『G』の日記   作:アゴン

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予想以上に長くなってしまったorz


その49 前編

広いリビング空間、大画面に映し出された映像を前に一人悠々とソファーに座る男がいた。男の名は“リボンズ=アルマーク”地球連邦政府の直轄部隊であるアロウズを裏で操っていた張本人で、ソレスタルビーイングの計画中枢を担う“ヴェーダ”を掌握し、世界を思うがままに操り、イノベイター達のリーダー格でもある人物。

 

その人物が、映像に映し出されている人々の様子を眺め一人悦に入る。絶望に打ちひしがれる人類を目の当たりにしながらも彼の瞳は愉悦に満ちていた。

 

そんな彼に一人の青年が近づく。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターのティエリア=アーデに瓜二つの顔を持つ彼の名はリジェネ=レジェッタ。

 

「随分楽しそうだね。リボンズ」

 

「人類が漸く自らの罪を理解する時が来たんだ。彼等には僕も随分手こずらされたからね、嬉しくもなるさ」

 

背後から近付いてくるリジェネ=レジェッタをリボンズは振り返りもせずに応える。彼等の思考は脳量子波と呼ばれる特殊な仕組みで任意に繋がる事が可能である。故に隠し事など創造主たるリボンズに出来る筈もなく、リジェネはあるがままの質問を彼に訊ねた。

 

「けれどいいのかい? 反螺旋族は地球を滅ぼすつもりだよ。コロニーにいる人類だってインベーダーの群に襲われれば一巻の終わりだ。守るべき人類がいなくなれば僕達の存在意義もなくなってしまうんじゃないかな?」

 

「インベーダーは兎も角、反螺旋族の目的は人類よりも地球の破壊を優先しているみたいだからね。彼等の目的が達成されれば後は僕が残された人類を統一すればいいだけだよ。……それに」

 

一部の人間、ZEXISを始めとした反政府組織によって手こずらされたイノベイター達は、自分達の有用性が理解される時が来るまで地球圏から離れ、その様子を伺ってきた。

 

そして訪れた人類存亡の危機、地球に住む全ての人間は助かる見込みのない捨て石の様なもの、残されたコロニー側を自分達の力で治めればそれはイオリア=シュヘンベルグの計画達成にも繋がってくる。

 

自分の有用性とイオリア計画の代理、世界を担う役割が遂に自分の所に回ってきた。頭の中で世界統一による恒久的平和への実現をシミュレートするリボンズ、インベーダーに対する備えも着実に進んでいる。仮に現在の地球連邦の軍が敗れたとしても、地球圏には奴がいる。

 

「……グランゾン。例の魔神さんは今回の戦いに出て来てくれるかな?」

 

リジェネの口から告げられる魔神の名にリボンズの眉は寄せられ、口元が一瞬歪んで見えた。“グランゾン”そして“蒼のカリスマ”この二つの存在はリボンズにとってZEXISやワイズマンよりも厄介な存在となっていた。一向に行方の掴めない奔放さ、リモネシアで見せた圧倒的過ぎる戦闘能力、彼の存在はリボンズにとって最大の悩みの種でもあった。

 

けれど、もうそれに悩む必要はない。アンチスパイラルとインベーダー達が出張って来た以上、奴も必ず戦場に出てくるはず。グランゾンの力は未だに計り知れない部分があるが、それでも今回の戦いでは魔神も相応のダメージを受ける事だろう。

 

陰月の落下とインベーダー、そしてアンチスパイラルとの戦い。ZEXISが不在の今、戦いの軸となるグランゾンに掛かる負担は凄まじいものだ。

 

下手をすれば撃墜、もし上手く生き残れたとしても満身創痍なのは明白。けれどそれだけ暴れればインベーダー達の被害も相当なモノだろう。後は自分がコロニーの人類を管理し、アンチスパイラルに手出しさせないことを約束させれば、リボンズは自身の有用性を確固たるものにする事が出来る。

 

「さぁ、精々頑張って戦ってくれ、蒼き魔神よ。君の頑張り次第で今後の人類の立場が大きく変わるのだからね」

 

