『G』の日記   作:アゴン

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トレーズ編 開幕。


その55

 

 

 

F月R日

 

大変な事が起きた。ダモクレスが突如上空から降り注いできた光によって跡形もなく消し飛んでしまった。いや、それは別に構わない。自分とグランゾンでやる予定だった事を代わりにやってくれただけなのだから、ダモクレスを破壊してくれた事自体は特に気にする必要はない。問題は別の所だ。

 

“ホワイトファング”コロニー側の代表とも呼べる彼等が遂に動きを見せてきた。ミリアルド=ピースクラフトを筆頭にとんでもない兵器を拵えて、シュナイゼルに続いて世界に対して宣戦布告を宣言してきたのだ。

 

しかも彼等の手中にはリリーナさんが囚われているらしく、道理で彼女に連絡が繋がらない訳だと思った。だが、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。何故なら彼等はダモクレスを超える“リーブラ”と呼ばれる巨大兵器を有しているのだ。宇宙にいながら地球に向けてどの標的にも命中させられる精度、そしてその標的を完全に破壊出来る火力、どれもがメメントモリ以上の脅威であり、ダモクレスを凌駕する有用性を持ち合わせている。

 

そんな地球上どこにいても狙ってくるとんでも兵器が相手では、地球の防衛機能なんて意味を為さない。もし次に国連本部を直接狙ってくるのなら、地球は再び大混乱に陥ってしまう。

 

すぐさま自分達も向かいたいのだが、ダモクレスを監視するという目的で近くに待機していたのが災いし、アヴァロンの飛行の動力源であるフロートユニットにダメージを受けてしまった為、航行が難しくなってしまった。唯でさえ先の戦いでダメージを受けた所に今回の衝撃、受けた被害状況は思ったよりも酷く、ロイドさんは一度徹底的に直さないと無理と言っていた。自分も見させて貰ったが……確かにあれは酷い。応急処置した箇所へもろに負担を掛けさせてしまった為、無理な航空は危険だと思った。

 

そんな自分達は現在アヴァロンを地上に降ろし、今後の行動を考えている。現在自分は少し休憩しようと提案し皆の輪から抜け出しており、自室で日記を綴っている。

 

こんな事をしている場合じゃないと思うが、やはり一度身についた習慣からは中々抜け出せないのか、こうして日記を書いている方が気持ちを落ち着かせる事が出来るので、今更止める事はできない。

 

シュナイゼルとゼロが今後のミリアルドの行動を予想した結果、次の様な事が分かった。ミリアルド=ピースクラフトが率いるホワイトファング、そしてその彼等の要の兵器であるリーブラは恐らくは連射機能が搭載されていないという事。

 

もしあのリーブラに連射機能が搭載されているのであれば、今頃地球は蜂の巣にされているとシュナイゼルは語る。ミリアルドという人間性を考慮し、ゼロは敢えて連射しないと予想しているが、どちらにせよ次にリーブラのあんな砲撃を許したら、地球は危うくなるので意味は為さない。

 

今頃はZEXISが彼等を止める為に宇宙に上がっている頃だ。自分達も早い所追い付かなければならないのだが、ここで一つ問題がある。シュナイゼル達を置いていっては善からぬ考えを持った輩が近付いてくる可能性がある為、何人か護衛として置いていくしかない。戦力が下がる事は些か拙いが、そこは自分とグランゾンでカバーするしかない。

 

ナナリーちゃんは自分が戦場に行くことに少し不満があるようで、何やら反対するような言葉を口にしていたが……まぁ腹に風穴開いた人間がホイホイ戦場に自ら向かうと言っているのだ。心優しい彼女からすれば、それは糾弾に値する行為なのだろう。

 

つか、自分で書いていてちょっと引いた。ほんの一年半前まではただのパンピーでしかなかった自分が、今では自分から戦場に向かおうとか、拳銃に撃たれても割と平然としているとか……仮に元の世界に戻ったとしたら、俺って元の生活に戻れるのかな? ちょっと心配。

