『G』の日記   作:アゴン

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まさか主人公の事を気に掛けているのが一人もいないなんて……これもボッチの定めか(笑)



その54

───血飛沫が舞う。何もかもがスローモーションに映り、ゼロとナナリーはその瞳をこれでもかと見開いて目の前の光景をただ呆然と眺めながら、ほんの数瞬前の出来事を思い出す。

 

ナナリーとコーネリア、そしてシュナイゼルとも決着を付けた一行はこれで全てが終わったと安心しきっていた。後はそれぞれを丁重に扱い、しかるべき所に預ける事で今回の騒動に幕を引こうと考えていた。

 

だが、そんなゼロのプランは一人の発狂した人間の手によって呆気なく崩される。“ディートハルト”黒の騎士団を立ち上げて間もない頃に情報担当として任された、ブリタニアの中でも主義者と呼ばれる人間に分類される人物。彼は終始ゼロに対して、妄想とも呼べる思想を抱いていた。

 

全ては世界という舞台で己の劇を完成させる為、ゼロやシュナイゼルという世界でも数少ない“役者”にディートハルトは心を躍らせていた。ゼロには混沌、シュナイゼルには虚無と、それぞれが抱く異常性にディートハルトは心を躍らせていた。

 

なのに、目の前で繰り広げられる詰まらない三文芝居とやらせよりも酷い喜劇を見せつけられ、彼の我慢の限界は一瞬にして振り切られる。手にした銃でゼロに狙いを定め引き金を引く。

 

そんなゼロをナナリーが庇うが、構うものかとディートハルトは引き金を引いた。撃鉄が打ち込まれ、銃口から放たれる弾丸は真っ直ぐナナリーへと向かっていく。このまま彼女を撃ち抜こうと迫る弾丸の前に……更なる壁が立ちはだかった。

 

蒼のカリスマ。ゼロよりも世界に混沌と破壊を行ってきた彼の者が、ゼロを庇うナナリーの前に立ち塞がった。放たれた弾丸は軌道変更なんて出来るはずもなく、そのまま蒼のカリスマの腹部に命中、血飛沫を撒き散らしながら体を傾ける目の前の蒼のカリスマに、ディートハルトは今まで感じたことの無い悦を得ていた。

 

あの蒼のカリスマを、自分が仕留めた。シュナイゼルでもゼロでも、国連やZEXISでもない。ディートハルト=リートという一人の人間が成し遂げたのだ。

 

その事実に悦を感じ、絶望に染まる少女達の顔を見て、ディートハルトは絶頂(エクスタシー)すら抱いていた。

 

うつ伏せになって倒れようとする蒼のカリスマ。次の瞬間にはカノンやコーネリアに撃ち殺されるだろうが、それでも構わない。最後の最後で自身の劇が完成された事に、ディートハルトはこの上ない満足感に包まれていた。

 

そら、倒れるぞ。世界で最も強い存在と言われてきたこの男が、間もなく自分の手で倒れ伏すぞ。刹那とも呼べる合間、ディートハルトは倒れる蒼のカリスマに合わせて最期に喜びの雄叫びを上げようとしていた……瞬間。

 

ダンッ。と、地面から伝わってくる音と衝撃にディートハルトの表情は固まった。倒れるかと思われたその人物は右足を前に出して踏み留まっており、仮面の顔を彼に向けていたのだ。

 

ディートハルトの表情が恐怖に歪む。何故? だって、どうして? そんな疑問に思考が包まれる中、目の前の存在はディートハルトに向かって飛び出していった。地面を這うように迫り来る仮面、まるで巨大な蛇を前にしている様な感覚に囚われたディートハルトは一心不乱に銃を乱射した。

 

「く、くるな、来るなぁぁぁっ!!!」

 

一発、そして二発と蒼のカリスマに向かって銃を撃ち込むが、蛇行しながら迫ってくる蒼い蛇には当たらず、ディートハルトの表情は更に歪なものとなる。

 

そして、遂に間合いに入り込まれた。至近距離にまで迫ってきた蒼い蛇に手にした銃を手刀で払いのけられ、ディートハルトは銃を無理矢理手放されてしまった。

 

そして同時に立ち上がり、右拳を脇に引き絞る様に構える蒼のカリスマを別角度から見ていたスザクは、目を見開きながら彼の次の行動を予測する。

 

アレは空手の中でも最も代表的な型。スザクも嘗て藤堂から学び、そして何度も打ち放ってきた一撃。恐らくは紅月カレンも習っているだろうその型の名は───。

 

「────ダッ!!」

 

“正拳突き”地を踏みしめ、短い咆哮と共にその一撃を放った。衝撃に胸元を抉られ、肋骨を砕かれ、ディートハルトは口から血の混じった吐瀉物を強制的に吐き出された。

 

