『G』の日記   作:アゴン

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今回、あまり派手じゃないかもしれません。

ご容赦を。


その209

 

 

シュウジとシオニー、リモネシアの人々に迫っていたアスクレプスの魔の手から庇うように、突如として現れた一筋の紅い閃光が彼の機体を打ち抜いた。

 

アスクレプスは鑪を踏んで後退るが、胸部辺りが一部凹んだに過ぎない。その凹みも次の瞬間には瞬く間に修復され、何事も無かったかの様に佇んでいる。

 

「みなさん、ご無事ですか!」

 

そんなアスクレプスに驚きながらもシュウジ達の前に降り立つのは、紅い閃光の正体であるノノ。 Z-BLUEの一員であり、バスターマシン7号である彼女が視線だけシュウジ達に向ける。

 

「ノノちゃん、来てくれたか」

 

「はい。間もなくZ-BLUE本隊も駆け付けます。ご安心ください。皆さんの安全はそれまでこのノノが守ります」

 

人の型でバスターマシンとして多大な火力を用いるがゆえの先行、恐らくは事態を見守っていたブライト辺りの采配だろうか、兎も角これで戦況は変わった。ノノの一撃のお陰で時間は稼がれ、遂にZ-BLUEの面々が到着する。各艦から続々と機体が出撃し、ラース・バビロンの大地(凄まじく変わり果てているが)に降り立った。

 

スーパーロボット軍団、マジンガーやゲッターを始めとした様々な超科学で生み出された人類の叡智達、状況の変化に伴い臨戦態勢で降り立った彼等は特大の悪意()に対して戦意を漲らせる。

 

『シュウジ、勝ったんだな』

 

Z-BLUEの艦の一つ、ラー・カイラムの艦長であるブライト=ノアから安堵の混じった言葉が投げ掛けられる。

 

「ブライトさん、あぁ……でも」

 

サイデリアルとの決着、それ自体は果たされた。度重なる激闘、死闘の果てにシュウジとヴィルダークとの戦いはシュウジの勝利という形で終わりを告げた。しかし、それでもシュウジの胸中にあるモヤは晴れない。

 

向こう側で倒れるヴィルダーク。スフィアという核を失った事による弊害か、その体は徐々に崩壊の一途を辿ろうとしている。体の節々から砂の様な状態となり、崩れ始める彼の肉体に、シュウジは言い難い感情を覚えた。

 

『───それで、テメェは一体何だ?』

 

苛立ちと困惑、そして僅かに滲み出る畏れ。ゲッターチームの竜馬は、眼前に佇むサクリファイと思われる女に容赦のない敵意をぶつける。進化の力、ゲッター線に見初められた男の本気の殺気、それを一身に受けて尚、獣の本性は崩れない。

 

「フフフ、まぁなんて壮観なのでしょう。音に聞こえしZ-BLUEが総出で現れるなんて、あぁ、未だその時では無いと言うのに、私ったら───昂ってしまいます」

 

『何だ、この女』

 

『この女のプレッシャー、今までとは何かが違う』

 

『此方を見ているようで、何も見えていない。いや、見ようとしていない(・・・・・・・・・)

 

『凝り固まった悪意──いや、もうそんな範疇に収まらない』

 

『一体、何なんだあれは?』

 

常人よりも感受性に優れ、他者の感情を感じ取るに秀でたニュータイプの面々、特にその能力に優れたカミーユやバナージは、サクリファイの異常とも言える気質の一端に触れ、慄いていた。

 

『バナージ、カミーユ、これ以上あの女に触れようとするな。戻ってこれなくなるぞ』

 

そんな二人を引き戻す様にアムロは呼び掛ける。彼もサクリファイの本性には本能的に気付いているのだろう。故に即座に判断する。あの人の形をした怪物とは意志疎通出来るモノではないと。アレはもう人とは呼べない、インベーダーや宇宙怪獣と同類で全ての生命体の敵なのだと。

 

そしてそれはZ-BLUE全体にも広がっていく。言葉など交わしてはいない。誰もアムロ達のようにモノの真意を読み取る能力を持ち合わせてはいない。普通なら戦う前に話し合いを設けようとする筈なのに、誰もがそれを口にはしない。

