開幕。
破界事変と再世戦争。それは多元世界が大きな転換期を迎えたADWと呼ばれていた時代、多種多様な技術が世界中に溢れ、ブリタニア帝国が未だ世界に多大な影響力を秘めていた頃。
マリーベル=メル=ブリタニア………当時の私は念願叶って対テロ組織への騎士団を創設し、世界の平和の為に様々なテロ組織と戦ってきた。
何度も死線を潜り、時には追い詰められた時もあった。我がグリンダ騎士団の筆頭騎士であるオルドリンにそっくりの少年と戦場で出会したりと、様々な経験を重ねてグリンダ騎士団は一つの家族のようにその絆を強く固く結び付かせ、強固な戦闘集団へと成長を遂げた。
そしてそんな折り、国連からの要請でブリタニア帝国はある作戦参加をする事になった。破界事変の頃より出現し、その強大なる力で人々を恐怖の底へ叩き込んだ存在。
それは嘗てのインペリウム帝国や当時のインサラウム王国よりも危険視されていた存在、魔神グランゾンとそれを操る魔人蒼のカリスマの討伐。
慢心など無かった。油断も、増長などする筈がなかった。蒼のカリスマは当時から世界を相手取っている地球最強の個人と恐れられ、その実力はブリタニア帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズにも引けを取らないとされている。
故に、世界は当時の半分の大戦力を以て奴を撃滅せんとした。激しい戦いになるのは容易く想像できて、死闘になるのも簡単に予見できた。もしかしたら私達の誰かが帰らぬ人になるのではないかと、皆、強がっていながらも何処か内心緊張していた。
そして、奴を誘き出す為に当時復興途中だったリモネシアを焼き払った。この頃の私はテロリストを全て消す為にどんな手段も厭わず、肯定としていたから、然程気に病んだりはせず、寧ろ何故リモネシアの住民を避難させなければならないのか理解出来なかった程だ。
嘗てのリモネシアの実質的支配者、シオニー=レジスは故郷を使ってあのガイオウを召喚し、後のインペリウム帝国として世界を震撼させた。WLFとも繋がりがあったようだし、そんな国など戦略兵器であるメメントモリで諸とも消し飛ばせばいいとすら考えた。
そして、リモネシアを焼き討ちして半ば疑っていた私の疑念は確信へと変わった。グランゾンは、蒼のカリスマはリモネシアと何かしらの関わりがあると。
全てのテロリストは絶滅させる。今は蒼のカリスマを、そして次はZEXISに所属している黒の騎士団を打ち倒す。士気を向上させ、当時のラウンズと共にグランゾンへ吶喊した私達は………。
その日、隔絶された力の差を思い知らされた。
『マリー、マリー! そっちは大丈夫!? 返事をして!』
『あ、あぁ……』
戦艦が燃えている。機体が、世界を守護する名だたる兵士の愛機達が為す術なく地に崩れ落ちていく。アロウズの精鋭も、ブリタニア最強の騎士であるラウンズも、グリンダ騎士団の旗艦であるグランベリーも、私の精鋭騎士達も、皆、等しく破壊されている。
燃え上がる炎の海を見下ろす影、それは自分達が倒すと決めた世界最強の魔神………グランゾン。その肢体には傷一無く、戦略兵器を受けて尚平然としていた。
そんな奴が私達を見下ろしている。地に這いつくばる虫達を見るように、その目は何処までも冷たく機械的だった。
嗚呼そうか、奴にとって所詮私達は殺す価値もない雑兵だったのか。どれだけ私が憎悪を滾らせても、どれだけ憎しみに身を焦がしても、コイツに届くことはあり得ないのだと。私を、騎士達を殺さないで見下ろしているのが何よりの証拠。
この日、私の心は折れてしまった。どれだけ殺意と怒りと憎しみに囚われても、勝てない相手はいる。今は皆のお陰で幾分か立ち直ってはいるけれど、私の心の内には今もあの魔神の姿がこびり付いている。
そして、この日を境にブリタニアは衰退の一途を辿ることになる。幸運だったのは、当時から国連に在籍していた私達が、祖国からの非難の的にならなかった事だけ。
