『G』の日記   作:アゴン

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今回、皆大好きアイツが再び。


その216

 

 

 

『何故ですシュナイゼルお兄様! どうして私達に進軍の随伴を許してくれないのです!』

 

それは再世戦争の頃、エリア11でシュナイゼルが反旗を起こした時。揺れ動く国連に変わり、ブリタニアの力を世界中に示そうとした決戦の時。

 

リモネシアでの一件でブリタニアの権威は地に落ちようとしている。それを少しでも払拭する為に私達グリンダ騎士団もその列に参加しようと、当時のブリタニアの宰相である第二皇子、シュナイゼルお兄様に嘆願した。

 

しかし、帰ってきた返答は拒絶の一言。何故、どうしてと訊ねる私にお兄様は淡々と答えた。整えられた軍備、用意できた戦力、外部からの助力、持てる手段を全てを打ち、これ以上は蛇足だと言う兄にそれでも私は納得できず、食い下がった。

 

『私達はブリタニアの剣です! 祖国ブリタニアの為に奮われる一振りの剣! 国の権威が懸かっている戦場なのに何故私達が参加出来ないのですか!?』

 

『違うな。それは間違っているよマリーベル、君達はテロリストから人々を守る盾であり剣だ。剣なき人々の為にその刃を奮う事を許された義憤の剣、祖国の権威を示すための暴力装置ではない』

 

『ですが! あの魔神と、グランゾンと戦うには些か以上に不安が残ります。それはシュナイゼルお兄様も重々承知の筈です!』

 

『──ほう?』

 

当時、未だ誰にも知られていなかった筈の蒼のカリスマとグランゾンとの戦闘。彼を、蒼のカリスマと戦うつもりでいたのはシュナイゼルお兄様を含めた数人のラウンズ達だけ、誰にも知られることのない情報を私が知っていた事にお兄様の目は僅かに見開かれた。

 

『どこでその情報を得たのか、それを問い質すのは止めておこう。君がその戦いに参加したいのは偏に彼にリベンジする為かい』

 

『最早誤魔化そうとは思いません。開き直るようで申し訳ありませんが、我々グリンダ騎士団はテロリストを討ち滅ぼす剣! ならば、世界の最大の脅威であるグランゾンを打ち破るのは我等が果たすべき使命! 故にお兄様、お兄様の戦列に我等グリンダ騎士団も参加させて下さい』

 

『………気持ちは嬉しいけど、やっぱり止めておくよ』

 

『な、何故ですか!』

 

『剣や槍は折れればまた打ち直し、鍛え直せばいい。けれど人はそう簡単には直らないものなのだよ』

 

『お兄様?』

 

『マリーベル。震えているよ』

 

『っ!?』

 

言われて、自分がどれだけ震えていた事か漸く認識できた。私の手足はまるで生まれたての小鹿の様に震えている。必死に生にしがみつくように、みっともなくブルブルと震えさせている。

 

何故? 決まっている。恐怖しているからだ。蒼のカリスマと言う一人の男が齎した圧倒的力に、私と言う女は心の底から恐怖していた。魂魄にまで染み付いた感情は簡単に抜け落ちる事はない、それを見越した上でシュナイゼルお兄様は私の戦闘の参加要請を受け取ろうとはしなかった。

 

『恐怖に囚われた人間を戦地に送り込むほど、私は酔狂ではないよ。マリーベル、君の力と威信は此処で示すべきではない』

 

私は、蒼のカリスマに怯えている。それを指摘された私はシュナイゼルお兄様の言葉をはね除ける事は出来ず、ダモクレスが落とされるその時まで遠巻きで見学している事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリー、マリーってば!」

 

「っ! ………あ」

 

「さっきから呼んでたけど………大丈夫? 顔色、悪いわよ」

 

自分を呼ぶ声で我に返ったマリーベルが辺りを見渡すと、自分を中心に騎士の皆が心配そうに見つめてくるのが分かった。そうだ。ある程度情報を集めた自分達は近くの喫茶店に集合したのだと思い出したマリーベルは、バツが悪そうに咳払いをする。

 

「ンン、ご免なさい皆、少々ボーッとしてたみたい」

 

「もう、気を付けないとダメじゃないマリー。私達の団長なんだからしっかり気を引き締めないと………」

 

「それオズが言う~? さっきまでお店のメニュー表をガン見してた癖に~」

 

「ち、違うわよソキア! 私は別にブタもぐらのステーキに興味がある訳じゃないのよ!?」

 

「誰も聞いていないのに自爆していくスタイル。流石オズ」

 

ソキアとティンクの指摘に耳まで真っ赤にさせるオルドリン、敢えて愉快に振る舞う仲間達を嬉しく思いながら、マリーベルは改めて話を進めるように促した。

 

