『G』の日記   作:アゴン

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今回は導入編という事でやや薄め。
報復編は次回あたりから本格的になります。


その60

 

───私を恨んでくれても構いませんよ。

 

は? 何ですかいきなり……。

 

───貴方のグランゾンに搭載された“シラカワシステム”アレは貴方の意識レベルの急激な低下、そして生命維持が必要だと判断された時、例外として強制的に作動します。その間の貴方の意識は深層心理の奥深くに凍結され、補助要員として私が表の人格として現れます。

 

……え? じゃあ俺ってもしかして二重人格者みたいなもんなの?

 

───厳密には違いますが、そう認識して戴いても構いません。詳しい内容はまだ話せないので伏せて頂きますが、貴方の害になるような事はないと断言しておきます。……いえ、本人の意思の有無を聞かずに作動してしまうシステムなど、貴方にとっては害悪でしかありませんか。

 

………。

 

───シュウジ=シラカワ。貴方には私を責める権利があります。貴方の意思をねじ曲げ、友を見殺しにした原因となったのは私です。詭弁ではありますが、貴方の自由を奪った事に対する謝罪をどうかさせて欲しい。

 

………その必要はないですって博士。俺は別に貴方を恨んでいるつもりはない。俺がこうして生きていられるのは貴方がグランゾンを俺に与えてくれた事なんだ。最初はどうあれ、今俺がここにいるのは間違いなく貴方のお陰、だから恨むなんて筋違いな事はしない。ただ……。

 

───……ただ?

 

トレーズさんと……もっと色々話をしたかったなぁって思ってさ。

 

───……………。

 

んじゃ、俺往くよ。まだやり残している事があるからさ、また色々世話になると思うけど、その時はまた宜しくお願いしますね。

 

───………えぇ、精々頑張ってきなさい。

 

それじゃ、行ってきます。

 

───……いってらっしゃい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z月*日

 

前回のシュウ博士によるシラカワシステムを介しての介入は、生命の危機的状況に陥っていた自分の意識を強制的シャットアウトするものだった。

 

自分のグランゾンには万が一の時、搭乗者の生命を守る為に生命維持装置なるものが搭載され、シラカワシステムが作動している合間は、自分はその生命維持装置によって最低限の行動が出来るまで強制的に切られ、結果的に自分はトレーズさんを見殺す事になった。

 

システムに眠らされている合間、例の不思議空間で博士と会い、恨んでくれと言われたが……正直そんな気分にはなれなかった。

 

だって見殺しにしたのは自分であって博士じゃない。自分があの時トレーズさんを止められなかったのが最大の原因だし、止めようと思って殴りかかっても返り討ちに合う始末。全く、情けないといったらありゃしない話である。

 

それに、そんな事でウジウジしていたらトレーズさんにまでヘタレ呼ばわりされてしまう。後悔するのは後回しにして、これからの話をしていこうと思う。

 

トレーズさんを埋葬して早一日、グランゾンのコックピット内で養生していた自分に、突然外部からの大音量による呼び掛けが響いてきた。

 

あまりの大音量、もはや公害になりつつある騒音に目を覚ますと、水平線上に浮かぶ一隻の航空艦が此方に向かって近付いてきていた。

 

ブリタニア帝国の航空戦艦“アヴァロン”その姿を目撃した時、そういやエリア11に置きっぱなしだったなとルルーシュ君の文句の叫びを耳にしながらそんな事を思った。

 

未だに痛む体を動かし、グランゾンを操縦してどうにかアヴァロンに乗り込み、グランゾンから降りると、待ちかまえていた皆が自分の姿を見るなり言葉を失う面々を見たときは……不謹慎だが吹き出してしまった。

 

スザク君とセシルさんからは怒られ、ロイドさんとシュナイゼルには呆れられ、ルルーシュ君からはバカめと罵倒され、カノンさんにも深々と溜息を吐かれたし、C.C.さんからはこれだからボッチはと侮蔑され、ナナリーちゃんに至っては泣かれてしまった。

 

周りから酷く非難される中、ジェレミアさんだけは自分の味方でいてくれたのが唯一の救いでした。流石は忠義の騎士、仲間に対するフォローも見事なものである。

 

……まぁ、一人で勝手に出て行って、半分死人みたいな状態で戻ってきたのだ。唯でさえ怪我人だった自分が更に重傷を負って帰ってくれば、そりゃ当然反応はああもなるだろう、皆様のお怒りはごもっともである。その後の自分は問答無用で医務室にある治療用のベッドに寝かされる。まさかこんな短時間に二度もコレにお世話になるとは思わなかったと冗談混じりにそんな事を口にすると、セシルさんにもの凄い剣幕で睨まれた。……うん、全面的に俺が悪いねスミマセン。