その後、ブリタニアの代表シュナイゼル=エル=ブリタニアが起こしたエリア11でのグランゾンとの戦いを契機に、ブリタニアの貴族制度は完全に撤廃。ブリタニアという巨大国家は、たった一人と一機に敗北したのだった。
◇
「マリー、朝だよ。そろそろ起きないとまたシュバルツァー戦略顧問に小言を言われるわよ?」
「………おはよう、オズ」
窓から差し込んでくる日差しと幼馴染みの声でグリンダ騎士団の団長、マリーベルは目を覚ます。寝ぼけ眼で声の方へ視線を向けると、微笑みを浮かべた幼馴染みの顔が視界一杯に映り込んでいた。
「大丈夫? やっぱり疲労はまだ取れていない感じ?」
「んーん、何とか平気。移動時間は結構あったし、それなりに眠れたから大丈夫よ。起こしてくれてありがとう。オズ」
心配そうに覗き込んでくる筆頭騎士に大丈夫と諭し、体を伸ばしながら起き上がるマリーベルは周囲を見渡しながら、改めて自分に置かれた状況を思い出す。
今、自分達はシュナイゼルの命令の下、彼の宗教への内部調査と摘発、可能であれば解体をすることを目的に、進路を新大陸へ向けて進行している。
自分達が乗っているのは再世戦争より破壊されたグランベリーを一新させ、先のサイデリアルとの戦いで傷付いたモノを更に改修させたもの。名付けるとすれば
着替えを済ませ、簡単な朝食も終わらせたマリーベルは筆頭騎士であるオルドリン=ジヴォンを従え、ブリッジへ訪れる。グリンダ騎士団の旗艦が有する戦闘航空艦ネオ・グランベリーのブリッジ、そこには自分を主として付き従う騎士達が姿勢を正し、綺麗な敬礼を行う姿が写し出されていた。
「おはようございますマリーベル団長、もう間もなく目的地であるカミナシティへ到着致します」
「了解しましたわ。ヨハン将軍、着陸の際の準備は?」
「滞りなく完了しております」
自分達の戦略顧問でありマリーベルに次いで作戦指揮の権限を持つヨハン=シュバルツァー、その丁寧な物腰から告げられる報告はマリーベルの問いに完全に応え、その用意の良さに満足したマリーベルは騎士達を見渡して口を開いた。
「全員、楽にして聞いてください。これより我が隊は新大陸の統治者であるロシウ大統領と謁見、その後街へと調査となります」
「新大陸か~、以前は暗黒大陸なんて呼ばれててちょっと怖い印象があったけど、大グレン団だっけ? あの人達の活躍を見るとそんな印象ふっとんじゃったよねー」
「賑やかな人達みたいだし、ソキア辺りは意気投合出来そうだよね」
「それよりも私、キヤルちゃんに会いた~い。何でもカミナシティのご当地アイドルって言うじゃない? 一度会ってみたいな~」
「それよりも俺はステーキ食いたいな。確か大グレン団の創設者であるカミナもお気に入りの店があるとか………」
「き、貴様等なぁ」
緊張感無く、観光気分で盛り上がる年若い騎士達に、年配者であるヨハンはその額に大きな青筋を浮かべる。そんな彼等を見てマリーベルも微笑ましく笑みを浮かべるが、そろそろ着陸の時間だ。準備を整え出発する用意をせよと指示を出し、グリンダ騎士団は彼の地へと降り立った。
広大な空港の来賓用の発着場へと降り立つネオ・グランベリー、専用の搬入口を開いて備え付けの軍用車へと乗り込み、外へ出ると雄壮な新大陸の大地が彼女達を出迎えた。
「ふわぁー、グランベリーから見ていたけどやっぱり広いわねー新大陸って」
「次元境界線の影響で一時期は外界と隔離されたらしいけど、たった十数年で此処まで発展出来るモノなのか」
空港から出て、そのままカミナシティへとやって来たマリーベル達。新大陸の大地の広さと人が生み出した文明の発展の高さに驚いていると、瞬く間にカミナシティの心臓部、新政府の総督府へと辿り着く。出入り口で待っていたのは大統領の秘書とされるメガネの似合う女性、キノンと名乗る彼女に案内されたのは来賓用の客室だった。