フフフと笑うリボンズ。邪悪な笑みを浮かべるリボンズに溜息を吐きながら、リジェネは部屋を後にした。

 

 

また、フロンティア船団の機関部。人目のないその場所で一人の女性が嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「ウフフ、遂にバジュラの母星を見つけたわ。ありがとうリトルクィーン。そしてサヨウナラ、蒼のカリスマさん。アナタの道化ップリは見てて楽しかったわよ」

 

眼鏡をかけ直し、グレイス=オコナーは不敵な笑みを残してその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───地球圏陰月周辺宙域にある最終防衛ライン。そこでは地球の命運を懸けた最終決戦の戦いが行われていた。

 

アンチスパイラルのメッセンジャー、ニアの宣告通り陰月と呼ばれる二つの月の片割れはゆっくりとした速度でありながら、着実に地球との距離を縮めている。

 

膨大な質量で落ちてくる月の落下、それを阻止しようと連邦政府の直属部隊、アロウズとミリアルド=ピースクラフトを筆頭にホワイトファングが部隊を展開して迎撃行動に当たっているが、何分相手は規格外にも程があるデカブツであり、その周辺には無数のアンチスパイラルの軍勢が控えている。

 

更に次から次へとインベーダーも押し寄せて来るものだから、アロウズとホワイトファングの戦力は戦闘開始から一時間も経たずに二割近く削られてしまっていた。

 

「これ以上はやらせん! ぬぉおぉぉっ!!」

 

ホワイトファングのリーダー、ミリアルド=ピースクラフトの駆るガンダムエピオンが前線より更に前にでる。携えたビームサーベルをより巨大化させて放たれる必殺の斬撃はアンチスパイラルのムガンとインベーダーの群をまとめて両断する。

 

爆散するムガンとインベーダー、手応えは確かに感じるが、それよりも数が多すぎるとミリアルドは舌打ちを打ちながら再びエピオンを走らせる。

 

アロウズもホワイトファングも今だけは互いに協力して戦っているが、それでも戦力の差は歴然。倒しても倒しても沸いて出てくる敵の群に全部隊の士気は低下の傾向にあった。

 

このままでは拙い。後方の部隊にもっと援護射撃を行うよう通信で指示を飛ばすが、次の瞬間一部の隊の陣形が崩れ、そこにインベーダーが雪崩れ込んでしまった。

 

エピオンを加速させ、地球はやらせまいとするミリアルドだが、彼の行く手をムガンの群が阻む。このままでは地球が危ない。彼の脳裏に最愛の妹の姿が過ぎったとき……。

 

『ワームスマッシャー!』

 

無数の光の槍がインベーダー達に向けて降り注がれた。爆散し、宇宙の暗闇に消えていくインベーダー、突然の出来事に全部隊が唖然とした時……奴が現れた。

 

『遅れてしまい申し訳ありません。加勢しますよ。ミリアルド=ピースクラフトさん』

 

『蒼のカリスマ、何故貴様がここにいる』

 

誰もが思う疑問をミリアルドは呟く。そんな彼の問いに通信画面に映る仮面の男は愚問とばかりに鼻で笑い。

 

『なに、大した話ではありません。帰る所を失ったら皆困るでしょう? 私もその一人に過ぎないだけですよ』

 

そう答える蒼のカリスマ、未だに混乱する者がいる中、魔神グランゾンは迫り来るインベーダーとムガンの群に向き直り……。

 

『ディストリオン……ブレイク!』

 

極大の閃光を撃ち放った。光に巻き込まれ、消滅していくインベーダー達。無数の敵の陣形に穴を開けた。それを契機にその場にいる全員が我を取り戻し、侵略者達に対する攻撃を再開した。

 

『さて、いよいよ決戦です。皆さん、覚悟はいいですか?』

 

蒼のカリスマからそんな言葉が出たとき、魔神の背後の空間が歪曲し、異空間らしき所から複数の機影と航空艦が姿を現した。

 

『当然だ。この戦いで奇跡を起こし勝利をもぎ取ってみせよう』

 

