『G』の日記   作:アゴン

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その232

 

 

「そうか、蒼のカリスマ………シュウジは遂に自由の身になれたか」

 

 地球連邦に属するとある軍事基地、格納庫で機体のチェックを行っていたアムロはブライトから告げられる話の内容に安堵の息を吐く。

 

元々、蒼のカリスマがテロリストとして知られた発端は嘗てのマクロスギャラクシー船団の一員、シェリル=ノームの元マネージャーであるグレイス=オコナーによる策略から始まっている。それ自体は彼女達の企みが明るみに出て、更にはシェリルとランカの二人が彼の誘拐を否定しているから当時のZEXSISは然程気にしてはいない。

 

それ以降の対立もその殆どが蒼のカリスマから仕掛けたモノではなく、時にはZ-BLUE(自分達)と手を組んで地球を狙う敵対勢力と共に戦ってくれた事も多々あった。

 

 時獄戦役で敵対したのはアドヴェントの洗脳によるモノだし、復活した後だってサイデリアルから地球を救う為、独自に色々と動いて此方に有益な情報をもたらしてくれた。

 

なにより蒼のカリスマが皇帝アウストラリスこと次元将ヴィルダークを倒した事で得られた平穏、これが蒼のカリスマを地球の敵対者から除外された最大の理由であった。

 

「リリーナ=ピースクラフト、マリナ=イスマイール、ナナリー=ヴィ=ブリタニア、彼女達が蒼のカリスマに罪はないと呼び掛けてくれたのが大きいな」

 

「更に驚きなのが彼女達の何れかも彼と面識があった事だな」

 

リリーナ、マリナ、ナナリー、何れも現在の地球連邦の政治体制に大きな影響力を持つ者達で一度シュウジと顔を合わせた事のある人物達。そんな彼女達が蒼のカリスマは悪人ではないと断じた事も今回の決定の大きな後押しになった。

 

 これ迄彼が辿ってきた旅路、孤独に思われてきた彼の歩みが報われたことにアムロは自分の事のように嬉しく感じた。

 

「まぁ、俺としてはこのままリモネシアで大人しくして欲しい所だがな。彼の行動は全てが悪意から来るものではないと知っていても………些か刺激が強すぎる」

 

嬉しく思うアムロに反し、ブライトの表情は何処か暗く、そして窶れているように見える。まぁ、分からない事はない。何せこれ迄彼が見せた力は個人が抱えるには剰りにも強大で、いっそ清々しい程に絶対的だった。時獄戦役の終盤、アドヴェントによる洗脳された身で致し方なかったとは言え、当時の蒼のカリスマと敵対した時は命が幾つあっても足りないと思えるほどに彼とグランゾンの力は圧倒的だった。

 

その後のサイデリアルや敵対組織との対決に於いても彼の魔人達の強さは頼もしさ以上に恐ろしくもあった。その最たる例がテレサ=テスタロッサの一言によってもたらされたあの惨劇である。

 

 別にシュウジに非があるわけではないし、責めてるつもりもない。当時の状況から彼の行動や選択に間違っている部分は無かったし、単独行動をするときも納得のある説明があった。もたらした戦果と情報、その悉くが此方の胃の許容量を超えてきただけである。

 

「彼、しれーっと言ったそうじゃないか。ラプラスの箱の謎を、クロノの教えの秘密とやらを、格納庫で、雑談のように」

 

 普通なら渋りに渋っていざという時に暴露するべき情報を井戸端会議での雑談のネタ代わりに口にする彼に当時のゼロを含んだ各艦長達が両手で顔を覆ったり、天井を見上げたりするなど、当時は辟易とする思いを体験した。

 

ある意味問題児よりも問題児なシュウジにブライト達の胃は悲鳴を上げていた。何より厄介なのが彼にとってそう言った情報が本当にその程度の価値でしか無いことで、其処に一切の悪意が無いことである。

 

「そう言うな。彼がそう言うつもりで口にした訳ではないのはお前が一番分かってるだろ? それに、これから先に待つ戦いで彼が一番重要な役割を担っている事も……な」

 

 そう。アムロのいう通りこれから待つ戦いはこれ迄とは一線を画する超規模の大戦。多くの種族が滅びを退ける為に抗う前代未聞の領域、その戦いの最前線に立つのはグランゾンと彼だ。

 

既に猶予はそんなに残されていない。様々な機関が様々な手段を用いて少しでも滅びの運命を変えようと足掻いている。今アムロが最後の調整に携わっている機体もその手段の一つ。

 

型式番号RX-93-ν2。機体名はHi-νガンダム、これから迎える戦いへ挑む為の………アムロ=レイの最後の専用機体である。

 

