『G』の日記   作:アゴン

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今回は久し振りに短めです。




その32

 

 

さて、アフリカタワーを観光気分で訪れた自分は現在、テロリスト達の人質となって低軌道ステーションのど真ん中で、他の客員の人達と一緒に大人しく座らされています。旅の行く先々でトラブルに巻き込まれている感がする俺は、自身が呪われているのではないかともの凄く落ち込んだ。

 

だが、嘆くだけでは状況が変わる事はないしいつまでも悲観している訳にもいかないので、開き直るつもりで今は状況の再確認を行い気分を紛らわせようと思う。

 

客員を人質に取り低軌道ステーションを占領したとされるテロリスト達、彼等の親玉とされるパング=ハーキュリーと名乗る人は元地球連邦の軍人さんで、昨今のアロウズのやり方に異議を唱えるべく、今回の騒動を起こしたらしいのだ。

 

で、世界の重要拠点の一つであるアフリカタワーにある低軌道ステーションを占領して、人質を使って地球連邦政府にアロウズの解体を要求するのだとか。

 

……まぁ、気持ちは分かるよ。アイツ等のやり方は腑が煮え返る位ムカつくし、しかも都合の悪いことは全部人に押し付けるし、自分らは全く悪くないと惚けているのだから苛つくのは仕方ないと思う。

 

実際、破界事変の頃に次元獣やインベーダーを俺とグランゾンで倒していた事実をこれでもかとねじ曲げてくれたしね。……別に見返りを求めていた訳じゃないからそれは構わないんだけどね。けど、その所為で多くの人間に無茶な箝口令を強いたりして小さな子供達にまで強制させる様は非常に宜しくないと思う。

 

え? よくそんな情報知ってるなって? 世界を旅して回る身としてはそんな光景幾らでも目の当たりにしているから、嫌でも知ってしまうものなのだよ。

 

この間なんか、街中でアロウズの軍人が泣いている子供にまで手を上げようとするから、つい間に割って入ってしまったし……何でも蒼のカリスマを悪く言うなと連中に逆らったのがその時の騒ぎの原因らしいのだ。しかもその子は当時、次元獣に家族が襲われそうになっている所を魔神に助けられたのだという。

 

その時は代わりに俺が殴られる事で事なきを得たけど……いやぁ嬉しいものだね。子供一人にでも分かってもらえるのって、ボッチの自分にはこの上ない励みになる。

 

……とまぁ、そんな事が世界各地で起きている為にそのハーキュリーさんが立ち上がったというのだが、気持ちは分かる。激しく同意できる。俺個人としては諸手を上げて応援してあげたい所だけど───正直言って今回のやり方は悪手でしかないと思うんだよね。

 

アロウズの連中の最も厄介な所は自分達が絶対に正しいと思い込んでいる所と、その為には手段を選ばない所にある。

 

今ここに大勢の客員がいるが、下手したら連中は本来人質である彼等民間人ですら反政府勢力として片付けて、ハーキュリーさん達諸共消すかもしれないのだ。

 

大方ハーキュリーさんの狙いとしては、今後のアロウズの対応でここにいる客員達に現連邦政府のやり方を教えてやろうとしているのが狙いなのだろうが……ちょっと見通しが甘いよね。

 

まぁ“軍人は民間人を守るモノ”という正しい認識を持っているが故の隙なのだが、こればかりは仕方ない。

 

さて、ここまで状況を改めて今後の自分の行動なのだけれど……普通はここで大人しくしているべきなんだろうね。

 

だって俺元々は普通の人間だし、今は魔人なんて呼ばれていたりするけれど、本当はそんなモノから程遠いどこにでもいる普通の民間人だ。

 

……最近普通という言葉を良く使うが、決して自称じゃないことを付け加えておく。さて、散々言い訳しておいてなんだが、そろそろ行動に移ろうと思う。

 

え? お前普通なんじゃなかったのかって? その通り、俺自身は普通の人間だ。けど、トイレに行っている合間に魔人に変身したらそれは普通とは呼ばないだろう?

