K月T日
何だかこの日記を書くのも久し振りに感じるが、取り敢えず落ち着いてきたところなので再び執筆を再開しようと思う。
まず最初に自分ことシュウジ=シラカワについてですが……バレてしまっています。自分が蒼のカリスマだって事とグランゾンのパイロットだと言うことが、まるっと全てお見通しになっていました。
しかもその相手がエレガント閣下で知られるトレーズ閣下に……もうね、俺の人生デッドエンドかと思ったよ。これで世界中の人々に自分の存在がバレて行き場無しのボッチルートまっしぐら確定かと思ったよ。
けれど、あの後幾ら情報を調べても自分=蒼のカリスマの情報を得た事がない。ネットで探してもそんな話は欠片も出てこなかった。
不思議がる自分にトレーズ閣下は言った。「誰かに公言するような真似はしないから安心しなさい」と、勿論最初は信じなかったよ? 幾らトレーズ閣下が人格者でも……いや、人格者だからこそ自分という存在は許せないものなのではないだろうか?
既に世間では自分はインベーダーや次元獣以上の災厄として認定されている。奴等の情報操作でリモネシアを焼いたのは俺だとされているから、世界からみた自分は悪魔にしか見えないだろう。
……まぁ、確かにリモネシアを焼いた事実を俺に押し付けた連中のやり方には頭に来るよ? 頭に来るけど───ぶっちゃけその方が自分にとっても都合が良いんだよね。
何せ向こうから自分とリモネシアの関連性を否定しているのだ。これで地球連邦はリモネシアを意味もなく攻撃することは出来ない。もし仮に攻撃したら、その時は彼等の信頼の失墜を意味しているからだ。
唯でさえ世界の現戦力の半数近くが削られたのだ。情報統制で数を誤魔化したとしてもグランゾンに敗北したという事実は変わらない。
実際、ネット上ではグランゾンがアロウズ艦隊を蹂躙している映像がアチコチで出回っている。すぐに運営などが映像の削除の対応に追われているが、人々の口を直接閉ざす術は持っていない。
噂が広まり、疑問を抱かれ始める連邦はそう簡単に動くことは出来ない。唯でさえ全戦力の半数近くを消失させたのだ。軍備を整える為には時間がまだまだ全然足りない。しかも他の勢力に対する牽制もしなくてはならないのだから、地球連邦政府の連中は対応に追われて自分を追う処の話ではないだろう。
リモネシアにももうあれほど大規模な干渉行為はしてこないだろうし、島の皆がZEXISに保護されているのなら、連中もおいそれと手を出すことはできない筈。これが今自分が安心している理由の全てだ。
……と、随分と逸れてしまった所で話を戻そうと思う。何故トレーズ閣下が自分を匿うのか、それは───直接シュウ博士から話を聞いたらしいのだ。
もうドッと疲れたよ。自分が意識を失っている合間に色々手を回していたみたいだし、トレーズ閣下はそれらを全て承知の上で自分を匿っている事から既にそこに自分の話を挟む余地は無かった。
そんな疲れた自分に閣下から渡される一杯の紅茶、あれを飲んだらヤケに気持ちが落ち着いた。紅茶に使われるハーブは高ぶった気持ちを落ち着かせる効能があるらしいが……成る程、確かに気持ちが落ち着く一杯だ。
その後トレーズ閣下の計らいで暫くここで厄介になることになり、食事も出して貰った後は暫く閣下と談笑し、この日はこれで終了となった。
……今更ながら思うのだが、俺ってばかなり失礼な事してない? 閣下に紅茶を淹れてもらったり、食事まで賄って貰えるとか、どこのVIP待遇だよ。
今更ながら手が震えてきた。俺、ここではどんな扱いになるんだ? 唯の客人に対してというのも手厚過ぎる歓迎だよね?