『俺は生きる。生きて皆の未来を守ってみせる!』

 

『やれやれ、まさか私がこんな戦場に駆り出されるとは、長生きはするものだな』

 

蒼の魔神に並び立つ様に佇む黒と白、そして桜色のKMFの出現に近くの部隊は戸惑いを見せる。特に黒の騎士団の総帥であるゼロとナイトオブラウンズの枢木スザクが一緒に出てくる事で更に驚きは大きなものになるが、今はそれどころではない為に皆インベーダー達に対する攻撃を再開する。

 

突然現れる魔神とゼロとナイトオブラウンズ、疑問が多く残る話だが、今は心強い味方としてミリアルドを始めとした人類側は彼等を受け入れる事にした。

 

魔神の増援。グランゾンの参戦により絶望的だった戦線に光が灯る。世界の脅威が一転して希望となるが、同時にミリアルドはそれが皮肉に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達が戦線に参加して早三十分、未だ前線は崩されておらず、ホワイトファングやアロウズの部隊も今の所戦線を維持して戦えている。

 

自分とスザク君が敵の前線を叩く事によって向こうの陣形に穴を開け、崩れた所を目掛けて他の部隊が切り込むというやり方は思いの外効果的だった。

 

ルルーシュ君……いや、ゼロはそんな崩れた箇所に相転移砲をぶち込んだり、時には他の部隊に攻め込むよう指示を飛ばしていた。黒の騎士団の総帥に命令権はないと反感に思う者が当然いたが、そこはミリアルドさんの判断で任せて貰う事になった。

 

的確なゼロの指示と彼を守るC.C.さん。スザク君のランスロットも絶好調であることからこのまま行けば何とかなるかもと思われたとき、遂にインベーダーが本腰を入れ始めてきた。

 

巨大なワーム型のインベーダー。戦艦すら丸呑みしてしまう程に巨大な奴等の登場に前線は混乱しかけた。その時は自分のグランゾンの“ディストリオンブレイク”で周囲のインベーダー諸共消滅させたが、それでも奴等の数は尋常では無かった。

 

陰月も徐々に近付き始めているし、ここで自分はロイドさんに頼み“アヴァロン”からこちら側の切り札を発射するよう要請した。

 

“フレイヤ弾頭”トウキョウ租界を壊滅に追い込んだ戦略兵器でその威力は折り紙付き、しかも今回はリミッターを外しての使用だったのでインベーダーは次々と桜色の光に呑み込まれていった。

 

フレイヤ弾頭は元々開発者の意向の下で使用制限を懸けており、リミッターを外すことはないと思われていた。けれど今は地球存亡の危機、しかもそれが絶対的な敵意を持った侵略者であるならば容赦をする必要はない。

 

このフレイヤ弾頭の製造で戦線に参加する事が遅れてしまったが、これでその遅れを取り戻したと思いたい。

 

リミッターを外されたフレイヤ弾頭の効果範囲は凡そ100㎞、知性の無いインベーダーではフレイヤ弾頭から逃れる術はない。

 

けれど友軍を巻き込む訳にもいかない為、使用する際はルルーシュ君の状況把握能力が鍵となっている。友軍を巻き込まず、且つ有効的にフレイヤ弾頭を使える場所を見極める仕事は、彼にとっては精神が削られる作業だろう。

 

けれど、お陰で戦況は再び五分に持って来れた。後はフレイヤ弾頭が弾切れになる前にインベーダーだけでも全滅させたい所。

 

『ブラックホールクラスター、発射!』

 

自分も出し惜しみはせず、最初から全力で攻撃を加える。スザク君も取りこぼしの敵をすかさず撃破していくし、この組み合わせは案外嵌まっているのかもしれない。

 

スザク君のランスロットによる圧倒的機動力による攪乱と攻撃、自分とグランゾンの制圧力とゼロの蜃気楼による状況の把握と分析、それによる計算能力。C.C.さんはそんなゼロを守り、蜃気楼から送られた発射座標を下にロイドさん達はアヴァロンからフレイヤ弾頭を発射させて、インベーダーやムガン達を駆逐していく。

