『G』の日記   作:アゴン

26 / 266
流石に主人公の行動がアレ過ぎたので、修正させて戴きました。


再世篇
その19


 

 

 

 

α月Y日

 

今日も朝からリモネシア復興の為の労働に勤しんでいた時、不動さんは唐突に自分に言った。

 

“このままで良いのか?”そう言われたとき俺は何のことかと戸惑ったが……違う、俺は不動さんの言葉の意味に気付きたくなかったんだ。

 

グランゾンと自分の事、そしてシュウ博士の事、それらの謎を謎のままにしていいのかと、不動さんはそれらを見越してああいう言い方をしたのだろう。

 

尤も、流石にグランゾンに関する事は詳しくは知らないだろうが……知らないよね? あの人は不敵な笑みで誤魔化すから判断が付かないが、まぁそこら辺は放っておこう。考えてはキリがない。

 

確かに、自分も一度は考えた。まだあやふやな事が多いのにこのままにしていいのか? シュウ博士にグランゾンを返さなくていいのか? と、時折そんな事ばかり考えてしまう。

 

けど、今が一番大事な時期だ。復興の士気も高まり、ラトロワさんやシオさんとの蟠りも今は完全になくなり、ジャール組もリモネシア復興に大きく活躍している今、若手の自分が抜け出す訳にはいかない。

 

一応自分が抜けた時の事を考え、ヤーコフ君やナスターシャちゃんには自分の持てる技術を教えてはいるが、自分の教え方が悪いのか中々上手くいかない。

 

電気系統設備の点検と整備、使い古された充電機器の再利用、その他にもカルロスさんが流してくる各物資の点検と搬入。それら全てを教えるにはまだまだ時間が足りない。

 

いや、資材点検や物資発注の書類の類はシオさんがいればどうにかなるだろう。彼女は元とはいえ外務大臣の席に就いていた人だ。この程度の書類点検は寧ろ自分より正確にこなしてくれるだろう。

 

ただ、その所為で彼女が楽しみにしている子供達への授業の時間が減らされるのは……心苦しい。子供達もシオさんの授業は楽しみにしているらしく、その光景は働いている自分達への癒しにもなっているのだ。

 

特に老人組の皆さんはリモネシアの未来を憂いていた為にシオさんの授業風景を見て、今後のリモネシアの未来に安堵している節が見られる。

 

だから、もう暫くここリモネシアにいて復興のお手伝いをしたいのだが……時代がそれを許そうとはしなかった。

 

今日の昼、ラトロワさんの所に一人の軍人がやってきた。“アンドレイ=スミルノフ”あのロシアの荒熊、セルゲイ=スミルノフさんの息子さんだ。

 

しかも彼、あのアロウズに所属しているらしく、ラトロワさんをアロウズに召集しようとリモネシアにまでやってきたらしいのだ。

 

無論ラトロワさんはコレを拒否、その後アンドレイ君は説得を試みるが立ちはだかるジャール組によって阻まれ、ラトロワさんの勧誘を断念し彼自身が所属する部隊基地に帰投していった。

 

だが、その際また来ますと言い残したので、恐らくはまた来るつもりなのだろう。ラトロワさんは女性だが若くして中佐という立場にまで昇りつめ、凄腕のパイロットとして知られるロシアの戦女神だ。軍が統一され、アロウズという部隊が設立した今でも、彼女の力は軍を抜けた今でも引く手数多なのだろう。

 

ラトロワさんがアロウズに出頭するとは思えない。けど、アロウズというのは手段を選ばないという話で有名だ。下手に抵抗を続けていれば反抗勢力としてリモネシアごと焼かれるかもしれない。

 

その時の対応策としても自分……いや、グランゾンの力は必要になる。幾ら彼等の機体が太陽炉搭載の最新機体だとしても、様々なブラックボックスで作り上げられたグランゾンの敵ではない。どれだけの数の軍隊が押し寄せてきても、グランゾンだけならどうにでも対処出来るだろう。

 

そうグランゾン“だけ”なら……そのグランゾンを動かせるのは今の所自分だけであり、リモネシア全土を守るというのは不可能に近い。

 

それに、グランゾンの力を完全に発揮するとリモネシアをも巻き込んでしまう可能性がある。下手をしたらリモネシアを今度は自分が消してしまいかねないからだ。

 

問題はそれだけじゃない。今、何たらプロジェクトで話題になっているランカ=リーとシェリル=ノーム、そしてエイーダ=ロッサをプロデュースしている“グレイス=オコナー”奴が蒼のカリスマとして動く際に非常に厄介な存在になっているのも、自分が動けない理由となっている。

 

破界事変で二人の歌姫を誘拐したとされる蒼のカリスマは今も世界中で指名手配されている。ゼロに続いて二人目の仮面の男だ。この仮面のお陰で世間ではゼロの影武者、もしくはゼロを裏で操っていた黒幕なんて噂がネットでは流れている程だ。

 

ゼロがなんの目的もなく誘拐なんてセコイ真似なんかするかよ、しかも蒼のカリスマがゼロを操っていただって? 黒の騎士団の面々からすれば笑えない冗談に聞こえるだろう。

 

無論自分もゴメンだ。そもそもやっていないのに噂だけでドンドンデカい扱いを受けなければならないのだ。胃が痛んで仕方ないわ!

