『G』の日記   作:アゴン

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今回は珍しく長め。




その26

V月G日

 

先日、勢い余ってヨーコちゃんに正体を明かしてしまった自分だが、これはこれで良かったのではないかと思う。

 

幾ら言葉で取り繕っても、あの日自分が逃げたという事には変わりない。実際あの後すぐ逃げたしね、周りの制止の言葉を聞かずに……。

 

ヨーコちゃんの言うとおり、俺は嘘つきだ。だからあの日何をしていたのか真摯に伝えるべきだと思いあんな事をしたし、後悔もしていない。

 

それにこれは勘だが、彼女は人の秘密をペラペラ喋る人間ではないと思う。今後もしヨーコちゃんがZEXISの人達と合流し、参加しても自分の事は秘密にしていてくれるだろうと思う。

 

根拠はないが……しいて言うなら彼女が生徒の皆に慕われている事かな。村の人達からも好かれているみたいだし、裏表の無い人で彼女の持つ明るさが皆を、村を元気付けている。

 

そんな彼女なら喩え蒼のカリスマの正体でもおいそれと誰かに話すことはないと思う。都合の良い言い方だが、自分はそんな彼女を信じている。

 

もしヨーコちゃんがZEXISの人達に自分の正体を話すとしても、別にそれはそれで構わない。その時は情報が出回る前に自分がグレイス=オコナーとそれに連なる連中を叩けば良いだけだ。

 

さて、過去の話はこれくらいにして、次は現在の話をしよう。あの後コレハナ島から離脱した自分はカミナシティに向かい、新政府に勤務しているとされるキタンさん達の行方を追った。

 

テッペリン自体が元々大きいだけにカミナシティも規模の大きな街並みとなっており、最初こそは彼等を探すのは困難を極めると思われたが、意外とあっさりある人物と出会した。

 

キタンさんだ。公園のベンチでカミナ像を見上げていた所を見つけ、久し振りと互いに挨拶を交わしてジュースを奢って貰った。

 

本人は休憩時間だと言っていたけど……どうみてもサボりなのだが、キタンさんのプライドの為に黙っておくことにする。一応俺の恩人さんだからね、一応は。

 

公園で色々話していた後、キタンさんは紹介したい連中がいると言われ半ば無理矢理自分を連れていき、辿り着いた一軒家の中へ入ると、懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

ダヤッカさんとキヨウさん、そしてキヤルちゃんだった。三人とも自分の顔を見るや否や、揃って驚きの声を上げてくれてその後歓迎してくれた。

 

ダヤッカさんとキヨウさんの二人は結婚し、既に子供を身ごもっていた。それだけでも驚きなのに、キヤルちゃんに至ってはとある大手IT企業の社長兼カミナシティの売れっ子アイドルとして活躍しており、この家もダヤッカさん達が結婚する事を記念して贈ったものらしいのだ。

 

当然自分は驚いた。けど、それ以上に十年という歳月を改めて思い知らされ、少しナーバスにもなった。そんな自分の気落ちに反応したのか、次の瞬間からキタンさんの痛烈なローキックが俺のケツに炸裂し、こんなめでたい日にしょぼくれるなと怒られた。

 

その後、成り行きでダヤッカさん達夫婦の家で宴会騒ぎを起こすのだが……いや、俺は断ったよ? 夫婦水入らずな家庭に自分の様な余所者がいるのは空気を読まずにも程があると思ったのだが、ダヤッカさんとキヨウさんは別に気にするなと進んで泊まるように言ってくれた。───良い人過ぎるだろこの夫婦、別の意味で不安だわ!

 

しかもその後の自分の謝罪など軽く流してしまうし、彼等が細かいことは気にしない人間だというけれど……これはこれで複雑な心境だ。ヨーコちゃんの時は頬を叩かれるまで怒られたのに───や、気にしないというのなら別にいいんですけどね。

 

キヨウさんの料理も美味しかった。何でも自分の料理を真似してみようかとアレコレ試していたようなのだ。十年経った今でも自分の事がこうして覚えていられるのは何とも感慨深いものだ。

 

その後、皆と夜遅くまでどんちゃん騒ぎ(主にキタンさんがだが)になり、夜更けに火照った顔を冷まそうと外に出た時、キヤルちゃんから衝撃的な告白を告げられた。

 

『私の秘書兼マネージャーになれ』。そう口にした彼女の目はこの上なく真剣なモノだった。

 

