────ZEXISとインサラウム。火星で行われる今回の争乱を締めくくる最後の戦いは、熾烈を極めると誰もが予想していた。
次元力という未だ謎の多いが無尽蔵とも言えるエネルギーを利用し、独自の文明と軍事力を築き上げてきたインサラウム。対するZEXISはゲッターロボやマジンガーZ、ガンダムやKMF等様々な機体で構成された、一見寄せ集めの部隊に見える集団だが、その実力は各々がエース級の力を有しており、機体サイズが異なっていながらも彼等の連携練度は凄まじく高かった。
スーパーロボット達を先頭にスコープドックやMSが露払いを行い、互いに助け助けられの関係を築き、その力はアークセイバーやギガ・アダモンといった上位次元獣を寄せ付けないモノとなっていた。
アムロの駆るνガンダム、竜馬達の操る真ゲッターや重量級のビッグオー、彼等の操縦技術や機体性能はアークセイバー達に決して引けは取ってはおらず、特に操縦技術ではZEXISの中でも群を抜いているアムロは、その技術でもってアークセイバーや次元獣達と真っ正面から戦い続けていた。
そんな彼に負けじと若きパイロット達も応戦する。アルトは新たな翼であるデュランダルを駆って戦場を舞い、純粋種に覚醒した刹那はダブルオーライザーで次元獣を圧倒していく。
彼等の戦いぶりは勇猛果敢、アークセイバーや次元獣達を薙ぎ倒していく様は正しく地球最強の部隊と呼べただろう。
だが、そんな地球最強の部隊であるZEXISに対し───。
『おや? 何やら攻撃の手が止まっている様ですが……まさかこの程度で終わりとは言わないでしょうね。え? インサラウムの誉れ高き騎士達よ』
無数の機体の残骸の中心に佇む蒼き魔神。禍々しき剣を地面に突き立て、悠然と立つグランゾンに、インサラウムの面々は恐怖を感じずにはいられなかった。
個々の力を連携して最大限に力を発揮するZEXISに対し、己の力だけで戦場を往くグランゾン。仲間である筈のゼロ達を置いて一人蹂躙を始める魔神に誰もが呆然となってしまっていた。
───蹂躙。そう、蹂躙だ。連携でアークセイバー達を圧倒するZEXISに対し、グランゾンの戦いは最早戦いとは呼べない程に苛烈で、熾烈で、そして……一切の容赦がなかった。
自ら戦場のど真ん中に突っ込み、間髪入れずに高重力の雨を叩きつけ、敵機体を圧壊させていく。耐えた者にはワームスマッシャーという無数の光の槍を縦横無尽に降り注がせて、機体諸共爆散させていく。
それでも襲い来る次元獣やアークセイバー達には手にした大剣によって両断。その繰り返しによりグランゾンを囲んでいた無数のアークセイバーと次元獣達は屍と化し、消滅していった。
やりすぎだ。グランゾンの鬼の様な戦いぶりに心臓の強いZEXISの面々ですら戦慄を覚えていた。だが、そんな魔神の戦いぶりを目の当たりにしても誰も咎める事はしなかった。
いや、出来なかったと言った方が正しい。機体の奥底から滲み出てくる魔人の憤怒の炎。それは大切なモノを踏みにじられた者の特有の怒りだったからだ。
この時、遠巻きでグランゾンの様子を眺めていたヨーコやカレンといった魔人の素性を知る者は確信する。彼は……シュウジ=シラカワは今“キレている”のだと。
リモネシアは彼にとって大切な場所だった。そこを焼き討ちし、更にはZONEという危険な代物を取り付けたのだ。彼が怒るのも当然といえるだろう。
そんな怒りに満ちているのに彼はグランゾンを例の姿、“ネオ”と化してはいない。ネオとなれば今すぐにでも決着は付きそうなモノなのに、そうしないのは彼なりの慈悲のつもりなのだろうか。
既にインサラウムの全戦力の八割は片付いた。消滅していく次元獣達を見て、黒い機体であるパールファングのパイロットであるマリリンは乾いた笑みと共に口を開いた。
『ふ、フフフ、ZEXISの戦力を侮った訳じゃないけれど、まさかここまで一方的にやられるなんてね。特にそこの魔神ちゃん、本来なら貴方はゲストとしてのスポット参加なのにちょっと前にでしゃばり過ぎじゃないかしらん?』
口調は変わらないものの、マリリンの口から発せられる言葉からは覇気が感じられなかった。本気で激怒した魔神の力を見せつけられ、僅かに動揺してしまっているのだろうか。
だが、そんな彼女の心境は関係なしに魔人、蒼のカリスマは言葉を紡ぐ。
『……知らないな』
『……え?』
『アナタ達が何を企んでいようと、何を狙っていようと私には関係のない事。……アナタ達は既に二度も私の大事なモノに手を出した。地球連邦と裏で手を組み、姑息な手段を用いてリモネシアを焼き、挙げ句の果てにZONEというふざけた代物まで植え付ける始末。───余りにも度し難い』