 

と、まぁ色々理由を述べてみたが、これが今自分が動くことは出来ない訳である。不動さんは明日リモネシアから発つみたいだし、決意表明として不動さんにはもう暫くここに留まる旨を伝えておこう。

 

……いや、嘘だ。全てはリモネシアから離れたくない自分がそれっぽい理由を並べて正当化しようとしているだけだ。

 

ここはいい。一度は滅びかけた国だが、今は一人一人が建て直そうと必死に頑張っている。助け合い、喜び合い、決して裕福ではない日々だが……皆がそれを受け入れ、頑張ろうと奮闘している。

 

今まで一人でいる事が多かったから、皆といることに依存してしまっているんだろう。これを腑抜けというのなら、自分は今最高潮に堕落しているのだろう。

 

けど、それでもいいじゃないかと自分は思う。人は一人では生きていけないし、いざ危機が訪れればグランゾンと自分で叩けばいい。

 

シオさんも身近で守れるし、店長の奥さん、ラトロワさん達だって守れる。そうだ、それがいい。グランゾンをシュウ博士に返すのはもう少し後にしたって遅くはない。大体、本当に博士にとってグランゾンが大事なら向こうから探しに来てもいい筈だ。

 

世界中に蒼のカリスマとグランゾンの事がバラされているのだ。どんな田舎に住んでたって知らない事はないだろう。

 

だから俺は悪くない。そう意気込んでもやはりどこか引っかかって落ち着かない自分がいる。感じる必要のない罪悪感に縛られながら果たしてこのままでいいのかと自問しながら────(日記はここで途切れている)

 

 

 

 

α月K日

 

今、自分はグランゾンのコックピットにいる。もしこの日記を読んでいる人がいたら、自分を風見鶏などと言って罵倒する事だろう。

 

反論はしない。事実俺はラトロワさんに蹴りをいれられるまでこれからの決意を固められないでいたからだ。

 

ホント、情けない話である。結局自分は誰かに後押しされないと決断一つできないヘタレ野郎なのだと、昨夜ラトロワさんに身を以て教えられた。

 

実はもう既に自分が何らかの理由で悩んでいることは殆どの皆に知られているようで、仕事中ため息ばかり吐く自分を見て心配だったとか。

 

ラトロワさんやジャール組の皆からは鬱陶しいと思われていたそうだけど……そろそろ俺泣いていいかな? 年頃の子供だからといっても、自分も少し前まで子供気分だったのだ。少しは遠慮してくれないと心が擦り切れてしまう。

 

……いや、子供なのは今も同じかな。結局は誰かに言われなければ行動に移せないのだ。子供だと言われても仕方のない事だろう。

 

散々グチグチ悩んで、結局は動く事を決めた。リモネシアの皆からすれば、俺は厄介者でしかないだろう。実際、ラトロワさんからもそんな感じの言葉を受けた。

 

“ここは前を進むと決めた者が集う場所、半人前のお前のいるべき場所ではない”

 

半人前……実際その通りだ。自分のやりたい事を誤魔化していてウダウダしている自分は、半人前で十分だ。

 

ラトロワさんには感謝している。進んでそう言ってくれた事に、裏では皆の事を説得していてくれた事に、心から礼を言いたい。

 

けど、それは後回し。全部終わらせてから面と向かって感謝の言葉を自分で伝えよう、そしてその時に自分の事を全て皆に話そうと思う。

 

受け入れられるかは別として、話すべきだと俺は思う。

 

そして明朝、自分はいつぞやの時と同じく皆がまだ目を覚まさない内にリモネシアを後にした。ガモンさんやラトロワさんにはそれとなく伝えていたが……シオさんにだけは伝えなかった。

 

目を覚ましたら、きっと彼女は自分のことを許さないだろう。彼女からすれば俺は裏切り者、今まで一緒に過ごしてきてたのに急に出て行くのだ。それは今まで信用してくれた彼女に対する裏切りに他ならない。

 

だから、全ての謎を解き明かして自分が納得できる結果を得るまで、俺はリモネシアには戻らないと決めた。

 

長い旅になるのか、それとも短い旅になるかは分からない。ただ、俺はその時一つの決断を迫られる事になるだろう。

 

俺とグランゾン、そしてシュウ博士。これらの関係を解き明かした時……俺は、果たしてこの世界にいられるのかどうか。

 

願わくば、自分にとって最良の結果になることを願い、今日の日記はこれで終わりにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リモネシア海岸付近。ラトロワとガモンは先程まで旅人がいた方角を見つめ、黄昏ていた。

 

「本当に良かったのか? あ奴を行かせて、お主にとっては息子のようだと思っていたとワシは考えていたのじゃが……」

 

「バカを言うな。奴の様なウジウジした息子なんぞ、こっちから願い下げだ。今回奴を送り出したのはその軟弱な性根を叩き直す為のモノ、次に会った時は……まぁ、少しはマシな顔になっている事を期待するさ」