「ベルトーチカか、突然νガンダムを改修したいと言い出した時はどうなるかと思ったが……良い仕事をしてくれる。どうだアムロ、いけそうか?」

 

「あぁ、行けそうだ。この分なら並の相手にならそうそう遅れは取らないだろう」

 

 シュウジと行動を共にしていた頃、空いた時間で彼と幾度となくシミュレーションでの特訓を経て純粋なパイロットとして腕を上げたアムロは既にνガンダムの反応速度すら上回り、その実力は数あるZ-BLUEのパイロットの中で頂点に位置している。

 

シンやカミーユ、キラといったガンダムパイロットだけでなく嘗てシュウジと対峙した多くのロボットパイロット達がその技量を劇的に高めている。

 

───まるでシュウジ=シラカワの成長に引っ張られるように。確証はない、だがそう思える事例が既に二つ存在している。

 

兜甲児のマジンガーと流竜馬達のゲッター、次元力を用いて引き出された二体の力は単純に計算しても国連の全戦力よりも上回っている。それこそ、あのグランゾンと比肩出来るほどに。

 

そんな超級の戦力を用いらなければならない戦いが、もう間近に迫っている。なのに不安はあっても恐怖を感じていないのはどういうことなのだろうか。

 

度重なる大戦を経て、自身の精神に異常が出てきたか、或いは滅びの運命を心の何処かで受け入れているのか。………いや、違う。

 

「アムロ」

 

「ん?」

 

「頼りにしてるぞ」

 

「あぁ、此方こそ頼らせて貰う」

 

 彼には何を以てしても守るべき女性がいる。自分の帰りを待っていてくれる人がいる。

 

ブライト=ノア、彼もまた運命という壁に挑む戦士の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が降り、星と海が一望できるその場所をシオニー=レジスは歩いていた。人の喧騒から離れ聞こえてくるのは小波の音だけ、嘗て無い穏やかな時間に自然と頬が緩んでしまう。

 

外務大臣として各国を飛び回っていた頃には想像できなかった。心は殺伐としていつも大国に祖国を搾取されないように必死に立ち回り、常に余裕がなく何かに怯えて追い詰められていた。国を思うが故の責任、その圧力に負け、アイム=ライアードの口車に乗せられ、自らの手で故郷を一度滅ぼしてしまった。

 

 守りたかった故郷を壊し、爪痕を残し、何もかもが嫌になった。死にたいと思っても死にきれず、結局は覚悟を決められなかった自分。果たして少しはそんな自分から変わることは出来たのだろうか、

 

(なんて、こんなことを考えている内はきっと変われてないんだろうな)

 

 伸びてきた髪を弄り、過去に思いを馳せる。自分のしてきた事は許されない事だ。一度はシオニーという名前を捨てたのにそれを今一度名乗るのはそんな嘗ての罪に対する自分なりの向き合い方の一つだから。

 

シオニー=レジスは自分の罪を忘れない。けれど、それは決して負い目からくる贖罪の為ではない。これから変わらずに未来を生きるためのシオニー=レジスの決意の現れだった。

 

そして、そう思わせるだけの出来事をシオニーは体験できた。

 

『シオニー=レジス。泥にまみれても尚、お前という女は美しい』

 

 嘗てこんな自分に美しいと呼んでくれた次元の将、彼の言葉に恥じない生き方をしていく為にも先ずはこの名前を堂々と名乗る事から始めよう。それが出来て初めてシオニー=レジスは再び自分の道を進むことが出来るのだから。

 

「………ん? あれって、シュウジ?」

 

 気持ちを新たにしたシオニーがそろそろ皆の所へ帰ろうかとした時、彼女の視界にシュウジの姿が映った。静かに佇み水平線の方へ視線を向けるシュウジ、一体何をしているのか、気になったシオニーは彼の元へ歩み寄っていく。

 

「シュウジ、そこで何をして───」

 

声を掛けて何か話そう。そう思って近付いていくシオニーの足が………止まる。何故だろう、目の前にいるのはシュウジの筈なのにシュウジとは思えない。そんな矛盾した気持ちを圧し殺しながらシオニー=レジスは目の前の男へ問い掛ける。

 

「貴方は………誰?」

 

「────こうして貴方と話をするのは、これが初めてですね。初めましてシオニー=レジス、私の名はシュウ=シラカワ、この度は貴方に言いたいことがあって彼の体を借りて参上しました」

 

 シュウジじゃない。目の前にいる男はシュウジの筈なのに致命的な迄に異なっている。戸惑うシオニーとは対象にシュウ=シラカワは何処までも冷静だった。

 

 

 

 




次回、告げられる真実。

シオニーさんのヒロイン力が幼馴染みに迫る模様。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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