よし、考えるのは止めよう。庶民が何を考えたって無駄というものが世の中には存在するのだ。うん、そうしよう。
取り敢えず今の自分は少し情報を纏める時間が欲しい。取り敢えず今は体を休めることを専念し、今日の所はこれで終わろうと思う。
……寝る前に鏡を見つけたのだが、俺の髪は前以上に紫掛かっていた。コレがシュウ博士の言う因子に関わる事なのだろうか。
K月☆日
さて、今日は昨夜に言ったとおり、情報収集に勤しもうと張り切る自分だったが、朝目覚めると同時に執事の人が自分に一着の服を渡してきた。どれもこれも凄く高級感のある素材で出来ており、白のロングコートなんて自分が露天で買った嘗ての代物とは天と地程に価値が違うモノだ。
値札も無かったし、着心地の良さから相当質の良い生地で作られたのだと思うが、何でこんなモノを着なくてはならないのかと俺は気が気でなかった。執事さんが言うには閣下からのご厚意なのだそうだ。
……重てぇ、こんな厚意を受けとる事がこれまでなかった自分としては、閣下の気遣いがもの凄く重かった。グランゾンの“グラビトロンカノン”で沈んだ連中もこんな気持ちになっていたのだろうか。
ひとまずそれに着替えた後、執事さんの案内の元に執務室へ案内された自分はそこで昨日会った閣下と出会う。ひとまず失礼の無いようにまずは朝の挨拶から始めたのだが……スゲー眩しい笑顔と一緒に挨拶を返された。
これがエレガントの力か! なんてバカな事を考えながら早速渡された服の事を訊ねたのだが……なんと、オーダーしたのはシュウ博士からだったらしい。
何してくれてんの!? と叫ぶ余地などなく、庶民である自分は冷や汗だらだらモノで大事にしますとだけ返して受け取る事にした。いやね、シュウ博士も閣下も悪気がないのは分かるけど、正直こういうのはホント勘弁して欲しい。今度こそ胃にワームホールが開いてしまいそうなんだ。
まぁ、そんな話はひとまず置いといて、まず自分はシュウ博士だった頃の自分とトレーズ閣下との出会いの経緯について話を聞かせて貰った。
話を聞く限り、閣下はOZの総帥から事実上追放され、自宅で謹慎中だった時、執務室に突然乱入者が入ってきたらしいのだ。
その乱入者がシュウ博士で、面白い話を聞かせる代わりに自分を少しの間匿って欲しいとのこと、その時に序でとばかりに服を頼んだりしたらしいのだ。
……俺、もうゴールしていいかなぁ? なんでそんな盗賊紛いな事しちゃうのぉ? しかも面白い話とか完全に俺に丸投げしちゃってるじゃん。無茶ぶりってレベルじゃねーんだけどぉ!?(───以下、ボッチの泣き喚きの文字が乱立中)
───兎に角、閣下の退屈さを紛らわす事を理由に人身御供扱いされた俺は、その場は苦笑いを浮かべ執務室を後にするしか出来なかった。その際、楽しみにしているよと笑う閣下が自分には怒っているように見えた。……近い内、夜逃げする準備した方がいいのかもしれない。
執務室で閣下とそんなやりとりを終えた後、俺は昨夜と同じく執事さんにお願いして小型の情報端末を拝借して、……自分が眠っている合間、何があったのかを調べる為にある程度覚悟して蒼のカリスマとグランゾンの事についてネットダイブを繰り返したのだが……結果はやはり昨日と同じだった。
これ以上この事を調べても有益のある情報を得られる様子もないので、ひとまずこの話は置いといて、今はある仮定の話を進めようと思う。
お題は、アロウズの背後にいる連中は自分の正体を知っているか否か。
端的に言えば十中八九バレていると思う。それもただ蒼のカリスマの正体が自分だという事ではない。“リモネシアに思い入れのある自分が蒼のカリスマだと言うことを知っている”という事だ。
ただリモネシアに関わりのある人物が蒼のカリスマという事だけで、彼処までの大部隊を用意させるには説得力が足りない。もっと確信的な情報を絶対条件にしなければ大胆な行動は取れない筈。
だが、問題は誰が自分の正体を知っているかだ。グレイス=オコナーはあくまで蒼のカリスマとしての自分しか知らない筈。それ以外の連中にバレる様な事はしていない筈だ。
ヨーコちゃんについても同様だ。彼女が人の秘密をおいそれと暴露する人ではないことは断じられるし、信じられるからこそ自分はコレハナ島で自ら正体を教えたのだ。
では一体誰が? そう思った時、ある人物の名が頭に浮かんだ。日記を読み返して調べて見たら……いた。自分の正体を知ってそうで且つ秘密裏に行動していそうな奴が。
“アイム=ライアード”リモネシアで初めて遭遇した奴は、まるで俺の事を知っているような口振りで近付いてきた。
もし奴があの時既に蒼のカリスマの正体に気付いていたのなら、あぁも馴れ馴れしく近付いてきたのも何となく理解できる。それにコイツの二枚舌ならそこらの組織に潜り込む事なんて容易い作業だろう。
だが、ここで一つ問題があった。もし奴が俺の正体を知っているのであれば、決定的なアリバイがその仮定を否定する事になる。
破界事変の時、南極に現れた大量のイマージュの出現と同時に現れた奴は当時のZEXISにより敗北、死亡したとされている。
当時、インペリウムの頭目だったガイオウ自身が俺にそう言ったのだ。アイムは死んだのだと。
あの時のガイオウに嘘をついている素振りは無かった。何より奴の性格上必要のない嘘は付かない奴だと俺は思う。根拠はない、強いて言うなれば実際相対した者の勘としか言いようがなかった。
これでは俺の仮定も中途半端に終わる。けど、それでは余りにも俺の気持ちが収まらないので、無茶苦茶だが更なる仮定をぶち込んでみることにした。
もし、あのアイム=ライアードにガイオウの目を誤魔化すほどの超常の力を有しているのなら、それなら少しは説明が付く。
例えば……そう、どこぞの大嘘憑きの様に自分の死んだ事を嘘にしてしまえる力……とか、そんなものが実在するのならガイオウの目を欺く事だって出来るのではないだろうか?