嘗て、俺は黒の兄妹の子分だった。あの頃の自分は毎日が大変で──今もだが──とても未来の事を考える余裕などなかった。もし、あの時のまま自分が黒の兄妹と共に行動していたら、一体どんな未来を迎えていたのだろう? この暗黒大陸の中で十年も過ごしていたら、きっと自分の中の何もかもが変わっていたに違いない。

 

ダヤッカさんの様に結婚していたりするのか、キヤルちゃんの秘書やマネージャーになって一緒に会社興しと芸能業界に精を出していたのか、キタンさんと一緒に新政府で働いていたのか……可能性の数だけ未来が視えてしまう。

 

キヤルちゃんの誘いは嬉しかった。一瞬揺らいでしまったのもあったし、それもいいかもと思う自分がいたりもした。

 

けど、駄目なのだ。今の自分にはやるべき事がある。それを片付けない以上、俺は中途半端な答えを出すわけにはいかない。

 

キヤルちゃんの誘いを……断った。彼女の目を見て、逸らさないでそう応える事しか、自分には出来なかった。

 

どうして、と。そう声を震わせる彼女にやるべき事があるとだけ答えた。

 

歯を食いしばった。自分の事をそこまで買ってくれていたキヤルちゃんを裏切る形で答えてしまった俺は、ヨーコちゃんの時の様に殴られるのを想定し、歯を食いしばって耐えようとした。

 

が、返ってきたのは掠れた声と……見事なまでのハイキック。いっそ惚れ惚れするような痛烈な一撃に俺は星になりかけ、一瞬川の向こうでカミナの兄貴とソレスタルビーイングのスナイパーさんが手を振る姿を幻視した。

 

その後、自分はキヤルちゃんに介抱され、取り敢えずはこれで許してやるとの事。……正直、勘弁して欲しかった。またあのような痛恨の一撃を受けてしまったら、今度こそ自分もカミナの兄貴と同じ所に逝ってしまう。

 

書いてみて思ったが、何気に今回の一件が一番命の危機に瀕してたんじゃないのか? ガイオウとの戦いの最中にだってこんな事は起こり得なかったんだけど……止めよう。これ以上考えると自分の中の何かが崩壊してしまいそうで怖い。

 

兎も角、改めて許しを得られた自分は明日の事を少し考えながら眠ろうと思う。あと、顔を見せていない相手はリーロンさんだけなのだが、あの人は政府の地下にある研究施設から抜け出さず、日々研究の毎日なのだという。

 

流石に政府の極秘機関には入れそうにないし、リーロンさんへの顔出しは諦めるしかないか。キタンさんは何とかしてやると言ってくれたが……もしかして、リーロンさんを呼び出してくれるつもりなのだろうか?

 

確かにそれだと有り難いが、リーロンさんの仕事を邪魔するようで気が引ける。無理だったら良いですよと予め断っておいたが、キタンさんは任せろの一点張りで此方の話を聞こうとしない。

 

酒で酔っているキタンさんを眺めつつ、明日の事は結局明日に持ち越す事になり、自分も今日はもう休むことにする。

 

それにしても、キヤルちゃんは未だに子分が欲しくて仕方ないのか。大企業の社長さんとかアイドルを兼任していたりと色々凄くなってはいるが、そこら辺は変わってなくて何だか安心した。

 

 

 

V月Y日

 

今日は、少し大変な出来事が起こった。まず最初にカミナシティのシモン君が戦闘拡大の罪として逮捕され、今日の夕方頃刑務所へといれられた。

 

理由としては時空震動によって隔たれていた次元の壁が消えた事によって暗黒大陸へと進出してきたアロウズが武力を駆使し、力ずくで従えようと強攻策を取り、カミナシティに攻撃を仕掛けてきた。

 

これに怒りを覚えたシモン君はロシウ君の制止を振り切って戦闘に出てこれを撃退。ZEXIS達も既にこの街に来ていたらしく、彼等と共に後に出てきたインベーダーをも駆逐、ひとまず脅威を拭い去る事は出来た。

 

けれどカミナシティで総司令官という立場に身を置いたシモン君が、勝手な行動を取った事で市民を危険に晒したという事でロシウ君はシモン君を逮捕。十年前とはまるで別人な彼と、彼に付き従うキノンちゃんの変貌ぶりに唖然とした。……俺のことも気付いていた筈なのに無視されたし。

 

シモン君の事も気掛かりだが、今は自分の方を専念させて貰う。何せあのロージェノムからグランゾンに関する話を漸く耳にする事が出来たからだ。

 