 

これによって徐々にだが戦況は人類側が押し始めてきた。自分もこのまま押し切ろうとグランゾンを走らせようとした時、ミリアルドさんから通信が入ってきた。

 

『どうしましたミリアルドさん。何かありましたか?』

 

『あぁ、拙い事になった。アンチスパイラルとかいう連中、私達が押し始めたのを見計らって陰月の落下速度を速めてきた!』

 

『っ!』

 

ミリアルドさんからの報告に息を呑んだ。見てみれば確かに陰月の落下速度は速くなっており、みるみるうちに地球との距離を詰めていっている。

 

このままでは拙い。あれでは二時間も足らずに陰月は地球と衝突してしまう。そんな事はさせないと俺はミリアルドさんに通信を返した。

 

『ミリアルドさん。直ちに陰月周辺の部隊を撤退させ周辺のインベーダーの対応に当たらせて下さい』

 

『まさか、陰月を破壊するつもりか!? 確かにお前の機体とあの戦略兵器なら可能かもしれんが……』

 

『いえ、破壊はしません。仮に破壊したとしても、落ちてくる月の破片によって地球は壊滅的な打撃を受けてしまいます。インベーダーやアンチスパイラルを相手にしながらそこまでの対応は現戦力では不可能でしょう』

 

『では、どうするつもりだ?』

 

『……陰月を、押し返します。ミリアルドさんは至急陰月周辺の部隊に撤退の指示を!』

 

『ま、待て!』

 

陰月を押し返す。ただそれだけを告げて俺はミリアルドさんの制止の呼び掛けにも答えず、落下していく陰月に向かってグランゾンを走らせる。

 

その最中にルルーシュ君達にも連絡を入れ、巻き込まれないよう気を付ける事を伝え終えると、俺達は陰月の正面へと辿り着いた。

 

既に周辺には機影はない。どうやらミリアルドさんが自分の要求を聞き入れてくれたようだ。これならグランゾンの力をフルに使っても巻き込まれる心配はない。

 

改めて目の前のデカブツを見据える。“月”自分がいた世界でもお馴染みとなっている地球の衛星、それが落ちてくると改めて実感すると、操縦桿の握る手が僅かに震えてきた。

 

深呼吸をして呼吸を整える。何度か呼吸を整える内に陰月と呼ばれるソレは部分的に削られる様に表面が削ぎ落とされ、それはまるでカボチャのオバケの顔のようだった。ギザギザに裂けた口からは機械の様なモノが見える。どうやらこの陰月と呼ばれる衛星だったモノは人工物だったようだ。

 

この世界の新たな発見に笑みが零れる。緊張により高鳴った心臓が落ち着いた所で俺は改めてグランゾンの出力を上げ、重力制御にパワーを回す。

 

そして……。

 

『月の一つや二つ、グランゾンで押し返してやる!』

 

グランゾンの掲げた両腕から発せられる重力力場の波に陰月の落下速度が軽減する。グランゾンは重力の魔神と呼ばれるマシンだ。この程度の事なら造作もない筈。

 

このまま一気に押し返してやろうかと思ったが、流石に衛星規模の質量は堪えるのか、グランゾンの出力が思ったより上がらない。

 

このままではじり貧になる。どうする? ミリアルドさんの言うように月を破壊するか? 月を押し返すのが難しいと分かった今、決断は早い内に済ませた方がいい。

 

と、そんな時だ。横から襲い来る衝撃にグランゾンの体勢が崩れる。慌てて立て直した自分達の前にはいつぞやの時と同様、鴉の様な黒い機体が剣を片手に佇んでいた。

 

『久し振りだね蒼き魔神グランゾン。そして蒼のカリスマ……いや、シュウジ=シラカワと呼んだ方がいいかな?』

 

『アサキム=ドーウィン! またお前か!』

 

『悪いけど邪魔をさせてもらうよ。君とその機体は僕の目的の最大の障害になりつつあるからね。──刈り取らせてもらう』

 

『いきなり出てきて何を訳の分からない事を……!』

 