 

それに、“ネオ”に至った事で強制的に博士の因子を高めた副作用なのか、俺の髪は博士の様に紫色に染まってしまっている。親や学友の皆には気分転換のイメチェンと言い訳すれば通用するかもだけれど……今まで髪なんか染めた事がなかったから両親は怪しく思うんじゃないだろうか。

 

ルルーシュ君達の前では基本仮面で顔を覆っていたから反応は薄かったけど……シオさんやリモネシアの皆にも相当怪しく思われるんだろうなぁ。

 

カレンちゃん達は自分が撃たれた事で相当テンパっていたらしいからそれどころじゃなかったみたいだけど、もし気付かれたりしたらどうしよう。イメチェンで誤魔化しきれるかな?

 

それに博士の因子を高めた副作用はこれだけじゃない。以前日記に記した読み返しの件なのだが……幾ら読み返しても思い返す事が何もないのだ。寧ろ未来予知に似た発言を書いている自分に不気味さを持つほどに……。

 

今の所はそんな知識の部分だけが抜け落ちてしまっているようだから別に気にする必要はないが、万が一記憶まで消えてしまったら流石に困るので、これからも日記は出来るだけこまめに書いていこうと思う。博士にも今度時間が空いたら早急に訊きに行くとしよう。不安すぎて夜も眠れん。

 

ともあれ、自分達の今後の動きは大体決まっている。後はグランゾンのワームホールを使い、皆をホワイトファングの拠点まで転移させるのが大まかな作戦だ。シュナイゼルやナナリーちゃん達はジノ君とアーニャちゃんに任せて、自分達は自分達に出来る事をやろうと思う。

 

ZEXISが宇宙に上がってホワイトファングと決戦に挑むのは凡そ一日とちょい。その短い時間の合間にジノ君達の機体の修理と改修を急がなければならない。その為にも─────(日記はここで途切れている)

 

 

 

 

F月T日

 

……今、俺は皆を置いて一人グランゾンのコックピットに乗り込み、宇宙空間を漂っている。グランゾンの転移能力なら一瞬にして目的地に到達する事が可能であり、ZEXIS達よりも早くこの場に駆けつけている。

 

辺りはモビルスーツで溢れており、規模的には先のシュナイゼル達との戦闘と同様……或いはそれ以上の戦力がここに集まっているみたいだ。けれど、その戦力の中にはモビルドールの姿はない。純粋に人と人同士の戦いで決着を付けるつもりなのだと、いよいよ総力戦なのだと自分は思った。

 

本当なら今頃皆と一緒にホワイトファングの拠点に乗り込んでいる筈なのだが、あれから自室に通信が送られてきて、その内容にそれどころではなくなってしまったのだ。

 

皆には申し訳ないと思う。けど、送ってきた場所と人物の名を出されては、自分も無視する訳には行かなかった。

 

“トレーズ=クシュリナーダ”自分の事を友人と言い、自分もまた数少ない友達と認識している彼が、宇宙戦艦リーブラから送りつけてきたのだ。

 

最初、この通信は何かの冗談だと思った。自分に地球は任せろと言ってくれたあの人が、今度は地球に向けて引き金を引こうとしている。その事実を俺は最初認めようとしなかった。トレーズさんの名を騙る何者かが自分を惑わせようとしているのだと、その時の自分はそう思った。

 

けれど、それが現実なのだ。通信の後に再びホワイトファングの宣戦布告の映像が世界中に流れ、その内容と映し出された人物を前に、俺はその事実を受け入れる事しか出来なかった。

 

宣戦布告の内容は今より二十四時間後、此方の要求を呑まなかった事に対し、彼等は無造作にリーブラの主砲を地球に向けて撃ち放つと脅してきたのだ。そこにこれは脅しではないと釘を刺してくるトレーズさんに、俺は呆然と見ている事しか出来なかった。そんなトレーズさんはミリアルド=ピースクラフトの補佐的立場として、彼と同様に地球に向けて牙を向けている。

 