そこで待っていたのは白い白衣に似た意匠の服を身に纏う男性、カミナシティと新大陸を統治するトップ、ロシウ大統領と彼の護衛である獣人と思われる男性がいた。
「ようこそお越しくださいました。グリンダ騎士団の皆さん、そしてマリーベル騎士団長殿。此度の来訪、カミナシティの代表として嬉しく思います」
「ありがとうございます」
「本来なら空港までお迎えに上がりたかったのですが、何分サイデリアルとの戦いの事後処理が終わっていないので、こんな形になってしまいました。申し訳ありません」
「どうかお気になさらないで下さい。その件については此方も重々承知の上でしたので」
「そう言ってくださると此方としても有り難いです。それでは此方へ」
ロシウ大統領に促され、用意された席に座るマリーベル達。向かい側にはロシウが座り、彼の側には護衛の獣人が控えるようにロシウの背後へ立つ。
「それでは早速ですが、調査の前に話を聞かせて頂いても宜しいですか? 件の宗教団体について」
「はい。勿論です」
その後、ロシウから聞かされる蒼神教なる宗教団体の話は何れも逸脱した内容はなく、宗教としての在り方は大人しく、つい最近までは街のゴミ掃除を行うボランティア活動をしたり、慈善団体の面が強く出ていてカミナシティの住民たちも然程気にしてはおらず、政府も静観を保っていた。
「しかし、ある日を境に彼の宗教は変わってしまった。これ迄隣人を思いやる人達だったのに突然乱暴な宗教勧誘までするようになってしまった」
「ある日を境に……ですか? もしかしてそれは」
「Z-BLUEが地球皇国軍───いえ、サイデリアルに打ち勝った日です」
「………失礼ですが、その日に何か異変があったりは」
「……実は一つだけ、気になる点があるんです」
サイデリアルの首魁、皇帝アウストラリスこと次元将ヴィルダークの討伐、その表向きはZ-BLUEの手によって為されたと報じられている。当然ながらその一報は新大陸にまで伝わり、解放された地球に当時のロシウ達もまたその話に大いに沸き立ち、喜んだ。
それ以前に、バルビエルの齎したスフィアの力によって感情を支配されていた人々が解放された事もあり、当時のカミナシティは安堵に包まれていた。バルビエルの被害にあった人達の多さから、見舞いに病院に駆け込む人々がいたのも事実で、その時国境の見回りに配備された者もまたいた。
流石に国境の見回りに配備された兵士を長時間持ち場を離れされるわけには行かない。当時は交代制を通常より多くして人数の配備も多くしたのだが………やはり、万全な警備体制には至らなかった。
「これは当時の国境付近に付けた監視カメラからの映像です。薄暗く判別は難しいですが、ここに複数の人間が侵入している様子が映し出されています」
テーブルから表示されるモニター、そこには暗闇の中で蠢く複数の影が見て執れる。その動きは素人のソレではなく、訓練された熟練の傭兵を想起させる。
そして、このモニターに写る侵入者がこの国に来てから蒼神教はおかしくなった。慈善活動に精を出し、良き隣人であろうとした彼等が、まるで盗賊の様に乱暴になってしまった。
「我々はこの者達を蒼神教に良からぬ知恵を吹き込んだ首謀者達の手先と考えています」
「手先。ではロシウ大統領はまだこの件に黒幕が存在すると?」
「恐らくは。そしてそれを立証させる為には蒼神教に接触し、潜入、調査をする必要があります。本来ならばこの国で起きた問題は我々が対処するべきなのですが………」
するべきこともやるべきことも全て分かっていて、なのに何もできない。先のサイデリアルとの決戦で多くの国が力を失っている。ロシウが治める国もその一つ、唯でさえバルビエルの所為で戦力を枯渇している自分達では満足に調査をする事もままならないし、かといって
「地球の命運が刻々と迫る中、皆さんに頼ってしまうのは心苦しいのですが、何卒事態終息の為に力を貸してください」