前振りもなく、いきなり現れたアサキム。こんな事をしている場合ではないが、此方の事情を考えている様な奴ではないので自分も応戦する事になった。

 

相変わらず素早い動き。シュロウガと呼ばれる奴の機体は以前戦ったあの時よりも更に速くなっていた。

 

けれど、此方も以前とは違う筈。捉える事は出来なくても向こうが自分という標的を狙っているのなら此方にも分があるというモノ。

 

『戴くよ!』

 

『こっちがな!』

 

背後から切りかかるシュロウガにグランゾンは180°体勢を回転させ、手にした剣で振り払う。パワーでは此方が上なのか、アサキムとシュロウガは咄嗟に剣で防御するも衝撃までは緩和出来ず、ゴム鞠の様に後ろに吹き飛ばされる。

 

『……成る程、どうやら以前よりもずっとその機体を使いこなしているようだね。これでは並のスフィアリアクターでも太刀打ち出来そうにないな』

 

『だったら引っ込んでてくれないか? こっちはお前の相手をしている暇はないんだ』

 

『……そうだね。ならばそうさせて貰うよ。今回は君がどれだけ力を上げたか見たかっただけだし……それに、どう足掻いても君に次は無さそうだ。何せ、もうすぐ“彼”が来る頃だからね』

 

『……何だと?』

 

意味深な言葉を口にするアサキム。相変わらず何考えているか分からない奴だが、一つだけ確かな事実が存在する。

 

コイツは俺の敵だ。口振りが癪に障るのもそうだが何故だかコイツとは相容れない気がする。色々気になる所はあるが今はコイツを相手にしている場合じゃない。早く月の破壊行動に移らなければ……。

 

グランゾンのワームホールで一気に元の場所へ戻ろうと空間に穴を開ける。そして、いざ飛び込もうとした時───そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

『魔神よ。お前の健闘もこれまでだ』

 

 

圧倒的存在感を感じさせる声、その声を耳にした時、グランゾンとシュウジ=シラカワの姿は周辺宙域から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……う、うん?』

 

意識が覚醒する。閉じられた視界が開かれ、そこがグランゾンのコックピットだと認識した自分は瞬間的にモニターを弄り、グランゾンに状況の確認を急がせる。

 

一体自分に何が起きた? あれから地球はどうなったのか、陰月やインベーダーは撃退出来たのか、ルルーシュ君達は無事なのか。思いつく限りのやり方で外部に連絡を取ろうとするが、モニターに映し出されるNOSIGNALの文字に俺は言葉を失った。

 

『何だよこれ、どういう事なんだよ』

 

混乱する自分を深呼吸で落ち着かせながら、もう一度グランゾンで周囲の状況を調べる。すると、信じられない事実がグランゾンを通して自分に突きつけられてきた。

 

まず、ここは地球周辺の宙域ではない。……いや、周囲の天体を調べた限り、どうやらここは太陽系ですらない未知の空間のようだ。どうして自分はこんな所にいるのか、自分の身に何が起こったのかもう一度思い返してみると、眠っていた意識の奥底に桁違いの存在感を醸し出す声を聞いたのを思い出す。

 

ワームホールを開き、陰月に接近しようとした瞬間に聞こえた声、あの声の主が自分に何かしたのだと確信すると、そんな自分の答えを待ちわびた様に俺とグランゾンの前に黒いヒトの様なモノが現れた。

 

『まずは歓迎の挨拶をしておくとしよう。ようこそ、蒼き魔神よ。私はアンチスパイラル。お前達人類を殲滅する存在だ』

 

“アンチスパイラル”地球人類を殲滅させると言い放つソイツは確かにそれだけの力が備わっていると、自分はこの瞬間感じ取った。

 

何せ奴はあの一瞬でグランゾンとワームホールの間に割り込み、ここへ連れてくるデタラメな存在だ。……しかも、コイツの存在感はまさしく規格外、恐らくはこの空間を作りだしたのも奴の力の一端に過ぎないのだろう。

 