 

そう、全員が気付いていた。ダイガードのパイロットであること以外は普通の人間と変わり無い赤木やトライダーのパイロットであるワッタ、超能力という特殊な力を持つ明神タケルやトップの面々、野性味溢れるゲッターチームやダンクーガの乗り手である葵、Z-BLUEの全員が思い知る。

 

目の前にいるのは根源的災厄、バアルの一種なのだと。Z-BLUEが戦慄する中、サクリファイは見るものを融かすような妖艶な笑みを浮かべている。

 

「これ程の視線に晒されては昂りを抑えるのも一苦労。故に本来ならばこの場を譲りたい所なのでしょうが……そうさせては下さらぬのですね?」

 

『あぁ、悪いがお前をこれ以上放置させる訳には行かない。お前がスフィアを手にいれて良からぬ事を企んでいる以上、な』

 

「まぁ、良からぬ事だなんて。酷いですわアムロ=レイ様」

 

『────敬称呼びをされて此処まで不快感を覚えたのは生まれて初めてだ。答えろサクリファイ、お前はそのスフィアで何をしようとしている』

 

普段冷静で、状況を広く見ようとしているアムロが珍しく怒りを露にしている。しかしそれに口を挟むモノはいない。何故ならアムロと同様、他のZ-BLUEの面々も、彼女に対して言い表しの無い嫌悪感を抱いているからだ。

 

スフィアを用いて何をしようとしているのか、アムロは冷静を装いながら問い詰めるが、サクリファイは笑みを浮かべるばかりでマトモに答えようとはしない。

 

「ウフフ、そこまで求められるのならば仕方ありませんね。幸い此処には全てのスフィアがそろっています。序でにもう幾つか頂くとしましょうか。ねぇ、アサキム=ドーウィンさん?」

 

『………参ったな、此方に狙いを定めてきたか』

 

舐め回すような視線がアサキムの操るシュロウガ・シンに向けられる。これ迄自身の願いの為にあらゆる非道な行いをしてきた自覚のあるアサキム。シュウジという協力者を得たことによって、今はどんな仕打ちも甘んじて受け入れるつもりではあるが、流石にアレの相手をするのは御免被る。

 

「さて、それでは皆々様。済度の時は今暫くの間がありますが───慈悲です、戯れと参りましょう」

 

サクリファイが両手を広げれば、それに付き従う様にアスクレプス達は広がって陣を展開する───と、思われた瞬間、奴等はノーモーションのままZ-BLUEに襲い掛かる。

 

突如拓かれる戦端、幸いZ-BLUEとアスクレプスとの戦いに巻き込まれずに済んだリモネシアの人々は、少し離れた場所で受け入れ体制に入ろうとする母艦、ラー・カイラムに向けて逃げようとする。

 

「行こうシュウジ」

 

「あ、あぁ……」

 

シオニーに促されるままシュウジは皆と共に避難しようとする。Z-BLUEが駆け付けてくれた今、自分がここにいる意味はない。怪我も酷く、意識もマトモに保ってられない以上、戦場に長居するのは自分にとっても味方にとっても悪手でしかない。

 

Z-BLUEの足を引っ張る危険性がある以上、自分はリモネシアの人々と共に避難するべきなんだろう。───しかし。

 

「あらあら、もうお帰りになるのですか? もう少しゆるりとしていけば宜しいではないですか」

 

そんなシュウジ達の前に、当然のごとくサクリファイが立ちはだかる。突然すぎる彼女の出現、瞬間移動の様に眼前に現れる彼女にシオニー達は面食らうが、唯一彼奴に対して耐性のあるシュウジは顔をしかめて睨み付ける。

 

どうやら逃がすつもりはないらしい。ヴィルダークに続き、満身創痍である自分までも手にかけようとするサクリファイの欲深さ。しかしこの女の目論見は、業腹な事に的を射ている。ヴィルダークとの戦いで、体力の全てを使い果たしたシュウジは立つことすら儘ならない。