頭を下げて頼み込むロシウにマリーベルはフッと微笑みを浮かべ。
「勿論です。その為に我々は来たのですから」
◇
「さて、これで全員支度は完了したわね?」
ロシウ大統領協力の下で用意されたホテルへ案内されたマリーベル達は、カミナシティの市井に馴染むべく、私服へと着替えてロビーに集合している。
蒼神教の内情を知るため潜入捜査を試みるには年若い男女がよく勧誘されていると聞く、その情報に肖り出来るだけ違和感無く私服を着る彼女達は、年相応の少年少女のように見えた。
「さて、一応潜入捜査って体で動くわけだけど………何処から行きましょうか?」
「やっぱり、ここは路地裏からでは? 薄暗いところは反社会勢力の温床になりがちですからね」
「なら、カミナシティの路地裏には先ずは僕とレオンハルトが行くとしよう。オズもこの場は普通の女性として振る舞ってね」
「あらティンクさん、私達をそこらのお嬢様と一緒にするのかしら?」
「いや、此処ではそうして貰わないと困るから。今言ったばかりだよね? これ、潜入捜査だから」
「うぐ、わ、分かってるわよ」
「ホントに~? ヨハン戦術顧問が後方の待機組みだからって浮かれてたりしない~?」
「そ、そんな訳ないでしょう!?」
「お嬢様、声、声が大きいです」
早速騒がしくなる我が騎士団達にマリーベルは呆れると同時に頼もしくあった。破界事変から続く戦争、その激しくも苦しい戦いの日々も、サイデリアルとの戦いを経て一つの区切りを迎えることが出来た。
経験も重ね、騎士としても人としても強くなれたと自負している。だからだろうか、今回の司令を受理してマリーベルは思う、あの時と違う今の自分達なら、何処まであの魔神に食らい付けるのだろうと。
「しかし、蒼神教か。その宗教を仮に叩いたとして、あの蒼のカリスマが出てくるんだろうか」
「…………」
蒼のカリスマ、その名前を出した途端に、マリーベル達の空気は一気に重く苦しくなっていく。思い浮かぶのはリモネシアで起きた惨劇、世界の半分の戦力をたった一機で叩き潰した規格外の魔神。そんな相手と再び戦うかもしれない、確かにあの頃より自分達は強くなった。機体もあの頃より改修され、性能も劇的に向上している。もし今の自分達ならばあの頃のグランゾンにも一矢報いる事が出来るかもしれない。
しかし、いざ奴を前にした時、自分達は果たして動けるのか。恐怖に負け、身動き一つ取れなくなるのではないか。相手は世界すら相手取る最強の個、奴に付けられた恐怖と言う名の疵は、今も彼女達の内に刻み込まれている。
「大丈夫よ。そうなったとき蒼のカリスマはこの私が相手にするから!」
「オズ……」
「確かに、グランゾンは強大よ。それは私にも分かる。唯でさえ怪物なアイツが更にその上があると知った時は思わず泣きたくなったもの。でも、それでも私は戦うのを諦めたりしない! だって私はマリーの騎士なんだもの!」
強がりなのは分かっていた。不安に思い、恐怖に震えるのはオルドリンも同じ。それでも戦うと高らかに謳う彼女に、マリーベル達を包んでいた重苦しい空気は一瞬にして散っていった。
「それに、何もグランゾンと馬鹿正直に戦う必要はないのよ。相手がグランゾンを出してくるならそうする前に蒼のカリスマ本人をふん縛ってやればいいのよ!」
「た、確かにそれはそれで正攻法かも知らないけど」
「オズ、ちょっとセコい」
「いや、いい案じゃないかな。少なくともグランゾンと正面から戦うよりは余程勝率がある。まぁ相手もそれなりに腕は立つだろうけど、魔神そのものと相手するよりは全然気が楽さ」
「それにこっちには筆頭騎士と肉体派の団長もいる。案外いけるんじゃないか!?」
「フフフ、レオンハルト。それはどういう意味かしら?」
「ヒッ、い、いえ特に変な意味では………」