 

意味が分からない? あれだよ、梅干し食べて変身する某ヒーローと同じ原理だよ。あっちは電話ボックスで変身するし、どちらかと言うと俺はヒーローじゃなくて怪人の類なんだけどね。

 

「あ、あのー……スミマセン。ちょっと良いですか?」

 

「む? どうした? 顔色が悪いぞ?」

 

「と、トイレに行ってきても……宜しいですか?」

 

「……仕方あるまい。俺もついて行く事になるが、それで良いな?」

 

ハーキュリーさんという人物について行くと覚悟を決めただけあって、テロリストという烙印を押されても紳士的な軍人の人。

 

その人に内心で謝罪しながら、彼と共に一度トイレに向かった。

 

 

 

 

 

 

それから10分後、トイレに行って帰ってこない二人の様子を見に行くと、同志の一人が便座カバーの上に座って気絶している姿を発見される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、連邦政府のお偉いさんは此方側の要求に応えてくれるかね」

 

「さてな、どちらにせよここを守るのが俺達の仕事だ。絶対に完遂させるぞ」

 

「あぁ、無論そのつもりだ」

 

低軌道ステーション管制室前。扉の前に立って陣取っている二人の元軍人の彼等には、並々ならぬ覇気が感じ取れる。

 

蟻の一匹も通さない。現地球連邦政府を変える為、ハーキュリーに付いていくと覚悟を決めた二人には確固たる決意がその全身からにじみ出ていた。

 

喩え次元獣が相手でも絶対に後ろに下がらない。そんな気概で立つ彼等の視界にある場違いな物体が入ってきた。

 

「……なぁ」

 

「任務中だぞ。集中しろ」

 

「いや、けどさアレって……ダンボールだよな?」

 

通路の隅に置かれた一個のダンボール、先程まではあんなものは影も形も無かったのに、現に今はそこにポンと置かれている。

 

「……あれって、罠のつもりなのか?」

 

「どこかの子供の悪戯だろ。ったく、他の連中はなにやっているんだ」

 

「兎に角、あれをそのままにして置く訳にはいかないだろう。片付けるついでに叱ってくるよ」

 

「すぐに終わらせろよ」

 

やむを得ないとその場を一時だけと離れる元軍人の青年、近付くにつれてダンボールが大人一人は入る大きさだと認識した時、青年の頬が僅かにひくつく。

 

「おいおい、一体何人の子供が入っているんだよ。幾らそんなつもりは無いとはいえ俺達はテロリストだぞ。もう少し危機感を持っても───」

 

そこまで言い掛けて青年の動きは停止し、同時に言葉が失った。開けたダンボールの中にいたのは茶目っ気の過ぎる子供達ではなく、今世界中で魔人と恐れられている──。

 

「あ、蒼のカリ───っ!?」

 

そこまで言い掛けた時、青年は魔人の手に顔を捕まれ、問答無用の勢いでダンボールの中に引きずり込まれていった。

 

仲間がダンボールの中に引きずり込まれる様を見て銃の引き金を引こうとするが、ここは低軌道ステーション。万が一施設の重要部分に当たれば、その瞬間に大惨事が引き起こされる。

 

撃ちたくても撃てない悔しさに駆られ、もう一人の青年も致し方ないと思いながらもその場を離れる。

 

急いで後を追うが既にダンボールの姿はなく、気配も感じられなかった。奇妙な静けさだけが辺りに充満した。

 

……嫌な予感がする。人でも次元獣でもなく、もっとおぞましい何かと戦っている様な気分に嫌な汗が頬を伝って流れ落ちる。

 

そういえば、最近観たSF映画にあんな感じのモンスターが出てきたなと考えた瞬間。

 

「お仕事、ご苦労様です」

 

背後から聞こえてきた声、その声に反応してすぐさま距離を開けようとするが首に腕らしきものが絡みつき……。

 

そこで青年の意識は暗闇に包まれ、魔人の足音は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減目を覚ませハーキュリー、こんな事をしても連中の情報統制の闇に葬られるだけだ!」

 

「それでも、誰かがやらねばならんのだ。何もせずに現状を静観していたら、世界は歪んだままに固定されてしまう。それだけは阻止せねばならないと何故分からんのだセルゲイ」

 

低軌道ステーション管制室。ステーションの全容が表示される大モニターの前で二人の男性の言い合いが響きわたる。片や今回のテロの主犯格である元連邦の軍人、パング=ハーキュリー。

 

そしてもう片方が嘗てロシアの荒熊として知られたセルゲイ=スミルノフ。今回のテロを止める為、ハーキュリーの親友でもあるセルゲイは彼の凶行を止めるべく連邦からの使者として低軌道ステーションに潜入、ハーキュリーの説得を試みた。

 