 

というか、心配してくれていた事に今更ながら嬉しくなってきた。破界事変の頃は怪我しようが死にかけようが心配してくれる人間なんていなかったから……。

 

それはそれとして問題だった治療の方だが、グランゾンで少し療養した為か回復は早く、治療用ベッドで眠っている期間は一日程度で済んだ。セシルさんからは絶対安静だと言われたけれど、残念ながらその言葉に従う訳には行かなかった。

 

自分がアヴァロンから離れていた合間、ルルーシュ君達は独自の情報源で世界の動きについてあれこれ調べ回っていたようなのだ。───自分が留守にしていたのは一日程度だったのに熱心なものだなと感心する。

 

ルルーシュ君達が入手したという情報は、ネオ・プラネッツ宙域にバジュラの母星と思われる星があるというものだった。その情報を寄越してくれたのは……なんと、セルゲイさんとアンドレイさんというスミルノフ親子だったというのだ。

 

あのアフリカタワーでの一件以来行方不明だった彼等は軍とアロウズ、それぞれの組織から抜け出した後、人知れず世界を巡っていたのだという。

 

世界を見て回って色々考える事があったのか、アンドレイさんの顔付きが少し変わったとシュナイゼルは言う。当時は下手に挑発した事を言った為に不安に思っていたが、それは杞憂に終わったようでホッとする。

 

さて、そんな二人が軍とアロウズに見つからないようにする為に世界中を旅して回っていた最中、ちょっとした機会でフロンティア船団に乗り込んだ際に船団内部にある喫茶店に立ち寄った時、彼等は聞いたという。

 

フロンティア船団の大統領の側近と呼ばれる三島何某という人物が、怪しい男と密談を交わしていたのだという。その喫茶店では余りに浮いている二人にスミルノフ親子は怪しいと睨んだのだが、何せ相手はフロンティア船団の政府関係者。軍から抜け出した身としては公に聞き込みをする訳にもいかず、遠くから聞き耳を立てるしかなかった。

 

しかも相手の警戒度の高さから、此方も観光客として振る舞わなければならないし、密談の内容を聞き取るのに相当手こずったのだという。相手に気取られないよう注意払いながら漸く手にしたのは“バジュラ”“母星”“ネオ・プラネッツ”の三つの単語情報のみ。以前からグレイス=オコナーの情報を集めていた自分は遂に奴の計画が最終段階に移行したのだと察する事が出来た。

 

本当は今すぐにでもネオ・プラネッツに向かいたい所だが、今日一日だけは大人しくしてくれと全員から釘を刺されてしまっている。現在は体調も良くなったので自分の部屋で日記を綴る事を許して貰っているが、それでも時間制限が付いており、もし一分でも遅くなれば即座に強制連行させるつもりらしい。

 

しかも部屋の前にはスザク君が常時待機しているし、これ怪我人に対する扱いじゃないよね? 囚人に対する扱いだよね? ……おかしいでしょ色々と。

 

けれど、そんな風にさせてしまっている原因は自分なので文句は言わない。それに、奴の計画が最終段階に移っている以上、奴がもう逃げ回る事はない。

 

今頃ZEXISはネオ・プラネッツに向けて進軍している事だろう。自分達が向かうときは恐らくは戦場のど真ん中、少々危険要素を孕んでいるが……なに、問題はない。

 

明日は決戦。自分の中にある蟠りと決着を付けるべく、今日は早めに休もうとする。

 

───最後に一言だけ書かせて欲しい。トレーズさん。貴方の友達になれて……俺、とても嬉しかったです。

 

この想いを忘れない為にこの言葉を日記に記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────地球・リモネシア。

 

一体何故この世界はリモネシアという小さな島国にこうまで残酷なのだろうか。カラミティ・バースで国が壊れ、折角復興が進んでも……連邦政府の思惑によって今まで積み上げてきたモノを破壊され、再び国土が焼かれた。更にはインサラウムの侵略行為によりリモネシアの大地にZONEという謎の建築物まで建てられる始末。

 

破界事変の時と合わせてこれで三度目、壊された故郷の大地でリモネシアの民達は再びこの島国へと戻ってきていた。

 

これまでZEXISで世話になっていた彼等だったが、陰月の騒動以降今後は更なる戦闘の激化が予想されるとしたジェフリーは各艦長達と相談、これによりリモネシアの住民を地球へ置いていこうと決断するのだった。

 

