───破界事変と再世戦争。立て続けに起こる大規模戦争の頃、僕達の国は一度滅びの危機を迎えようとしていた。
ジルクスタン王国の世界に誇れる唯一の輸出品は《兵士》、世界中のあらゆる軍隊、組織に雇われその報酬を国の経済として回してきた戦いの国。この国に生まれた人間にとって闘いこそが収入源となり、戦争こそが僕達の生きていられる場所だった。
戦い、殺し、殺され。そうすることで大国が集まる国連にも負けず、埋もれず、その日まで生きる事が出来ていた。
けど、そんな祖国にある日危機が訪れる。当時、破界の王を名乗るガイオウなる怪物が操る次元獣が、一斉にこの国に押し寄せてきたのだ。
勿論、僕達ジルクスタンの兵士達も次元獣に抗うために出撃、これを撃破しようとした。けれど、次元獣の強さを知らなかった僕達はこれに敗れ、軍隊を初めとした各機能が全て停止し、この時の僕は国と共に死ぬものだと覚悟していた。
コックピットからでも見える凶悪で醜悪な次元の獣の開かれる顎、これが自分の死に場所かと恐怖で覚悟が揺らぎ始めた時………それは現れた。
グランゾン。世界に多大なる影響を与えていた当時から囁かれる地球圏最強の魔神。それを操るのは後の最強のテロリスト、蒼のカリスマ。彼等が繰り出す光の槍はそこにいた全ての次元獣の体を貫き、鎧袖一触と言う風に掃討していった。
圧倒的。そうとしか言えないほどにグランゾンは強く、眩しかった。その有り様は物語に出てくる魔王の様で、とても禍々しく、それでいて堂々としていた。
子供ながらで、稚拙だけど、今でも僕は思っている。彼等の様になりたいと。強く、何処までも強い彼等の様にいつか自分もああなるのだと、僕は姉にそう誓った。
蒼のカリスマ、グランゾン。僕にとって彼等こそが力の象徴。一度はZ-BLUEに敗北しても、僕が抱く情景は依然として変わらない。
いつか、貴方のように強くなる。それこそが蒼のカリスマというジルクスタン王国の恩人に対する恩返しなのだと………。
この時僕は、そう信じていた。
◇
『ほ、本物か? コイツ、本当にあの蒼のカリスマだってのか!?』
舞い上がる爆煙と砂塵の中から現れる、蒼いフルフェイスの仮面と白衣の様な白い外套を身に纏う者、それはこの世界に生きる人々にとって恐怖の代名詞とも呼べる人物。
魔人。嘗てこの地球に破壊と恐怖を撒き散らし、表裏問わず全ての武力組織に恐れられ、世界と単独で渡り合ってきた最強の個体。
蒼のカリスマ。ただの優男だと思われていたその男は、マリーベルを庇うように新大陸の荒野にて顕現する。まさかの本物の登場に動揺するのはベルクだけでなく、驚きとその畏怖はマリーベルを始めとしたグリンダ騎士団にまで伝わっていく。
『な、何故蒼のカリスマがここに!?』
『本物………なのか?』
レオンとティンクが口にするのは一様にして目の前の魔人が本物かという疑問………否、それは疑問というよりそうであってほしいという懇願に近かった。
蒼のカリスマがいるという事は近くにはあの魔神、グランゾンも控えているという事。魔神激昂、当時の事を今でも覚えているレオンの脳裏に、半ば強制的にあの時の光景が脳裏に浮かんでくる。瞬く間に落とされ、粉砕され、蹂躙されていく部隊。地獄と化したその世界の中心に佇むのは蒼のカリスマの最大の愛機、グランゾン。
もし此処で蒼のカリスマがグランゾンと共に暴れだしたら、新大陸は死の世界と化してしまう。そうなる前に何とかしなければとティンクは考えるが、思考が纏まるよりも早く蒼のカリスマは行動を始める。
「さて、暴れる前に憂いは出来る限り無くしておくか。ちょっとオルフェウス君、彼女を彼処の母艦にまで送ってやってくれないかな?」