「では、これ迄集めた情報を照らし合わせて見ましょう。先ずはレオンハルトからお願いします」

 

「ハッ、路地裏に住まうチンピラ達の話によりますと、蒼のカリスマの宗教が誕生したのはサイデリアルとの戦いが終局に向い始めた頃とされており、当時はボランティアを中心とした良識ある集団だったようです」

 

「ロシウ大統領の話とも差異はありませんね」

 

「えぇ、ですがサイデリアルとの戦争が終結した後、その在り方は加速的に歪んでいったそうです」

 

「これまでボランティアに精を出していた集団がお布施と称して金銭を荒稼ぎしたり、時には乱暴したりなどトラブルが絶えなくなっているそうです」

 

レオンハルトとティンクからの報告に事態は少しずつ不味い方向に進んでいる事をマリーベルは予見する。このまま蒼のカリスマの一派が悪化すれば、何れは世界をも脅かす惨事になりかねないと。

 

「しかも………これは、あくまで噂なのですが」

 

「レオンハルト?」

 

「何でも、蒼神教にはKMFやASに酷似した機影が複数目撃されているようです」

 

「なんですって?」

 

更に告げられるレオンハルトからの報告に、マリーベルだけでなくオルドリンも息を呑んだ。新大陸に於ける主戦力は主にガンメンであり、あとは国連から借り受けた数体のMS位とされている。KMFとASは基本的に使用されず、その機体が新大陸で目撃されることは殆んどない。

 

そんな機体を新大陸の、しかも蒼神教が有している。単なる噂でしかないし、情報が裏付けされたわけではない、そもそも見間違いの可能性すらある話だ。だがマリーベルにはそうは思えず、彼女が抱える嫌な予感はより一層膨れ上がっていった。

 

「………KMFにASか、一気に穏やかじゃなくなったね」

 

「でも、それ本当なの? いや、仮に本当だとしても一体何処からその機体を持ち込んだのよ? それに資金源だって……」

 

「───トト」

 

「はい」

 

「貴方はこれから大統領府に戻りロシウ大統領にこの事を伝え、念の為に武力介入の為の許可を貰ってきて頂戴」

 

「了解です」

 

噂が本当なら、近い内に新大陸で大きな戦闘が始まる可能性がある。蒼神教に運ばれている様々な機体、先に出会った宗教勧誘の男が溢した“デカイ花火”という単語(ワード)、これらを組み合わせると碌でもない結論が嫌でもマリーベル達の脳裏に浮かんでくる。

 

「………未だ可能性の域は出ませんが、それでもこの街が危機に瀕しているのは事実、剣なき人々の為に我等が立ち止まる訳には参りません」

 

「そうね。その為の私達だものね」

 

「蒼のカリスマ一派との衝突かー。ま、腹を括るしかないかにゃ」

 

蒼のカリスマとグランゾン、奴等と再び戦うかもしれない。その恐怖に抗いながらもグリンダ騎士団は立ち上がる事を決めた。ならば、団長である自分が立ち止まる事は許されない。

 

「あの勧誘者には感謝しなければなりませんね。彼のお陰で私達の捜査は次の段階へ進めるのですから」

 

「マリー、それじゃあ」

 

「これより、グリンダ騎士団は蒼神教の拠点へ潜入。調査を行います。皆、準備は宜しいですね」

 

「「「イエス・ユアハイネス!」」」

 

ブリタニアの貴族制度が失われ、久しく聞いていなかった言葉。もう自分は皇族ではないのに、それでもそう呼んでくれる彼女達にマリーベルは内心感謝した。

 

目指すは蒼のカリスマの本拠地、勧誘してきた男が渡してきた蒼神教の教典にはその居場所が書かれていた。当然、罠である可能性は高い。

 

それでも、彼女達は進む。全てはあの日打ち拉がれた自分達を乗り越える為に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カミナシティから少し離れた荒野にある古ぼけた洞窟、その中でパソコンを弄り情報収集に当たっていたズィー=ディエンは唐突に届いてきたメールを開き、その内容にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「オズ、イクスから連絡が来た。どうやらお前のお姉さんも新大陸に来ているらしいぜ」

 

「なに? ………いや、成る程な。確かあの部隊だけ意図的に他の基地から外されていたな。恐らく、シュナイゼル辺りの差し金だろう。あとズィー、俺が兄でアイツが妹な」

 

「拘るねぇ。で? どうする? 合流するか?」

 

「その必要は無いだろう。俺達も奴等も今回はあくまで蒼神教の調査だ。変に顔を合わせればややこしくなる」

 

「素直に顔を合わせるのは恥ずかしいって、何で言えんのかねコイツは」

 

「噛み砕くぞ?」

 

