『G』の日記   作:アゴン

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今回、ちょっぴりだけ主人公の秘密がバレます。


その29

 

 

“蒼のカリスマ”その名が世界中に知れ渡る事になるのは破界事変の終盤、二人の歌姫の誘拐という事件がきっかけだった。

 

フロンティア船団の歌姫達、ランカ=リーとシェリル=ノーム。この二人をバジュラの巣に誘拐したとされる事件はコロニー、地球問わず全ての人間に衝撃を与えた。

 

当時、攫われた二人はその時の記憶がないという話だったが、彼女達のマネージャーであるグレイス=オコナーが証言し、蒼のカリスマの犯人説は揺るぎないものとなった。

 

世界中に知られる事になる蒼のカリスマ、その存在と目的、全てが謎に包まれた彼の人物像は人々に良くも悪くも刺激を与えた。

 

特にその仮面の姿から当初は黒の騎士団の総帥、ゼロの影武者や寧ろ彼こそが真の親玉など、一時期は突拍子もない噂がネット上で盛り上がる事もあった。

 

しかし、そんな蒼のカリスマの傍らにはある兵器が存在する。“グランゾン”蒼のカリスマと同じ深い蒼を主色にしたその機体は、正しく魔神と呼ぶに相応しい力を備えていた。

 

アザディスタン付近の砂漠に展開していた当時の三大国家の全ての軍の無力化、単騎でインペリウムと戦い、壊滅に追い込んだとされる脅威の力。

 

そして今回、魔神を封印しようと世界の戦力の半分近くを投入した大規模作戦。アロウズの精鋭達やナイトオブラウンズの四人、更に衛星軌道上に用意された戦略クラスの兵器二つを使用する事で行われた作戦。

 

勝つ自信はあった。当然魔神の破壊を目論んだ今回の作戦は、誰もが地球側の勝利に他ならないと確信していた。

 

一年前とは段違いに発達した技術。疑似太陽炉を用いた事でアロウズの軍事力は大幅に向上し、常に新たな兵器が生み出される時代に発展した。

 

ブリタニアのKMFも時代が進んだ事でその機体性能を大幅に底上げし、陸を駆け回るまでが限界だったのに、今では空だけでなく宇宙にまで進出するようになった。

 

そしてその最新の技術を惜しみなく投入された機体に乗るのは帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズ。それも四人が今回の作戦に参加する事になった。

 

人材、技術、そして数。一年前の時とは何もかもが違う戦力に、当時作戦に関わった者達全員が勝利を確信した。

 

そんな彼等の待ち望んだ結果は……惨敗という無惨な報告だった。

 

油断もない、慢心もなかった。ただ、心の何処かで“これなら”という隙があった。奴と戦うには全世界の全戦力を投入すべきだった。

 

…いや、結果は変わるまい。どう足掻いた所で人が魔神に適う道理はなかったのだ。後にこの事件は“魔神激昂”と呼ばれ、後の世代でも人々の間で語り継がれる事になる。

 

やがて魔神はインベーダーや次元獣以上の災厄と見なされ、蒼のカリスマも“魔人”の名を冠する事になる。

 

魔神を操る魔人。“リモネシアを焼き”アロウズを叩きのめした映像は世界中に回る事になり、人々に恐怖を植え付ける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツがリモネシアを焼いた? ふざけた事言ってんじゃないわよ!」

 

マクロス・クォーターにある居住区、そこにある憩いの場として設けられた場所で、新聞紙を床に叩き付けながらヨーコが叫んだ。

 

興奮気味で吼える彼女を隣に座っていたルゥが宥める。そんな彼女を一瞥した後、この場に集った者達のまとめ役として買って出たアスランが話を進めた。

 

「もう一度話を纏めよう。俺達が“黒のカリスマ”の一人として思い込んでいた“蒼のカリスマ”それは俺達がこの世界で度々耳にしたシュウジ=シラカワで間違いないな?」

 

アスランのその言葉に全員が頷き返す。“黒のカリスマ”嘗てZEUTH達のいた世界でネット上で話題を振り撒いていた人物。その正体の名はジ=エーデル=ベルナル、自分が面白おかしい世界にする為というそれだけの理由で、世界を混乱の中に陥れた愉快犯。

 

黒の叡智となるモノに触れ、驚愕な手法でZEUTHを窮地に追い込んだ彼は、結局はZEUTHの底力に負けて消滅する事になる。

 

