『G』の日記   作:アゴン

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今回、癒し回


その5

□月X日

 

人生初めての修羅場を潜り抜けて三日、暗黒大陸を抜け出し、どうにか落ち着ける場所にやってきたので日記を再度始めようと思う。

 

まず、グランゾンの武装の一つである“グランワームソード”で相手の飛行要塞を切りつけた後、襲ってきたガンメンの軍勢と戦い、更には幹部らしきガンメンまでもが出てきてもうダメかと思われた時、彼等が現れた。

 

“ソレスタルビーイング”紛争根絶を掲げる彼等の介入のおかげで戦場は一変し、ガンメン達も飛行要塞が半分破壊されたり態勢を崩された事で戦闘続行は厳しくなり、撤退を余儀なくされた。

 

どうにか乗り越えたと安堵する自分に今度はソレスタルビーイングのガンダム達が此方に銃口を向けてきた時は……本当に心臓が飛び出るかと思った。

 

相手側は何も言わない自分に苛立ちを募らせて時折ドスの効いた声で話してくるが、此方は銃口を突きつけられた所為でマトモに言葉が出なかったのだ。そこら辺は察してほしい。

 

というか、何故ソレスタルビーイングにゲッターがいるの? しかも中の人ってあれじゃん、キタンさん達以上に獣じみた竜馬さんじゃん。

 

マジ怖かったよ。声だけしか聞いていないのに本気で泣きそうになったよ。今回の件であの人に目を付けられていないかどうか、それが原因で自分の人生が大きく変わりそうな気がする……。

 

しかもなんかもう一機ほど見たことない機体があったんだけど……なんか戦闘の最中此方を随時見ていた様な気がする。

 

殺気とかそんなんじゃなく、こう……値踏みするみたいに舐め回す様な視線ってヤツ。一体あれはなんだったのだろう?

 

そしてそれとは別に自分と彼等の間に流れる空気は緊迫したものだった。このまま彼等と戦うのかと内心ガクブルだった自分を救ってくれたのは……意外にもカミナの兄貴でした。

 

コイツは以前俺達を助けてくれたのだと弁明してくれるカミナさん、俺はこの人を心の兄貴と認めたね。そんなカミナさんの一言で場の空気は少し柔らかくなった。お陰でキヤルちゃんも無事解放させてあげられた事だし言うことなしである。

 

あ、序でにキタンさん達も無事だった事も追記しておく。キタンさん達は最初の爆撃で吹き飛んだ後、近くの村に落下して難を逃れていたらしいのだ。

 

黒の兄妹は野生の力強さだけでなく強運の持ち主でもあるらしい。そんな彼等に大事な妹さんを返し、グランゾンのバーニアを一気に噴かせて離脱。

 

直線的な速さにはやはり誰も付いてこれないのか、後を追おうとする機体がチラホラ見かけたが、そこは流石のグランゾン。追ってくる機体を突き放し、自分はあっという間に暗黒大陸を抜け出したのだ。

 

で、今はどこで何をしているのかと言うと……リモネシアという海の綺麗な国で、居酒屋のバイト店員として働いています。

 

そしてお馴染みになってきているグランゾンの隠し場所は……バイト先が海沿いであることで海中に隠しております。

 

海水で痛んだりしないか……それだけが不安ですたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───暗黒大陸、プトレマイオス内。

 

ソレスタルビーイングの移動拠点として知られるプトレマイオスのブリッジ。そこではガンダムマイスターとグレン団を自称するメンバーが揃って議論を交わしていた。

 

話の内容はただ一つ、先日現れた蒼い魔神の有無である。

 

「一体奴は何者なんだろうね。何が目的でガンメン達と敵対しているのかな?」

 

「いや、別にガンメンに限ったって話ではないと思うぜ、コロニー側のガンダム連中の話によれば奴はエリア11にも姿を現してブリタニア軍を蹴散らしたみたいだしな」

 

「正体、目的共に不明。オマケに瞬時に戦場から離脱できるあの速さ、奴から話を聞くのは並大抵の事じゃなさそうだな」

 

「何れにせよ、奴に未知数な力があるのなら我々は奴に対して武力による介入を施さねばならない」

 

「そうだな、ティエリアの言うとおりだ。だが、今はその奴さんとは会っていないんだ。奴の事は会ってからその時考えればいいじゃねぇか」

 

「クロウ=ブルースト。貴様はこんな時に何を呑気な事を……」

 

「そう言うなティエリア、コイツの事だ。どうせ例の魔神との戦闘データで幾らか稼げた事に喜んでるんだろ」

 

「流石スナイパー、鋭いな。その通り! 実はさっきチーフから連絡きてな、興味深い機体だから次もこの機体のデータをとって来てくれたらボーナス出してくれるって約束してきたんだよ! いやぁ、遂に俺にもツキが回ってきたみたいだぜ! まさに魔神様々だ!」

 