根拠は依然としてない。だが、どうしても奴のあの鼻に付く嘘っぽい喋り方が気になるのだ。最初は自分の心理を相手に読ませないブラフか何かかと思うのだが、シュナイゼル殿下の全く読めないポーカーフェイスと比べるととても陳腐に思えてしまう。
シュナイゼル殿下のポーカーフェイスを自然と混じることで相手に目の錯覚を起こさせる擬態とするならば、対するアイム=ライアードは科学技術の全てを使って無理矢理見えなくする光学迷彩の様なもの。
陳腐というより……そう、無粋に思えてしまうのだ。何でもかんでも優れた力で解決してしまおうという考えが滲み出る嘘が奴の一端に思える。
けれど、そんな力が本当にあるのか? ……いや、ある。これも推測の域を出ない仮定だが、そんな凄い力を有するモノが確かに存在している。
“スフィア”確かこれはクロウさんの乗るブラスタにも搭載されていると前に一度聞いた事がある。
アサキムもあのZONEが最初に現れた街で一度やり合った時、スフィアがどうたらと言っていた気がする。
そのスフィアが何なのかは知らないが、少なくとも普通のエネルギーではない事は確かだ。ゲッター線とも光子力エネルギーとも違う別のエネルギー、それは一体何なのか。
そして最終的にアイムの奴が生きているのなら、何故俺の事を世界中にバラさない? 人の弱みをここぞとばかり狙いそうな奴が、何のアクションも見せないのも不気味だ。そもそも……(日記はここで途切れている)
K月β日
昨日、日記を書いている途中トレーズさんの邪魔が入った。何でも自分の仕事が終えたから私の鍛錬につき合って欲しいとの事。
トレーズさんは剣の使い手だ。自分の様な素人では相手にならないと最初は断ったのだけれど、ならば無手で相手をしようと強引に連れていかれた。
道場らしき荘厳な場所で行われたトレーズさんとの組み手は……一方的な展開から始まった。
というか、あの人空手とか柔術とか日本の武術も一通りこなせたのね。お陰で自分の体のアチコチに痣が出来て酷い有様だ。
尤も、やられていたのは最初だけ、次第にトレーズさんの動きに付いていけるようになった俺は仕返しとばかりにトレーズさんに殴り返した。
正直腹が立っていた。いきなり人を呼びつけておいて一方的に殴られるのは癪に障るし、しかも終始見下した態度、俺は相手が元とはいえOZの総帥相手に思いっ切り拳を振り抜いた。
勿論最初こそは当たらなかったし、逆にカウンターを貰う始末。けど先程もいった様に俺も彼の動きに少しずつ付いていけるようになり、此方の攻撃も当たる様になった。
そこからは唯の殴り合い、技もクソもない単純な殴り合い。何でこんな事してるんだっけ? と、そんな事を考える内に俺とトレーズさんとの喧嘩は唐突に幕を降ろした。
クロスカウンターによる相打ち、漫画みたいな終わり方に俺達は暫く笑いが止まらなかった。
そして、お互い頭を冷やした後、俺は訊ねた。何でこんな事をしたのかと。
そう言って彼が返してきたのは「男の友情は拳で語るモノだと聞いた」と返してきた。その情報源はどこからですかと訊ねると、以前屋敷に訊ねてきた不動さんという人物からだそうだ。
……不動さん、アンタ仮にも閣下相手に何してくれてんの? というか何でトレーズさんにそんな情報与えた!?