ZEUTHはそんな黒のカリスマと蒼のカリスマは関わりのある人物だと思いこみ、これまで警戒し、中には敵視している者もいた。

 

だが、それは違うとヨーコは断じた。先のリモネシアでの出来事といい、一度冷静になって蒼のカリスマに関する情報をまとめる必要があると判断し、リモネシアを覆った炎を鎮火させた後、付近の近海で艦を停泊させ、ヨーコを中心に話し合いを始めた。

 

蒼のカリスマの正体、そしてシュウジの事、彼がどういった人物だったのか彼女が話すに連れて、少しずつ警戒を解く者もいれば、未だに警戒したままのものもいる。

 

確かにシュウジは悪い人間ではないのかもしれない。だが良い人間を演じて騙そうとする人間を数多く見てきた彼等からすれば、素直に受け入れる事ができないのもまた事実だ。

 

アイム=ライアードやジ=エーデル=ベルナル、人を騙す事に優れた者達の狡猾さを身に染みて知っているZEUTH側からすれば、シュウジ=シラカワもまた疑うべき人間の一人。

 

ヨーコの話を全面的に信じている者が居るとすれば、シモンとキタンの二名のみ、嘗て自分の事を励ましたり、妹を助けてくれた借りがある彼等からすれば、シュウジ=シラカワという人間は信じてみたい人種に入る。

 

「だから! アイツはそんな悪巧みをするような甲斐性の持つ人間じゃないの! ビビりでヘタレなごく普通な人間なの! カレンだって知ってるでしょう! アイツがドンだけへたれなのか!」

 

「え? う、うん……確かにそうだったけど」

 

中々信じてくれない皆に苛立つ声を上げるヨーコ。埒が開かないと今度は自分と同じシュウジという人間を知るカレンに同意を求めた。

 

だが、望んだ返事とはほど遠い曖昧な声にヨーコの表情が曇る。カレンもヨーコの言葉を疑うつもりもない。何せ最初に会った時は、彼女の言うヘタレがこれでもかと具現化された姿だったのだ。周囲の荒くれ共に怯えながらゲットーの町を歩く彼の姿を今も思い出せる。

 

けれど、それ以上に印象的なのは朱禁城で出会った時の事。不敵な笑みを浮かべながらゼロと互角のチェス勝負を繰り広げる彼の姿の方が、印象としては強烈だった。

 

少数の人間しかシュウジを信じられないと思う中、意外な人物が会話に割って入る。黒の騎士団の総帥ゼロだ。

 

「……シュウ=シラカワ。確かに彼はそう名乗った。なら、可能性としてもう一つ別の考えがこれで浮かんでくる」

 

「? どういう意味だ? ゼロ」

 

「簡単に言えば、今シュウジ=シラカワはシュウ=シラカワなる人物の支配下におかれており、自ら行動出来ない状態にあるとするならば、彼の蒼のカリスマとしての行動もある程度理解できるという事だ」

 

「つまり、蒼のカリスマの時はシュウ=シラカワが人格として活動しており、そうで無い時はシュウジ=シラカワとして動いていると?」

 

「そうなるな。そしてこれも推測だが、それら全ての鍵を握るのは……」

 

「グランゾン。あの機体が二つの人格を入れ換える装置だというのなら、確かに一応辻褄は合うな」

 

ゼロの話に頷くカミーユ。だが、これらはあくまで全て推測に過ぎない。勿論鵜呑みにはしないし、かといって無視する訳にもいかない。

 

「結局は、何も分からない事だらけなのか……」

 

シュウジとシュウの関連性、本当にシュウに支配されているのか? 目的はなんなのか、それらが全く解明されていない現状では誰も確信に至れる筈もない。

 

そんな中、一人の少年が手を挙げる。ICPOの一員であり鉄人28号を操る少年、金田正太郎だった。

 

「あの、一つ気になる事があるのですけど、良いですか?」

 

「気になる事?」

 

「はい。そもそもどうしてアロウズはリモネシアを標的に選んだのでしょう? それにそこへ現れるグランゾンのタイミングも不自然だし……これってリモネシアを焼いた事によってグランゾンをおびき寄せたと言った方が自然と思えるのは僕だけでしょうか?」

 

正太郎の言葉に黙り込む一同、確かにそれも気になる話だ。あの時現れたグランゾンのタイミングは自然に遭遇したというより、寧ろ誘い出されたと言った方が正しいと思える。

 

