────ジルクスタン王国。
そこは新大陸から地続きで繋がっていた国、嘗てのE.U.や中華連邦よりも小国でリモネシアよりも資源に乏しいとされてきた国で国連に属さず、今日まで生き延びてきたかの国は通称“戦士の国”と称され、近隣諸国から畏怖と畏敬の念を集めていた。
ジルクスタン王国が最大の資源とされるものは───人間。即ち、兵士や傭兵として育てた彼等を最大の輸出品として各国に派遣し、其の際に生じる利益を国益として扱い、国の経済を支えてきた。
優秀な傭兵を生み、育んできた事で利益を得てきたジルクスタン、戦う事で国を潤し、戦う事で国を守ってきたその国にとって、今の地球の状況はお世辞にも良いとは言えなかった。
国の兵士を財産として扱う国にとって戦争こそが利益の源。内乱、紛争、戦いの種類に差別は無く、求めれば派遣するのがジルクスタン王国の在り方だった。インペリウム帝国が暴れた時も、インサラウム王国が侵略してきた時も、外宇宙からの侵略者が襲ってきた時も、サイデリアルがやって来た時も、
アマルガムという組織にもマーティアルという宗教にも、WLFというテロ組織にも、その思想や理想を問わずに多くの傭兵を送り、得られた財産を国益としてきた。ジルクスタンの黄金期、そう呼ばれる程に一時は国庫も潤い、この砂漠と荒野に覆われた国は栄えていった。
だが、今のジルクスタンに潤いを維持する力はもう残されてはいなかった。度重なる大戦に兵士達は減っていき、戦えるものが少なくなっていた。兵士が少なくなるということは国益に繋がる資源が失われていくという事、人の命と国の経済を直結していた為にジルクスタンの経済が傾き始めるのはそう遅くはならなかった。
加えて、昨今のサイデリアルを地球から追い出した事により現在の地球は嘗て無いほどの平穏が訪れ、ジルクスタンの兵達の活躍の場は一瞬にして消滅してしまった。
平和という世界に兵士達の居場所はない。故にジルクスタン王国の女王───シャムナは神殿に備えられた玉座にて使者として訪れた女性から告げられる話を棄却する。
「クドいぞ。アザディスタンの王女よ。私の意思に変わりはない。我々は国連に参加することは有り得ない」
「しかし、サイデリアルも地球から去った事で漸く人類は一つに纏まれるようになりました。外宇宙から訪れる災厄に備え、地球人類皆で生き残る為にもシャムナ様達にも協力して欲しいのです」
アザディスタンの王女にして国連大使の一人、マリナ＝イスマイールは鋭い眼光で此方を睨む女王を前に強がりながらも懸命に説得を試みていた。
蒼と翠、サイデリアルという脅威から解放された二つの地球は遂に手を取り合って外宇宙からの脅威に対応する事が可能となった。来るべき戦いに備えるため、人類最強戦力である彼等に万全な状態で送り出してやりたい為、各国に一致団結を呼び掛けて回っているのがリリーナやナナリー、そしてマリナと言った国連大使の役割だった。
これ迄多くの犠牲を出してきた。多くの血を流し、沢山の命が失われていった。悔やんでも悔やみきれない負の連鎖、その中で唯一得られた平穏の時間にマリナ達は今こそ地球人類の意思を一つに纏めようと各国に説得を試みていた。
国連に属しているか否かを問わず、全ての国を巡る勢いで諸国を巡っていたマリナだが、このジルクスタン王国で思わぬ返答に足を止めてしまう。
「それはお前達の都合だろう。我等ジルクスタン王国の民は建国の頃より誰の手も借りず、この国を守ってきた。他ならぬ自らの力と血と命でな」
確かに、人の自由意思を縛る権利は誰にもありはしない。人の数だけその人の考えがあり、在り方も主義も変わってくる。シャムナが力を貸せないと言うのなら、それを尊重するのがマリナのやり方だ。
ジルクスタン王国は戦いを基盤にしてきた国、戦いがあるから資金が潤い、争いがあるから経済が回る。自らの命と引き換えに利益を得る国。平和を説くリリーナ＝ピースクラフトやマリナ＝イスマイールとは対極に位置する在り方。
しかし、それでもマリナは退けなかった。シャムナの鋭い眼光を前に気丈さを失わずに佇む彼女は、ジルクスタン王国の女王を真っ直ぐに見つめながら言葉を投げる。
