『G』の日記   作:アゴン

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今回はやや短め。


その20

B月C日

 

アロウズの収容所に監禁されてから二日、人権無視ギリギリの扱いを受けていながら、どうにか生き延びる事ができた今日。漸く事情聴取の番が自分の所に回ってきたので、久しぶりに暗闇の部屋から抜けだす事ができた。

 

事情聴取の相手は枢木スザク君、あのナイトオブセブンが自ら自分を相手にするのかと思いきや、彼が聴取するのは別の相手、自分と同じ境遇でここに閉じ込められたという沙慈=クロスロード君。

 

年齢の割には大人びた好青年であり、自分の待遇に大きな不満を持っているようだ。まぁそれは分かる。いきなり訳も分からず犯罪者扱いで投獄されたとあっては不満もある事だろう。尋問される少し前、控え室みたいな所で二人一緒にぶち込まれたから、その時簡単に話してみたのだけれど、やはり彼がカタロンという組織に属せるとは思えない……色んな意味で。

 

彼は宇宙で働き、いずれ宇宙に上がってくる恋人を待つために頑張っているんだとか……前のソレスタルビーイングが武力介入を行った際、彼の恋人も巻き込まれ、両親は二人とも亡くなったというのだ。

 

恐らくは……いや、ほぼ間違いなく“スローネ”の連中だろう。やはりあの時、下手に空気なんか読まずに徹底的に潰すべきだったかと、今更ながら後悔する。

 

クロスロード君も既に両親を亡くしており、唯一の肉親だったお姉さんもソレスタルビーイングに関わったばかりに死亡したと言う。怒りに身を震わせる彼に対し、俺は何も言えなかった。

 

その感情は間違ってはいないと思う。誰だって理不尽な局面を前にすれば怒るし、喚きもする。ただ、そう言うのを溜め込んでしまえば、自分は勿論、周囲にいる人間すら巻き込んでしまう。

 

だから、いつかその感情を早い内に爆発させた方がいい。ここを出て、自由になったら何かに対してでもいいからその鬱屈した思いをぶちまければいいと、大人ぶってそんな事を言ってみた。

 

そして感情をぶち撒けた後でも気持ちが収まらないのであれば、後に残った“どうして”という疑問を解消させればいい。

 

どうして恋人があんな目に、どうして姉が死なねばならなかったのか。その疑問の答えに携わった時、同時に君は答えを得ると。

 

なんて、そんな大人ブったムズ痒くなる言葉を語ってしまい悶えそうになるが、意外にもクロスロード君はこれを受け入れてくれた。

 

時にはマジになってアドバイスするものだと思いながら、自分とクロスロード君はそれぞれの担当が待つ尋問室に連れられた。

 

クロスロード君の担当がスザク君だとすれば、自分の相手は一体誰なのだろう? せめて少し位話が分かる相手だといいなぁ、ここの連中、自分の言うことを信じないで殴ってばかりなんだもの。

 

いい加減本気でグランゾン呼び出そうかとこの時まで思っていたのだが、意外な事にその時の事情聴取と言う名の尋問はすんなり行われ、すんなり終わった。

 

この時尋問しにきたのは“ソーマ=ピーリス”さん。綺麗な銀髪と透き通った肌が特徴的な乙女な軍人さんだった。

 

しかもその横にはアンドレイ君の姿もあり、リモネシアで自分の事を知っていた彼は少し訝しげに自分を見てきたが、事情を説明すれば意外にも話を聞き入れてくれた。

 

ソーマさんも自分の目的と押収した荷物を改めて検査したりしたが、調べられたのはその位で、後は此方に任せて部屋で待機しなさいとだけ言われて終わった。

 

もしかして自分の言葉を信じて貰えたのだろうか? 今までのアロウズとは違い話の分かりそうな人達だったから期待したい所なのだが……(───日記はここで途切れている)

 

 

 

B月*日

 

今日、どうにか自分の言い分が認められ、遂に釈放される事になりました。シュウジ=シラカワです。

 

いやー、人間やっぱり誠意を持って話せば分かってくれるものなんですねぇ。今回でそれが良く分かったよ。

 

実は昨日、日記を部屋の中で書いていた途中でソレスタルビーイングが自分のいる収容所に奇襲を仕掛けてきたのだ。しかもその時機会を伺っていたらしいカタロンもこの時のタイミングを見計らって強襲、収容所は一時パニックと化した。

 

何でもここの施設にソレスタルビーイングのメンバーが捕まっていたらしく、各ガンダム達は収容所に配備されていたMS部隊を相手に奮戦。“アヘッド”と称されるアロウズの主力機部隊を相手に戦う様は遠くから見ていてもハラハラした。

 

何せそのガンダムの中には明らかにギリギリで稼働している大破直前の機体もあったからだ。“エクシア”新型機で構成されたアロウズ部隊に対して、刹那君の駆るエクシアは撃墜寸前だった。

 

オマケにナイトオブセブンのスザク君も戦線に出てきちゃうし、これは厳しいかと思った。

 

……正直、この時自分もグランゾンで出てくれば良かったのではないかと今も思ったりしている。蒼のカリスマとしてグランゾンと共に出てくれば、取り敢えずその場はどうにでもなっただろう。

 

だが、問題はその後だ。幾らその場でアロウズを殲滅しても後の選択が自分の行動を大きく狭めていたと思う。

 

単体で動くにしてもどこでアロウズが目を光らせているのか分からないし、ソレスタルビーイングと行動を共にしても、歌姫二人を拉致した疑惑がある蒼のカリスマではすんなりと受け入れては貰えないだろう。

 

その時の話を説明をするにしても、今は時間が足りない。誤解を全て解く頃にはアロウズの追撃部隊が来てしまう。

 