グランゾンによって半壊滅状態となったアロウズももう手を出してこないだろうと判断した彼等はリモネシアの住民達に事情を説明し、艦から降りて貰うよう説得した。

 

艦長達の丁寧な説明と真摯な対応によりリモネシアの人々は荒れる事はなかったが、彼等の意外な注文に各艦長らは別の意味で頭を悩ませる事になる。

 

“リモネシア”に返して欲しい。そう願い出る彼等に艦長達は困惑するが、彼等の強い要望によりコレを承諾。リモネシアの人々を故郷に返す事にした。

 

───破壊された町、焼かれた畑、砕かれた仮設施設。何もかもが無くなったこの国で、再びリモネシアの人々は降り立った。

 

何もないこの地で、再び人は動き始めた。もう一度建て直そうと、皆が住んでいたあの街を……もう一度蘇らせる為に。

 

(シュウジ、皆帰ってきたよ。また無くなっちゃったけど、もう一度建て直す為に……リモネシアを再建する為に、帰ってきたよ)

 

誰もが復興作業に取り掛かる中、シオ──いや、シオニー=レジスは想う。ここにはいないもう一人の人間の事を……。

 

(皆、待ってるよ。貴方が帰ってくるのを……待ってるよ───ねぇ、シュウジ)

 

「帰ってきて……くれるよね?」

 

彼女の言葉に応える者はなく、波の音だけがリモネシアの大地に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。傷も塞がり、一応は万全の状態となった自分は、アヴァロン内の通路を歩く。目の前にある扉が開かれ、そこを潜るとアヴァロンのブリッジにたどり着く。

 

そこにはスザク君とC.C.さん、セシルさんにロイドさん……そして、仮面を被ってゼロの姿となっているルルーシュ君がブリッジで待ち構えていた。

 

自分は彼等に問う。本当に付いてくるのか? これから目的地に向かうのは、自分が世界から狙われる切っ掛けを作った奴に対する報復だ。ZEXISと共倒れになるようけしかけ、自分とグランゾンを利用しようとした報いを受けさせる為のものだ。

 

トレーズさんの時とは違う本当の意味での私事。自分の都合に付き合う必要はないんだぞ。と、そう口にする自分の言葉に対し、ルルーシュ君達は今更だと即答する。

 

彼等もまた、 自分の都合で戦いに向かうといった。そこまで言われては何も言えない自分は、無理はするなと保護者気取りでそう言うだけで精一杯。

 

ロイドさんもセシルさんもここまで来たのだから最後まで付き合うと言い、艦内に残る事にした。巻き込んでしまって済まないと謝罪すると、セシルさんは気にしないでと返し、ロイドさんはそれよりも早く行こうと急かしてきた。

 

踵を返して皆と一緒にブリッジを後にしようとする。それぞれの機体が置かれている格納庫に向かうべくブリッジから出て行こうとするが、その際にセシルさんから一着の白いロングコートを手渡される。

 

それはトレーズさんからプレゼントだと渡された物だった。斬られたり、銃で撃ち抜かれたりしたことから所々破損個所はあるけれど、血の痕の無い真っ白な状態へと戻っていたコートに自分は感激した。

 

既にナナリーちゃんとシュナイゼル達は艦から降りて貰っている。これから向かう先はこれまでとは比にならないほど危険な戦場になる為だ。

 

最初は自分のこの提案に渋っていたナナリーちゃんだが、度重なる説得により何とか納得させ、無事に地球に帰ってくることを条件にアヴァロンから降りて貰う事になった。

 

その際にジェレミアさんも護衛の為に降りて貰う事になっている。忠義を誓ったルルーシュ君の願いでもあり、ジェレミアさんは二つ返事でこれを了承。嘗てオレンジと呼ばれ、軍から外された惨めな軍人は皇族を守る心強い剣となった。

 

ジェレミアさんが抜けた事で、実質この艦に残された戦力は四機だけとなっている。だが、負ける気はない。負ける気がしない。今ここにいるのは帝国最強の騎士だった男と、己の知略で世界を壊そうとした男がいる。……負ける要因は何一つなかった。

 

「さぁ、行こうか」

 

セシルさんから渡されたコートを羽織り、ブリッジを後にする。三人の仲間を引き連れて仮面を被った自分は、今度こそ奴と決着を付けるべく、愛機のいる格納庫へと向かう。

 

───あぁ、楽しみだなぁ。

 

長らく待ち望んでいた展開を前に、自分のテンションは早くも最高潮となっていた。

 

 

 

 

 

 




現在魔装機神F33話をクリア!

グランゾンをフル改造すべくコツコツ資金を溜めた甲斐があったでござる(笑)


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