別名、“キングオブボッチファイターズ”
駆ける。宇宙要塞バルジ内部で愛機グランゾンを呼び出すべく、血塗れのコートを羽織った蒼のカリスマ──いや、シュウジ=シラカワは広々とした場所を求めて要塞内部の通路を走り抜ける。
狭い所で呼び出しては内部にまだいるリリーナ達にどんな影響が及ぶか分からない為に自重せざるを得なかったが、既に戦いが始まって幾分の時が過ぎている。シュウジは内心焦りながらグランゾンの呼び出しの是非を悩んでいた。
(クソッ! 大体広すぎるんだよこの要塞! 何でこんな広い癖に案内板の一つもないんだよ! 迷ったりする奴絶対いるだろ!)
コロニー並に巨大な建築物の癖に案内板の一つも見当たらない。その不便さに嘆くシュウジだが、どんなに愚痴を叩いても時間は止まる事はない。限られた時間が更に無くなっていく……。そんな時、シュウジはある一つの決断をした。
「こうなったらもう手段は選んでいられないな。悪いなトレーズさん、この要塞のツケはアンタに支払ってもらうからな!」
どうやらリリーナ達以外にこの要塞内部に人はいないようだ。人気の無い通路で立ち止まり、シュウジは壁に向けて拳を放った。
殴りつけられた壁は爆発した様に弾け飛び、そこから隣の通路が見えている。隣の通路に移ると今度は蹴りで壁を破り、次もまた同じように壁を破り、シュウジは要塞の外壁に向かって駆け抜ける。
この要塞バルジがどんなに入り組んでいようと宇宙空間に漂う一隻の船である事には変わりない。何枚も壊していけば必ず外壁に辿り着き、その先はトレーズ達が戦っている宇宙が待っている。
こんな無理矢理な方法では傷が開く事は確実だが、シュウジは構う事なく要塞内部の壁を破り続けた。既に要塞内部では緊急事態を告げるアラームが鳴り響いているが、先も述べた通り警備兵の姿は見えてこない。このまま抜け出してやるとふらつく足に力を込めて、シュウジは更に目の前の壁を蹴り破いた。
と、そんな時だ。壁を破り、一瞬だけ目の前の煙に包まれ、視界に突如黒い刀剣が現れるとシュウジに斬り掛かってきた。
突然の事に驚くが、足がふらついていた事が幸いし、その刀剣は仮面の頬部分を掠めるだけに終わった。転がる様にして剣が飛び出してきた場所から離れ、シュウジは煙の中にいる人物を睨みつける。
やがて煙は晴れ、その中にいた人物が姿を現した時、シュウジはその表情を仮面の奥で怒りに染め上げる。
「久しぶりだねシュウジ=シラカワ。こうして面と向き合って話をするのはリモネシアの時以来かな?」
「……前々から思ってたが、お前って結構粘着質だよな。なに? ストーカーなの?」
黒衣を纏った死神、アサキム=ドーウィン。シュウジにとって鬼門になりつつある男が、再び目の前に現れた。
「───フッ」
奴の手にした黒い剣が濃厚な殺意と共に振り下ろされる。鋭く、そして速い剣筋だが、見えない訳じゃない。痛む体に鞭を打ちながら、シュウジは後ろに跳んでアサキムの剣を避ける。
そして、お返しとばかりに床に足を着けた衝撃をバネに反動の付いた回し蹴りを放つが、アサキムは不敵な笑みを浮かべて回避する。まるで影の様に揺らぐ奴の姿に惑わされそうになるが、シュウジは震脚で床を踏み抜き、下の階へと逃げる。今ここで奴と戦っても何の意味もない。奴から逃げ延びてトレーズの所へ向かうのが先だと落ちた先の通路でシュウジは再び駆け抜けようとするが…。
「がっ、……クソッ、今のやり合いの所為で体の傷が開いたか」
右肩から響く鋭い痛みに顔が歪む。見れば巻き付いた包帯が赤く染め上がり、そこから血が滲み出していた。
体が動く内に急がなければと、痛む肩に手を当てて耐えながら狭い通路を往くシュウジ。だが、そんな彼をあざ笑いながら黒い死神は目の前に現れた。
「どうしたんだい魔人。随分しおらしいじゃないか」
「ウッセェよ。こっちは今お前の相手をしている暇はないんだ。また今度相手してやるから、構ってちゃんは日を改めてまた来な」
「フフフ、強がりもそこまで言えたなら上出来だ。友に斬られながらもまだ友の為に足掻こうとする。……成る程、それも確かに一つの友情だ」
「お前、まさかトレーズさんに頼まれて───」