「争いが長引けば、それだけで多くの命が失われます。その時に犠牲となるのはなんの力もない子供やお年寄りばかり、争いばかりが人の在り方では無いはずです。この国の人達だって……！」
「知ったことを言ってくれるなマリナ＝イスマイール、アザディスタンが国連の旗下に降ったことで羽振りも良くなったか？ 持つものが持たざるものを諭すのは些か以上に刺激的だぞ？」
この国に入り、マリナは目を見張った。破界事変、再世戦争、そして時獄戦役と続いて起きてしまった数々の大戦。そんな激動の時代を自らの国力のみで乗りきったジルクスタンは、嘗ての力を大きく削げられていた。
このままではこの国の民が飢えてしまう。嘗て貧困に喘いでいた自国の様子を思い出し、アロウズによって焼かれた光景を想起したマリナはどうにかして国連に参加させるよう説得したかった。戦いの為に協力して欲しいのではなく、嘗ての自分と同じ目に合わせたくない一心で、マリナはシャムナに呼び掛け続ける。
下心もなく、純粋に此方を想っての言動。故にシャムナはマリナを無碍に扱おうとはしなかった。
「お帰り願おう。マリナ＝イスマイール殿、貴殿はもう、この国に来ない方がいい」
「シャムナ様！」
以降、シャムナが口を開くことはなかった。語るべき事は語り、これ以上交わす言葉は無いと未だ食い下がるマリナにシャムナは沈黙で返す。
既に交渉の余地は過ぎ去った。シャムナからの返答に俯くしかなかったマリナは退室の言葉を最後に玉座を後にする。
「………マリナ＝イスマイール、喩え世界に争いが無くなってもそれは所詮次の戦いの幕間に過ぎないのよ」
戦いから平和、そして平和からの革命は次の戦いへと続いていく。どんなに文明を発展させても人はこの螺旋のような
「戦いこそが人を導く。ねぇ、貴方もそう思うでしょ？ ────トレーズ」
「でも、私はその円舞曲から脱却して見せる。アマルガム、レナード＝テスタロッサは良いものを遺してくれた」
玉座から立ち上がり、予言の巫女は背後にある隠し通路へと足を進める。暗闇の向こうから見える光源はこのジルクスタンの希望を示唆しているかのようだ。
“TARTAROS”、棺のような形をしたそれは、嘗て新世界を生み出そうとした男が遺した異端技術の結晶。
「アザディスタンの様に世界に媚び諂う国やリモネシアの様な敗北の国とは違う。私達は私達が願う新世界へ向かうのよ」
喩えこの世界の人間全てが犠牲になろうとも、祖国と愛する弟の為にシャムナは己の道を進むと決めた。
「Cの世界、ギアス、TARTAROS、そして………時空振動、これ等全てを利用して創ってみせる。私達の楽園を！ それこそが蒼のカリスマへの恩返しなのだから！」
◇
「申し訳ありません二人とも、折角護衛の付き添いに来てくださったのにこんな結果になってしまって……」
来賓用に用意されたホテルの一室、良き返答を貰えなかった事に申し訳ないとマリナは同室している二人の付き人に頭を下げる。
「お気になさらないで下さいマリナ様」
「俺達が来ているのはアンタの護衛だ。そのアンタが無事でいることこそが俺たちにとっての最上の結果だ」
頭を下げるマリナに気にするなと諭すのはカトルとトロワの二名、サイデリアルとの戦いの後に自分達の出来ることは無いかと、来るべき戦いの前に暇を潰す意味を含めて二人は現在要人警護を担う仕事に就いていた。
「しかし、兵士が輸出品とはな」
「思えばこれ迄のテロリストや裏組織の戦闘員は時々独特な動きをしていましたね」
「強さ自体は然程ではないが、各々が様々な機体の操作を会得していると考えると、中々侮れん」
多元世界は様々な世界の技術と文明が入り交じった世界。似通った技術がある世界があれば全く異なる文明を築いた世界が入り交じる混沌とした世界だ。
その世界を代表する様々な兵器、MSやAS、ATやKMFなどガンメンを除いて、機体のサイズから形まで多くの機動兵器が存在するなかでジルクスタン王国の兵士は何れも特筆した強さは無いものの、全ての機体に乗り込んでも問題ないほどに洗練され、成熟されている。