嗚呼、やはり彼女は私の騎士だ。あの魔神を相手にしなければならないという不安を彼女は一声で霧散させてしまった。オルドリン=ジヴォン、彼女とならばきっとこれから待ち受ける困難にも立ち向かえる筈。そうだ。私達ならばきっと成し遂げられる。こんな事で歩みを止める訳には行かない。
蒼のカリスマ、グランゾン、何するものぞ。極東の島国こと日本では大和魂なる精神論があるとされているが………成る程、指揮を高めるにはこう言った空元気もバカに出来ないモノだ。
「さて、それじゃあ先ずは僕達が先行するよ。適当な路地裏や酒場に入って情報を仕入れてくる」
「オズとソキアは団長達をお願い。一時間後、近くの喫茶店で落ち合おう」
「えぇ、お願い。それじゃあ───」
簡単な話し合いも終わり、一旦解散する一同。男子組の二人がそれぞれのやり方で情報を得ようと街に溶け込んでいくのを見送った後、オルドリンは主君であるマリーベルと従者であるトト、同僚のソキアに向き直る。
「さて、それじゃあ私達も行こっか」
「とは言え、有力そうな候補は既に二人が向かっているから、私達が出来そうなのは街の人達から話を聞くことくらいだけど」
「余り派手に動くと蒼神教の信者に勘づかれるかもしれません」
「そう? 寧ろ相手からすれば自分達に入りそうな人間がやって来たって思われそうじゃない? ホラ、団長もオズも見掛けはお嬢様だから」
「成る程、そう言う見方も………て、それどういう意味よソキア!」
「これは少々、お仕置きが必要かしらね?」
「ヒェッ、トト~、二人を止めてー!」
「自業自得かと」
取り敢えず自分達も街の人達から話を聞いて少しでも有益な情報を聞き出そう。その際にソキアから余計な茶々が入ったが、それすらも街に溶け込む為の要因となし、カミナシティに観光に来た一般人を装う事に成功した二人は早速街中を探索しようと足を進めた時。
「お嬢さん達、蒼神教に興味があるのかい?」
「「「っ!?」」」
ソイツは唐突に現れた。物腰や口調、言動から街のチンピラと思われるその男は値踏みをするようにオルドリン達を見ると、その笑みを一層深くさせ、彼女達にすり寄ってくる。
「貴方、蒼神教の信者の人?」
「あぁそうさ。俺達は魔人蒼のカリスマ様の在り方に感動し感嘆した蒼神教の信者さ。良いぜぇ蒼神教は、今はまだ鳴りを潜めているがその内デケェ花火を上げる予定だ。一山当てたいって言うのなら、俺から幹部の人に話を通してやってもいいぜ?」
(花火?)
「貴方にそれほどの権限が? 申し訳ないけど信用できないわ」
早速蒼神教の信者と思われる人物と遭遇し、且つ有益な情報を得ることが出来た。蒼神教は何かを企んでいる。それが知れただけでも僥倖だが、今はこれ以上踏み込むかは図りかねる。情報を引き出す序でに逃げ道を確保しようとするオルドリンだが、信者の男はそれに介さず話を続ける。
「ケケケ、警戒心が強いお嬢さんだ。まぁ取り敢えずこれでも読んでみな。多少は為になるからよ」
「何これ? 蒼神教自由への教え?」
「そう、抑圧された人の欲望や野心を上手く解放させる教典さ。ソイツを読んで少しでも興味があったら───」
「おい、何時まで話し込んでやがるんだ! いい加減終わらせろ!!」
「あ、おい!」
怪しげな信者から渡される一冊の本、それを訝しげに思いながら受けとると男の後ろから見上げるほどに巨大で屈強そうな男が突然割って入ってきた。
「なにこの人、デッカ!?」
「な、何ですか貴方は!」
「ハッ! どいつもこいつも育ちの良さそうなお嬢様ばかりだぜ! これなら幹部の連中だけでなく俺達にもお零れが貰えそうだぜ!」
「っ! それは、どういう意味だ!」
巨漢の男の言い方ではまるで既に犠牲者がいるような口振りに、オルドリンの怒りのボルテージは急激に上昇していく。ただ、男の出番は信者の男にも予想外だったのか、その表情は苦虫を噛んだように渋い。
「おい、こんな街のど真ん中で騒ぎを起こす気か!」