無数の機動兵器の群を前に自然体で佇む蒼のカリスマに、少し離れた位置で状況を見ていたオルフェウスは突然の指名に驚きを露にする。何故ここで自分を呼ぶのか、単に自分が一番近い所にいたから丁度いい、なんて蒼のカリスマの思考は、当然の事ながらオルフェウスには届かない。
隠れてやり過ごすつもりだったのにこれなら出てくるしかない。そう思いながらも蒼のカリスマへの接近にテンションが高くなるのを自覚したオルフェウスは、顔が熱くなるのを感じながらも極力顔に出さないよう努めながら、蒼のカリスマの側まで車を回す。
「………蒼のカリスマ、なのか?」
車から降り、開口一番に出てきたのはやはり戸惑いの言葉だった。自分の目の前にいる魔人、それがまさかあんな優男だと見抜けなかった自分が滑稽に思えてしまう。
騙していた事に怒りはしない。それを見抜けなかった自分こそが間抜けだったのだ。故に、それ以上オルフェウスが蒼のカリスマに詰問する事はなかった。
「……騙していたみたいで申し訳なかったね。でも今はどうか控えてほしい。ここから少し事は荒くなる。彼女を連れて可能な限り離れてくれ」
「了解した。そして、此方こそ済まなかった。貴方の意図を見出だせず、足を引っ張った事」
「………え? あ、うん。ドンマイ?」
何でオルフェウスが謝るのか本気で分からない蒼のカリスマは、取り敢えず状況を進めることを優先し、余計な事を言うのを止めた。そして、オルフェウスに連れられて離れていくマリーベルを見送り、改めて蒼のカリスマはベルク達へと向き直る。
「コホン。さて、ベルクと言ったかな。先程、随分とおかしな事を言ってくれたそうじゃあないか。確か………広告塔、だったかな?」
『っ!』
「人を広告塔扱いするのなら、それなりに代償を支払うべきだ。交渉をするなら常に対等な取引でなければならない、社会での常識だ。そうだろう?」
『ぐ、ぐぅぅぅ………』
一歩、歩み出る。それだけで空気が一段階重くなったのはきっと気の所為ではないのだろう。重力を操る奴の機体は未だに出てきていないのに、何故か物理的に感じる威圧感。これが蒼のカリスマ、初めて相対する魔人にベルクは自身が歴戦の傭兵であるにも関わらず、言葉に出来ない悪寒を味わっていた。
間違いない。目の前にいる蒼のカリスマは本物だ。対峙して初めて分かる威圧感にベルクは完全に呑まれていた。
早すぎる。本当ならもっと事態が進んでから蒼のカリスマを此方に呼び込む手筈だったのに、一体何処から情報が漏れたと言うのか。
このままでは蒼のカリスマが呼び出すグランゾンによって全てが蹂躙される。恐怖に怯えながらも傭兵としての役割をどうにかして果たそうとベルクが躍起になった時、突如蒼のカリスマに無数のミサイルの群れが雪崩れ込んでいく。
連鎖していく爆発は軈て周囲を巻き込み大規模な爆炎と変化する。辺りを凪ぎ払う凶悪な爆撃にグリンダ騎士団はその場で踏ん張る事しか出来ず、ヨーコは伏せることで何とか堪え忍んでいた。
人に対して過剰な程の攻撃、一体何処からとベルクが振り向けば、其処には形態を変化させたデストロイガンダムが佇んでいて、その近くにはゲイツが搭乗しているASが控えていた。
『なぁにをボサッとしてやがるよベルク!』
『げ、ゲイツ………』
『相手が蒼のカリスマならやることは二つだ。グランゾンを出す前に徹底して叩き潰すか、一目散に逃げるかだ! そして今は奴を屠る最大の好機! 無理難題な状況を覆すのが傭兵稼業の辛いところよ。覚悟は出来たか? 俺は全く出来ていないぜ!』
いつもより三割増しのテンションの高さ、蒼のカリスマという最大の脅威を前に、ゲイツは逃げるよりも此処で蒼のカリスマを殺すことを選択した。