冗談混じりのやり取りを交わす二人、彼等もまたこの多次元世界にて多くの経験と修羅場を潜り抜けてきた戦士で、嘗てはテロリストとして知られてきた者達。グリンダ騎士団とはその際に幾度となく激突し、殺し合いを繰り広げてきた間柄だ。

 

オルドリンとオルフェウス、嘗てブリタニアに存在した忌むべき風習によって引き裂かれた双子の姉弟は、一人の魔法使いの奮闘のお陰で、再世戦争の終盤にはどうにかその仲を取り持つ事が出来た。

 

時獄戦役でも共闘する事が多くなり、今ではグリンダ騎士団の幻のメンバーとして扱われていたりする。尚、今ではどちらが姉で兄なのかで争っており、その衝突はある意味敵対していた頃よりも激しくなっている。

 

機体の調整を行いながらズィーの冗談を流していると、話の流れは蒼神教の開祖である蒼のカリスマへと向けられる。

 

「しかし、何だって今さら宗教なんて起こしたんだ蒼のカリスマは? 裏でASやらKMFやら運んでいるし、これどう見ても戦争の準備をしているよな?」

 

「さぁな。巷では魔人なんて未だに恐れられている奴だ。その考えは俺達には計れんよ。いや、案外サイデリアルとの戦いで疲弊した地球を征服する為に本格的に動き出したのかもしれんな」

 

「それ、笑えないから止めてくれ。噂ではあの仮面野郎、とうとう空まで飛べるようになってるらしいぞ? 何でも生身で大気圏を離脱したり突入したり、腕の一振りで大陸を一つ破壊出来たりする! な~んて言われてるんだぞ?」

 

「いや、それは尾ひれが付きすぎだ。そんな人間いるわけないだろう」

 

「まぁ、俺もそう思うけどよ。そう噂が囁かれるほど強いって事なんだろ? 何れにせよ、万が一の時は覚悟しておいた方がいいぜ」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

万が一蒼神教に此方の事がバレ、蒼のカリスマと敵対した場合の事を考え、オズは気を引き締める。これから自分達が挑むのは世界最強の個が支配する土地、グリンダ騎士団に助けを求める訳にはいかない。そんなことしてしまえば彼女達に余計な負担を強いる事になってしまう。それだけは避けねばと気持ちを切り替えた時、洞窟内に緊急事態の報せ(アラーム)が鳴り響く。

 

「敵襲!」

 

いち早く反応したオルフェウスが己の愛機に乗り込み洞窟から飛び出していく。コックピットから視認出来る距離にまで迫るのは無数のミサイルの群れ、何故自分達の居場所が知られたのか、疑問を解消するよりも状況の打開を優先し、オルフェウスは愛機───白炎を駆る。

 

『薙ぎ払う!』

 

搭載された七式超電磁砲を展開し、ミサイルの群れに向けて発射。放たれる弾丸は周囲のミサイルを巻き込み、新大陸の空を広く照らしていく。

 

『正気かよ! 幾ら街から離れていてもミサイル群をいきなりぶっ放すかぁ!?』

 

『ズィー、無事か!』

 

『あぁ、何とかな!』

 

通信越しから聞こえてくる相方の無事にオルフェウスは安堵する。しかし、荒野の向こうから現れる三体の機影に彼の目線は自然と鋭くなる。

 

『───何者だ』

 

口から出るのは緊張と敵意に満ちた声、久し振りの緊迫した空気にオルフェウスは白炎を操り油断なく構えると。

 

『何だかんだと、ンン聞かれたら』

 

『あ、答えてあげるのが世の情けェ!』

 

『世界の崩壊を防ぐためン』

 

『世界の平和を守るためェ!』

 

『愛と真実の悪を貫く!』

 

『ラブリーでキュートな敵役ゥ!』

 

『ゲイツ!』

 

『ベルク!』

 

『銀河を駆ける蒼神教の二人には! そう!』

 

『ホワイトホール。白い明日が待ってるぜェ!』

 

ふざけた口上を口にしながら現れるのは、銀色のASと巨大な蠍を模した機体。間違いない、今のミサイル攻撃はコイツらが仕掛けたものだとオルフェウスは確信し。

 

そんなオルフェウスを他所に、二体は後ろに佇むもう一体のKMFに視線を向ける。何かを待っている風な二体に………。

 

『いや、僕はやらないからな!?』

 

両脇に盾を載せた機体からそんな困惑に満ちた少年の声が聞こえてきた。

 

 

 

 




本当は此処にアギャギャ笑いが似合う00世界の一方通行さんを呼ぼうとしたけど収拾が付かなくなるので却下。

今回、初めて主人公が一切出てこない話になりました。

次回は我等がモミアゲ様の活躍にご期待下さい(笑)

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