目の前のアサキムの意味深な言葉に最悪の事態が脳裏に浮かぶ。もしこんな奴がトレーズの協力者となっているのなら色んな意味で自分の心はへし折れる事になる。それを危惧するシュウジだが、アサキムは首を横に振ってこれを否定する。
「まさか、僕はただ君の存在を確かめる為に来ただけに過ぎない。───シュウ=シラカワ。彼の因子を色濃く受け継いだ君を、ね」
「……何となく気にはしていたけど、まさか本当に博士の事を知っているとはな。それも黒歴史関連から来る話なのか? それとも黒の叡智とやらか?」
「ほう? もうそこまで情報を得ていたのか。取り敢えず流石と言っておこう。だが、今の君ではそれ以上の話は今後知り得ないだろう。───どうだい? 僕をねじ伏せて力付くで聞き出してみるかい?」
「言った筈だ。今こっちはすこぶる忙しいんだ。お前みたいな構ってちゃんに付き合ってやる暇はないんだ───よっ!!」
床を踏み抜いてアサキムに肉薄する。開いていた距離を瞬く間に詰めてくるシュウジにアサキムは一瞬驚いた表情を見せるが、次の瞬間には深い悦の笑みを浮かべ、シュウジの接近戦に応戦する。
間合いに踏み込んでくるシュウジに向けて黒い剣が閃光となって斬り掛かる。横に薙ぐ一閃をシュウジは身を屈めて回避する。彼の背後にある両脇の壁が切り裂かれるが、そんな事はお構いなしにシュウジはアサキムの横に回り込んだ。
「───フッ!」
短い呼吸と共に放たれる正拳突き、たかが人の身から放たれる一撃にアサキムは笑顔で受け止めてやろうと頬を吊り上げるが、その拳から感じ取れる圧力に悪寒を感じ取りすぐさま回避する。彼が操る機体同様、アサキムは俊敏な疾で横に避ける。
瞬間、壁に拳が触れた箇所が粉微塵となって吹き飛ぶ。あれを喰らったら痛そうだと、アサキムは苦笑いを浮かべながら煙の中で佇む仮面の男を見つめる。その頬にはうっすらと汗が流れ落ちていた。
「フフフ、まさか肉体面でも成長していたとはね。それもシュウ=シラカワの因子のお陰かな?」
「さぁな、何せ教えてくれた人が凄い人ばかりだったからな。仮に博士の因子のお陰だとしても、切っ掛けをくれた事を感謝するまでさ」
「……その結果、今後どんな目に遭っても君は果たしてその姿勢を保てるかな?」
「あぁ?」
「隙あり、だよ」
「っ!?」
奴から感じるおぞましい程の殺気にシュウジの体が僅かに竦む。心の底から沸き上がる恐怖に背後に回るアサキムへの反応が遅れたシュウジに、彼の放つ一撃が直撃してしまう。
しかも直撃した箇所はトレーズに切り裂かれた所と同じ右肩であり、傷が開くどころか更に抉られた事にシュウジは苦悶の表情を仮面の奥で晒した。
ビシャリと、辺りに血液が付着する。ボタボタと流れ落ちる血がシュウジの足下で池を作る。血と共に流れ出る意識を何とか繋ぎ止めながら、シュウジは膝を折ることなく堪えてみせる。そんな彼の姿にアサキムは思いの外驚いたように言葉を紡いだ。
「まさか今のを耐えてみせるとはね。こればっかりは驚いた。素直に賞賛させてもらうよ」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
「けど、これまでだね。今の攻撃を受けた所為で君の力は使い果たした。血を流しすぎた今の君は意識を保つのも億劫なんじゃないかな?」
笑みを浮かべてくるアサキムにシュウジは何も言い返す事ができなかった。トレーズに付けられた傷、血を流した事により体力は失われ、今はアサキムによって更に血を流してしまっている。
しかも胸元に付けられた傷まで開き始めてきた。既に体中の感覚が麻痺し始め、意識が朦朧としてきている。今の自分が立っているのか寝ているのかすら曖昧になってきている所に……アサキムが目の前にまで迫ってきていた。
「因子を高めて更なる力を付け、君は強くなったつもりでいたみたいだけれど……君は何も変わっていない、あの時と同じだ。膝を屈し、ただ死を待つだけだった頃の君と……唯一違うのは今の君は立っている事だが、それだけだ」
「…………」
「さようならだ。孤独の魔人、君の旅路はここで終わる」
同情、憐れみ、そんな瞳を宿しながら、アサキムはシュウジの頭を仮面ごと割ろうと、手にした黒剣を振り下ろす。