事の経緯はこうだ。朝眠っていた自分を突然叩き起こしに来たキタンさん。何事かと思い訊ねてみると、これから自分をリーロンさんの所に連れて行くと言い出したのだ。

 

政府の極秘機関の場所なのに自分みたいな一般人が入っても良いのかと聞いても、「俺は黒の兄妹の長男キタン様だぞ!」の一言でねじ伏せられる。

 

そんなの関係ないんじゃ……そんな自分の疑問などお構いなしにキタンさんは自分を連れてテッペリンの中を進み、地下へと進む。

 

その途中様々な身分審査を警備の人に尋ねられたりしたが、キタンさんは「俺の子分だ!」とだけ言って全ての検問をこじ開けてしまう。無理を通して道理を蹴っ飛ばすというのがグレン団の掟にあったようだが、キタンさんの場合理不尽を押し付けてねじ伏せている感がする。

 

兎も角、そんな経緯があって遂に自分は政府の地下の研究所へ足を踏み入れることに成功するのだが、そこにはリーロンさんの姿や他の職員の人達の姿も見当たらず、あるのは筒状に覆われた何かがあるだけだった。

 

キタンさんもコレには予想外だったのか、珍しく狼狽していると……その時、緊急警報のサイレンが鳴り響いた。先程述べたアロウズの襲来である。

 

キタンさんは取り敢えずここは安全だからお前はここに居ろと言い残し、一足早く地上へと戻っていった。その間自分もそこらの机の下に身を潜めて置こうかと思われた時、それは起こった。

 

地上の戦闘の影響の所為か、突如筒状に覆われたソレは殻が割れた様に開かれ、中から緑色の液体の混じった試験管らしきモノが出てきたのだ。

 

そして、その中にあったのは……生首。しかもそれは螺旋王ロージェノムのモノだった。いや、正しくはロージェノムの細胞から作り出されたロージェノムのクローンと言った方が正しい。

 

そんな彼は自分を見るなり、開口一番にこう言った『お前は何者だ』と。当然何を言っているのか理解出来なかった俺だが、次に彼が口にした言葉で何が言いたいのか理解した。

 

“魔神グランゾン”アレは元々別の人間が所有していた筈の機動兵器であり、お前が持ち得る筈のないものなのだと、彼は言った。

 

当然、自分は問いただした。シュウ=シラカワ博士を知っているのかと、彼の居場所の有無を問い詰めたのだが、彼はそれらに一切答えず、代わりに奇妙な単語を残していった。

 

“黒歴史”そして“黒の叡智”片方は自分でも知っているモノだが、どうやらこの場合意味合いが異なるらしい。黒の叡智に関しては初めて知る名称だから自分としては訳の分からない話である。

 

もっと彼から話を聞きたかったのだが、それ以降彼は語る事なく、電源が落ちた様に眠りに付いた。肝心な話が聞けず、どうしようもなくなった自分は研究所から逃げる様にその場を後にした。幸いアロウズ達やインベーダーの襲来で警備は手薄となり、騒ぎに乗じてテッペリンから抜け出す事が出来た。

 

……今、俺はダヤッカさん達の家の前にいる。後ろにはZEXISの母艦の一つであるマクロス・クォーターが浮かんでいる。恐らくはロシウ君と今後の事について話があるのだろう。ダヤッカさんやキヤルちゃんが見当たらないから二人もマクロスの所にいるのだろう。

 

自分も、これを最後に暗黒大陸を後にする。結局はシモン君と話をする事は叶わなかったが……何、彼の事だ。きっと今回も皆と一緒にこの危機を乗り越える事だろう。それに、彼が知る俺は蒼のカリスマの方の俺だ。シュウジ=シラカワとしての俺が話しに向かっても、彼を混乱させるだけ。

 

仮に蒼のカリスマの姿で会いに行ったら、余計に警戒させてしまう事だろう。それは此方としても望む所ではない。

 

……また、別れの言えない別れになってしまうな。けれど悲観に思うことはない。今回の旅で情報は得られたし、次の目的地もそろそろ決めようと思う。

 

“神聖ブリタニア帝国”あそこも中々胡散臭そうな所だが、これ以上の情報を求めるのなら少しばかり危険な道も覚悟しなければならないだろう。

 

最悪の場合、蒼のカリスマとして世界と戦う事も視野に入れるべきなのかもしれない。ここ最近色んな所で騒ぎが起きてるから、そろそろ……覚悟をすべきなのかもしれない。

 