この時……いや今もか。俺の胸中にはトレーズさんに対する疑問の感情しかなかった。どうしてだと、何故こんな事を始めたのかと、尽きない疑問に頭を悩ませていた時、ある一つの解が自分の脳裏に浮かび上がってきた。それを確かめる為に自分はルルーシュ君達を残し、通信内容に記してあったリーブラの近接宙域座標に転移する事にした。

 

先程までアヴァロンからの通信がグランゾンのコックピットに鳴り響いていた。……皆には悪い事をしてしまったが、今回は自分の私用による行動なのであまり巻き込みたくはなかった。故に、グランゾンの通信機能を一時的にカット、皆からの通信は遮断する事にした。

 

それに、これはトレーズさんの望みでもある。“一人で来て欲しい”今までトレーズさんには頼りっぱなしだった為、自分としてはこれに応えない訳にはいかなかった。友人として自分を招待してくれるのなら、自分もまたそれに応えなくてはならない。血塗れのロングコートは必死に洗い流した結果、どうにか元に戻す事が出来たし、これなら彼の前に出ても恥ずかしくないだろう。

 

───今、リーブラの門が開いた。ホワイトファングの大部隊に囲まれながら宇宙戦艦の中へと入っていく。久し振りに顔を合わせる友達に自分は仮面を被り、蒼のカリスマとしてグランゾンから降りる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───宇宙戦艦リーブラのブリッジ。

 

「まさか、本当に蒼のカリスマが来てくれるとはな、トレーズ。君の人脈には本当に呆れるばかりだよ」

 

「そういう言葉は適してはいないな、彼は私の友人だ。駒でもなければ部下でもない。対等の存在として認めている」

 

「……そうか、無粋な事を言って済まなかった」

 

ホワイトファングのリーダーであるミリアルド=ピースクラフトと、OZの元総帥トレーズ=クシュリナーダ。互いに友人同士であり、歴史に名を刻む事になる彼等は、モニターに映し出されている格納庫で鎮座する魔神を見て、談笑じみた会話を交わしている。

 

トレーズの言葉は怒っている様に見られるが口調は至って穏やか、ミリアルドの真摯な謝罪に対して彼は気にするなと笑顔で返す。

 

そんな彼等の背後の扉が開かれ、ブリッジに一人の兵士と共に仮面を被った魔人が姿を現す。案内人である兵士は綺麗な敬礼をした後、ブリッジから出て行った。

 

「やぁ、良く来てくれた我が友よ。傷の方はもう大丈夫なのかな?」

 

「……トレーズさん。答えてくれ、どうしてアンタはこんな事をしでかした。何のために地球に攻撃する?」

 

歓迎と魔人を気遣う言葉、社交辞令などではなく、本気で蒼のカリスマの身を案じているトレーズに対し、魔人は全身から滲み出てくる僅かな怒りでもって応えた。

 

そんな魔人をトレーズは不愉快には微塵も思わなかった。彼が怒りを感じるのは当然だ。何せ地球は任せろと言っておきながら自身は今その地球と敵対しているのだ。彼からすれば自分は裏切りに等しい事をしているのだろう。

 

だが、それでも変わらない口調で言葉を交わしているのは、それでも自分の事を友達として接しているからなのだろう。目の前の友人の義理堅さにトレーズは笑顔で持って応えた。

 

「君をここに呼んだのは他でもない。これから始まる戦いを君に見届けて欲しいのだ。人類最後の闘争の醜さと凄惨さを、君に見ていてもらいたい」

 

目の前のトレーズの言葉に魔人はたじろいだ。恐らくはその仮面の奥で、彼は驚きの表情となっている事だろう。

 

あぁ、やはり私の友人は優しい。理解者にはなれなかったが……それでも、目の前の友人と友達になれた事は僥倖だ。

 

トレーズ=クシュリナーダは、動揺する魔人を優しい目で見つめ、微笑んでいた。

 

 




トレーズ編が終わればいよいよアレにアレしてアレとなるif58編に突入します。


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