対するハーキュリーも昔共に戦った戦友を無碍に扱う事はせず快く迎え入れたが、セルゲイの説得には全く耳を貸さずに投降の意志を見せなかった。

 

「それになセルゲイ、仮に私達が投降したとしても政府……いや、アロウズは我々を赦しはしない。反政府勢力の一つとして、何も残さず始末するだろう」

 

「…………」

 

「奴等の情報統制は徹底している。私が幾らここで連中のやり方に異議を唱えても結局は連中に思い通りの情報に変えられてしまう事だろう。だがな、幾ら徹底された情報管理でも間近で実態を目撃した人々の目や耳は閉じれないものだ」

 

「ハーキュリー、お前は……まさか!?」

 

そこまで口にするハーキュリーにセルゲイは全て理解した。何故今回の騒動に万を超える人質を取らねばならないのか、それは彼等に今後行われる政府の対応をその耳と目で体感させる事にあった。

 

幾ら政府が情報統制を徹底しても人が実際に目にした光景までもが誤魔化せる事は叶わない。セルゲイの読みが当たった事によりハーキュリーの笑みが深くなった。

 

「今の世界を生み出したのは今を生きる我々に他ならない。だからこそ私は無関係を貫く市民達の目を覚まさせてやらねばならないのだ」

 

「だからと言って、何の抵抗も出来ない市民を巻き込むのか! ハーキュリー!」

 

セルゲイもハーキュリーの主張が理解出来ない事はなかった。破界事変以降世界は戦いを恐れ過ぎる余り、自ら立ち上がる事を放棄してしまっている。

 

戦いが善とは言わない。だが、この歪んだ世界で間違った情報を信じて生きる人々の様子がとてもマトモな人間の生活にも思えなかった。

 

まるで家畜。夢も生き方も死に方も、何もかもが決められたこの世界で、果たして人類は生きているといえるのだろうか。

 

……言い返せない。平和の尊さとそれ故の危うさを知るセルゲイはハーキュリーの言い分に何も言えなくなった。

 

自分では彼を止められない。そう思われた時、扉の方から第三者の声が聞こえてきた。

 

「ですが、その考えには大きな落とし穴が存在していますよ。パング=ハーキュリー殿」

 

「「「っ!?」」」

 

突然聞こえてきた声に振り返ると、管制室の全員が息を呑んだ。

 

魔人“蒼のカリスマ”この世界で最も危険だと言われている怪物が目の前にいる事実にハーキュリーとセルゲイは揃って銃を魔人に向ける。

 

「貴様、見張りの者はどうした? それに、どうやってここまでこれた?」

 

「見張りの人達はこれまで出会ってきた人達同様、少しばかり眠ってもらっています。尤も、気絶させた程度ですので後数分もすれば目を覚ます事でしょう」

 

「バカな!? 彼等は私の同志の中でも精鋭の集団だぞ! そんな彼等を全員……化け物か貴様」

 

「そんな訳ないでしょう。見張りの地点を見て私の進行方向の妨げになる人達だけを選んで不意打ちしたに過ぎませんよ」

 

まるで大したことはないと言うような口振りだが、目の前の魔人が尋常じゃない腕の持ち主だという事は二人を始めとした管制室全員が理解した。

 

ここに来るまでに邪魔な人間だけを排除してきたと言うが、物音を立てればそれだけで蒼のカリスマの存在は明らかになる。要所だけを狙って無力化したと言っても相手は銃器を手にした軍人だ。そんな彼等を相手に素手で打ち倒すなんて真似、とてもできる芸当ではない。

 

しかも見張りの配置は基本的に距離を短めに設定している。それを誰にも気配を悟られず一つずつポイントを的確に無力化するなんて普通ならあり得ないワザだ。

 

目の前の仮面の男は、やはり魔人なのだと誰もが確信した。

 

そんな彼等に魔人こと蒼のカリスマは人差し指を立てて……。

 

「そんな事よりも、セルゲイ=スミルノフさん。パング=ハーキュリーさん、そして貴方達を含めたテロリストの皆さんにお願いがあります」

 

“ここは一つ、私と協力しませんか?”

 

カリスマから告げられる“お願い”に再び全員が言葉を失った。

 

 

 

 




今回の主人公のお願いは端から見ればこうなります。


???「僕と契約して魔法少女になってよ!」

と、女の子に迫る某獣な感じです。


そして、毎回多くの感想を下さってありがとうございます。

出来るだけお応えできるよう気をつけます。

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