『G』の日記   作:アゴン

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今回、主人公自らやらかします。


その25

J月C日

 

どうにかゼロとのチェス勝負を乗り切った自分は、その後に起こったハプニングのドサクサに紛れて朱禁城を後にし、現在暗黒大陸に向けてグランゾンと共に海底を進んでおります。

 

今思い出しても冷や汗が出る。あの観衆の中で黒の騎士団の総帥ゼロと向かい合った時は緊張感で頭がどうにかなりそうだった。その所為でチェス勝負も良く覚えてなかったし、気が付いたら自分の方が負けそうになっていた。

 

 

もうね、やっちまったなと思ったよ。しかもあの時の周囲のどよめいた声によると自分の方からああいった状況を作り出してしまったようだったし、それまでは互角の勝負だったらしいけど……その時は色々終わったなと覚悟したよ。皇族の面子は丸潰しにしてしまうわ、周囲からの視線がとんでもなくイタいわで、もう溶けて無くなってしまいたい気持ちだったわ。

 

けど、奇妙な事にそれ以降ゼロは何もしてこなかったんだよね。あと一手駒を動かせば向こうの勝ちでスザク君を獲得出来たのに、一向に駒を動かす素振りを見せなかった。

 

もしかして、自分が誤って王の駒を下げたのを理解してくれたのかな? もしそうならゼロって意外と気配りの出来る子? ふとそんなことを思い、その時は周囲の空気を壊す覚悟でやり直しを要求した。

 

だが、その次の瞬間突然乱入者が登場、星刻っていう中華連邦の武官の人が今回の婚儀に異議を申し立てると同時に、大宦官に反旗を翻した。

 

混乱する披露宴、突如剣を以て乱入してきた星刻にその場は混乱の渦に叩き込まれるが、二人目の乱入者によって場はより混迷としたモノとなってしまう。

 

五飛君。ごひじゃないよ? ウーフェイ君ね。その彼も星刻と一緒に大暴れするのだからもう大変。大宦官に仕える武官程度では相手にならず、出席していた貴族の皆さんは大宦官達に避難誘導され、自分もそれに紛れて避難する事にした。

 

シュナイゼル殿下はナイトオブラウンズと一緒にいるから大丈夫だろうし、彼の事だからゼロの考えを予測して既に行動に移している事だろう。

 

流石に庶民の自分が殿下と一緒に戦場に出るのは不味いので、これを機に朱禁城から離脱。着ていたスーツも用意された部屋で着替え直してそこに置いてきた。

 

念のために確認したが、汚れた所や破けた箇所は見当たらない。一応臭いを消すためにファ○リーズをしてきたが……あったのねファブ○ーズ、それが一番驚いたよ。

 

そして朱禁城から離れて街中を歩いていた時、至る所で

そして朱禁城から離れて街中を歩いていた時、至る所でクーデターが起こっていて、詰め所等が押し掛ける人達で溢れかえっていた。

 

何でも大宦官のこれまでの悪事が全て暴露され、それを聞いていた市民達が怒りを爆発させ、予め反旗を起こす予定だった人達と一緒に各政府機関に押し入っているのだとか。しかも主に怒りを露わにしているのが天子様についての事ばかり。

 

やれ「天子さまマジ天使」、「天子さまは愛でるモノ」、「イエス天子様! ノータッチ!」、「天子さまペロペロ」など、天子様を替えのある駒代わりと口にした大宦官はこの上なく怒りを買ったらしいのだ。

 

……まぁ、天子様は可愛らしいと思うよ? 皆が怒るのも良く分かるし理解も出来る。けど、ソッチは駄目だろう。特に最後の方、絶対に狙っているだろう。

 

もしかして星刻って人もそんな類の人だったりするのかな? 流石にそれはないと思いたいが……兎に角、大宦官は討たれ、新たな時代を迎える事になった中華連邦、その行く末に期待と僅かな不安を抱きながら今日はこんな感じで終わりたいと思う。

 

そういえば朱禁城から出て行く途中刹那君を見かけたけど……彼、大きくなったねぇ。普通一年やそこらであんなに成長するのは有り得ないけど、普通あんなに育つものかね? 最近の子は育ち盛りなのかな?