“宇宙を作り出す”そんな神同然の力を有する奴と正面から向き合う自分は頬に嫌な汗が流れる。拭うことも出来ず相手の一挙一動を注意深く観察していると、アンチスパイラルは感心したように言葉を紡いだ。

 

『ほう、我々の力を正しく理解しただけでなくこの隔絶宇宙の事も悟るとは……流石は魔神と言った所か、餌を撒いただけの事はある』

 

『餌、だと?』

 

『そうだ。お前達の言う陰月も破壊魔達を差し向けたのも全てはお前という存在を釣り上げるための餌でしかない』

 

『衛星や馬鹿でかい化け物達を差し向けておいて餌扱いとか、これは光栄に思うべきなのか?』

 

『お前とそのマシンの存在は剰りにも危険だ。下手に“奴ら”の目に止まって手を組まれたりすれば面倒な事になるのでな、貴様はここで確実に消滅してもらう』

 

反螺旋族がそう言うと、周囲から唐突にインベーダー達が出現する。またデカい蟲達が相手。しかも一人でしなくてはならないと思うと気が滅入ってくる。

 

だが、奴の手札はそれだけではなかった。無数に現れる手や足の様なもの、それぞれに顔の付いた不気味なソイツ等はワーム型のインベーダーと同等以上に巨大だった。

 

しかもソイツ等の後ろには星よりもデカい顔の船みたいなモノまで控えている。見た目のデザイン的に手足達と同じモノだと思われるが……もしかしてアレもアンチスパイラルの尖兵なのだろうか?

 

冗談じゃない。あんなモノが地球に攻めてきたら今度こそ人類はお終いだ。逃げられる様なモノでもないし、連中が動き出す前に俺は“シラカワシステム”の起動準備に入る。

 

『さて、これだけでもお前達を消すことは可能だが、念には念をいれようか』

 

アンチスパイラルが指をパチンと鳴らすと、今度は見た事もない化け物達が姿を現した。インベーダー達と似たような性質の様だが、連中が何者かは最早問題ではない。

 

宇宙空間を埋め尽くすほどの軍勢。地球付近で戦った規模とは次元が違いすぎる光景に俺は瞬時に決意した。

 

この状況を打破するにはやはり“アレ”の力が必要だ。既にシラカワシステムは起動開始の準備を整えており、後は自分が起動する為のスイッチを押すだけ。

 

『さらばだ。魔神よ、消えるがいい!』

 

アンチスパイラルのその言葉を契機に、無量大数にも等しい軍勢が押し寄せてくる。死の津波を前に俺はシラカワシステムを起動させ、瞬間。意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────意識が遠くなる。足下から自分という存在が無くなっていく様な感覚、自分の中にあるシュウ=シラカワという因子を意図的に目覚めさせるというのはこういう事なのか。

 

自分が無くなる。その感覚に最初は恐怖を感じたりしたが、今はもうそんな感情すら無くなっていくのが分かる。シュウジ=シラカワという人格が消滅するというのに、そんな事も他人事の様に思える。

 

どんどんシュウジとしての記憶が消えゆく中、ふと先日博士と交わした会話が思い浮かぶ。

 

『いいですか。グランゾンの真の姿を解放するという事は貴方の中に眠る私の因子を意図的に高めるという事です。私の因子を高めるという事は貴方の存在を消すという事に他なりません。私はこれまで貴方がそうならない為に少しずつ因子を高めてきました。今の貴方なら四割の確率で成功する事でしょう』

 

『……四割。自分という存在を賭けるには分が悪いッスね』

 

『……止めますか? 今なら貴方だけでも地球圏から逃げ出す事が可能ですよ? 何なら元の世界に帰る方法もお教えしますが?』

 

『いや、それはまだ後にするよ。あの世界にきて散々な目にあったけど、やっぱそれなりに思い入れがあるし……それに』

 

『それに?』

 