「構うことはねぇよ。俺達はあの蒼のカリスマの一派だぜ? 相手が大グレン団だろうと国連だろうと怖いものはねぇよ」
「───愚物が」
「あん?」
「下がりなさい下郎! 貴様のような輩が私達に気安く触れるな!」
「っ、テメェ!」
下卑た笑みを浮かべて尚且つ不快な言動をする男への牽制、その堂々たる佇まいはまさに騎士。貴族制度は廃止され、マリーベルとオルドリンの間に嘗ての主従という関係は最早存在しない。けれど、オルドリンは誓った。自分がマリーベルの剣であり騎士になると、その決意は今も変わらず彼女の中で生き続けている。
しかし、挑発を受けた男にそれを解する頭はない。触れるなと一喝され、生意気な女としか見ていない男に最早制止の言葉は届かない。振り抜かれた拳、大きさも重さも並みの成人男性をゆうに越えているその大きさにオルドリンは正面から受け止めようとして───。
「あ、危なーーい! ブベラッ!?」
それを突然現れた第三者によって防がれる。振り抜かれた男の拳を身を呈して防ごうとしたのはメガネを掛けた男性、身体全身を使って防ごうとしたその男性は男の拳をマトモに受けて吹き飛び、近くにあったごみ捨て場へと直撃する。
「ちょ、あの人10メートルは吹き飛んだよ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あいたた、ごみ袋が無ければ即死だった」
ゴミまみれになりながらも立ち上がるメガネの男性、その様子から特に怪我は無さそうだが、自分の攻撃を防がれたことに猛る大男の怒りの矛先がメガネの男性に向けられる。
「テメェ、なにいきなり人の邪魔をしてくれてんだ。あぁ!?」
「い、いや。流石にこの往来で女性に絡むのはいかがなものかなと思って………わ、悪気は無かったんだ。ぼ、暴力反対!」
「この野郎、ふざけやがって!」
「そこまでだ」
胸倉を掴み、無抵抗の相手を殴ろうとする大男に待ったの声が掛かる。何処までも響き渡る覇気のある声に一同が振り返ると、其処にはロシウとの会談で見た側近の獣人が部下を引き連れて此方に歩み寄っていた。
「あ、あの人は!」
「ゲェッ!? ヴ、ヴィラル!?」
オルドリン達よりも大きなリアクションを見せるのは大男達の方だった。
「一般市民への暴行、及び宗教への強制的な勧誘、何れも現行犯だ。最早言い逃れは出来んぞ」
「い、いやだなぁヴィラルの旦那。俺達は別にそんなんじゃ………」
「聞こえなかったのか? 言い逃れは出来んと言ったぞ」
手を擦り、胡麻を擦ってくる信者をヴィラルはただ一言で両断する。既に二人にはヴィラルの部下達が囲んでおり、その挙動を厳しく監視している。最早彼等に出来る選択肢は少ない、しかしそんな事は認めないと、大男はメガネの男性を放り投げてヴィラルに殴り掛かる。
「ふ、ふざけるな! 俺達は無敵の蒼神教だ! たかが獣人に言いようにされてたまるか!」
「獣人如き……か。言ってくれる」
振り抜かれた拳、人一人訳もなく吹き飛ばせるその拳をヴィラルは難なく片手で防いで見せる。とんでもない膂力、Z-BLUEの一員でもある彼の実力の一端を目撃したマリーベル達は彼の強さに目を見開いた。
「なっ、て、テメェ!?」
「フンッ」
自分の自慢の一撃を簡単に受け止められた事に驚愕する大男、そんな大男の反応すらヴィラルは気にも留めず、鎧袖一触とばかりに返しの拳を大男の脇腹にめり込ませる。その痛みと衝撃に耐えきれなかった大男は白目を剥いて崩れ落ちた。
「連行してくれ。そっちのお前もだ。無闇に抵抗すれば痛い目に合うぞ」
「く、くそったれ」
その後、勧誘しに来た男達を瞬く間に捕らえて連行していく部下達を見送り、ヴィラルはマリーベル達に向き直る。
「来て早々大変だったな」
「い、いいえ! 此方こそ!」
「お手数お掛けして申し訳ありません!」
