『G』の日記   作:アゴン

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今回は主にブリタニア側の視点から書いています。

次回も日記要素はありません。




その31

 

 

────ブリタニア、帝都ペンドラゴン。皇族や多くの貴族達が住まう地、いつもはその豪華絢爛さと賑わいで活気づいていた街が、今は嘘のように静まり返っている。まるで何かに怯えているように過ごす彼等は、常にある存在の名を口にしていた。

 

“魔神”グランゾン。地球連邦の直属の部隊であるアロウズとブリタニア帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズを完膚無きまでに叩きのめした脅威の怪物。

 

そして“魔人”蒼のカリスマ。魔人と魔神、二つの強大な存在に叩きのめされた事により世界……中でもブリタニアのショックの大きさは計り知れなかった。

 

最強の騎士であるナイトオブラウンズが四人も参加したのに惨敗、彼等の力を良く知る貴族や皇族はその結果に打ちのめされていた。

 

ナイトオブラウンズが集うキャメロット。先の作戦でどうにか生き残る事が出来た彼等の報告により、ナイトオブラウンズ達は声を失って俯いていた。

 

「……戦闘データ、見せてもらったわ。凄まじいのね、例の魔神は」

 

「正直、勝てる気がしなかった。相手がデカくて機動や初動は此方が圧倒的有利になっていたのに、まるで歯が立たなかったよ」

 

「気付いたら、後ろに立ってた」

 

ナイトオブラウンズのNo.6と3、ジノとアーニャの口から語られる魔神の底なしの強さ、当事者だけあって震えながら語る二人の説明からは、魔神の恐ろしさが嫌でも伝わってくる。

 

「……奴は、ルキアーノはどうした?」

 

「ブラッドリー卿なら、戻ってくるなりずっとトレーニング室に籠もっているわ。奴自身は次こそ魔神を仕留めると意気込んでいるけれど……正直言って、奴の怖さを紛らわしているようにしか見えないわ」

 

「……そうか」

 

作戦に参加したナイトオブラウンズの全員が恐怖を刷り込ませられている。歴戦の強者であり帝国最強の名に相応しい実力を有した騎士達が悉く戦意を折られている。

 

同じナイトオブラウンズのモニカは彼等のことを最初は軽蔑した。オメオメ負けたまま逃げ帰ってくる彼等を内心で罵倒した。

 

だが、奴と戦った機体の中で比較的に損害の少ないモルドレッドから検出された戦闘データを目の当たりにし、モニカは言葉を失った。

 

無限に降り注がれる光の槍の雨、有無を言わさず機体を圧壊させる高重力の圧力。魔神の手にした剣は一振りするだけで何体もの機体を巻き込んで両断し、持ち前の機動力で陽動をしかけたトリスタンの背後にいつの間にか佇んでいたという。

 

理解も抵抗も出来ないままやられていく艦隊。その中でもナイトオブラウンズをワザと生かしておくのは魔人なりの優しさのつもりなのだろうか?

 

それとも、殺す価値すら見いだせられないまま放置されたのであれば、ナイトオブラウンズの評価は地に落ちる事になる。

 

モルドレッドのハドロン砲で攻撃しても通らないバリアー。いや、そもそも衛星戦略兵器の“メメントモリ”でも貫けない機体相手にどうやって攻撃を通せば良いのだ。

 

火力、装甲、どんなに離れても次の瞬間には距離を詰められる加速力と自在に場所を移動出来る瞬間移動能力と戦略兵器でも通さないバリアー。そしてトドメにそれらを完全に使いこなしている技量、こんな化け物相手にどう戦えばいいのだ。

 

ラウンズの間に沈黙が流れる。せめて魔人、魔神のどちらかに何らかの欠点があればそこから突き崩して活路を見出す事も出来るが、そのどちらも依然として謎のままだ。

 

破界事変の頃から分からない蒼のカリスマの目的、何度も戦場に現れているのに全く解明出来ない魔神のブラックボックス。

 

どちらも破界事変の一年が経過した今でも分からない難題。果たして、こんな怪物相手に地球連邦は戦えるのだろうか?

