『G』の日記   作:アゴン

263 / 266
今回、あの人の過去が明らかに。


その231

 

 

 

Ω月#日

 

 シュナイゼルとマリーメイアちゃん、多くの人達の協力もあって、世界最恐のテロリストとして恐れられた蒼のカリスマは世界の敵という分類から除外される事になった。

 

皆には感謝している。本当なら協力してくれた人達一人一人に頭を下げにいくべきなのだろうが、世界各国の政府機関は未だ多元世界における最後の戦いに備えててんやわんやしていて、そんな彼等にいきなり頭を下げにいっても迷惑になるのは目に見えている。

 

故に彼等への感謝の気持ちはこれから訪れる最後の戦いで結果という形で返していこうと思う。というか、そうしろと言われた。他ならぬシオニーさん達に。

 

 今、俺はリモネシアにいる。子供達や年配の方々、元大統領にジャール大隊の皆、ラトロワさんとガモンさん。そして……シオニーさん。皆が此処にいる。

 

嘗て蒼のカリスマ並みに世界中の敵として認識されていたシオニーさんも世界最後の日を前にその名前を解禁している。未だシオニー=レジスの名前は破界事変に於ける最大の敵対組織インペリウムの一人として認識されているが、蒼のカリスマの敵対の除名を機にシオニーさんも自らの本当の名前を名乗ることにしたという。

 

まぁ、認識はされていても別に今更世界政府がシオニーさんをどうこうしようとは考えていない事などシュナイゼルを通じて知ったから自分はいいのだが、矢鱈覚悟を決めて名乗るシオニーさんに少しだけ罪悪感を覚えた。

 

 ともあれ、無事に再びリモネシアに戻れた俺はいつぞやの時と同じように街の復興作業を手伝いながら穏やかな日々を過ごすことになった。電力や地下水道、最低限のライフラインは整備されているが、未だリモネシアは国として機能できていない部分がある。

 

これからのリモネシアの皆の事を考えるればやるべき事がまだまだ沢山ある。時間は有限、皆に対するせめてもの恩返しの為にも可能な限り問題を片付けて行こうと思う。

 

 ────なんて考えたらシオニーさんに怒られたでござる。そんな事をする暇があるならお年寄りや子供達の世話をしろって、強制的に仕事をブン盗られたで候。

 

ジャール大隊の皆、特にキール君やヤーコフ君はいつの間にか機械弄りに関する特殊資格を持っているらしく、何とも慣れた手付きで電力発電を自力で作成し整備修繕する事が出来る様になったらしい。

 

 他にもイリーニャちゃんやトーニャちゃん、ナスターシャちゃん達女子組は料理の腕が劇的に向上していてお年寄りや子供達の面倒など家事全般を得意としているらしい。

 

ラトロワさん曰く、サイデリアルに捕まりラース・バビロンに幽閉されていた頃に取得していた技能らしく、暇をもて余していた間そうして時間を潰していたらしい。マジか、ラース・バビロンもといサイデリアルってそう言う社会的保障制度もあったの? なにその社会に優しい侵略者。

 

 それでも資格を取得する際に結構落とされた子もいたらしく、中には試験官である尸空に勉学を教わったりもしていたとか。………マジか。

 

突っ込み処は多々あるが、それでも未来に向けて自分に出来ることを精一杯やろうとするジャール大隊に俺も負けてられないと奮起する。最初こそは手を出す度にシオニーさんは休んでいて欲しいと渋い顔をするが、こうした方が落ち着くという自分の言葉に折れてくれて、最終的には「ま、その方が貴方らしいか」と認めてくれるようになった。

 

 ジャール大隊の皆、島の人達で少しずつ積み上がっていく復興の兆し、幾度となく壊されてきたリモネシアは今度こそその形を取り戻しつつあった。

 

 

 

Ω月α日

 

 今日、俺は一つの恩を返す事が出来た。自分でそうハッキリと言えるほどに今日の出来事は濃厚だった。ガモンさん………本名を我聞京四郎、世界を旅していると宣う自分に護身術として空手を教えてくれた俺の師匠。

 

出会った当時は快活なじいさんにしか見えなかった彼は半ば強制的に空手を教え、度重なる無茶な鍛練によって自分を鍛えてくれた恩人。その人と俺は今日、戦った。

 

始まりは唐突だった。皆と変わらぬ日常を過ごし、仕事に励み共にご飯を食べる。そんなありきたりな時間を過ごしていた自分にあの人は前触れもなく口にした。

 