アサキムの剣が仮面に触れる。その僅かな刹那の合間、シュウジの中にある
孤独、孤高、一人、ボッチ、連想される言葉が映像となり、シュウジの脳裏に浮かび上がる。それはごく最近のものであり、思い返せば嫌でも思い出す光景。
生と死の狭間、その一瞬の出来事にシュウジが思い出したのは………。
『このボッチ(笑)』
最近知り合えた、緑髪の魔女の姿だった。
清々しい笑顔と共に言い放つ無情の言葉。本人は何気ない一言のつもりが、シュウジの心にはトラウマ級に穿たれた一言でもあるそれは、彼のある感情の爆発を誘うのだった。
「だ……れ、が」
「?」
「誰がぁ、ボッチだオラァァァァッ!!」
シュウジの怒髪天を突く怒りに要塞内部の全てが震える。破界事変から溜まってきた鬱憤の発露に、アサキムは何が起きたのかと面食らう。
怒りのままに震脚を打ち、床を破壊し、アサキム共々下へと落ちていく。次に二人が出てきたのはこれまでとはまるで違う広々とした空間、要塞バルジの格納庫だった。
崩れた瓦礫を足場に、アサキムはシュウジに斬り掛かる。シュウジの感情の爆発に戸惑ってしまったが、そんな事は今となってはどうでもいい。剣を手に瓦礫から瓦礫へと飛び移るアサキムは、再びシュウジに黒剣を振り下ろす。飛び掛かるアサキムに対しシュウジは宙に浮かび続けている。
これで終わりだ。そう己の勝ちを確信するアサキムは────次の瞬間、その表情を驚愕の色に染め上げる。
「────バカな」
そこにいた筈のシュウジの姿が何処にも見当たらない。そんなバカなと呟くアサキムが目にしたのは、“空中を蹴って無理矢理移動する”シュウジの姿だった。
“空中三角跳び”ガモンから教わった内臓上げの上をゆく荒技の使用にシュウジの足が悲鳴を上げる。脹ら脛から聞こえてくるブチリと筋肉が引き裂かれる音に表情を歪めても、シュウジは構わず蹴りを放つ。
空中を蹴っての跳び蹴り、物理法則も糞もないデタラメな攻撃方法にアサキムは驚愕する。が、咄嗟の判断で防御の姿勢を取るのは流石の一言。剣を楯に防ごうとするアサキムだが、シュウジの蹴りはその防御ごとアサキムを吹き飛ばした。
壁に叩き付けられて血反吐をブチ撒ける。衝撃に意識が強制的に途切れ、視界が歪んだその時、既にシュウジは目の前にまで迫っていた。
避けなければ、しかし動かない体に表情を歪ませる。身動きが取れなくなり、シュウジの次なる攻撃を受ける事しか出来ないと悟るアサキムは、フッと笑みを零した。
(悔しいと感じるのは一体いつ以来だろう。こんな自分にまだ人間らしさが残っていたなんて───ホント、つくづく嫌な奴だよ、君は)
もしかしたら、自分は彼に対してどこか羨ましく思っていたのかもしれない。そう思いながらアサキムは目を閉じ───。
(───だけど、僕の勝ちだ)
「そこで寝てろぉ! 猛羅総拳突きぃぃぃっ!!」
拳の弾幕がアサキムを呑み込んでいった。
降り注がれる拳の雨、やがて雨は嵐となり、暴風となって格納庫の巨大な壁に穴を開けていく。全ての突きを放ち終えたシュウジは力尽きて瓦礫と共に落下、その後に残るのは大きく穴の開いた壁と、幾重もの壁を破られて宇宙空間を覗かせる穴があるだけだった。
既にアサキムの姿はない。これで漸くトレーズの所へ往けるとシュウジは瓦礫に埋もれた状態から抜け出して、グランゾンを呼び出す。
既に空気が漏れている。その為に早いところグランゾンに乗り込まなければならないが、その途中で何度も全身を襲う激痛に苛まされる。薄れ掛ける意識を気力で繋ぎ止めながら、シュウジは漏れ出す空気に煽られながらも、グランゾンのコックピットにどうにか乗り込む事ができた。
アサキムの言葉やあの後のリリーナの待遇が気になる所だが、今はそんな事を気にしている余裕はない。急いでトレーズを止めようとシュウジが操縦桿を握り締めた瞬間───。
『シラカワシステム、起動します』
「っ!?」
シュウジの意識は待ったの声を上げる間もなく、容赦なく途切れる事になる。
今回はボッチを怒らせると怖いという話。
皆もあまりボッチの人にボッチボッチ言わないように!(白目
次回辺りでトレーズ編は終了───の、予定。
そろそろネオ出したい。
それでは次回も、また見てボッチ!