『G』の日記   作:アゴン

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その205

 

 

『はぁっ、はぁっ、はぁっ……』

 

『やはり、ここまでか……』

 

『まぁ、時間稼ぎとしては充分でしょう。我々に出来ることはもう……ありません』

 

ラース・バビロンの最重要防衛拠点であるセントラルベース。そこへ至る道を塞いでいたサイデリアルの幹部、その副官達と彼等が有する現存戦力の全てを退けたZ-BLUEは、疲労困憊ながらも次の戦場へ向かう。

 

戦意を失い、機能停止した機体の中で抵抗する気力も失ったサルディアス達を尻目にZ-BLUEは駆ける。真っ直ぐ、その先に待つ皇帝とサイデリアルの幹部、そして彼等を相手に一人で戦っているであろう彼の下へいち速く駆け付ける為に。

 

既に向こうでも戦いが始まっている。星を揺さぶるほどの振動は、離れた位置にあるセントラルベースにまで届いている。彼は、シュウジは今愛機であるグランゾンではなく己の肉体一つで戦っているはずだ。にも関わらず、あれほどの轟音が鳴り響くのはどういう事なのか。

 

逸る気持ちを抑えながら現地へ向かうZ-BLUE、その時クロウ=ブルーストから驚嘆の声が上がる。

 

『な、なんだなんだ? 何が起きている?』

 

『どうしたクロウ?』

 

『い、いやなんかブラスタから急に変な音が鳴り出して……なぁ博士、まさか修理費ケチッたりはしてないよな?』

 

困惑するクロウを他所に、彼の愛機であるブラスタからは甲高い音が鳴り続いている。クロウは不満足な修理による機能不全の一種かと思ったが、それは間違いだと思い知る。

 

『ね、ねぇダーリン、これって……!』

 

『なんだ、一体どうしたガンレオン!?』

 

『機体に不備はない。これは、何の現象なの?』

 

『ヒビキ君、これって……』

 

『スフィアが、何かに反応している?』

 

見れば、クロウのブラスタだけでなく、ランドのガンレオンやセツコのバルゴラ、ヒビキ達のジェニオンからも、同じように音を鳴らして淡い輝きを放っている。

 

スフィア同士による感応現象とは異なる事象にZ-BLUEは動揺するが、何かが起きる様子は今の所ない。その様子をソーラリアンから観測していたトライア=スコートも、これ迄とは全く違う反応を見せるスフィアの様子に戸惑いを隠せずにいる。

 

『は、ハハハ、なんだこれ、こんな事があり得るのか』

 

その中で唯一、アサキムだけは引き攣った笑みを浮かべてラース・バビロンのある方角へ目線を向けている。彼の機体であるシュロウガ・シンも他のスフィア搭載型と同様の現象が起きているが、他の三機と比べてその症状は大きい。

 

何か知っている様な風のアサキム、しかし他の面々がそれを追及することはなかった。遂に辿り着いたラース・バビロン、そこで行われる光景に誰もが言葉を失っているからだ。

 

(これも、これも予想の範疇、想定の範囲だと言うのですか。シュウ=シラカワ。だとするなら貴方は………なんという存在を生み出してしまったのだ)

 

ソーラリアンのブリッジ、口をアングリと開いて驚愕しているトライア博士の後で彼女のサポートを担っているAGは、その光景を前に愕然と目の当たりにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーラシア大陸の北部、新地球皇国ことサイデリアルの最終拠点───ラース・バビロン。嘗て平地だった大地は度重なる衝撃によりその姿は変えられ、多くの場所で陥没し、また隆起していた。

 

元々存在していた大地が壁に見間違える程に陥没し、クレーターと化したその中心で二人の怪物は睨み合う。シュウジ=シラカワと次元の将ヴィルダーク、二つのスフィアの力を十二分以上に解放し、その力は既に他のスフィアリアクターと比べて何段も上の領域に至っている。

 

人としての在り方を保ちながら、それでいて無限の力を孕んだその身はさながら人の形をした太極(宇宙)に他ならない。一生命体では覆らない力の差が存在していた────筈だった。

 

その差を、シュウジ=シラカワは飛び越えた。その身に命の輝きを纏わせて、膝を付いて此方を睨むヴィルダークを静かに見据えている。

 

闘気が感じられない。先程まで自分と戦っていたシュウジとはまるで別人の様な様変わりにヴィルダークは戸惑うが、それ以上にその心は歓喜に満ちていた。

 