「──よし、なら戦るか」

 

なんの脈絡もなくそう口にするガモンさんに気付けば自分も了承していた。恐らく、ガモンさんは気付いていたのだろう。自分が───俺が、リモネシアにいられる時間はもうそこまで長くないという事を。

 

 この組手の誘いはガモンさんからの最後の教え、不祥な弟子に送る最期の手解きと受け取った俺は周囲の声を余所にガモンさんからの誘いを受け取った。場所は波打ち際の浜辺、ガモンさんに最初の試練として訪れた海割りの場所だった。

 

呆れ顔のラトロワさんとシオニーさん、ジャール大隊の皆は賭け事を始め、子供達は俺達の応援をし、御老人達は怪我の無い様にと心配して………そんな、皆が見守ってくれている中で始まった俺とガモンさんの最後の組手は始まった。

 

長い、とても長い攻防だった。時間的には然程経ってはいないだろうが、時間の感覚が鈍るほどにガモンさんから繰り出される拳、蹴り、技の数々、その全てが凄まじかった。きっと、次元将であるヴィルダークと戦っていなければ瞬きの内に倒されていると思うほどに、ガモンさんの繰り出す技は速く鋭かった。

 

そんなガモンさんと打ち合えたのはきっとこれ迄自分が体験してきた全ての出来事のお陰なのだろう。苦しい事、辛かった事、悲しい事、悔しかった事、それら全てが自分を此処まで鍛えてくれたのだと、今なら言える。そしてガモンさんはそれを気付かせてくれる為に俺をこの組手に誘ってくれたのだ。

 

戦いの結果は───信じられない事に、俺の勝利となった。決め手は最後の一手、それまでガモンさんの技に圧倒されていた俺が出したのは最初に教わった正拳突き。それが俺とガモンさんの勝敗を分けた。

 

 視界全てに埋め尽くされる拳の弾幕、避ける術も受ける体力もない自分に出来た無意識の一撃、その一撃がガモンさんのミクロよりも小さな隙の孔を穿ち、ガモンさんの胸元を叩く事が出来た。

 

傷だらけで満身創痍の自分に対して殆ど傷のないガモンさん、端から見ればどちらが勝者か歴然としているのにガモンさんは笑って自身の敗北と俺の勝利を高らかに謳い上げてくれた。

 

 瞬間、盛大な歓声がリモネシア中に響き渡った。賭けに負けたもの、決着に興奮するもの、大事なく終えた事に安堵するもの、反応は人それぞれで、けれどその何れもが俺達の戦いを讃えてくれたモノだった。

 

子供達から凄いと駆け寄られ、ガモンさんには年配の方々から労いの言葉を掛けられ、シオニーさんには心配を掛けた事へのお小言を言われたが、この時はそれすらも心地よかった。

 

そして、ガモンさん直々に言われた。お前はもう儂を超えていると、殺すつもりで放った最後の技、お前はそれを乗り越えるだけに留まらず、儂を殺さずに勝つことを選んだと。殺すか殺されるか、二つに一つしか無かった道をお前は第三の選択を以て凌駕したと、笑いながらそう語るガモンさんに誰もが驚愕した。

 

 イヤなにサラッと物騒なこと言ってんのこの人ー!? その時のガモンさんの言葉に全員が目を丸くし、シオニーさんに至ってはスゲェ剣幕で怒鳴り散らしてた。いや本当、あのガモンさんに土下座を要求するんだもの、余程キレてたんだなぁ。

 

そんなシオニーさんの追求をかわしつつ、「冗談じゃ」の一言で場を和ませたガモンさんは自分に胸を張れと言ってその場を後にした。あの時は冗談なのかと流していたが、今になって思う。

 

最後の拳を交わす瞬間、ガモンさんの拳には確かな殺気が乗せられていた。殺すか殺されるか二つに一つ、もしガモンさんの言っていた言葉が真実だとするのなら、もしかしたらガモンさんは………死ぬつもりだったのかもしれない。いや、単に殺し合いを楽しんでいただけ?