 

 

 

 

J月L日

 

さて、今回は何故自分が暗黒大陸に向かうのか改めて説明しようと思う。尤も、その理由はごく単純で明確な話だが、やはりこういうのは細かく書いた方がいいと思い、この日記に記そうと思う。

 

理由は破界事変の時、グレン団のカミナが敵の奇襲により命を落としてまだ日が浅かった頃。落ち込んでいたシモン君を立ち直らせた少女、ニアちゃんからのある一言が原因だったりする。

 

『お父様が貴方を探してましたよ』と、蒼のカリスマ時の自分に言ってきたのを日記を読み返している内に見つけたのが、今回の目的地を選んだ理由の一つだ。

 

螺旋王ロージェノム。ニアちゃんから言われた当初は厄介事は勘弁と避けて通ってきたが、今更になって気になったのが本音である。

 

尤も、ロージェノムは既にシモン君達が倒したらしいから話を聞くことは出来そうにない。けど、もしかしたらロージェノムと一緒にいた獣人がまだいるかもしれないので、取り敢えず今はそれに希望を託すことにする。

 

それに、今回行き先を暗黒大陸にしたのはまだ他に理由がある。その理由とは……ヨーコちゃんや黒の兄妹達の事に関してだ。どちらもマトモに別れも言えず、無用な心配をさせてしまった事がある。特にヨーコちゃんに付いては助けを呼びに行くと嘘を吐いてそれっきりだ。

 

リモネシアで復興に勤しんだ日々の合間、時折思い浮かぶ彼等の事。謝りたいと当時は思ってもそれを実行に移すだけの度胸はなかった。

 

だから今回はロージェノムの事はついでとし、暗黒大陸での旅路は心配をかけた皆に謝罪をしに行く旅にしようと思う。

 

今は時空震動の影響で再び閉ざされた世界になっているが、そこはグランゾンの力でこじ開けようと思う。当然騒ぎになるだろうけど……そこは自分が招く出来事だから上手くやっていこうと思う。

 

取り敢えず今日は近くの洞窟で一泊しようと思う。下は岩でゴツゴツしてて痛いが、こんな事もあろうかと荷物の中に寝袋も持っているので、取り敢えず眠ることは出来る。

 

何だって準備がいいって? それは当然、何せ先日買ったばかりの新品だ。暗黒大陸に次の行き先を決めた時、事前に買っておいたのだ。

 

当時、暗黒大陸にいた頃は寝袋もなくそのまま岩の上でゴロ寝していたから、何だか懐かしくなる。懐かしいと言えばその頃は毎晩キタンさんのイビキが五月蠅くて難儀した記憶がある。

 

早く会って謝り、またあの頃みたいな関係に戻りたいなと思いつつ、今回は終わりにする。

 

 

 

V月@日

 

ビビった。今日は朝から驚きの大連発の日だった。外からの轟音、爆音に目を覚まし、洞窟から出てきて見れば、なんと暗黒大陸を囲んでいた時空の壁が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。

 

しかもその時空の壁があったとされる近くにはZEXISと……何だろう、インペリウムの時とインサラウムの時に見かけた白い機体の黒バージョンが対立し、更にはインペリウムの母艦であるグレートアクシオンが背後に控えていた。

 

確かグレートアクシオンってZEXISが破壊したんじゃなかったっけ? そんな事を寝ぼけ眼で考えている内に巨大戦艦と白かった黒い奴──ややこしいから黒い奴で──は何がしたかったのかそのまま何処かへと消えていき、ZEXIS達もその場から動こうとしない。

 

これをチャンスと見た自分は破界事変の時と同様一番乗りで暗黒大陸へ足を踏み入れるのだった。

 

途中、やたら手入れされてた農園とそこから野菜をちょろまかそうとしたティンプとモミアゲ、あと変なオッサンの三人を見かけたので、一番乗りをする代わりにコイツ等を撃退してやった。

 

何をしたって? 背後から近づいて脅しを何回かやっただけ、大した事はしていない。しかしあのおっさん、強面の割には結構小心者というか……カン=ユーだったか? 何だか親近感が湧いた。

 

自分も結構ビビりだからね。何となくそんなシンパシーを彼から感じた。

 

 

 

V月β日

 

暗黒大陸を旅して三日、遂に俺はグレン団のある人物と遭遇した。その人はカミナシティから遠く離れた小さな孤島、コレハナ島という島にある学校に教師という形で赴任していた。

 

その人物の名は───ヨーコ=リットナー……いや、今はヨマコ先生と呼んだ方が適切だろうか。

 

時空震動で外界から切り離されたこの大陸。俺達のいた世界では一年しか流れなかった歳月が、ここでは十年もの時が流れていたのだという。

 

俄には信じられないが、先程も述べたカミナシティがその証拠。十年もの歳月を掛けて嘗てロージェノムの城だった場所は人間と獣人が共存するカミナシティとやらに姿を変え、そこに地球連邦とは別系統な新政府が誕生していた。