蒼のカリスマは確かに恐ろしい。その伝説は裏組織では知らない者はおらず、破界事変から続く逸話の数々はいつでも自分達の度肝を抜いてきた。
しかし、それもグランゾンありきの話。蒼のカリスマがどうして最初にグランゾンを出さなかったのかは不明だが、それでもノコノコと自分達の前に無防備で現れるのはゲイツにとって好都合な出来事であった。
これなら蒼のカリスマに勝つことも可能かもしれない。これまで受けてきた屈辱の数々、その裏には必ず奴の姿もあった。パトリック=コーラサワーや荒熊親子を仕留めようとした時も、奴は平然とこちらの思惑を簡単に潰してきた。
今日こそ、そんなこれ迄の屈辱の歴史を清算する時。逃走を計るのならその後でも間に合う筈だ。それが最大の間違いであることに気付く筈もなく、ゲイツは続けて追撃をベヘモス達に命じようとして………。
「初手は譲った。次は此方の番だな」
『………は?』
轟々と燃え盛る炎の中から聞こえてきた声に言葉を失った。嘘だ。そんな筈はない。否定と拒絶の言葉ばかりが脳裏に浮かんでくるが、その現実は覆る事はない。
デストロイガンダムという機体は一機で都市部を壊滅させる超規模の機動兵器であり、その火力は移動する要塞であり、その圧倒的な殲滅力は嘗てのメメントモリの様な戦略兵器に
人を消すには余りある火力、直撃すれば生き残るのは勿論のこと、肉片の一片まで消し飛ぶのがこの巨大機動兵器であるデストロイガンダムの恐ろしいところ。
なのに、目の前の仮面は肉片と化す処か煤の一つも付いてはいない。どうやってあの爆発から逃げ延びたのか、ヨーコを除いたその場にいる誰もが驚愕し、目を大きく見開かせる中───彼は動いた。
疾走。それは正に風の如くの速さで戦場を駆け抜け、デストロイガンダムへ向け跳躍する。人の身では決して到達し得ない高さまで跳んだ蒼のカリスマは何もない筈の宙を蹴り、更に勢いを加速させていく。
標的となったデストロイの胸元にある三つの砲門にエネルギーが集束されていく。それは都市部を一撃で壊滅させる威力を誇る高威力の熱エネルギー。圧倒的火力を誇るその光は蒼のカリスマごとその背後にあるカミナシティまで焼き尽くせんと放たれるが……。
「人越拳───捩り貫手」
一振りの槍───否、一発の銃弾と化した蒼のカリスマは放たれる閃光をものともせず、目映い光ごとデストロイを貫いた。
貫通。胸元から背中まで人一人の穴を開通させた蒼のカリスマはそのまま地面へと着地。デストロイガンダムはそのまま仰向けに倒れ爆散、戦略兵器に相当するとされる機動兵器は呆気なく荒野の塵と化した。
『『『『──────』』』』
その光景に敵味方問わず絶句する。オルドリンもオルフェウスも、グリンダ騎士団も、ゲイツもベルクも、そしてマリーベルも、目をこれでもかと大きく剥かせて驚きを顕にしており、戦略顧問であるヨハンに至っては口をも大きく開かせて腰を抜かしている。
誰もが驚愕に腰を抜かしている中、無人機である兵器たちは止まらずに蒼のカリスマへ雪崩れ込む。巨大な大太刀を振り上げるのは全長40mの巨大ASであるベヘモス。その総重量数千トンとされる質量の怪物は、その体積を最大限に活かした攻撃を蒼のカリスマへ打ち込んでいく。
爆発や火力でダメなら純粋な質量で叩き潰すまで。繰り出された一撃は間違いなく蒼のカリスマへと打ち込まれ、衝撃に耐えきれなかった大地が亀裂を生み出して悲鳴を上げていく。
普通……いや、物理的常識を鑑みれば蒼のカリスマは汚い潰れたトマトと化している筈。これで蒼のカリスマは斃された。そうベルクが確信するよりも早く、ベヘモスの太刀が浮かぶ。