 

 未だにあの人の真意は読み取ることは出来なかったけど、それでも一つだけ分かることは………俺は今日、ガモンさんを超えることが出来た。その目論見も、企みも、己の力で以て覆すことが出来た。

 

ならば胸を張ろう。ガモンさんがそう口にした様に、嘗てガモンさんは言った。師を超えることが弟子に出来る最大の恩返しなのだと。なら、俺もこの日記に記すことでそれを誓いにするとしよう。今日という日を決して忘れない為に。

 

ありがとうガモンさん。俺を鍛えてくれて、俺を貴方の弟子にしてくれて。

 

 俺は今日、一つ強くなりました。

 

 

 

PS.

因みにジャール大隊の中でラトロワさんを除いて自分が勝つ方に賭けてくれたのはナスターシャちゃんだけだったらしい。何で自分に勝つ方を選んだのか、不思議に思い訊ねたが五月蝿いと一蹴されてしまった。

 

まぁ、理由はどうあれ自分が勝つと信じてくれたのは事実なので嬉しくてありがとうと礼を言ったのだが、今度は罵声ではなく沈黙の蹴りが飛んできたでござる。

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいてて、全く、若者の相手は堪えるわい」

 

 喧騒から離れた所で最後の仕事を終えたガモンは身体中弟子に打たれた体を擦りながら近くの足場に腰を掛けていた。

 

「そう言う割には随分楽しそうだったみたいでしたけどね。お義父さん」

 

そんな彼に声を掛けるのはジャール大隊という子供達の母、ラトロワだった。自身を義父と呼ばれた事に少なからず驚きながらもガモンは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「久し振りじゃのう、お前さんが今一度父と呼んでくれる日が来ようとは………これは、益々シュウジ君に感謝しなければならないの」

 

「本当は迷ったんですけどね。私も貴方も、共にあの人から離れた薄情もの、貴方は戦うこと以外に生き方を見出だせず、私もまた戦場以外に生きる術を見出だせなかった」

 

「それでもアイツは、息子は、儂らの為に、居場所の為にリモネシアに帰る場所を守ってくれた」

 

「だから、ですか? 貴方がシュウジを気に掛けたのは」

 

「息子が気に掛け、息子の死を誰よりも嘆いてくれたんじゃ、それを知らない振り出来るほど儂は人でなしでは無かったと言うことじゃよ」

 

 遠くでシオニーの説教の声が聞こえてくる。それをシュウジが苦笑いをしながら頭を下げ、それを周囲が揶揄してくる。ほんの数年前までは考えられなかった光景、それをもたらしてくれたシュウジに二人は慈しむように目を細める。

 

「儂は、親にはなれんかった。親のいない儂はただ拳を奮う事でしか生きられんかった。力を奮い、血を啜り、暴力を以て生を得る。その在り方は妻を娶り息子という宝を得ても変わることは出来んかった」

 

 思い返すのはこれ迄の自分、動乱の中で力を奮わなければ生きられない修羅の時代。殺し殺され、その無限地獄でしか生きられなかった者が抱く獣の如き感情。

 

伴侶を得て、子供が出来て年を老いてもその在り方を変えることは出来なかった。そんな自分が嫌でガモンはリモネシアから飛び出し、傭兵としての生き方を選ぶことになった。

 

 戦いに戦いを重ねてきたそんなある日、ある悲報がガモンの耳に入ってきた。リモネシアの壊滅、破界事変の頃に起きた大災害、それによって唯一の肉親が死んだことにガモンは言い知れない恐怖を覚えた。

 

急いでリモネシアに戻ってきた彼の目に飛び込んできたのは降り頻る雨と即興で作られた墓場、そしてその中で膝を地につけて絶望の中で倒れる青年の姿だった。

 

「息子の墓の前で泣くシュウジ君に、思い知らされたよ。儂は自分の在り方を言い訳に家族を捨てた腰抜けなのだと。そしてそれは正しかった。何せ儂はシュウジ君とは違い涙の一つも流す事が出来なかった」

 

 息子が死んだ。その事実に涙すら流せず呆然とするしかなかった自分に対して、シュウジはその後生き残ったリモネシアの人々の手で息を吹き返した。暖かいスープを口にして再び立ち上がる力を得た彼はグランゾンと共に戦う道を選んだ。尤も、彼があの蒼のカリスマと気付けたのはもっと後の話なのだが……。

 

そんな獣である自分と違い、己の意思で生き方を決めた彼の姿は何処までも眩しく見えた。そんな彼に羨望し、同時に嫉妬したガモンはこの日を境にある計画を企てる。即ち、己を終わらせてくれる者を育て上げるという計画を。

 

