『G』の日記   作:アゴン

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今回、今まで出てこなかった彼等が登場。


その208

 

 

 

ボタボタと命の溢れる音が聞こえる。嘗てサイデリアルの皇帝であり、次元将の最後の一人として戦ってきた男は、自分の胸元から突き出る手に一瞬呆けた顔を晒してしまう。

 

何が起きたのか。停止した思考、虚ろの瞳で背後へ見やれば、恍惚に微笑むケダモノがいた。

 

「あぁ、あぁ、申し訳ありません。お二人の闘いの熱に充てられてしまい、少々昂ってしまいました。ですがお二人もいけないんですのよ? あれだけの戦いを繰り広げておきながら、あんなに隙を晒してしまうんですもの」

 

「あ、あ、………ゴブッ、くぁ」

 

「ウフフ。本当、無防備な背中ですこと、これを前にして手を出すななどと───えぇ、えぇ、それこそ酷い話ですわ」

 

「ぐ、お、オノレぇぇぇっ!!」

 

苦し紛れの一振り、横凪ぎに振るわれるヴィルダークの腕は、しかしサクリファイという極大の怪物に当たらない。振り回した腕、その勢いの踏ん張りすら利かないヴィルダークは苦悶の表情を浮かべて地に伏せる。

 

後へ僅かに跳躍し、わざとスレスレの所で回避するサクリファイ、倒れるヴィルダークを愉悦の笑みで見つめていた彼女は、自身の手についた血を舌で舐めとる。

 

「フフフ、これでスフィアが二つ私の手の内に……ご協力感謝しますわ」

 

そう言ってサクリファイは、己の手の内から二つの光を出現させる。それはヴィルダークが手にした二つのスフィア、【立ち上がる射手】と【怨嗟の魔蠍】である。労せずに手に入れた二つの次元の至宝に満悦なサクリファイ。漁夫の利で得たスフィアをまるで玩具を得た子供の様に手の内で弄ぶ。

 

「では、少々勿体ないですがこれでお暇させて戴くと───」

 

用件は済んだと、もうここには用がないと踵を返して立ち去ろうとするサクリファイの顔面に拳が突き刺さる。吹き飛び、倒れ、鮮血で顔を染めながらも微塵も笑みを崩さないサクリファイは、自身を殴り飛ばした者に視線を向ける。

 

「ふー、ふー、ふー!」

 

「シュウジ!」

 

見れば拳を振り抜いた姿勢のままサクリファイを睨むシュウジがいた。その双眸を怒りで染めて、血を噴き出しながらも佇むその姿にシオニー達は心配の声を上げる。

 

「フフフ、相変わらず乱暴な方。何故其処まで怒りを露にしているのです? 其方で倒れる虱は貴方の敵、なのでしょう? 何故そこまで気を配るのです? どうして感情移入しているのです? 矛盾、無意味、無作為。───フフフ、なんて面白く、滑稽で、それでいて何処までも愛おしいのでしょう」

 

「テメェ……!」

 

「何なの………これ」

 

殴られた箇所は一瞬で修復され、やはり笑みを崩さないサクリファイ。悪意を通り越して害意しか感じられず、会話をしているようで此方を見ていないその存在にシュウジは怒りを滲ませ、シオニーは怖気を感じていた。

 

人間ではない。その在り方、その性質、外見からは自分と同じ人の形をしているのに、その中身は全く違うと言えるほどにサクリファイという存在は捻れ、歪み、爛れきってしまっていた。最早自分達の間に会話は成立しない。そう改めて確信したシュウジは全身に力を込めて戦闘体勢に入る。

 

「シオニーさん、皆を連れて逃げてくれ。向こうからはZ-BLUEも来てくれている。彼等と合流するまで時間を稼ぐから───」

 

出血が酷く、ボヤけた景色しか見えていない。しかしそれでもシオニー達を助けるには自分が動くしかない。戦意を無理矢理にでも高めて前に出ようとするシュウジだが、それをシオニーは許さない。

 

「そんな事私が……私達が許すと思う?」

 

「シオニーさん、でも………」

 

「約束したじゃない。助けるって、それは私達だけじゃない。貴方も、一緒にリモネシアに帰るって意味なんでしょう。だったら、貴方もちゃんと生きて帰らなきゃダメじゃない」

 

その口調は静かで穏やかだったが、そう語る彼女の瞳は強い決意に満ちていた。この厳しい状況の中で、それがどれだけ難しい事なのか。それを承知した上で彼女は口にしている。皆で無事に生きてリモネシアに帰ると。