「君って男は、本当にどうしようもないね」

 

ソレスタルビーイングのメンバーの辛辣な言葉にもめげず、クロウと呼ばれる男はご機嫌に笑っていた。

 

噂の魔神もこの男の前では金づるも同然。遂には魔神を拝みだすクロウをスナイパー担当の青年が突っ込みを入れた所で、ブリッジに一人の女性が入ってくる。

 

「みんな、たった今ボートマンから連絡が入ったわ。これより私達はフロンティア船団に向かったグループと合流します」

 

「フロンティア船団って……確かコロニーのガンダムメンバーが向かった所だよな? もしかして向こうとの協力体制がもう敷かれたのか?」

 

「その事についても向こうで話すわ。ひとまず暗黒大陸をでます。グレン団の皆さんはどうする?」

 

「当然、俺達も付いてくぜ姐さん! 見たこともねぇ世界が待ってんだ。行かない手はないぜ!」

 

「俺もいってみたいな。世界ってのがなんなのかこの目で見てみたいし」

 

「なら、俺達黒の兄妹はここで別れる事になるな。カミナ、さっき言ったこと、忘れるんじゃねぇぞ」

 

「あぁ、シュウジって奴を探しとけって話だろ? 序でに探しておいてやるよ」

 

「カミナ、本当に頼んだよ。アイツはアタシ等の大事な子分なんだから」

 

「わぁってるよ。このカミナ様に任しとけ!」

 

 一時の別れ、そして約束を交わしながらソレスタルビーイングは新たな仲間と共に暗黒大陸を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月E日

 

いやー、リモネシアって本当に綺麗な所だよね。海は綺麗だし、空は青いし、太陽は眩しいし、良い感じの観葉植物が更に常夏の気分を駆り立ててくれる。

 

元いた世界でも接客のバイトで慣れているから躓く事なくやっていけているし、店長も良い人だし、何より住み込みなのが一番嬉しい。

 

一番お世話になっているからその分働かされる事になっているけど、暗黒大陸で鍛えられた自分にはさほど苦にならず、寧ろ足りないとばかりに率先して与えられた仕事をこなしていた。

 

おかげでバイト代も弾んで貰えたし、これは次のバイトもやる気が出ると言うものだ。暗黒大陸でのあの修羅場が嘘の様に思える。

 

……ただ、幾つか気になる事もある。リットナー村のダヤッカさん達とヨーコちゃん、そして黒の兄妹の皆。

 

どちらも碌に別れの挨拶も出来ずに別れてしまったので、自分の頭の片隅には時折あの人達の事を考えてしまっている。

 

ヨーコちゃん、怒っているだろうなぁ。助けを呼んでくると言っておいて結局は何もしてこなかったのだから、向こうからしたら逃げた卑怯者とか思われてそう。

 

黒の兄妹達についてもそうだ。そんな余裕はないからといって何も言わずに姿を消したんじゃ心配させてしまっている事だろう。

 

本当ならキヤルちゃんをグランゾンから降ろす際に一言礼を言うつもりだったけど、近くにソレスタルビーイングがいたものだからそれも叶わなかった。

 

もし彼等に自分の存在が知られたらきっと色々厄介な事になっている事だろう。結局、自分は怖くて何も言えなかったのだ。

 

……いつか、ほとぼりが冷めたら改めて暗黒大陸に向かい皆に謝ろうと思う。

 

そう胸に誓いながら今日の日記は終了とする。

 

 

 

 

◇月R日

 

今日は仕事の途中で凄い人がお店にやってきた。リモネシア外務大臣のシオニー=レジス大臣。若くして一国の大臣となった彼女は意外にも下戸で、お酒を幾分か呑んだら今度は自分に対して愚痴をこぼしてきたのだ。

 

最初はお仕事があるからと席を外したかったのだが、店長が付き合ってやれとの事で仕事は一時中断、僭越ながら自分が外務大臣の愚痴に付き合って上げることにした。

 

いやー、女の人ってため込むと色々酷くなるのね。マシンガンの如く吐き出される愚痴の数々に自分は終始圧倒されっぱなしだった。

 

やれ各国の連中が小賢しいとか、大国連中は自国の領土を広げる事しか考えないとか、しまいにはブリタニア皇帝をロール頭呼ばわりしていたりする。

 

お酒を煽る様に飲む彼女をどうにか止めようと声を掛けると、今度は自分にまでその怒りをぶつけてきたのだ。

 

銀色の髪を乱しながら最終的には泣き喚いてしまう彼女をさすりながら、自分はつい口走ってしまった。

 

知った様な口を利いてしまい怒られるのかなと思いきや、シオニーさんはそれから落ち着きを取り戻し、少し恥ずかしそうに店を後にした。

 

個人的な感想だが、彼女には頑張って欲しいと思う。だって若くして国の為に頑張ろうとしているのだ。大国を相手に戦っている彼女を心の内で応援しながら、今日はこれで終わりたいと思う。