思えばカラミティ・バースの時もそうだった。ガイオウの出現とほぼ同時に現れたグランゾン。ガイオウと蒼のカリスマに何らかの関係性があるのかと当時は思い込んでいたが、実際は別なのかもしれない。

 

蒼のカリスマがリモネシアに何らかの思い入れがある? 新たな疑惑に全員の頭に疑問符が浮かんだ時、ブリッジから連絡が入る。

 

『リモネシアの難民、全て収容しました。生活班の皆さんは至急支援物資の搬送をお願いします』

 

その通信連絡を耳にした非戦闘員の生活班はこれで失礼しますと挨拶だけ残してその場を後にする。残った他の面々もひとまずは今後も蒼のカリスマとグランゾンには注意しようという結論で、その場は解散となった。

 

納得しかねる様子で去っていくヨーコ、そんな彼女をカレンが宥める姿を後目に、唯一残ったカミーユは一人物思いに耽る。

 

(……本当にシュウ=シラカワはシュウジなる人物の人格を支配しているのか? アレはどちらかと言うと眠ったシュウジの代わりに出てきたと言った方が正しいんじゃないのか?)

 

最後の通信でシュウ=シラカワと対面したカミーユは奇妙な違和感を感じた。あの時の彼は確かにこの上なく胡散臭かったが、別段悪意やそう言った類の邪念は感じる事は無かった。

 

そう、破界事変の時初めて相対した彼から感じ取ったものとまるで変わっていないのだ。子の成長を見守るような親の視線、蒼のカリスマの背後から感じたモノと同じモノをあのシュウから感じ取れた。

 

(……やはり、俺だけでは結論を出すことは難しい。アムロ大尉、早く此方に合流してくれ、もしこのまま擦れ違ったままだと、いつか取り返しのつかない事態になりそうです)

 

答えの見えない謎。一人で答えを出すには危険すぎる謎にカミーユは行き詰まり、カミーユは今は此処にはいない人物との邂逅を望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、まずは自己紹介から始めましょうか? 私の名はシュウ=シラカワ。アナタがずっと探していた人物です』

 

……えー、初めましてシュウ=サン。俺の名はシュウジ=シラカワです。てか、ここは一体どこよ? なんか星々が見えたり銀河っぽいものまで見えるんすけど……何これ? 集合無意識の中?

 

『ほう? 初見で此処がどこだか察しましたか。確かに似ていますが……残念ながら正確には違います。ですが僅かな情報でそこまで言い当てるその聡明さには敬意を評しましょう』

 

やべぇ、なんか知らないがいきなりあのシュウ博士に褒められた。嬉しいけど適当に言葉を言った此方としては凄い複雑な心境。

 

というか、あれから自分はどうなったのだろう? そして、リモネシアの皆は無事なのだろうか。シュウ博士が何故自分の目の前にいるのかも疑問だが、まずは其方の方を解消させたい。

 

『そうですね。では端的に説明しましょう。まずはあの島にいた人々は結果的には無事です。炎にやられ火傷を負った負傷者もいますが、死傷者や重傷者は見受けられません。皆、ZEXISの人達から手厚い保護を受けていますよ』

 

シュウ博士のその言葉に俺は深く安堵した。よかった。あの炎の中で皆脱出できたんだ。一番知りたかった情報に、俺の肩にのし掛かっていた重りがスーッと軽くなる錯覚を覚えた。

 

ZEXISに保護されたというのも安堵した理由の大きい所、彼等に保護されたと言うのなら、今後皆が人質に取られる事は殆ど無いだろう。唯一心配なのはシオさんに関してだけど……そこは皆が何とかしてくれると思い、触れるのはやめておく。

 

『その言い分だと、どうやら心得ているようですね? アナタがもうあの島に関わる事は二度と出来ないという事が』

 

……そうだ。シュウ博士の言うとおり、俺はもうリモネシアに関わる事は出来ない。何せ世界中に知られてしまったのだ。リモネシアと自分、蒼のカリスマが何らかの関わりがあるという事を。

 

次に自分が近付けば今度こそ世界はリモネシアに敵意を示す。唯でさえ一部の連中には自分のことがバレそうになっているのに、もし近付いたりしてその事を誰かに見られれば、それはもうリモネシアの終わりを意味してしまう。

 

漸く落ち着ける場所を見つけたのに、やっと自分の帰れる場所を見つけたのに……世の中、中々上手く回らないものである。

 