 

一歩、また一歩近付いてくるサクリファイ。やはりグランゾンを呼び出してここで決着を着けるべきか。否、そうすれば近くにいるシオニーやリモネシアの皆にまで被害が及ぶ。

 

どうする? 一か八かもう一度アレになるか? 出血多量で今は怒りという感情でどうにか抑えられているが、また体が痛みと疲労を自覚すれば今度こそ死ぬ。そうなれば次に狙われるのはシオニー達だ。

 

迫られる選択、どうすれば言いか思考を巡らせるシュウジの前で、バスターマシン7号、ノノがサクリファイの前に立ち塞がる。

 

「相手を間違えないでください。貴方の相手はこのノノがします!」

 

緋色に輝く髪を靡かせ、サクリファイに向けて拳を突き付ける。ノノの瞳に迷いはない。例え自分の力が凄まじく、人に向けるモノではないと理解していても、今の彼女に躊躇はなかった。何故ならば、彼女も他のZ-BLUEの面々同様、目の前の女を人間と思いはしなかったのだから。

 

「まぁ勇ましい。流石は火の文明の名残、愛らしい姿とは裏腹になんて力強いのでしょう。フフフ、ならばその期待に応えるため、私も少々本気になりましょう」

 

何処からでも掛かってこい。そう言わんばかりに両手を広げるサクリファイに、ノノは正面から殴り付ける。バスターマシンの力の込められた右のストレート、掠っただけでもその辺の相手ならば挽き肉に出来る彼女の拳を、しかしサクリファイは片手で受け止める。

 

「っ!」

 

「ウフフ、どうしました? 折角の可愛いお顔が台無しですわよ?」

 

自分の攻撃を自分と同じ背丈しか無い女に受け止められた事実に、ノノは驚愕する。が、それでも構うものかとノノはスラスターに力を込めて、空へ向かって駆け昇って往く。

 

みるみる内に遠くなっていく二人、何とか助かった事に安堵するシオニーは、今度こそシュウジを連れてこの場から離れようとする。

 

しかし、シュウジは動こうとしなかった。ある一点を見つめて微動だにしない彼を不思議に思ったシオニーは、その視線の先をなぞるように追うと……。

 

「………うそ、でしょ?」

 

その光景に絶句した。動ける筈など無かった。その体は正しく死体でそのまま朽ち往くだけの体だった。───なのに。

 

それでも、立ち上がっていた。立ち上がり、這いずるように歩み出していた。その光景に息を呑み、言葉を失っていた。

 

「………ゴメン、シオニーさん。俺やっぱり」

 

そんな光景を目にして、シュウジは申し訳ない表情で側で支えるシオニーを見る。放っておけないのだろう、互いに命を懸けた死闘を演じ殺し合った癖に、妙な所で紳士になる。そう言うのはもっと別の所で発揮して欲しいのだが………。

 

「いいよ、分かったわ。でも、アタシも一緒に行くからね」

 

「───分かった」

 

自身の我が儘を聞き入れて貰った以上、シュウジにシオニーの言葉を退けることはできない。二人はラー・カイラムに向かうリモネシアの人々とは反対方向へ転進し、歩みを進める。

 

「なっ、お前達! 一体何処へ──!?」

 

「ラトロワ! 皆をお願い、アタシ達もすぐに戻るから!」

 

途中踵を返す二人に声を駆けるラトロワだが、彼女も彼女でやるべき事がある。リモネシアの皆をラー・カイラムへ無事に送り届ける任がある以上、それを放棄する訳には行かない。

 

「クソッ! 必ず、必ず戻って来なさいよ!」

 

叫ぶラトロワの言葉を胸に刻み、二人は彼の後を追う。激化する戦場、命を賭した行軍。彼等の行く先にあるのはアスクレプスによって吹き飛ばされ、地に倒れ付す────マジンガーZ(鉄の城)だった。

 

 

 

 

 

 




次回からはいよいよスパロボらしくなってきます。









次回、原初の魔神・鉄

無限()を超えるモノ、その名は───()


それでは次回もまた見てボッチノシ


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