結局、その時の戦闘はソレスタルビーイングと駆けつけてきた他のガンダム達や黒の騎士団の紅蓮、スコープドックと黄色いブラスタ(?)の参戦によって戦況は打開され、刹那君も新たなガンダム“ダブルオー”に乗ってスザク君を迎撃、戦場から離脱する事ができた。

 

収容所の中もカタロン達が暴れた事によりボロボロ、自分のいた部屋は収容所の一番奥の位置にあるため、揺れはしても誰かがここに押し入って来ることはなかった。

 

ま、おかげで悠々と元ZEXISメンバーの戦い振りを観戦できたから別に良かったんだけどね。

 

そしてその後は再びソーマさんが訪れて色々質問された後釈放となった。……カメラだけは没収されたけどね。

 

けど、不思議な事を聞くものだ。“どうして逃げなかった?”なんて……そんなんで本当に逃げたら自分が悪いって事認めてるようなものじゃないか。

 

そんな事をすれば即座に指名手配され、蒼のカリスマ処かシュウジ=シラカワとしても動けなくなる。そんな分かり切った事実に思わず吹き出しちゃったよ。

 

……すみません、先日まではそんな事考えてました。殴り殺されるのはイヤでいざというときはグランゾンで一撃離脱するつもりでいました。

 

と、ともあれ、これで一応自由の身である。自身の誠意ある態度によって掴んだ勝利なのだから、ここは悠々と胸を張って収容所から出て行こうと思う。

 

それにしてもあの黄色いブラスタ、形はクロウさんの機体と似ていたけど……誰が乗ってたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレスタルビーイングと黒の騎士団との戦いを終えたアロウズは、収容施設を破壊された事によりその施設を放棄、別の部隊に合流する為の対応に追われていた。

 

今回の戦闘で戦線に赴いたソーマ=ピーリスとアンドレイ=スミルノフは、機能を停止した施設を前にし、人員に命令を下している。

 

その最中、先程釈放した人物に気になる点があるのか、アンドレイはピーリスに進言する。

 

「中尉、本当に彼を釈放しても宜しかったのですか?」

 

「アンドレイ少尉か、宜しかったも何も、彼には特に怪しまれる要素はなかった。特に背後関係などもなかったし、これ以上彼をここに拘束しても得られるものはなかっただろう。少尉もその事に同意したから彼の釈放に異論はなかったのではないのか?」

 

「その事については否定しません。確かに中尉が言う様に、彼には特に目立った経歴もありません。時空震動に巻き込まれ、一人でこの世界に来たことも、そして旅をしている事も嘘ではないでしょう」

 

「では、何が気になると?」

 

「………凄み、です」

 

「何?」

 

「ソレスタルビーイングが奇襲し、カタロンが強襲した時、彼はここから脱出出来る時間など幾らでもあったと思います。彼のいる独房はこの施設で最も深い所にありますが、同時にその時は我々の思考の死角にあります。事実、自分は戦闘中そこまで気が回りませんでした」

 

「……それは」

 

そうだろう。と、ピーリスは言葉を続けようとしたが……止めた。確かに彼は戦闘中に自ら逃げ出す事は出来ただろう。

 

だが、その先にあるのは暗い逃亡生活だ。カタロンの構成員でもないのにそんな事をすれば忽ち指名手配され、彼の行く先は悲惨な末路になっていた事だろう。

 

だが、逆に言えば後ろめたい事など何一つないから逃げ出さずにいたのだろう。だからこそ彼は独房の中でもああも堂々としていたのだ。

 

独房の中で他のアロウズの軍人に殴られながらも、顔を腫らしながらもそれを意にも介さず、堂々とした態度と姿勢を崩さず、暗闇の奥底で不敵に笑う彼。

 

「………いずれにしても、今私達に課せられているのは次の任務だ。行くぞ、アンドレイ少尉」

 

「はっ!」

 

一瞬脳裏に浮かんだ不敵な笑みを振り払うようにピーリスは首を横に振った後、アンドレイと共に母艦に向かう。

 

その途中───。

 

『シュウジ=シラカワ、何故君は他の者達のように逃げ出したりしなかった? ここは確かに収容所の中でも奥深い位置にあるが、戦闘中の我々はそこまでの警備にまで気が回らなかった。その混乱に乗じて逃げ出す事は考えなかったのか?』

 

独房の奥に座っている彼にそんな質問をした時、ピーリスも僅かながら感じた。背中に冷たい氷を突っ込まれたかの様な……奇妙な威圧感を。

 

『ククク……いや、失礼。まさかそんな質問をされるとは思わず、つい笑ってしまいました。気に障ったのなら謝りましょう』

 

『そんなものは必要ない。で、何故なんだ?』

 

『何故? そんな事決まっているじゃあないですか。それは───』

 

 

 

 

“そんな事、必要ないからですよ”

 

 

 

あの時は自分の身の潔白に絶対の自信があるからだと思った。実際、彼は時空震動によって巻き込まれた所を除いては、普通の市民とはなんら変わりない。

 

だが、あの不敵な笑みが頭から消えない。此方の意図している事を全て見抜いている様な彼の態度が気になって離れない。

 

シュウジ=シラカワ、もしあの言葉の裏に別の真意があるとすれば……それは。

 

「こうなる事を全て見透かしていたと言うのか。ソレスタルビーイングが現れる事も、ZEXISの面々が再び集い始めている事も、だとすれば……奴は一体」

 

シュウジ=シラカワ。超兵として生まれたソーマ=ピーリスは己の直感に従い、その男を得体の知れない人物として認識を改めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




徐々に本名でも怪しまれる主人公。
敬語って難しいね。

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