 

 

 

 

◇月L日

 

今日も頑張るぞと仕事に励んでいたら、シオニー大臣がお店にやってきた。

 

その事に驚きながら対応すると、昨日はありがとうとお礼をいってきたのだ。何でも自分の愚痴を聞いただけでなく、真摯に応えてくれた自分のお陰で気持ち的に少し楽になったらしい。

 

外務大臣てのは肩書き的にもの凄くハードな仕事だろうからストレスが溜まるから仕方ない。シオニーさんだって人間なんだし、たまにはあれ位発散させた方がいいと思う。

 

いつでも愚痴を聞きますのでいつでも来て下さいと言うと、シオニーさんは少し戸惑いながら頷き、SPの人達と一緒に帰って行った。

 

その時の髪を弄って照れ臭そうにしているシオニーさんはちょっと可愛らしいと思ってしまった。

 

ここまでで終わればそれなりに良い話で終わるのだが、今日はそれだけでは終わらなかった。

 

店長に言われて買い出しに出かけると、道中で変な人と出会ったのだ。

 

名前はアイム=ライアード。初対面なのにやけに馴れ馴れしい男だったのが最初の印象だった。

 

なんか回りくどい喋り方だし、変に芝居掛かっている。アナタの力が必要なんです~と両手を広げて言ってきた時は思わず冷めた目で見てしまった。

 

此方に協力してくれれば貴方の願いを叶えますよとか、言ってきたが自分は丁寧にお断りしますとだけ言って返しておいた。

 

別れの際に不気味な目で見られて背筋に悪寒が走ってきたが、こういう手合いは隙を見せるとそこに入り込んでくるから此方も視線を外さずに彼の目を見続けた。

 

大体、願いを叶えるとか何処のドラゴン○ールだよ。どちらかと言えば汚れた聖杯みたいな目をしたライアードはまた会いましょうの一言だけ残して去っていった。

 

しっかし、あの男は本当に何者だろう? 一々言ってる事が前振りっぽくて苛々するし……こう、変な感じがするし。

 

分かり易くいえば“ゲロ以下の臭いがプンプンする”そんな男だった。

 

また会っちゃうのかな。いやだなー、あんな男の話をするぐらいならシオニーさんの愚痴を聞く方が万倍ましである。

 

 

 

 

◇月#日

 

今日は久し振りの休日。リモネシアの町並みを観光気分でブラブラしていると、偶然にもシオニーさんとばったり出くわした。

 

偶然ですねと言うとそうねと返してくれる辺り、この間と比べると結構柔らかい人になっていた。やはり立場が立場なだけに誰かに愚痴とか話を聞いて貰えたりしていないのだろう。

 

気持ちだけでも貢献できた事を嬉しく思っていると、シオニーさんはこれからフロンティア船団にいって大統領政府と話をしてくると言ってきた。

 

流石外務大臣、その若さで大統領とご対面するとは……いち凡人でしかない自分には真似できない行動力だ。

 

でも、こんな事を自分なんかに話していいのかと訊ねると、近い内にメディアに公表するから構わないと言ってきた。

 

頑張って下さいねと言うと、近い内にまた店に伺うわと返され、その場はそれでお開きにした。

 

シオニーさんて努力家だなぁ、ああやって早い内に行動を起こして大国との政治の遣り取りで上手く立ち回ってたりしてるんだろうなぁ。

 

出来る女ってのはそれだけで格好いいものだ。自分もあんな人間になりたいなと思いつつ、本日の目的を達成する為にその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

少し間が空いてしまった。今自分はグランゾンのコックピットでシュミレーターを使い操縦技術を自分なりに磨いていた。

 

やはりグランゾンの性能は色々と凄い。素人の自分が動かしても大抵の相手にはそうそう遅れは取らない。

 

だが、やはりそれでも自分が素人というのは拙い。これから何らかのトラブルに見舞われた時、一人で窮地を脱出するのは難しくなるからだ。

 

先日の暗黒大陸の時はソレスタルビーイングの介入のお陰で窮地を脱したが、そんな偶然が毎回訪れるとは限らない。

 

今後いかなる事態に陥っても一人でどうにか切り抜ける事が出来る様にするのが今の自分の目標である。

 

無論、それはシュウ博士を見つけるまでの話だが……そういう術は身につけておいて損をすることはないだろう。

 

だけど、一つ気になる事がある。本来ならグランゾンはシュウ博士程の天才でないとその性能を十全に活用する事は出来ないのだ。

 

だというのに、何故自分はシミュレーションとはいえ“ワームスマッシャー”まで扱える様になってしまっているのだろうか?

 

最近、コレに乗ってるとやけに頭の中がクリアになる時があるが……グランゾンって学習機能とか付いてたりしたっけ?

 

 

 

 




今回は数少ない主人公の穏やかな日々でした。

嵐の前の静けさとも言う(ゲス顔)

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