 

もし、奴が悪意を持っている存在なのだとするなら……その時、地球に住む全ての生命は選択を迫られる事になる。

 

“支配”か“破滅”か、嘗て自分達がエリア11を始めとして行ってきた侵略行為を、まさか自分達に問われると思わなかった彼等は、それ以降もなにも話さず俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア11。総督府の執務室。

 

「あの、本当に大丈夫なのですかスザクさん。怪我をしているなら無理しないで下さいね」

 

「僕なら大丈夫だよナナリー、怪我はどこもしてないし、体は至って良好だし、当分は戦いに出ることはないよ」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

ナナリー総督の微笑みに枢木スザクも自然と笑みが浮かぶ。先のリモネシアの戦いで大破寸前にまで追い込まれたランスロットは、現在ロイド伯爵の元で大急ぎで修理されている。

 

そのお陰で暫く前線に出ることは無くなったスザクは、ナナリー総督と共に書類整理に追われていた。幼なじみとの和やかな時間、仕事の最中という制限の中ではあるが、落ち着いて過ごせるスザクの表情は穏やかだった。

 

しかし、ある出来事を思い出し、スザクの心に影が落ちる。

 

『赦す赦さないなどと、傲慢な話なのですよ』

 

リモネシアでグランゾンと戦ったときに聞こえてきたあの言葉、それはまるで自分の事を見透かされているように思えた。

 

何が分かる! 戦いの最中でそう叫ぼうとした次の瞬間、魔人から発せられる言葉にスザクは何も言えなくなった。

 

『それに、赦しは請わないなどとアナタは言いますが、それはアナタの本音の裏返しなのでは?』

 

『な、なにっ!?』

 

『丸見えなのですよ。アナタの考えている程度は……誰かに赦して欲しいのなら、まずアナタから対話を持ちかけなさい』

 

その後、グランゾンの圧倒的なまでの戦闘力に呑み込まれ、ランスロットは海に叩きつけられて戦闘不能に陥った。

 

……これ以上ない程に叩きのめされた。想いも、力も、全てが奴に通用しなかった。

 

(間違っていたのは俺の方なのか? いや、それだけはない筈だ。ユフィを殺し、ずっと俺やナナリーを騙していたアイツこそが─!)

 

「スザクさん?」

 

負の感情が沸き上がる。胸の奥底から沸き上がってくる憎悪にスザクの表情が歪んだとき、ナナリーの心配そうな声が彼を現実に引き戻した。

 

「……あ、あぁごめんナナリー、ボーッとしてた。それで、何か話が?」

 

「い、いえ、そんな大した話では……スザクさんこそ大丈夫なのですか? 何だか気分が悪そうでしたから心配で……」

 

心配そうに顔を歪ませるナナリーに、スザクはしまったと内心で焦る。彼女は幼い頃に事件に巻き込まれた所為で足と目を不自由にさせているが、その代わりとして良く相手の気持ちを見透かす時がある。

 

もし自分の気持ちを彼女に読まれたら、今度こそ自分はナナリーに向き合えなくなる。それだけを阻止すべくスザクは冷静さを取り戻し、優しい枢木スザクの仮面を被ってナナリーに向き直る。

 

「ちょっと難しい書類に当たってね、でももう解消したから大丈夫だよ。それよりもナナリーこそ僕に聞きたい事があったんじゃないのかな?」

 

「えっと、そうなんですけど……スザクさん、怒りません?」

 

「怒らないさ」

 

自分のわざとらしい演技に吐き気がする。だが、それを悟られないよう懸命に仮面で感情を殺すスザクはオズオズと話しづらそうにしているナナリーを促した。

 

「あの、今話題になっている蒼のカリスマという人についてなんですけど、本当にその人って悪い人なんですか?」

 

「………え?」

 

「世の中の人達は皆彼の事を恐れたり敵視していますけど、本当に皆さんが言うように悪い人なのか……ちょっと良く分からないんです」

 

「どうして……そう思うんだい?」

 

「───インペリウムが現れた頃、当時の人達は怯えていました。増える次元獣、押し寄せるインベーダー、世界の人々が泣いていたばかりの頃、蒼のカリスマは率先してそれらと戦っていたと噂で聞いた事があります」

 

「……けど、それは襲われた街の金品を略奪する為だって地球連邦は言っていたけど?」

 

「ワザワザ金品を得るために次元獣とその度に戦うのですか?」

 

「……それは」

 