 

シモン君はそのカミナシティを建てた人物で、今や大統領の地位にいるお偉いさん。キタンさんや当時の大グレン団の面々もそこで政府に身を置き、それぞれ与えられたポストで日々の平和を守っているのだとか。

 

まだそのカミナシティには行っていないので何とも言えないが、ヨーコちゃん曰く堅苦しそうだ。元々が自由奔放な日々を送っていただけに型に嵌まった生活はイヤなようだ。

 

カミナシティを出て、暫く奔放の日々を送っていたらこの島と島の住民に出会い、様々な経緯があって現在のように教師をする事になったという。

 

……十年か、長いなぁ。ほんの一年前までは妹みたいな娘だと思っていたのが、再会したら自分より年上の立派なレディになっていたのだから、寂しいような嬉しいような複雑な気分だった。

 

んで、昔話もそこそこにしていよいよ本題。俺からしたら一年前、ヨマコちゃんにとっては十年前の出来事だ。助けを呼ぶと言っておいて実は逃げ出した自分を許して欲しいと、それが自己満足だと承知しながら謝罪したのだが……彼女は全く取り合ってくれなかった。

 

心の何処かで期待していた。ヨマコちゃん……いや、ヨーコちゃんは活発な娘だからきっと気にも留めないで水に流してくれると、無意識の内に思いこんでいた。

 

自分の謝罪すら耳にしないで、彼女は無情な張り手一発だけ自分に向けて放ち、その後の彼女は何も言わずに校舎に戻り、職務を続けた。

 

残された自分はと言うと近くの民家に宿泊させて貰う事にして、腫れた頬と頭を冷やしながら考えて、もう一度明日話をする事にした。

 

自分は彼女を裏切った。幾ら月日が経とうが彼女の中ではその事実は変わらない。だったら自分はもう一度彼女と向き合わなければならない。

 

その為には自分は何度もぶたれようと思う。そして、自分の全てを彼女に話そうと思う。あの時、自分は何をしていたのかを……。

 

取り敢えず今日の話は以上。決意が鈍らない内に早いところ寝てしまおうと思う。

 

しっかし、ここの家の人達はなんというか……随分アレな一家だったな。確か満艦飾とか言ったっけ? 堂々と闇医者名乗るとか、普通に有り得ないだろ。車直しただけで泊まらせてくれたし。

 

いや、別にいいんだけどね。悪い人には見えないし……言動はアレだけど。つーか、普通に車があった事が何気に一番驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日、十年ぶりにアイツと会えた。

 

“シュウジ=シラカワ”十年前にリットナー村に突然現れた外からの人間。当時村の皆はガンメン達の回し者なんかじゃないのかと無駄に警戒していた事を思い出す。

 

彼は、外から来たと言うこと以外は特に私達と変わらない普通の人間で、当時の私は自分達以外に人間がまだ大勢居ることに感激し、感動した。

 

歓迎を込めて狩りにも連れて行ってあげた時もあったが、最初の頃は狩りの一つもできず、よく泣き言を口にしていた気がする。激励代わりにもう少し鍛えるよう発破をかけたつもりが、余計に落ち込ませた事も十年経った今も覚えている。

 

アイツは良く私達を驚かせていた。何せいつもはリーロンに任せっきりだったライフルの手入れをシュウジの奴が行った時はいつもより精度が上がっていたのだ。おかげでリーロンも自分以外で機械に詳しいシュウジと仕事の合間によく話をしてたっけ。

 

狩りの時に使用する罠も、木々を使って雨宿りする程度の簡単な家造りも、アイツは瞬く間に覚えて更にそれを昇華させた。

 

中でも彼の作る料理は絶品で、村の皆も彼が手料理を振る舞う度に小躍りするほど喜んだ。当然私も嬉しかった。……女の私より美味い料理を作れることに少し嫉妬してしまったりしたのも、今はもう良い思い出だ。

 

……一つだけ気になるのは十年前、ガンメン達が複数体で襲ってきた時だ。彼はその時村の皆を連れてくると言ってそれ以降行方を眩まし、当時の私達は途中で何かあったのではないかと心配で村の皆と一緒に辺りを探しにいったものだ。

 

その後、キタンやキヨウ達黒の兄妹達と行動を共にしていたりと色んな所で彼の名前を耳にするから、取り敢えず無事なのだと知り安心した。

 

勿論最初は怒りもした。自分達を見捨て、一人逃げた彼に私を始めとした村の皆は激怒したものだ。けど、リーロンだけは違った。リーロンは村の近くで彼を見たというのだ。

 