後から聞いた話だと、ここにシュウジと名乗る青年が近い内に来るから、その時にこの手法を取るといいと勧められたそうだ。なんであのオッサンは俺が……いや、博士が来るのを予見していたんだ? ホント何者だあの人。
それで、その言葉通り自分が来たものだから謹慎中の身だったトレーズさんは大感激。これはもう殴り合うしかないと意気込んだそうだ。
これも中々楽しいものだと笑うトレーズさん。俺もこの人の顔面に何発か入れて顔を腫らしているのに、相変わらずエレガントです。
で、その後自分たちは道場で少し話をした。内容は単純にして複雑、現状の世界についてだ。
当然歪んでいると俺は答えた。別に真実が必ずしも世界の為になるとは思わないが、それでも今の地球連邦のやり方には腹の立つ部分が多い。いちいちやり方が姑息だし、都合の悪い情報は全て別の相手に押し付ける。そんなやり方だから反抗勢力なんて生まれてしまうのだ。
しかもインベーダーを始めとした宇宙からの侵略者も地球を狙っているのに、ホントアホかと言いたい。
だから地球圏内で今も争いが絶えないんだと愚痴をこぼすと、トレーズさんは言った。「戦いは本当に悪なのかと」
それに思わずこう言った。戦いに善も悪もあるものかよと、あのトレーズ=クシュリナーダに啖呵を切った。
戦いとは命と命の奪い合い、殺し合いの別称だ。そこに善悪の挟む余地はない。殺した相手は一方的に自身が正義だと主張し、殺された方は罵られる。遙か古より人間のみが続ける行いだ。
苛烈にして熾烈、その凄惨さ故に人々は恐怖し、そして……平和の尊さを知る。もし戦いを勝利や敗北以外で決着を着けるのなら、それは戦いに巻き込まれた第三者が止めるか互いに武器を収めるしかない。
それが出来ないから、今も戦争が続いている。そう答えるとトレーズさんは俺を試すように訊ねてきた「君は敗者になりたいのか?」と。
いや知らんし。第一、俺は戦いなんて基本的に嫌いな人種だ。平和万歳。平和を謳歌して畳の上で大往生で逝きたいものである。
だが、その前にやらねばならない事がある。リモネシアを焼いた連中と人を陥れた奴を一人残らず叩き潰す。敗者とか勝者とか、それを語る余裕など今の自分にはないのだ。
ただ、もし敗北する事で誰かに何かを伝えようとするというのなら、俺は多分軽蔑や称賛とは別の感情を抱くと思う。何せ、敗者に価値を見いだす人の言うことだ。俺程度の人間が彼の考えを計ることなど出来やしない。
そう言うとトレーズさんは満足そうに笑ってくれた。君と話せて良かったと、トレーズさんは笑いながら俺の手を取って俺を友だと呼んでくれた。
しかも向こうも自分のことを閣下ではなくもっと気安く呼んで欲しいと許しを貰えた。いやー、人生何が起こるか分からないモノである。
……最後までエレガントな人だったなぁ。ああいうのがカリスマだと言うのなら、あそこまで器が大きいのも納得できる。
今、俺はトレーズさんの屋敷を出てある所に向かっている。この世界で最も標高の高い建造物の一つである軌道エレベーターのあるアフリカタワーである。
視点の高い場所に行けば考えも広くなるかなぁなんて安直な考えのもと、俺はタワーへと向かった。
……トレーズさん。何気に俺がこの世界に来て初めて向こうから友達だと言ってくれた人。俺はあの人の事を生涯忘れないと思う。
え? シュナイゼル殿下はどうしたって? ……あー、いや。別に忘れてなかったよ? ただ友達というか知り合いというか……うん、他意はないよ。
ホントダヨ?
◇
「……シュウジ=シラカワ、その身にもう一つの人格を宿した魔人なる青年よ。君との出会いは私の人生の中で大きな糧となった。感謝しよう」
シュウジが屋敷を後にする様を執務室から眺めるトレーズは微笑む。
良い時間を過ごした。長い間人と接してきた中で、彼と過ごした僅か数時間の相対は、彼の人生の中でも大きな跡を残した。
無理矢理道場に連れて行き、最初こそは一方的にやられる彼だったが、驚くべき学習能力で此方の動きを読み取り、自分のモノへと昇華させていた。
大したモノだと、トレーズは思った。勉学にしても戦いにしても、あそこまで真摯に受け止める者は嘗ての友人以外に見ることのなかったトレーズとしては、シュウジとの殴り合いは心地よささえ覚えた。
頑張って欲しい。今後彼に訪れる困難を想像したトレーズは、去り行く青年の背中に心の内でエールを送る。
その時、執務室のドアが開かれ、一人の少年がズカズカと乗り込んできた。そんな少年の態度にもトレーズは笑みを絶やす事なく振り返る。
「トレーズ=クシュリナーダ、俺に一体何の用だ」
「……ヒイロ=ユイ、君に渡したいモノがある」
そう言って執務室を後にしようとするトレーズだが、一度だけ名残惜しそうに振り返る。
『俺は戦いの善し悪しなんて分かりません。実際戦争に巻き込まれて多くの人間が死んでいきます。……俺は戦争を肯定できません。けど、誰かの為に戦う兵士まで否定する事も、俺にはできません』
(充分だ。その言葉が聞けただけで私は君と出会えた事に意味を見いだせるよ)
(さらばだ。シュウジ=シラカワ、私の数少ない友よ。もし叶うのであれば、次にまみえる場は戦場以外の所で会いたいものだ)
もう、道は引き返せない。今後自分の往く道を見据えながら、トレーズはヒイロと共に地下へと降りていった。
いつかこの世界の住人に
「ぜ、前言撤回! 驚きました!」
と、言わせたい。