シュナイゼルの時とは段違いの衝撃に貫かれ、飛び上がり、背後にある玉座を砕きながらもまだ吹き飛び───そして、遂には庭園を包んだ特殊強化防壁を突き破り、ディートハルトはダモクレスの外へと飛び立っていった。

 

残されたのは、呆然と眺めて固まっているゼロ達。蒼のカリスマが撃たれ、倒れそうになるまでの僅かな合間に起こった出来事に、誰もが言葉を失っていた。

 

穴の開いた庭園。隙間風が入ってきてナナリーがクシャミをした事で我に返ったゼロは、正拳突きを撃ち込んだ姿勢のまま動かない蒼のカリスマに声を掛ける。

 

銃で撃たれて大丈夫なのか? 微動だにしない彼に近付こうとした瞬間……。

 

「……ガフッ」

 

蒼のカリスマ……いや、シュウジ=シラカワは口から血を吐き出し倒れ込んだ。やはり魔人でも銃で撃たれれば不味かった。早急に手当が必要だと察したゼロはスザクとシュナイゼルの協力の下、急いでダモクレスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

F月O日

 

シュナイゼルとの戦いから二日、どうにか生きていた自分は今日も頑張って日記を書くことにする。さて、先ずは自分の体調の事について報告しようと思う。

 

ディートハルトの撃った銃弾はナナリーちゃんに向かって放たれていた。位置的にスザク君よりも自分の方が近かった為、自分が楯になるしかなかったのだが……突然の出来事に死を覚悟する暇もなかった為、自分は咄嗟にある秘伝の技で致命傷を避ける事にした。

 

その名も“内臓上げ”その名の通り体の内部にある各内臓を自分の助骨内部に押し上げる荒技で、動乱の時代ガモンさんがよく使用していた最後の回避術なのだそうだ。咄嗟の事なので上手く出来るか心配だったが、どうにか成功させる事が出来たようだ。倒れそうになる様に装った為に貫通した弾は上に飛び出して失速、その後も誰かに当たるような事はなかったし……。

 

 

本来は何度も練習して体に慣れさせる必要がある技なのだが、自分はあの時初めて……しかもいきなり使用した為、内臓に負担が掛かって血を吐き出し、軽いショック症状となって倒れてしまった。

 

まぁ逆に言えばダメージと言えるものはその程度なので、アヴァロンに運び込まれた後は割と早く目を覚ますことが出来た。その際に見た彼等の怒りと呆れ、そしてドン引きのC.C.さんの眼差しがヤケに印象に残ったのだが……忘れよう。不死身より不死身らしいとか、何気にキツい事言われた記憶が蘇ってしまう。

 

と、そんな訳で無事生還した訳なのだが、如何せん身体が銃弾で撃ち抜かれたのだ。セシルさんからは暫く安静にするよう強く言われてしまった。

 

まぁ確かに致命傷は避けられたと言っても此方は荒技で身体を酷使してしまった訳だし、撃たれた箇所は焼き(ごて)を押しつけられた様に熱を持っているから念の為に戦闘行為は控える事になったし、それは別に構わないのだが……問題はカレンちゃんとヨーコちゃんだ。

 

二人とも自分が撃たれたと言うことでその時は通信でやたら自分の事を心配してくれていたらしく、一時はアヴァロンに乗り込み、自分の様子を一通り看ていってくれたようなのだ。

 

そして彼女達が去った後に自分が目覚めた訳なのだが……なんというか、まだ自分が目を覚ました事を彼女達に伝えていないらしいのだ。

 

てっきりセシルさん辺りがやっといてくれたと思ったのだが……そこら辺は自分でやっときなさいと何故か怒られた。いやね、俺も最初いち早く無事だという事を伝えようとしたのだけれど、C.C.さんから渡された端末、そこに記録されてある映像を見た所為で、凄く気まずくなってしまったんだよね。

 

その映像ってのが自分が丁度意識を無くしていた時で、自分は集中治療のベッドに寝かせられ、その隣でカレンちゃんとヨーコちゃんがいたのだけれど……これがもう凄かった。

 

どうしてアンタは無茶ばかりするのよ! とか、死なないでよ! とか、あの二人が泣き顔で言うものだからさぁ大変。ヨーコちゃんに至ってはカミナの兄貴を思い出したのか、顔面蒼白でうなだれていた。

 

まぁ仕方ないよね。その時の俺の格好血塗れだし、出血で死ぬかもしれないと思われても仕方ないよね。白のロングコートを着ていた所為でより派手に見えた事だろうし、彼女達が勘違いをするのも頷ける。

 

実際目が覚めてから暫くは少し貧血気味で動けなかったし……あ、関係ないけどその日の夕飯は失った血を補う為に自分だけステーキでした。ウェヒヒ。

 

なんてアホな事言ってる場合じゃなく、そんな端から見れば死にかけの自分は彼女達にもの凄く不安を与えたのか、ZEXISに戻る際は普段の活発な姿からは想像できない程に落ち込んでいた。

 

さて、そんな心配していた人間が数日経たない内に復活し、あまつさえ呑気にステーキなんて喰ってたと知ったら……果たしてどうなるのでしょう?

