『G』の日記   作:アゴン

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今回も日記要素皆無です。

……話が進まねぇぇ。




その36

エリア11の政庁にある執務室、ブリタニア皇女の一人であるナナリー皇女殿下は、夜の帳が落ち始めた今も懸命に書類の山と戦い続けていた。

 

点字に書かれた文字の羅列、そこを指でなぞりながら書類の内容を一枚一枚確認する作業は中々に神経を使うものであり、今後のエリア11を良くする為の重要な内容ならば、幼い少女には並々ならぬ重圧となっている事だろう。

 

それでもエリア11という国を良くし、イレヴンと呼ばれる元日本人の人達の生活を良くする為に必要なものだと理解しているナナリー皇女は、額に浮かぶ小さな汗を拭いながら最後の書類にサインを印す。

 

「…………ふぅ、出来ました」

 

「本日の公務、全て終了しました。───お疲れ様ナナリー、ちょっと疲れたかな?」

 

「確かに少し疲れましたけど、私なら大丈夫です。スザクさんこそ私の為に付き合わせてしまってごめんなさい」

 

側に控えていた枢木スザクに書類を渡しながら微笑むナナリー。その人に感謝の意味を込められた笑顔を向けられ、ラウンズの一人であるスザクの表情もまた笑顔に弛む。

 

「気にしないで、僕の方の仕事は修理の終えたランスロットの調整だけだったし、元々今日はナナリーの手伝いに来るつもりだったから───さて、今日はもう一段落した事だしお茶にしよっか。今日はいい茶葉が手に入ったからナナリーにご馳走するよ、ちょっと待っててね」

 

そう言いながらスザクは執務室の戸棚に入った茶葉と急須を取り出して、備え付けられた簡易の給水器に手を伸ばす。その際、何か思い詰めた様子のナナリーが茶葉の袋を開こうとしたスザクに待ったを掛ける。

 

「───あの、スザクさん。カレンさんの事なんですけど……やはり話をさせてはもらえないんですか?」

 

「…………」

 

ナナリーからのその一言にスザクの手が止まる。黒の騎士団の右腕、紅月カレンの捕縛の事は既に政庁中に伝わっている。当然ナナリーの耳にも入っている事だろう。

 

嘗てカレンとナナリー、そしてスザクは同じ学び舎で同じ生徒会に属していた学友だ。お互いに友人だと思っていただけに、カレンが黒の騎士団に属していたという報せは、当時のナナリーに大きな衝撃を与えた。

 

その彼女が今、捕らわれた形で政庁にいる。黒の騎士団に属しているとはいえ、彼女もZEXISの一員だ。そう簡単に刑罰は下されないだろうが、それでもその前に一度は話がしたい。牢獄の中ではなく、友人として話がしたいと、スザクに申し入れるが……。

 

「……ゴメンねナナリー。まだ彼女から聴取を終えてないから会わせる訳にはいかないんだ」

 

「そう……ですか」

 

「けど、もう少し待って欲しい。そうだね、少しでよければ明日にでも面会の時間は作ってもらえるよう僕の方から頼んでみるよ」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

最初こそは面会を断られて落ち込むが、明日なら大丈夫だという言葉に、ナナリーの表情は満開の花の様な笑顔となって咲き誇る。

 

その眩しく微笑む彼女の笑みをスザクは愛しそうに笑みを返す。お茶の入った日本独自の湯飲み椀、それをナナリーの前に置くと、そっと優しくナナリーの手を沿えて椀を包ませるように持たせた。

 

「お茶が入ったよ。熱いから気を付けてね」

 

「はい、ありがとうございます。スザクさん」

 

「じゃ、ちょっと僕はこれで失礼するよ。すぐ戻ってくるから待っててね」

 

そう言ってスザクは執務室にナナリーを置いて部屋を後にする。恐らくは先程渡した書類の提出と、先程言ったカレンとの面会による予定調整の打ち合わせに向かったのだろう。

 

悪いことをした。自分の我が侭に付き合わせてしまった事を悔む一方で、ナナリーの心の内にはある不安が広がっていた。

 

お茶をこぼさないよう優しく支える手つき、気配りといい言葉といい、側で支えてくれるスザクの態度は、昔と変わらない優しいままの彼だ。だが……いや、だからこそ戸惑う。あんなに優しかった彼の手が、何故あんなにも冷たくなっていたのか。

 

手の温度や触った感触から感じる冷たさではない。心の奥底から冷え込んだモノを確かにあの時ナナリーは感じた。

 