「気にするな。今回の奴等は俺達から見ても予想外だった。連中、どうやら形振り構わなくなってるようだ。気を付けろよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「あと、それと一つお願いが……」
「そこで伸びてる奴なら俺が介抱しておく」
大男に投げ飛ばされ、目を回している男性を介抱すると言われ、安心したオルドリンはマリーベル達と共に今度こそその場を後にする。
どんどんその背中は小さくなり、遂には見えなくなった彼女達を確認すると、ヴィラルは一度呆れた様に溜め息を溢し……。
「行ったぞ」
その一言を呟くと、今まで気を失っていた筈の男性は、目をパチクリと開けて立ち上がる。
「よっと、ありがとうございますヴィラルさん。態々こんな茶番に付き合ってくれて」
「別にいい。件の信者達を捕らえられたしな。これくらいはどうという事はない」
「そう言って下さると此方も有難い。それで、どうでしたか? 貴方から見て彼女達は」
「………恐らく、お前の助っ人として来ている訳では無さそうだ。あくまでも自分達が調査にきたという体で調査に向かっている」
「マジか。シュナイゼルの奴、なにやってんだ。こう言うのは報連相が大事だってアイツだって分かってる筈なのに」
「恐らく、面子の問題なのだろうな。資料で見たが、アイツ等は先の戦いでお前とグランゾンにこっ酷くやられた様だ。そんな奴と協力しろと言われて直ぐに順応は出来ないだろうよ」
(いや、あの事件は厳密に言えば俺がやらかしたんじゃないんだけどなぁ)
現在蒼の地球に伝わっている魔神激昂事件。その首謀者は蒼のカリスマことシュウジではなく、彼を通して現れたシュウの仕業であるのだが、それを知るものはZ-BLUEしかいない。
シュウジからすれば風評被害の様なもの、しかしだからと言って彼女達を放っておく訳にもいかない。罅割れたメガネを外し、スペアのメガネを掛けるとシュウジはヴィラルに背を向けて歩き始める。
「じゃあ、ここからは俺も調査に乗り出すよ。二、三日すれば事態は動くと思うから、そうなったときの対処はそちらにお願いするよ」
「了解した。………因みに、ヨーコ達への連絡は?」
「絶対にやめてね」
シュウジの声はどこか震えていて、その返しはまるで命乞いの様だった。そんな遣り取りの後、シュウジはその場から去っていく。相変わらず神出鬼没な奴、そう思いながらヴィラルはシュウジの背中を見送り。
ふと、思い出した様に懐から一本の通信端末を取り出し。
「あ、もしもし。ヴィラルです。其方にヨマコ先生はいらっしゃいますか?」
速攻で裏切るのでした。
(済まないなシュウジ=シラカワ、恨むのなら碌に説明しないで姿を眩ました自分を恨め)
そう言って両手を合わすヴィラル。その背中は何処と無く哀愁が漂っていたのだとか。
Q.現在のグランゾンの情報はどの程度知られているの?
A.ネオまでです。
Q.ボッチ自身の戦闘力はどの程度に思われてるの?
A.ナイトオブワンと同格かそれ以上、下手をしたらかの閃光のマリアンヌ並みかとマリーベル達は予想しています。
Q.今作のマリーベルはスペインを統治してないの?
A.インペリウムやインサラウム、他にも地球外から押し寄せてくる敵に対処するばかりでそれ処ではありませんでした。しかもV.V.は既に死亡している為、トトも生存しています。
Q.マリーベルに掛けられたギアスはどうなってるの?
A.某忠義の人がギアスから解放し、その時の記憶も取り戻して一時は錯乱状態になりましたが、オズちゃんのお陰で持ち直しました。
Q.ボッチに対しての感情は?
A.憎さ二割恐怖四割トラウマ四割になってます。
尚、今蒼のカリスマと遭遇するとブロッコリーを前にしたベジタブルみたいになるかもです。(笑)
今後もこのような注意書を追記していくかもですが、余り難しく読んで下さると幸いです。
それでは次回もまた見てボッチノシ