『故に、私は決めました。あなた方が何をしようが、それこそ命乞いをしようがお構いなしに叩き潰すと、弁明も聞きません謝罪も求めません。逃げるのも止めません、抵抗するのも構いませんし寧ろそちらの方が大歓迎です。私はそんな悉くを叩き潰し、あなた達を原子の塵へと還しましょう』
淡々と語りながらもそこから感じられる凄まじい殺気に、一部の面々は身をひきつらせる。これが本気で怒った魔人の迫力か、戦慄を覚えるZEXISの面々。しかし、カレンとヨーコは自分の知る彼の姿とは余りにも違う事に、戸惑いを感じずにはいられなかった。
蒼のカリスマ……いや、シュウジ=シラカワの人格は普段こそ穏やか且つ温厚なモノ、それこそ人から罵倒されようが貶められようが大抵の事は笑って流す人間だ。
別に彼が大物という訳ではない。誰にでも基準というモノが存在し、シュウジもまたそんな普通の人間と同じ基準という認識を持っている。そんな彼が怒るのは、偏にインサラウムがそんな彼の基準を大きく超えた事をしでかしたのが原因だ。
故に、怒れる魔神は粛々と執行を開始する。手にした大剣を手に魔神は一歩ずつパールファングの所に歩み寄る。
だが、そんな彼の前に一つの機体が割り込んできた。クロウ=ブルーストの愛機であるリ・ブラスタだ。
『……なんのつもりですか? クロウさん』
『悪いがそいつは俺が仕留めなきゃいけない相手だ。お前さんの気持ちは理解できるが、ここは譲ってくれないか』
『──そいつはリモネシアを焼いた連中の一人だ。そんな奴を前に我慢しろというのか?』
『勿論承知の上だ。けどな、それでもここは譲って欲しいんだよ。嘗て同じ部隊にいた……奴の部下としてケジメを付ける為にもな』
『……………』
『頼む。ここは退いてくれ』
通信越しから聞こえてくるクロウの真摯な願いに、シュウジは毒気を抜かれた様に深い溜息を零す。相手はリモネシアを焼いた張本人の一人だが、大本は別にいる。連中の親玉であるユーサーを倒してこそ報復は完了するのだと自分に言い聞かせ、シュウジはこの場をクロウに預ける事にした。
『───分かりました。では代わりにユーサー=インサラウムの方は私に譲って……』
『さセるカァァァァァッ!!!』
『───ッ!?』
一瞬の間に生まれた隙。刹那の合間に出来た気の緩みに呼応して、突如巨大な次元獣であるエクサ・アダモンがグランゾンに向かって突進を仕掛けてきた。
リ・ブラスタを押し退けて、魔神だけを狙って押し寄せてくる巨大次元獣エクサ・アダモン。歪曲フィールドのおかげで機体にダメージはないが、質量の差や咄嗟の出来事によりグランゾンは押し負けてしまう。
『殿下のテきィィィッ! 滅びロォォォォッ!!』
『チィッ、コイツ、自我がない癖に!』
自らを次元獣の核にしたことにより自我を失ったアンブローン=ジウス。エクサ・アダモンのコアとなった事により超常の力を手にした彼女はグランゾンを最大の敵である事を認識し、王であるユーサーの身を守る為、自身諸共火星圏から引き離していく。
火星圏から引き離され、再び宇宙へと出るグランゾンとエクサ・アダモン。手にしたグランワームソードでエクサ・アダモンを引っ剥がすと、間髪入れずにグランゾンは胸部装甲を展開、胸元に黒の球体を出現させる。
『───事象の地平に近付けば、相対時間は遅くなる。そちらでは一瞬だろうが此方では永遠だ。………理解出来たか?』
『ウバァァァァッ!!』
引き離されたグランゾンとの距離を死に物狂いで食らいつこうとするエクサ・アダモン。王であるユーサーの下へは行かせないと、身を挺して魔神に挑むが……。
『事象の地平に消え失せろ。ブラックホールクラスター、発射!』
『アァァァァァッ! でん、かぁぁ……』
魔神から放たれる剥き出しの特異点、極小のブラックホールにエクサ・アダモンは成す統べなく呑み込まれていく。
やがて肉片の一つも残さずに呑み込まれたエクサ・アダモン。事象の彼方に跳ばされ、宇宙空間に静寂が戻るのを見計らうと、シュウジはグランゾンを火星に向けさせ、スラスターに火を灯す。
ユーサーと最後の戦いをし、今回の争乱に幕を下ろさせる。破界事変から続く黒幕を全て倒し、残ったのはインサラウムのみ。
これで全部終わらせる。そう意気込むシュウジの耳に聞き慣れた言葉が響いてきた。
『悪いが、お前にはもう暫くここで足止めさせて貰うぜ』
『っ!?』
忘れたくても忘れられない存在感に満ちた声、一体何処からだと索敵を開始する彼とグランゾンの前に現れるのは……光輝く黄金の次元獣の群だった。
今回は主人公、実は結構内心では怒ってたと言う話。
本気で怒る人って、相手側の事情なんか考慮しないと思うの巻
》逃げても構いませんよ
訳:アナタの背中にディストリオンブレイク(ハート)