「けど、そんなあんたの思惑をシュウジは乗り越えて見せた」

 

「本当、凄い男じゃよ」

 

しかしそんな己の企てもシュウジは完全に超えて見せた。殺すか殺されるかだけしか残されていないあの刹那の選択を“死なさず殺さず乗り越える”という有り得ざる第三の選択を以て凌駕された事にガモンは自身が負けた敗因を知る。

 

結局、ガモンはそれしか知らなかった。戦いと血に狂い、獣でしかなかった自分では自らの意思で可能性を生み出す者に勝てはしないのだと。殺す気で放った己の業、それを見切られた時点で己の敗北だとガモンは認めた。

 

「それで、これからどうする? 死ぬつもりだった命を拾った手前、そうそうに投げ出すことは出来ないと思うが?」

 

「そうだな。いい加減逃げ回るのは止めよう。リモネシアの為に、皆の為に、何より自分のためにこの命を使う事にするさ」

 

「自分の為?」

 

「情けない事に、教わったのさ。嘆くのも挫けるのもいい、だがそのままでいることだけはダメだと、拳を通して彼に教えられたわい」

 

 胸元に刻まれた小さな打撃の痕、拳の形となってガモンの体に刻まれたその痕はまるで脱け殻だった自分に力が注がれている様な暖かさを感じる。きっと、これがシュウジを彼処まで強くさせた力の源なのだろう。自分と同じ武を得ながら、自分とは全く異なる道を選んだシュウジにガモンは羨ましく思い、それ以上に嬉しく思えた。彼ならば自分のような修羅に堕ちることもない、当たり前の事を当たり前に大切に出来る彼ならばきっと───。

 

「───さて、皆が呼んでいるな。そろそろ私達も戻るとしよう」

 

「あぁ……」

 

 離れた所から自分達を呼ぶ声が聞こえてくる。先行くラトロワの後に続こうとガモンが一歩歩み出した時、ふと視線を感じた。

 

振り返る先には………何もなかった。あるとすればそこは嘗て息子が営んでいた店があった場所、視線なんてあるはずがない。気配なんてあるわけがない。

 

でも。

 

『親父』

 

『アナタ』

 

『『おかえりなさい』』

 

 何故だろう。心の奥が熱くなり、涙が流れるのは。

 

───幻だったのかもしれない。幻覚で、その全てが嘘で、自分の都合のいい妄想が偶々耳に入ってきただけかもしれない。

 

けれどこの日、我聞京四郎は確かに───救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い深い奈落の底、星の光すら届かない深淵でソレは静かに嗤う。

 

もうじき、全てが終わる。それを理解し、熟知しながらもソレは既に止まる事はない。

 

狂い、歪み、爛れたおぞましい願望。その果てに待つ終末を前に。

 

「あ、動いた」

 

その脈動は静かに蠢いていた。

 

 

 

 

 





ガモン。

フルネームは我聞京四郎。当初は流浪の格闘家として何度か本編に登場したが、その正体は主人公が破界事変の頃に世話になった店長の実の父である。

物心付いた時から戦いに明け暮れ、それだけに喜びを見いだし、それしか己の存在価値を得られなかった悲しき男。

相良宗介を狼に紛れた羊ならばガモンは狼の中に紛れた龍である。不幸にも戦いの戦闘技術は逸脱者級であり、彼と対等に戦うには最低でもブリタニア帝国レベルの大国の二か国以上の軍事力が必要とされている。

また、同じ逸脱者である大貫とは敵対関係でありながら友人関係という奇妙な間柄を形成し、若い時はじゃれ合いという名の殺し合いを幾度となく繰り広げ、その度に紛争や内紛で荒れていた国を蹂躙していた。

何度も普通の人間になろうと試みるが、既に修羅道へ落ちているガモンは戦いの道から逃れられる事はなく、例え妻や子供がいても自らの内に眠る獣の如き衝動が止められる事はなかった。

 しかし弟子であるシュウジに敗れた事で修羅道から完全に抜け出せたガモンは今後はリモネシア復興の為に尽力していくと誓う。もう二度と彼の内の獣は起きる事はなかった。

とある超能力者の少年曰く、彼の側には薄くも二つの暖かい気配がいつも共にあるという。

尚、傭兵を止めて用務員になった大貫を当時は羨ましく思ったらしい。




というわけで、ボッチの成長とその師であるガモンさんの掘り下げ話でした。


それでは次回もまた見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。