 

「成る程、流石はジャール大隊のお母さん。なんだかんだ言って、結局は息子が心配で仕方がないと言うわけか」

 

「無駄話はここまでだ。早いところ皆を起こすぞ。今日は旧市街地方面にある瓦礫の撤去作業だ。早い内に手を付けなければ徹夜作業になる。頼りにしているぞ、ガモン殿?」

 

「やれやれ、年寄り使いの荒い女じゃ、ロシアの荒熊は男だと聞いとったが……」

 

「ふん、……さて、聞いての通りだシオ。奴らを叩き起こし作業を開始するぞ」

 

「っ!」

 

突然声を上げてシオの名を呼ぶラトロワ。すると、背後の物影からオズオズと戸惑いながらシオが現れた。

 

「何だその顔は? もしや奴に告白するつもりだったのか? 残念だが一足遅かったな」

 

「なっ! 何言ってるのよ! 私は別にそんなんじゃ……」

 

「そうか、ならば此方も都合が良い。さぁ、寄宿舎に向かうぞ。奴の抜けた穴は大きい、全員が起床した後、改めて役割分担を決める。行くぞ」

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

ズンズンと先を行くラトロワをシオが追っていく、そんな彼女達を見送りながらガモンはある違和感を気付く。

 

「はて、好都合とは一体なんの事───て、まさか……」

 

頭に浮かんだ一つの可能性。それを流石に無いと思いながらガモンも二人の後を追い、その日の作業に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B月@日

 

えー、どうも皆さんおはようございます。散々ヘタレておきながら結局は外に出ることを決めたいい加減なダメ人間、シュウジ=シラカワです。

 

え? いきなりの自虐は鬱陶しいから止めろって? HAHAHA、そんな事は言いっこ無しだぜジョニー、今俺の気持ちはダイヤモンドブルーなんだ。少しくらい愚痴ってもいいだろう? 日記ってのはそういうものだろう?

 

さて、おふざけはこれくらいにして本題に入ろう。自分とグランゾンの秘密を探る為、世界中を旅して回っていた自分は新たな情報を求める為に敢えて危険地帯と知られるアザディスタンに向かい、途中に今後の行動における細かな方針と食料の調達の為にとある村に寄ったのだけれど、その時現れたアロウズに済し崩し的に捕まってしまった。

 

何でもこの村にはカタロンの構成員が潜伏していたらしく、この辺では見かけない自分もカタロンの一員ではないかと疑惑を掛けられ、弁明もする暇もなく連れ去られてしまった。

 

そして、今自分がいるのはアロウズが所有する収容所の一つで、しかもそこにはナイトオブセブンこと“枢木スザク”君もいる訳で、現在自分は事情聴取の順番待ちで独房に入れられている。

 

下手に抵抗すれば銃殺は免れない。今は大人しくするしかないのだが……さて、どうしたものだろう。

 

スザク君が来るまで俺もただの旅人だって説明したのだが、やはり聞き入れては貰えない。身分を改める為に色々調べられたりはしたが、自分は怪しいモノは持ち合わせていないし、精々食料と水と……あとはカメラ位しか持っていない。

 

なんでカメラを持っているのかというと……えっと、恥ずかしながらカメラ=旅人という歪んだ知識故の弊害だとしか言えない。

 

幾ら旅人だからって何も持たないでいるのもどうかなぁと思うし、カメラとか持って観光で~とか誤魔化せばある程度は納得させられるかなぁとは思ったけど、流石にそこまでは甘くなかった。

 

ソレスタルビーイングの件で世界中がテロに対して過剰に反応しているから、こういった事態は考えなくもなかったが……立ち寄った村が悪かった。まさかあそこにカタロンのメンバーがいるとは、正直そこまで予測できなかった。

 

え? そんな状況にいるのになんで日記なんて書いていられるんだって? 普通にワームホールに隠し持ってますがなにか? 今の自分はどこぞのスキマ妖怪の如くワームホールを自在に開閉できたりするのが可能となっているのだ。日記位の出し入れはお茶の子さいさいである。

 

これもグランゾンのお陰だからあまり無闇に使ったりしたくないんだけどね。日記は最早自分の一部となりつつあるのだ。

 

さて、そろそろ事情聴取の番が回って来そうだし、今日の所はこれで終わりにする。

 

……なんか出だしから雲行きが怪しくなっているが、気を取り直して頑張っていこうと思う。

 

あ、今更ですがここではシュウジ=シラカワと名乗る事にしています。その方が分かり易いし、シュウ博士もこの名前を見たら少しは興味を引いてくれるかなーと思い、以後はこういう名乗りにしておこうと思います。

 

因みに、漢字で書くと“白河修司”になります。

 

では、生きてたらまた会いましょう。

 

 

 

 

……割とアグレッシブになったな、俺。

 

 

 

 

 




流石に緩く書きすぎたと反省。
ノリが軽いのは日常や休日編位にして旅の最中はこんな感じで書いていきます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。