寂しい。けど、悲しくはない。自分の帰る場所はなくなってもシオさん達の場所はまだ残ったままだ。あの空からの戦略兵器の攻撃も一瞬たりとも通さなかったし、戦いの傷はそれほど残さなかった筈だ。

 

後は皆が何とかしてくれる。勝手な言い分だけど彼等ならあそこからでもリモネシアを立て直せる事を信じている。

 

対して、自分に出来ることは限られている。再びアロウズやブリタニアの背後にいる連中が何かしでかす前に、俺が早い内に終わらせてやる事。

 

そして、その為に必要なのはシュウ博士、アナタの持つグランゾンの存在が必要不可欠だ!

 

だから頼む! もう暫く俺にあの機体を貸してくれ!

 

不思議空間の中、シュウ博士に深々と頭を下げる。断られる事が確実なのは重々承知だが、それでも今はこの人の力とグランゾンが必要なんだ。

 

恐らく、俺がグランゾンを動かせたのもこの人のお陰なのだろう。この人がグランゾンに何かを仕込ませた事でこの短時間の内にエースと言われる人達と戦えるようにしてくれたに違いない。

 

……俺が頭を下げ続けてどれ位たっただろう? 不思議空間の所為で時間の感覚が無くなっている今、シュウ博士の返ってくる反応に何時間も経過している様な錯覚を覚えていると──呆れた様な深い溜息が聞こえてきた。

 

何だと思い顔を上げると、そこには頭を抑えながらやれやれと首を横に振る博士の姿が……え? どしたの?

 

『全く、まさか今までそんな事で悩んでいたとは、てっきり帰る方法を教えてくれとせがんで来るかと思ったのに……まぁ、いいでしょう。私の望む返答も頂きました。要するにアナタは自分を利用した輩に報復をしたいと、そう言うのですね?』

 

 ……え? そ、そうなるのかな? 確かに向こうは自分がリモネシアに来ることを予測して待ちかまえていたみたいだし、そいつ等を叩き潰すと言うことはそう言うことに……なっちゃうのかな?

 

『では、二つの勘違いを正す事で今回の邂逅は終える事にしましょう。利用してくるモノは何人たりとも許さない。ククク……流石は私の半身、嬉しい事を言ってくれますねぇ』

 

……あれ? 今さらりととんでも無いこと言わなかった? え? 半身? ど、どどどどどういう事だってばよ!?

 

激しく狼狽する自分の言葉にシュウ博士は耳を貸すこともなく、博士は二つの事実を俺に突きつけた。

 

『まず一つ目、アナタの操縦技術は確かに私がキッカケとして与えたモノ、ですがそれだけです。そして二つ目、そのグランゾンは私のではなく、アナタのグランゾンという事』

 

………………はい?

 

『では、次の機会にまた逢いましょう。近い内に、必ず』

 

博士のその言葉を最後に、強制的に俺の意識は遠のいていった。

 

その最中、僅かだけど耳にした。

 

『頑張りなさい。シュウジ=シラカワ、私の因子を最も色濃く受け継いだ男よ』

 

その声はどこまでも優しく、どこまでも透き通って聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………今のは、夢だったのだろうか? 眠りから目が覚めた自分はベッドから降りて辺りを見渡して現状の確認を急ぐ。て、あれ? ちょっと待って、おかしくない? 何で俺ベッドの上にいるの? そこは普通グランゾンのコックピットにいるものじゃないの?

 

しかもこの部屋、なんかスゲェんだけど。装飾とか余計な飾りはないけど、一つ一つの家具がメッチャ品質がいいの。もうそこらのスイートホテルなんぞ目じゃない位に凄いの。何これ? どこかの一流ホテル? 星幾つあるの?

 

尽きない疑問に整理できない状況に混乱する中、扉が開かれ、一人の男性が部屋へと入ってきた。ホテルのボーイさんかなと思った次の瞬間、俺の思考は完全に凍り付いた。

 

だって、その人は……。

 

「どうやら目が覚めたようだね。私の事は覚えているかな? 蒼のカリスマ、……いや、シュウジ=シラカワ君?」

 

OZの一番偉い人、エレガント閣下と名高いトレーズ=クシュリナーダさんじゃないですかヤダー♪

 

つか、正体ばれてるぅぅぅぅぅぅっ!?

 

 

 

 

 




次回からは再び日記形式……に、なる予定。

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