それは、ベヘモスによるものではない。ベヘモスによって振り下ろされた超質量の一撃は、しかして蒼のカリスマという人間の片腕によって押し止められていた。
誰かが、コックピット内で噴き出した。どういう事だと。どんな理屈だと、人間は当然ながら機動兵器すら圧壊される筈の質量を、どうして片腕だけで防げるのかと。
そんな彼女達の疑問が解消される事なく、蒼のカリスマは動く。片手で持っていたそれを両手持ちに切り替え、自身を軸に回転を描いていく。
────ベヘモスは数千トン規模の超大質量のASである。それは決して人間の、それも人の手によって持ち上がる代物では断じて無く、ましてや振り回される事なんて断じて有り得ない。
しかし、事実としてマリーベルの目にはそんなふざけた光景が広がっている。赤く、悪魔の一つとして現しているベヘモスは一人の人間の手によって物理的に振り回されている。
「フンッ」
そんな悪夢みたいな光景は更なる悪夢によって塗り潰される。玩具のごとく振り回されたベヘモスはその勢いのまま蒼のカリスマの真上へ放り投げれられる。空中での戦闘など想定されていないベヘモス、そもそも投げ飛ばされることなど前提として有り得ない大質量の塊は、ただ木偶の如く呆然としているだけ。
ベヘモスのカメラアイが最期に映したのは再び跳躍し、蹴りを繰り出す蒼のカリスマの姿。
「
繰り出される無数の蹴擊はベヘモスを粉微塵に切り刻んでいく。ショートし、爆発するも爆炎や爆風すらも刻まれていくベヘモスは、まるで最初から存在しなかった様に世界から消滅する。
クルクルクルと、回転しながら着地する蒼のカリスマ。その後ろ姿は何処までも無防備だが、不思議と誰も攻撃しようとは思わなかった。そう、人格など持ち合わせていない筈の機動兵器すらもまるで恐怖に震えているかの様に、不思議とその場から動こうとはしなかった。
そんな時、蒼のカリスマは戦域から離脱しようとする二機を捕捉する。ゲイツのASことコダールとベルクの愛機であるナイトキガフォートレス、戦局の不利を悟るや否や機体性能をフルに活用して逃げ出すのはある意味流石と言えるだろうが………生憎、彼等が相手にしているのは唯の人間ではない。
───気付けば、ゲイツとベルクは蒼のカリスマの前へと転移されていた。本人達が転移された事を自覚できないまま、ワームホールによって位置を戻らされていた。
『な、なぁ!?』
『なんで、何で俺達ここにいるんだよぉ!? なんで目の前に蒼のカリスマがいるんだよぉ!?』
未知なる恐怖が二人を包む。しかし、どれだけ泣き喚こうと、蒼のカリスマの胸中に慈悲という文字はない。
コイツらは、余りにも好き勝手をし続けてきた。自分の名を語り、偽り、利用し、多くの人々を傷付け、更には………親友であるトレーズの気持ちすら踏み躙った。
トレーズ=クシュリナーダは人を、人類を愛していた。人と闘争は切れないと語るのも、その先にある未来を勝ち取ることが出来る事を信じていたからだ。断じて、このような行いを赦す免罪符ではない。
既に蒼のカリスマは怒りで埋め尽くされている。相手がどんな手段を用いようと、全て正面から叩き潰すつもりでいる。
そんな怒れる彼に目を付けられた者に一つだけ送る言葉があるとしたら………。
「知らなかったのか?
オリュンポスが面白くてFGO編の妄想が止まらない駄目な作者です。
ギャグとシリアス、どちらも思い浮かぶのは偏にFGOもシリアスとギャグを両立させる事に他ならない。
あぁ、ボッチをAチームに入れてみたい。
ヴォーダイムと一緒にワチャワチャさせたい。
但しベリル、テメーはダメだ。
それでは次回もまた見てボッチノシ