言えなかった。本当は次元獣やインベーダーと戦うだけで、その後は金品略奪どころか人々がお礼を口にする前にどこかへ消えていったというのが正しいのだと、枢木スザクは口にしなかった。

 

全ては現地球連邦の情報操作によるもの、グランゾンが戦った内容も当時はその国の軍隊がグランゾン諸共撃退したのだと嘘の情報を流している。

 

当時そこに住んでいた人々にも厳しい箝口令を強いている為に正しい情報は流されておらず、当時グランゾンが現れた地域には全て魔神の印象を悪くするための偽情報で溢れている。

 

そんな徹底された情報統制の中、噂だけとはいえ耳にするナナリーにスザクは何も言えなかった。

 

偽りの情報で溢れている中、真実だけを耳にするナナリー。そんな彼女に動揺するスザクだが、ナナリーは続けて話を続ける。

 

「私、いつか蒼のカリスマさんとお話してみたいです。美味しい紅茶を飲んで気持ちも落ち着けばきっと楽しい時間が過ごせると思うのです」

 

「……そう、だね。そうなるといいね」

 

「はい」

 

眩しい程の笑顔を向けてくるナナリーにスザクは絞り出すように答える事しか出来なかった。

 

何が正しくて何が間違っているのか、枢木スザクの頭は執務の時間が終わるその時まで頭の中で巡り回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────黒の騎士団移動拠点・斑鳩。

 

「ゼロー、リモネシアの避難民に関する調査票を持ってきたわよー?」

 

「あぁ、そこに置いておいてくれ」

 

ゼロのプライベートルームとして活用されている執務室。カレンが紙束を持って部屋に入ると、チェス盤を前に座り込むゼロが仮面を外していた。

 

「ちょっとルルーシュ、仮面なんか外してていいの? 私じゃなかったらどうする気よ」

 

「今俺達を除いたZEXISのメンバーは全員休憩所で雑談中だ。此方に誰かが此方にくるのは後10分は先だ」

 

カレンの指摘に即座に返す。そんなルルーシュの素っ気ない態度に少しばかり苛立つカレンだが、ルルーシュが視線を落としているチェス盤を見て表情を変える。

 

「それって、この間の中華連邦での?」

 

「あぁ、その時の盤状を再現していたんだ……奴に繋がる情報を探る為にな」

 

「え? そ、そんなのでシュウジの事が分かるの?」

 

「チェスや将棋といったボードゲームはその時の戦略で相手の考えがそのまま反映される事が多い。中には相手に読まれないよう幾つかブラフを混ぜる奴もいるが……それよりも、調査の方はどうだった?」

 

露骨に話を逸らすルルーシュに不思議に思うカレンだが、此方が調べた情報が欲しいというルルーシュに異を唱える事はなく、一度はテーブルに置いた紙束を再び手にとってルルーシュに手渡した。

 

既にリモネシアと蒼のカリスマ……シュウジ=シラカワとの間に何らかの関係性があると践んだルルーシュは、蒼のカリスマの正体を伏せたままリモネシアの避難民にシュウジについて聞き込むようカレンに命令していたのだ。

 

「はいコレ、言っておくけど殆どの内容が私やヨーコのモノと同じよ。ヘタレでお人好し、中には物知り博士なんて呼んでいる子もいたけど総じてアイツに対する評価は同じ……本当にそんなのが役に立つの?」

 

「なんだ? カレンは気にならないのか? 噂の蒼のカリスマの正体が嘗て自分達を守ってくれた魔神だと知って、本当はときめいてたりするんじゃないのか?」

 

「し、C.C.!? アンタいつの間に!?」

 

「私はずっと前からここにいたぞ」

 

向こうのソファーから身を乗り出して現れる緑髪の少女の突然の登場に、オーバーリアクションで驚くカレン。悪戯に成功したことで気分を良くした少女はそのまま、やらしい笑みを浮かべてカレンに問いかけた。

 

「確か、奴と魔神が最初に現れたのはトーキョー租界の時だったな。魔神がブリタニアのKMFを蹴散らしながら突き進むその光景に当時の連中はさぞ呆気に取られただろうな。おまけにリモネシアやサンクキングダムでは危機に瀕した私達を助けに来たというし、奇人変人の類より白馬の王子様みたいではないか」

 

「乗っているのは馬ではなく魔神だがな」

 