 

……知りたくねぇ。てか、あの映像見たらその時横になっていた自分の顔、さほど悪くないように見えるのは自分だけ? オレンジ色のケースに包まれていたから気付かなかったとか、そんなオチじゃないよね? そりゃ皆から呆れられる訳だよ。死ぬかもしれないと思われた人間が一日程度で快復したと知ったら色々台無しだよ。

 

道理でステーキを食べていたらナナリーちゃんに怒られた訳だよ。その時は彼女の言っている事がよく分からなくて終始ポカンとしていたけど……あの時の自分を殴りつけてやりたいわ。

 

そんな訳で未だ彼女達に連絡を入れていないのだが……正直言って怖いので、ZEXISのジェフリー艦長とスメラギさんのプトレマイオスにそれぞれ暗号通信で取り敢えず無事と送っておいた。

 

あの二人なら日を見て彼女達に伝えてくれるだろう。その際にカミーユ君とアムロさんが仲介人になってくれたら尚宜しい。あの二人は何となく人間関係で相談し易いし、頼りになる。特にアムロ大尉の方は人生経験が豊富なのか、的確なアドバイスをしてくれそうなイメージがある。……イメージだけだが。

 

ともあれ、自分は最低限の筋を通したと思うのでこの話はこれでお終い。次はナナリーちゃん達について説明しようと思う。

 

まずはシュナイゼルとナナリーちゃんの件なのだが、最初は今回の戦い、騒ぎを起こした罪として国連に引き渡そうかと本人達の希望もあって一時は考えたんだけれど、未だアロウズの連中の影響が色濃く残る今の国連に引き渡すのは抵抗があるので却下した。幸い国連はまだ陰月での戦いの後のゴタゴタが片付いていないのか、未だに連中の動きは確認されていない。

 

信用出来る人物としてリリーナさんに彼等を預かってもらおうと思い、現在ルルーシュ君達が各方面にリリーナさんとの面会を求めているのだが……一向にちゃんとした答えはもらえていない。

 

何やら焦臭い感じがしてきたが、今はルルーシュ君達の情報収集の結果を待つしかない。リリーナさんとの連絡が繋がるまでの合間はシュナイゼルとナナリーちゃん、カノンさんとコーネリア殿下は暫くアヴァロンで預かる事になった。

 

そしてもう一つ報告があり、ナイトオブラウンズのジノ君とアーニャちゃん、二人も皇女と皇子、そして皇帝陛下を護ると言う事で自分達と合流する事になった。

 

特にアーニャちゃんは自分をギアスから解放してくれたと言うことでジェレミアさんに借りを返したいという。……良かったねジェレミアさん。中華連邦にいけるよ。

 

二人とスザク君との蟠りは取り敢えず無いらしい。互いに戦場に立ち、互いに命を奪い合ったが為に憎しみという感情はないらしい。……まぁ、そんなジノ君の機体を破壊したのは自分なんだけどね。

 

そんな訳で二人は今後自分達の所で活動し、世界の為に戦うのだという。そんな二人の熱意に応える為、傷が治り次第自分はロイドさんと共に二人の機体を治してやろうと約束した。尤も、既にロイドさんがモルドレットの修理に取り掛かっている為、自分も急いで身体を治さなければと思う。

 

整備……いや、改修か。ジノ君の機体は自分が壊したので責任もってトリスタンの改修を行うことにした。

 

さて、恐らくはこれで最後になるのかな? 最大の問題であるダモクレスの処理なのだが、これも自分の怪我が治り次第速やかに執り行いたいと思う。シュナイゼルはあのダモクレスを衛星軌道上に打ち上げる事で世界を支配しようと考えていたらしいので、今回はそれを利用し、誰にも迷惑が掛からない衛生軌道上でBHCを使用し、諸共消滅させようと思う。

 

ディストリオンブレイクでも破壊可能だが、それだとダモクレスに搭載されているフレイヤにまで引火しかねないので却下。地上に影響を及ばされないよう宇宙にまで上がった所でBHCで消す事にする。

 

さて、今回はこれで終わりにしようと思う。身体を休める為、そしてヨーコちゃんとカレンちゃんに対する言い訳を考えながら、今日は眠りたいと────(日記はここで途切れている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、トレーズ編。開幕


また見てボッチ!

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