくも美しい化け物に不動ZENは一つだけ訊ねた。

 

『獣よ、あらゆる感情を取り込み際限なく膨れる悪食の獣よ、それほどまでの力を溜め込み貴様は一体何に成ろうとしている』

 

『まぁ、悪食なんて酷い。確かに今の私に好き嫌いは在りませんが、一応これでも女の身。そして女であるならば誰しもが通る道がございましょう。これはそのための栄養補給でしかありません』

 

答えるつもりは無いのか、要領を得ない答えで返すサクリファイだが、二人の不動にはその意味が通じたのか、これ迄無表情だったのものが僅かに強張っている。

 

『まさか、産み落とそうと言うのか』

 

『この世の全ての罪、原罪───純粋悪を』

 

二人の頬から一筋の汗が流れ落ちる。その言葉を意味するモノ、それを理解しているが故に二人の衝撃は尋常ではなかった。

 

『ウフフ、ウフフフフ、アハハハハハハ!! さぁそれでは参りましょう。彼と見える迄の時間はもう僅か、どうかそれまで私を楽しませて下さいませ』

 

地球から離れた木星でソレは嗤う。その身から爛れ、崩れ、堕ち行く。何れ来る終末の時を心行くまで楽しむ為に。

 

最早彼女に嘗ての理想は無い。あるのはただ壊れて狂った───幻想のみ。

 

 

 

 

 




キングプロテアちゃんにガオーってされたい人生だった。


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