『それが………それが貴様の全力か。成る程、凄まじいな。二つのスフィアを持ち、意志の力でこの境地に至っても尚、貴様の存在を霞程度にしか認識出来んとはな』

 

「────」

 

目の前にはシュウジが立っている。それは間違いない、間違いない筈なのにその存在感がまるで掴めない。先程まで死にかけていた目の前の男はたった一つの切欠で、自分でも捉えきれない程に進化した。

 

一時的な状態かもしれない。明らかに普通とは異なる様子だが、ヴィルダークは揺るがない。

 

「────行くぞ」

 

静かに、彼の纏う輝きが揺らめく。自ら仕掛けると宣誓するシュウジにヴィルダークは迎撃の構えを見せる。僅かな沈黙、張り詰める緊張の中でシュウジが一歩踏み締めた瞬間───。

 

ヴィルダークの頬から鮮血が舞った。

 

『つ!?』

 

まるで反応できなかった事に驚愕を隠せない。見逃す事は有り得ない、隙を見せるなど有り得ない。ヴィルダークは僅かな油断も見せず、シュウジから目を逸らさなかった。

 

一撃受けたのはそのそんなヴィルダークの───本人すらも自覚していない意識の隙間を踏み越え、飛び越えたシュウジの異常な程の速さが原因だった。音を越え、光に迫り、そして遂には光すらも超えたシュウジの動き、彼がヴィルダークの背後に立ったその衝撃だけで周囲の大地が弾け飛ぶ。ヴィルダークが己の背後にシュウジがいることに気付いたのは、大地が砕かれる前の僅かな刹那の合間である。

 

『ヌァァッ!!』

 

振り向き様に放たれる裏拳、しかしヴィルダークの拳は空を切り、その衝撃がユーラシア大陸の大地を更に蹂躙していく。

 

上を見れば、そこに弾けとんだ大地の欠片を足場に空を行くシュウジの姿があった。逃がすものかとヴィルダークは脚に力を込めて飛翔する。

 

握り締めた拳で相手に殴り付ける。単純なその動作には、しかして恐るべき威力が秘められている。人を砕き、命を破壊し、魂すら粉砕させる破界の拳、迫り来る死の具現を前に、シュウジは眉一つ動かさずに対応する。

 

空を切る。振り抜かれる度に空が弾け、拳圧となった衝撃が大気を蹂躙していく。一撃でも当たれば死は免れない、百や千では足りない拳の応酬。しかし、それでもシュウジは繰り出される死の暴風を、容易いと掃き捨てる様に避けていく。

 

当たらないシュウジに苛立ったヴィルダークの大振り、それを待っていたと両手をクルクルと回してタイミングを見計らっていたシュウジは、大振りとなったヴィルダークの銀色の腕を片手で反らし、右の肘打ちで鳩尾と思われる箇所にめり込ませる。

 

───息が詰まった。人を越え、次元の将としての力を発揮しても人型を形とっている以上、ヴィルダークの体にはある程度の急所は残されている。心臓が穿たれようと死にはしない、頭部を撃ち抜かれようと直ぐ様再生される。しかし、人体に於ける中心線にある弱点は、ダメージになっても致命傷にはなり得ない。

 

しかし、ここへきて例外が発生する。シュウジの放つ肘打ちが鳩尾と呼ばれる急所に打ち込まれた事により、ヴィルダークの動きは停止する。そしてその隙を逃す道理はない。

 

息が詰まった事で瞬間的に動きが止まるヴィルダークの横っ面に、シュウジの回し蹴りが炸裂する。脳髄が揺さぶられる一撃はヴィルダークを地面に叩き付け、周囲の大地を破壊していく。視界が歪み、意識が途切れそうになる。それでも立ち上り、シュウジがいるであろう空を仰ぎ見たヴィルダークが次に目にしたのは………無数の流星群だった。

 

「───両手・猛羅総拳突き」

 

腰だめに両拳を携え、引き絞られる力で以て打ち出される無数の拳圧。大気との摩擦により熱を帯て、青白く光輝く尾を描くその様は正しく流星群(スターフォール)

 

『ぐっ、がぁっ! ───ヌゥゥゥン!!』

 

降り注がれる流星群に打たれながらも全身に力を込めてバリアを張る。膨れ上がる銀のバリアを弾けさせ、降り注いでくる無数の拳圧を消滅させたヴィルダークは再び脚に力を込めて跳躍、シュウジに肉弾戦を仕掛けていく。

 