主な兵力はKMFだが、それでも街の至るところにはMSやAS等の機体が見えている。節操がないと他国は口にするが、見方によっては各機体の短所と長所を熟知している様にも見える。
「ジルクスタン王国、これ迄の大戦で小国でありながら生き長らえたと言うのは誇張ではないらしいな」
兵力を国益にしているジルクスタン王国の執念にも似た何かを感じたトロワ。外から見える街の景色を目を細めてそう溢す彼の心境は付き合いの長いカトルにも計り知れない。
だが、共感できる部分もあった。この国は未だに戦いに縛られ続けている。このまま戦いを続ければいつか取り返しの付かない事になりかねないという事も。
しかし、どんなに憂いた所で自分達に出来るのも戦いだけ、ままならないなと溜め息を溢すカトルとトロワにもう一人の護衛者が部屋へ入ってくる。
「あ、五飛。帰ってきたんだ」
「街の様子はどうだった？」
「MSやKMFが跋扈している点以外では普通の街だな。物流もあるし、インフラも普通に機能している。だが、街を見回っていた途中、奇妙な宗教に誘われた」
「宗教？」
「あぁ、蒼神教と言うらしい。何でも、あの蒼のカリスマを崇めている宗教だとか」
「っ！？」
「なんだと？」
蒼神教、噂で聞いた宗教の影がこの国にまで及んでいる事実にカトル達は驚きを露にする。なんせあの蒼のカリスマが宗教として祭り上げられているのだ。この事を本人に知られたら、どう転んでも騒ぎは大きくなる。
「俺も、ナタクと共にこれから独自に調査に向かう事になる。ロシウ大統領にも話は通した。お前達にはマリナ＝イスマイールの護衛を引き続き頼みたいのだが……」
「───仕方ない。せめて報告だけは怠らないでくれよ」
「あと少しで刹那も来てくれるみたいだし、マリナ様の事は任せて！ 」
「あぁ、頼む」
ジルクスタン、新大陸、そして蒼神教、全ての中心点にはいつも蒼のカリスマが居座っている。事の真相を探るべく、五飛もまたカミナシティへと向かう。
そして、その中心人物はと言うと………。
「おら、ここで大人しくしていろ！」
「ぐっ」
「くそ、チクショウめが！」
薄暗い牢獄、傷を追い、乱雑に包帯を巻かれたオルフェウスとズィーは乱暴に扱われながら牢屋の中へと放り込まれる。
笑いながら立ち去っていく看守らしき男、忌々しく睨みながら見送る二人は早速これからの事について話し合う。
「済まないオズ、俺が足を引っ張ったばかりに……」
「気に病むなズィー、お前がいてもいなくても恐らく俺は捕まった。奴等め、まさかあれだけの力と兵を集めていたとは……！」
「ラムダ・ドライバ搭載機にナイト
「これはなんとしてもロシウ大統領に伝えなくてはならないな」
「折角訪れた平穏な世界、崩されてなるものか……つぅ！」
意を決してここからの脱出を試みる二人だが、体に刻まれた痛みがオルフェウス達の動きを鈍らせてしまう。そんな時だ。
「あの、今はあまり動かない方がいいんじゃ……」
「っ！」
「誰だ！」
怪我を追い、使命感に駆られて自分達以外の気配の索敵を怠ったオルフェウスは拳を握りしめて声の主を睨み付ける。幾ら体が痛んでも人一人くらい倒すことは出来る。恵まれた身体能力をフルに使おうとして……。
「あぁ待って待って！ 怪しいものではないよ！ 俺も偶然捕まっただけなんだ！ ぼ、暴力反対！」
その動きを止めた。何故なら、目の前にいる男はどう見ても普通の人間、それも何の力のない一般人にしか見えなかったのだから。
「………何者だ？」
「俺？ 俺の名前はシュウジ＝シラカワ、ごくごく普通の旅人さ」
蒼のカリスマ、その正体と本名は一部の政府役人とZ-BLUE以外知る者はいない。
Q.もしもボッチがゼロシステム搭載機に乗ったら？
A.以前なら兎も角今のボッチにはあまり意味がない模様 。
ボッチ「真っ直ぐいってぶん殴れば速くね？」
ゼロS「……………」
Q.ボッチの内心は刹那君知ってるの？
A.全く知りません。刹那君からしたらボッチはELS以上に未知なる存在です。
最初はギアス勢だけのつもりだったのにジルクスタン王国の成り立ちを書いたらW勢も出てきてしまった。
物語の展開は一応考えてますので、スパロボの醍醐味ということでご容赦ください。
それでは次回もまた見てボッチﾉｼ