『俺、まだこの世界に何も返せていないんスよ。焼かれたリモネシアをまた建て直さないといけないし、ゴウトさんにも礼を言えていない。キタンさん達やヨーコちゃんにもはっきり謝ってもいないし、クロウさんからはお前の所為で借金が倍になったって難癖付けられてるし、ランドさんとまた飲みに行く約束をしちゃったし、グレイス=オコナーや裏で小細工してきたイノベイターともOHANASHIしてない訳だし、アイムの奴とも決着を付けなくちゃならない。と、結構やる事多いんスよ』

 

何だかしょーもない話ばかりだった気がする。けれど、そんな下らないと思われる話が俺にとっては代え難い大事なものだ。後半三つはモロ私怨だが、やられたらやり返すのがシラカワ流だ。十倍返しか百倍返しになるのかはその時のテンションによるが……。

 

『……ククク、成る程確かにそれは下らない話ですね。先の女装といい、貴方は本当に面白い人だ。───ならば歯を食いしばって耐えて見せなさい。私の因子を制し、見事“ネオ”に至りなさい。貴方にとって掛け替えのない下らない日常の為に』

 

下らない。博士は口ではそう言うがその表情はどこか嬉しそうに見えた。何度も頼ってすみません。この時の俺は内心で感謝と謝罪をして、お返しとばかりにトンでもない事を口走った。

 

『そういう訳なんで、“アレ”もらいます。図々しいとは思いますけど、何分こっちも大変なので……』

 

『構いませんよ。私の因子を跳ね返したのならばあの機体を操るのに最低限の資格はあるという事、精々振り回されないよう頑張りなさい。───貴方の“ネオ”との共演、楽しみにしていますよ』

 

そういって博士は微笑みながら自分の前から姿を消した。

 

───そうだ。自分にはまだやらなくてはならない事があった。こんな所で寝ている場合じゃない。

 

博士は、シュウ=シラカワはシュウジとして戦う事を許してくれた。任せてくれた以上、歯を食いしばって耐えてみせなきゃ、あの人に顔向け出来なくなる。

 

─────だから!

 

 

 

 

「グランゾン、俺に力を貸せ!!」

 

 

 

朧気な意識から目を覚ました瞬間、俺が目にしたのは……。

 

 

 

『全システム、オールグリーン。“ネオ”起動します』

 

まるで自分が起きるのを分かっていたかの様な対応に、俺は仮面の奥で吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃が疾る。魔神に群がる侵略者達は悉く弾け飛び、インベーダー達は肉片となって消滅する。

 

『───何だと?』

 

自称宇宙の守護者は仰ぎ見る。この宇宙の中で抵抗など意味はなさないというのに、弾け飛ぶ破壊魔達の前にアンチスパイラルは空虚な瞳を見開かせて驚愕していた。

 

先程の姿よりも禍々しくなった姿。形も大きくなり、背中に取り付けられた日輪によって、魔神の姿は神々しくすら思える。

 

アンチスパイラルは理解する。これこそが奴の本当の姿なのだと、目覚めさせてはならない魔神の誕生にアンチスパイラルの表情が歪む。

 

『──さて、時間も限られている事だし早々に片を付けるとしよう』

 

『貴様ぁ……』

 

孤立無援。誰の助けも期待出来ない中でシュウジは仮面を脱ぎ捨て、完全な紫色となった髪をかきあげる。

 

状況は未だ絶対的不利。それでもシュウジは操縦桿を握り締めて頬を僅かに吊り上げる。

 

『ここなら誰かを巻き込む心配はない。さぁ、暴れるとしようか。“ネオ・グランゾン”!』

 

魔神の瞳が紫炎の光を放つ。異空間から出てくる大剣を手に、迫り来る大型インベーダーを前に───一閃。

 

薙払いの一撃が周囲のインベーダー諸共両断した。

 

爆散するインベーダー群。その中でアンチスパイラルは、怒りに歪んだその表情を更なる憤怒によって歪ませる。

 

 

さぁ、見せつけろ。刻み込め、これが世界が目覚めさせた。

 

 

────魔神の真の姿(ネオ・グランゾン)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかの一万文字越えにビックリ。

尚、ネオ・グランゾンの強さは完全に作者主観のモノとなりますので予めご了承下さい。


それでは次回もまた見てボッチ!

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