恐らくは村のある谷と別の谷を間違えたのだろう。自分達もガンメン達の目から逃れる為に、同じ地形が複数ある土地を選んで数日毎に移動したりしていた。

 

村の者でしか分からない印の上に、狩りの帰りは良く一緒に帰ってたから教えるのも忘れていたし、リーロンは間違えるのも当然だと言っていた。

 

だから当時の事については私達にも非があるのだ。それ以降皆はシュウジの事を悪く言う事は無かったし、寧ろ彼は私達に多くのモノを残してくれた。機械の整備の仕方も分かり易く教えてくれたし、私に料理を教えてくれたりもした。

 

だから今度会ったら謝ろうと思ったのだが、結局この日までそれを口にする事はなかった。

 

十年前と変わらない格好だった。髪だけはうっすらと紫掛かっているように見えたけど、それ以外は十年前と同じ、助けを呼んでくると言ったきり姿を見せなかった彼が、私の前に現れたのだ。

 

出会ってすぐに“ちゃん”呼ばわり、相変わらずの年下扱い。こっちはもう十年も時間が経って、年もこっちの方が上なのにアイツは変わらず私を妹のように扱った。

 

しかも生徒達が見てる前で綺麗になったねなんて口にするモノだから思わず手が出てしまった。見る見る落ち込んでしまう彼に私は何も言えず、逃げるように校舎に戻る事しか出来なかった私は、端から見れば酷い女に見えるだろう。

 

彼は近くの民家に宿泊しているという。小さな村だ。こういう話はすぐ住民の皆の耳に入るから厄介だ。

 

きっと、明日も来るのだろう。いや、来て欲しい。今日の事も謝りたいし、此方の事ばかり話して彼の事を何も聞いていない。

 

ちゃんと謝ろう。そしてちゃんと話をしよう。シュウジ兄さん。だらしなくて、ヘタレだけど、何事にも一生懸命なシュウジ兄さん。

 

ヨーコはあれから大人になりました。そんな私の話を聞いて欲しくて、貴方の話が聞きたくて……だから、きっと来てくれるよね?

 

ダヤッカ? 彼は兄というより……お父さんかな? もしくは叔父さん?

 

リーロンは……お母さんだったり?

 

そういやダヤッカって結婚したんだっけ? 近い内に顔出した方がいいのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、いつもと変わりのない朝に私は気が抜けていた。

 

ガンメン。螺旋王との戦いで散り散りになった奴の元配下達が、村の食料を狙ってガンメンに乗って押し寄せてきたのだ。

 

子供達は今、安全な所に避難して貰っている。私は手にした愛用のライフルを手に奴らを蹴散らそうとするけど……。

 

「駄目だよヨーコちゃん。君は戦ってはいけない」

 

いつの間にか私の後ろに立っていた彼が、私の道を遮るように前に立つ。

 

「……何のつもり?」

 

「今の君は教師だ。先生の君が暴力を振る様を生徒達に見せるのは忍びない。ここは、一つ俺に任せて貰えないか?」

 

「何を言っているの! 十年前にも似たような事を言って貴方は逃げたじゃない! 私は生徒の皆を守る義務がある。そこを退いて!」

 

「……確かに、俺は逃げた。そう言われても仕方がない事をした。けど──いや、だからこそ俺は今、本当の事を君に見せたいと思う」

 

そう言って彼は“奴”を出現させる。幾度となく私達の前に現れては窮地を脱する手助けをしてくれて、けれどそれ以上に謎めいた存在である奴を……魔神が、何もなかった筈の空間をねじ曲げて私の前に姿を現した。

 

「そんな……アナタ、だったの?」

 

私は言葉を失った。あの日、私達を見捨てて一人逃げたと思っていた彼が……。

 

「さぁ、君は生徒の所へ向かうといい。露払いは俺……いや、私が引き受けた」

 

仮面を被ると彼は魔神に乗り込み、ガンメン達を瞬殺。その後は私に何も言わず、言い訳もしないで空の彼方へと消えていった。

 

……どうして、何も言わないのよ。

 

「シュウジ……」

 

消えていった魔神。彼が飛び立った方角へ向かいながら、一言呟く事しか今の私にはできなかった。

 

 

 

 

 

 

その後、コレハナ島の女教師ヨマコはあることを決心。一時的に教師活動を停止。島を後にする事になる。

 

旅立つ前に彼女の残した一言にはこんなメッセージが残されていた。

 

『説教してやらないといけない相手が出来た。ちょっと出かけて風穴開けてくる』

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 




今、主人公は完全に密入国者です。

話の繋がりがおかしかったので修正しました。

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