先程と同じ展開、再びシュウジがヴィルダークの動きを見切り返しの一撃を見舞ろうとするが、ヴィルダークも永い時の中で幾度となく闘争を繰り広げてきた。確かにシュウジは強くなった、劇的に、鮮やかに今ヴィルダークがいる境地を飛び抜け、更なる領域に至っている。しかし、次元将ヴィルダークは伊達に次元の将を冠している訳ではない。

 

捉えきれなかったシュウジに遂にその拳が掠り始める。永い時の中で闘い続けてきた次元将としての経験が遂に彼の領域に届き始め───。

 

「はぁっ!」

 

『ガァァッ!?』

 

それが此方の隙を生み出す誘いだと知ったのは顎に衝撃が貫かれた時だった。カチ上げられる顔、意識は吹き飛び掛けて視界が白く染まる。瞬間、無防備を晒したヴィルダークの腹部に執拗な迄のラッシュが叩き込まれていく。

 

「だらららららら、ダラァッ!!」

 

『ぐぅあぁぁぁぁぁっ!!』

 

遂にヴィルダークから苦悶の叫びが上がる。吹き飛び、地に叩き付けられ、再び意識が途切れかける中、先程のシュウジの言葉を思い出す。

 

彼は特別の理由で戦っている訳ではなかった。失うのが嫌だから、無くしたくないモノがあるから、そう自分自身が願ったから戦うのだと彼は言った。

 

嗚呼、そうだ。それこそがヒトの……命を持つ知的生命体が有する当たり前でありふれたささやかな願い。きっと、自分も彼も変わらないのだろう、抱く願いは違っているが、その根底にある“祈り”はきっと生きている者ならば善悪問わず違いはないのだろう。

 

詰まる所、ヴィルダークとシュウジの間に違いは無かった。共に戦った戦友の無念を晴らし、悲願を成就させたい想いも、それはヴィルダーク自身の内から生まれ出てきたモノであり、シュウジもまた同じ。

 

結局、二人の戦いを一言で表すのならば───意地の張り合い。如何にヴィルダークの戦士としての歴史が長かろうと、この言葉を覆すことは叶わない。

 

(いぃや、だからこそ俺は負けるわけにはいかないのだ!!)

 

同じだからこそ、負ける訳にはいかない。ここで負けてしまえばそれを認めてしまえば自分の意志の方が弱いという事を公言するようなもの。意地の張り合いならば張り続けなければ嘘になってしまう。

 

故に、ヴィルダークは再び限界を越える。二つのスフィアに命令し、無限の力を更に高めていく。押し寄せてくる力の波と自我を消し飛ばしてしまう反作用を意志のみで打ち消し、それすらも取り込んでヴィルダークは更なる進化を遂げる。

 

膨れ上がる肢体、暴れまわる力の奔流をその身に宿し、限界の更に向こう側へと飛び越えたヴィルダーク。迸るエネルギーを纏い、触れただけで命を砕くその力を以てシュウジに突貫する。

 

予想を遥かに上回るヴィルダークの体当たり、しかしそれを鮮やかに回避しようとするが………シュウジの動きが停止した。動きが止まったのではない、止まるざるを得なかった。今、ヴィルダークの力は自身が思っている以上のパワーアップを果たしている。もしあの力が僅かでも見誤り、暴発でもしてしまったら、それこそ地球は跡形もなく消し飛んでしまうだろう。

 

故にシュウジは一つの賭けに出る。地球で被害を出させないため、一時的に場所を移す賭けを。その結果、シュウジはヴィルダークの体当たりを敢えて受け止める事にして、その勢いを削ぐ事に勤めた。

 

極大な次元力の塊となったヴィルダークの体当たりを受け止める。その際に生じた衝撃を全て受け流し、シュウジは彼と共に空高く打ち上げられていく。大気圏を突破し、コーディネーター達の居住であるプラントの間をすり抜け、瞬く間に二人はとある大地へと着弾する。

 

『ぬぅぅぅ……』

 

膨れ上がる力に翻弄されながらもそれでもシュウジを倒さんと睨むヴィルダーク、既にそこは地球ではなく、地球は彼等の頭上に照らし出されている。

 

月。地球にとって衛星と呼ばれる月面の大地で二人は睨み合う。太極へ至り、物理法則などとっくに越え、世界の理の枠からはみ出ている二人が酸素の有無に気を削がれる事はない。

 

最終ラウンド、地球から遠く離れた月の大地で二人の闘いはいよいよ佳境に突入していくのだった。

 

 

 

 

 




ボッチ&皇帝「「ま だ だ !!」」

ディアナ「こっちくんな」




それでは次回もまた見てボッチノシ


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