何故あんなにも冷たくなるのか、自分の知るスザクとは何もかもが違うという事実にナナリーが戸惑う中、扉を叩くノックが聞こえてきた。

 

誰だろうか。もしかしたら渡した書類になにか不備があったのかもしれない。そう思いナナリーは扉の向こうにいる者を部屋に通すと……。

 

「……貴方は、誰ですか?」

 

今まで聞いたことのない足音にナナリーの表情が曇る。目が見えない代わりに周囲の音である程度の状況を認識出来るようになったナナリーは、眉を寄せて不信感を露わにする。

 

部屋に入ってきた者の足音はこれまで聞いてきた者とはどれも違う響きだった。一歩ずつ近付いてきている不審者にナナリーは車椅子を動かして逃げようとするが、後ろには壁が控えており彼女の逃げ場はどこにもなかった。

 

迫り来る足音に怯えながらも、総督として態度を崩さないよう凜とした態度で応えるナナリー。彼女の脳裏には、世界の平和を願って戦うリリーナ=ピースクラフトとマリナ=イスマイールの姿が浮かんでいた。

 

「……何者です」

 

今一度、今度は恐怖と戦いながら侵入者に問い詰める。すると不審者はその場で立ち止まり、それ以上近付いてくる事はなかった。

 

 

そして───。

 

「お初にお目に掛かりますナナリー皇女殿下。私は蒼のカリスマという者、故あって貴方にお願いしたい事があって参上致しました」

 

目の前の存在から告げられる言葉に、ナナリーは一瞬息が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーモ皆さんご機嫌よう。昨今、蒼のカリスマは人外説が濃厚になりつつある日々に憂鬱になっているシュウジこと蒼のカリスマです。現在私はエリア11の政庁総督府にお邪魔しており、あのナナリー皇女殿下を前にしております。

 

例の学生の女の子、確かシャーリーって言ったかな? その子の願いを叶える為に現在ここに捕まっているカレンちゃんの救出にきているのだけど……いやー流石政庁だけあって警備が厳重、所狭しと警備の人がいるものだからもう大変。ダンボールがなかったらもう二人程バトッていたかもしれない。

 

ここへ来るまでに既に二人ほどノシてしまったから気付かれるのも時間の問題だ。急いでカレンちゃんの所に向かわなければならないのだけど……ここで少し問題が起こった。

 

ナイトオブラウンズの一人である枢木スザク君が現在カレンちゃんのいる特殊独房エリアへと向かっているのだ。その様子をモニター室(先程の二人はここでノシた)から見ていた自分は流石にどうしようか焦った。

 

如何に体力がついてきたとはいえ、あのラウンズ相手に真っ正面から生身で挑むのは無謀過ぎる。せめて暗闇という状況なら自分にも勝機があるかもしれないが、ここはブリタニアが管理する政庁だ。都合良く停電になる事なんて有り得ない。

 

勿論停電させ、混乱に乗じてカレンちゃんを助け出そうとも考えたけれど、それでは騒ぎが大きくなるし、下手をしなくてもKMFが出張ってくる。そうなれば自分もグランゾンを出さねばならないしそうなったらこのトウキョウ租界が炎に包まれる。

 

それだけは自分としても避けたい所だし、ここはカレンちゃんやシャーリー嬢の思い出の地でもあるから、あまり傷付けるような事はしたくない。

 

あーでもないこーでもないと悩んでいる内に閃いた事があるのだが、これはナナリー皇女の力も必要とされているので、ダメもとで一人になった所を見計らって執務室にまで来たけれど……うん、普通に可愛らしい女の子だよねナナリー総督って。中華連邦にいたら天子ちゃんに次ぐ人気者になるに違いない。

 

そんなアホな事を考えている合間に、ナナリー総督は不信感を露わにしているのでいい加減名乗る事にした。最初こそは自分の事を警戒していたけれど、話すにつれて態度も柔らかくなり、会話を重ねる毎に彼女は自分の話を落ち着いて聞いてくれるようになった。

 

その時の話の内容というのが破界事変の頃、自分が次元獣やらインベーダーやらと戦っていた頃の話で、どうして誰も頼んでいないのに戦ったのかとひたすら質問責めにあっていた。

 

あの頃の自分はインペリウムを追っていただけで、別に助ける為に戦っていた訳じゃない。ただ目に付いたから戦っただけだ──なんて少し冷たく言ってみると、軽蔑されるどころか何やら尊敬された。

 

何だか色々勘違いされているようだけどそれを訂正する時間などなく、自分はナナリー総督からあるモノを拝借して急いで執務室を後にした。

 