“黒歴史”そして“黒の叡智”今後の博士捜索の鍵はこれらが主軸になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あら? 今、誰か居たような気がしたのだけれど、気の所為だったかしら?」

 

玄関の向こうで人の気配を感じ取ったキヨウは開けた玄関先で首を傾げる。その時目に入った、足下に落ちていた一枚の紙切れを手にし、途端に頬を緩めて微笑みを浮かべた。

 

そこへ……。

 

「キヨウーーーーっ!」

 

「あらヨーコ、久し振りね。元気だ──」

 

「えぇお陰様で元気よキヨウもダヤッカとの結婚おめでとう&妊娠おめでとう末永くお幸せにあとそして今ここにシュウジのバカがいなかった!?」

 

「え? えぇ、ありが……とう?」

 

怒濤の気迫で迫ってきたヨーコに戸惑うキヨウ。ゼハゼハと息を荒げる彼女にどうしたのかと疑問を抱くキヨウ。そんな彼女たちの背後からダヤッカ達が後を追いかけてきた。

 

「どうしたんだヨーコ、アイツがここに来ているのがそんなに意外か? 確かに奴とは十年ぶりの再会で喜ばしいと思うが、何もそこまで殺気立たなくてもいいんじゃ……」

 

「違うわよ! いい! アイツは、アイツはねぇ! ~~~~っ!!!」

 

言えなかった。今ここで蒼のカリスマの正体をバラしたら彼を敵視するZEXISのメンバーにも知れ渡ってしまう。彼らを疑う訳ではないが、そこから更に情報が漏れたりしたら世界中がシュウジを敵視して、指名手配にでもされたりしたら今度こそ彼の居場所が世界からなくなってしまう。

 

唯でさえ自分達を守ってくれていたという大きすぎる借りがあるのに、そんな事をしてしまったら彼に合わせる顔がなくなってしまう。

 

歯痒く思いながら口を閉ざすヨーコ、そんな彼女を訝しげに首を傾げるダヤッカとキヨウだが、キヨウの手にした紙切れを見てヨーコはふと我に返る。

 

「……所でキヨウ、それ何? 手紙?」

 

「あ、これ? ふふ、彼ってば中々多才の持ち主なのね。私びっくりしちゃった」

 

「何々? へぇ~。アイツこんな才能があったのか。確かに頭良さそうだものなぁ、手先も器用だし」

 

「一家に一人は欲しいわね」

 

紙の内容を見て微笑ましく笑う夫婦、何だと思い横から覗き込んだヨーコは次の瞬間、夫婦とは対照的な憤怒の形相となった。

 

『また来ます』そう一言書かれた文章とデカデカと描かれたダヤッカ達の集合の絵、まるで写真の様にリアルに描かれた内容に誰もが微笑む場面だが。

 

“ヨーコ”だけその絵に描かれていなかった。キタンを始めとした黒の兄妹、ダヤッカやリーロンまでもがいるのにその中にはヨーコの姿はなかった。

 

(あんの紫バカ! 今度あったらあの胡散臭い仮面をひっ剥がして脳天に風穴開けてやる!)

 

やや八つ当たりな怒りだと思いながらも、ヨーコは新たに決意する。とても生徒の前に出す形相ではなかった。

 

怒りを露わにするヨーコ、丁寧に描かれた絵に微笑む夫婦。そんな彼らの姿を遠巻きに一人の少女が空を見上げて笑っていた。

 

(今回は逃しちゃったけど、次は覚悟しときなよ。アンタを私の子分にする事、まだ諦めちゃいないんだからね)

 

チャームポイントの八重歯を見せて微笑む少女。風が彼らを撫でるように優しく吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっきし! 何だ風邪かぁ? 一人旅の風邪は厄介なのに参ったな。風邪薬どこへやったっけ……」

 

とある空の下で鼻水を垂らした青年がいたとか。

 

因みに、ヨーコの“ヨマコ先生”として描かれた絵がとある民家に置きっぱなしになっている事に気付くのは、今回の旅が終わってからだったそうな。

 

 

 

 

 

 

 




ボッチ成分が足りない……。

今回で暗黒大陸の旅は終了、次の目的地はブリタニアだが、更なる試練が主人公を襲う!

次回、第二次スーパーボッチ大戦Z~再世篇“栄光のボッチロード!”

君は、ボッチの涙を見る。

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