人形を抱き締めながらゴロゴロするC.C.にルルーシュが鋭く突っ込みを入れる。面白くないとふて寝するC.C.を無視し、ルルーシュは書類に目を通す。

 

「……確かに、この情報からはシュウジ=シラカワに不審な所は見受けられない。なら、やはりあのシュウ=シラカワなる人格が彼を支配して操っているという可能性が大きくなるな」

 

「そいつがシュウジを操っているのね」

 

「あくまで可能性だ。シュウ=シラカワにシュウジが協力している可能性も捨てきれない今、結論を出すにはまだ早い。騎士団のメンバーや他のZEXIS達には引き続き警戒対象として様子見する事を伝えておいてくれ」

 

「分かったわ」

 

蒼のカリスマの時のシュウジが別の人格に支配されている状態を可能性として知り得たカレンは息巻いて部屋を後にする。

 

残されたルルーシュは一人静かに思案する。だが、その表情は考えれば考える程に怒りに染まり、瞳の奥では憤怒の炎が燃えさかっていた。

 

(俺が奴とチェスを打った時、奴はチェス盤どころか俺すら見ていなかった)

 

盤上に置かれたチェスの駒の配置、そこにはあと一手で黒が白に打ち勝てる状況になっている。

 

ただし、それは互いの知恵を比べ合って出来た状況ではない。一方的に、そしてこれ以上ない程に巧妙に誘導された結果に生み出されたものだ。

 

(シュウジ=シラカワ、奴の目には終始俺など眼中になかった! チェス盤すら見ずに、ただチェスの駒を動かしていただけだ。それなのに……!)

 

嘗て、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアにはチェスで戦ってどうしても勝てない相手が存在した。それこそがブリタニアの皇位継承権第二位、シュナイゼル=エル=ブリタニアだ。

 

だが、そのシュナイゼルでさえ相手と盤上の駒を無視する事はなかった。無論競い合う相手には敬意を評する彼なりの礼儀もあるのだろう。

 

奴が無礼なだけなのか? いや違う。何度も言うように奴は“相手や盤上の駒すら見ないでチェスを打っただけ”だ。

 

向かい合って打っていたのに、シュウジ=シラカワの瞳には何も映っていなかった。見る価値もない。そう言われたようで、ルルーシュは久し振りに仮面の奥で激怒した。

 

そしてその結果、奴の手の内など全く読めない内に互角に持ち込まされ、挙げ句の果てにシュナイゼルに自分に関する情報を渡してしまった。

 

(シュウジ=シラカワ。お前が何者だろうと最早関係ない。俺を侮った事、いつか後悔させてやる!)

 

瞳の奥でリベンジに燃えるルルーシュ。それをソファーに寝ころんだままのC.C.はどこか嬉しそうに頬を弛めていた。

 

 

様々な者から様々な視点で見られた一人の人間、蒼のカリスマことシュウジ=シラカワ。

 

さて、色んな人達から注目されている当の本人はというと────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハローエヴリバディ♪ 皆元気かなー? 私シュウジ=シラカワは、現在アフリカタワーに昇って宇宙を間近で観察しておりますー♪

 

いやぁ、まさかこんな形で宇宙に出られるなんて本当生きている内は何が起こるか分からないものですねー、宇宙服も着ないで大気圏を突破出来るなんてシュウジ感激ー♪

 

え? いきなりのハイテンションがウザいって? おいおいそれは言わない約束だろジョニー、こんなノリでなきゃやっていられない状況ってのが人生の世の常だろ? HAHAHA。

 

────いや、もうね。ホントお腹一杯なんだわ。アロウズに捕まった事と良い、今回の旅は初っぱなから色々あって少し静かな場所で考えたいかなーって思ってさ。

 

ほら、宇宙って静かなイメージあるじゃん。インスピレーションとか高まって意外なひらめきとか出て来そうじゃん。

 

……なのにさぁ。

 

「現地球連邦政府と交渉する為、申し訳ないが諸君達は人質となって貰う! 極力手荒な真似はしたくないのでどうか大人しく従って欲しい!」

 

なんで、行く先々でトラブルに巡りあうのかなあ。

 

俺、呪われてんのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、主人公生身でも頑張ります。

ヒント
つ“ダンボール”

最近は感想返しも碌に出来なくてスミマセン。

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