 

彼女のその強い言葉に思い知らされ、そして思い出す。そう、幼馴染の少女に助けられた時の事を。

 

「フフフ、まるであの時の再現ですわね」

 

しかしその思い出も奴の言葉によって貶められる。それが尊いモノが汚された気になりシュウジの怒りをより激しく煽っていく。

 

「良いでしょう。私がスフィアを完全に取り込むまでまだ時間があります。その時迄の時間稼ぎも兼ねて───一つ、戯れと参りましょう」

 

次の瞬間、サクリファイの背後から幾つもの巨人が姿を現す。それは嘗てアドヴェントがまだ存在していた頃、クロノの改革派と称する面々が使用していた量産型の機体。

 

“アスクレプス” それも何かしら強化を施されたのかどの機体も豹変としており、機械的だった機体が肉体的になっている。それに合わせて外見は凶暴なモノになり、異常さを物語っている。

 

「喜び野郎が消えてから全く見掛けなかったから気になっていたが………そうか、やっぱりテメェが隠していたのか」

 

「えぇ、彼等は主人だったアドヴェントを失い哀しみに暮れていました所、私が善意で以て救い上げたのです。私の慈悲、私の寛容、私の愛で彼等は文字通り生まれ変わったのです」

 

嗤い、そう口にするサクリファイにシュウジは改めて嫌悪した。この女が口にしているのは紛れもなく事実、確かにこの女はアドヴェントと同類の存在で、彼等にとっては救いの女神に見えるだろう。

 

そしてこのクソッタレな女神の宣う生まれ変わったという言葉も、文字通りの意味なのだろう。何せ目の前のアスクレプスから感じ取れる力はシュウジもよく知るモノなのだから。

 

「テメェ、やりやがったな」

 

「し、シュウジ?」

 

シュウジから発せられるこれ迄とは桁違いの怒気にシオニーは戸惑う。侮蔑、軽蔑、嫌悪、ありとあらゆる拒絶の感情が怒りとなってシュウジから噴き出してくる様だった。

 

「可笑しいと思った。なんでアドヴェントの僕でしかないコイツらが其所まで強くなれるのかって。だが今分かった。テメェ、よりにもよってコイツ等に真化をさせたな、それも───物理的に(・・・・)!!」

 

真化とは己の半身である機体と意志疎通、或いは思いを重ね、一つの存在へと昇華させる進化の枠を超えた新たな境地。人機一体、その言葉を体現し更なる境地へ至る為の在り方。

 

それを作為的に、力ずくで成された存在が目の前にいる。物理的に機体と同一し、強制的に昇華された歪な存在が、自分達の前に立ちはだかっている。

 

見れば、アスクレプスの額に人間の顔と思われるモノが張り付いている。泣いている様な、怒っている様な、笑っているような、何れも人の残滓でしかないその有り様に、シオニー達を始めとしたリモネシアの人々は恐怖と嫌悪で腰を抜かしていた。

 

「何を忌避する必要があるのです? 進化とは常に己の意思を以て成されるもの、ヒディアーズやインベーダーもそう。そう言う意味では私達も彼等と何ら変わりないのです」

 

「───もういい、もう喋るな」

 

「シュウジ?」

 

「分かっていた事だ。テメェはもう俺の敵とか地球の、Z-BLUEの敵とかそんな枠組みに収まるもんじゃねぇ。この世に生きる命、その全ての敵だ。」

 

気が付けば、血は既に止まっていた。怒りで出血が収まり、怒りで体の限界を消滅させたシュウジは今こそ己の愛機を呼び出そうとする。だが、それは一時の誤魔化しに過ぎない。

 

シュウジは既に限界を超えていた。今は怒りでどうにか誤魔化しているが、流れ落ちた血と失った体力は戻ってこない。もし何かの拍子で体がその事を自覚すれば、今度こそシュウジは動けなくなる。

 

「シュウジ、ダメ───」

 

それを止めようとするシオニーだが、既に状況は動いた。肉体的になったアスクレプスがその手でシュウジ達を押し潰そうとしたとき。

 

「イナズマ────キィィィィック!!!」

 

一筋の赤い閃光がアスクレプスを蹴り抜いた。

 

 

 

 

 

 






近い内、主人公の設定を載せたいと思います。
機体とか他にも。

さて、今回から多少のオリジナル要素が入りますが、どうか寛大な心で読んでくださると嬉しいです。

それでは次回もまた見てボッチノシ


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