その際に手を握られていきなり涙を流してきたから焦ったけど、あれはどういう意味だったのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────蒼のカリスマ。魔人と畏れられ、世界中から敵視されている彼を……私は生涯忘れないと誓う。

 

誰からも認められず、世界中から非難され、罵倒され、全ての人間から嫌われているであろうその人を、私は決して忘れません。

 

全ての罪を背負わされても、世界から弾き出されても、名も知らない誰かの為に戦う。あの人は多分……そういう人なんだと思います。

 

手を握った時、私は直感的に悟りました。あぁ、この人は私達と何も変わらない人間なんだって。

 

あの暖かい手を私は忘れない。お兄様と似ていて、けれど嘘吐きな彼を……私は忘れない。

 

蒼のカリスマさん。いつか私の目が見える様になった時、その仮面の奥にある素顔が見えるよう、今度は私からお誘いさせてもらいますね。

 

頑張って下さい。優しくてヘタレな魔人さん。

 

……所で、“ヘタレ”って何の事でしょう? アーニャさんが言うには優柔不断な殿方を指すようですが。

 

え? どうして蒼のカリスマがヘタレと思ったのかですか? ……うーん、女の子の勘でしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政庁にある独房区。その中にある特殊な牢屋として知られるその場所に、紅月カレンは投獄されていた。

 

身に纏っているのは窮屈な囚人服ではなく、貴族などが着用する豪華なドレス。周囲には特殊な素材で作られた防弾ガラスで囲まれており、彼女の容姿からまるでガラスに囲まれた人形のようだった。

 

その狭い空間の中心にある椅子に座り、不機嫌全開に目の前の人物を睨むカレン。彼女の視界にはこのガラスの囲いで唯一開いた空間とその先に佇む帝国最強の騎士、枢木スザクの姿があった。

 

「……それで? 帝国最強の騎士様が一体私に何のご用?」

 

「ゼロの正体は誰だ?」

 

スザクの単刀直入過ぎる問いに、カレンは鼻で笑って返す。誰が教えるものか、そう態度で示す彼女にスザクの冷ややかな視線が突き刺さる。

 

「……もう一度聞く、ゼロは誰だ?」

 

「逆に聞くけど、私がその質問に答えると思う? 私達の敵であるアンタに」

 

スザクの冷たい視線に対し、カレンは燃え盛る怒りの目で睨み返す。同じ日本人でありながら日本人と敵対し、ゼロを帝国に売った男を許すことなど到底出来やしない。殺したい程憎い。視線と態度でそう示すカレンを前にそれでもスザクは態度を変える事なく、懐からあるものを取り出した。

 

それを目にした時、カレンの表情が一変する。何故ならそれは、このエリア11に蔓延する何よりも強い麻薬なのだから。

 

“リフレイン”幸せだった頃にトリップできるという劇薬に、嘗てカレンの母もこの薬の中毒者となってしまった。その薬を手に近付いてくるスザクにカレンは顔を真っ青にして後退る。

 

「止めてよ、そんなもの、私の前に出さないでよ!」

 

「これで話してもらうぞ。ゼロを、ルルーシュの事を!」

 

抵抗するカレンの手を取り、無理矢理組み敷くスザク。その目に涙を滲ませる彼女にリフレインの先端が触れようとした時。

 

(────お兄ちゃん!)

 

脳裏に嘗ての最愛の兄が思い浮かんだ瞬間、それは起こった。

 

「ぐっ!」

 

スザクが手にしていたリフレインが何者かが投げつけた飛礫によって弾かれた事で地面に落ち、砕けた瓶からはリフレインの液体が床に飛び散った。

 

何者だ!? そう叫びながら振り返った先で佇む第三者にスザクは勿論カレンも驚愕する。

 

「バカな、何故、何故お前がここに!?」

 

「さて、その質問になんと答えればいいのか私も悩む所なのですが……そこにいる紅月カレンさん。彼女を渡せば話さない事もないですよ?」

 

「………シュウジ」

 

隣のスザクに聞こえないよう呟くカレン。けれど……何故だろう。

 

「……フッ」

 

仮面の奥底で彼が笑った気がした。

 

 

 




次回も多分こんな感じです。



オマケ──二人の距離

「何故貴様がここにいる! 蒼のカリスマ!」


「……フッ」(うぉぉぉぉっ! スザク君思った以上にこぇぇぇぇ!!((((゜д゜;)))))

「………シュウジ」(助けに……来てくれたの?)キラキラ


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