『G』の日記   作:アゴン

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大変お待たせしました。


その69

 

その光景に誰もが絶句した。その姿に誰もが呆然となった。

 

アサキムもガイオウも、瀕死の状態のユーサーも、ユーサーの側に寄り添うマルグリットも、そして……地球最強の部隊であるZEXISも、眼前の風景を前に言葉を失っていた。

 

アサキムとガイオウ、彼等の前に現れる日輪を背負う三つの機体。それは今し方アサキムが背後から貫いた筈の蒼き魔神ネオ・グランゾンだった。

 

幻だと、最初は誰もがそう考えた。あり得る筈がない。あってたまるかと、誰もが目の前の現実を否定した。

 

たった一機で地球の全戦力の半分を破壊し、バジュラの女王とイノベイドの大群を相手に蹂躙の限りを尽くした恐るべき魔神が、そんなモノが三機もいる筈がない。

 

いてたまるか。

 

『残念ですが、これは現実です。幾ら頭で否定しても覆る事はありませんよ』

 

そんな彼等の思考を読みとった様に、魔神を操る者は言葉を口にする。夢でもない、幻でもない。否定する皆の気持ちを現実で以て無理矢理事実を直視させるその者は、魔神のコックピット内で静かに微笑んでいた。

 

『……シュウジとは別の奴だな、テメェが噂のシュウ=シラカワって奴か?』

 

『私もアナタの事は知識でしか知り得ませんでしたよ。破界の王ガイオウ……いえ、記憶を取り戻したからこの場合は次元将ガイオウと呼ぶべきですかね?』

 

『はっ、俺の事も承知の上かよ。……で? シュウジの保護者みたいな奴がなんの用だ?』

 

『本来なら私の出る幕ではありませんが、半身の方が少しばかり策を弄するみたいですからね。彼の方の準備が完了するまで暫しの間私が代わりにお相手することにしました』

 

『それでワザワザ分身まで出して出張って来たって訳かよ』

 

『分身……確かにそう思われても仕方ないですが、その認識は誤りです。全て本物(・・・・)、左も右も、全てが本物の私であり、彼等もまた私なのです』

 

分身かと思われていた他二体の魔神。彼等まで本物と言われた事に、ZEXISにいる元ZEUTHのメンバーは驚愕の表情となって言葉を口にする。

 

『全部本物って、それじゃあまるで……』

 

『奴もジ=エーデル=ベルナルと同じ様に黒の英知に触れているのか』

 

嘗て自分達のいた世界で戦った最後の敵、ジ=エーデルなる人物と戦った事を思い出したZEUTHの面々は、シュウに問い掛ける様に言葉を紡ぐ。それを耳にしたシュウは正解だと言いたげに口端を吊り上げた。

 

『残念ながら、我が半身はまだそこまでの段階には至っていません。知識もまだまだ不足してますし、何より黒の英知に触れても折れない気概がない。最近は肉体的成長に伴い精神面でも成長しているようですが……それでもまだ足りません。瞬時にZONEとグランゾンのパイプラインを構築したのは見事ですが、今の彼では精々質量を持った分身を作るのが関の山でしょうね』

 

シュウのその言葉に全員が倒れたグランゾンを見やる。すると、背後から貫かれたグランゾンは爆発する事なく、まるで硝子細工の様に砕け散り、火星の空へと溶けていった。

 

そして次に今まで沈黙していたZONEが活動を始めているではないか、理解の及ばないZEXISに説明するようにシュウは更に言葉を続けた。

 

『尤も、そのZONEとグランゾンとのラインを繋げた事により、この遍在が使える様になったのですけれどね』

 

『……成る程な、次元力を吸い上げるあのデカブツとテメェのグランゾンを繋げる事で、擬似的にスフィアに近い力を手に入れたって訳かよ』

 

『その通り、ですがこの遍在には使用限界時間がありましてね。この星が死ぬ迄に終わらせたいのが正直な気持ちで────』

 

と、その時だ。黒い死神が疾風となり隙を見せている魔神へと刃を持って肉薄する。隙だらけ且つ厄介極まりない存在の抹消の為に、アサキムはシュロウガの最大加速を以てグランゾンに切りかかる。

 

が、その刃は魔神に届く事はなかった。魔神を穿つ為に振り抜いた剣は魔神の持つ禍々しい大剣によって阻まれていたからだ。

 

まるでこちらの行動を見透かしたかの様な対応性、アサキムの攻撃を受け止めながらシュウは横目でアサキムを見て、呆れ混じりのため息を零した。

 

『全く、人が話をしている間に仕掛けてくるのは些か無粋ではありませんか? アサキム=ドーウィン』

 

『…………』

 

『確かに君と“彼”はよく似ている。機体だけの話ではなくその魂が……ですが、それだけです。私にはアナタとの明確な面識はありませんが……さて、アナタはどうなのでしょうね?』

 

クククと笑いながら問うシュウにアサキムは無言の憎悪を機体越しに彼に叩きつけた。普段は何を考えているのか分からないアサキムだったが、ここへきて明確な感情を露わにしている。

 

その事実にZEXIS達は気付く事はなかった。激しい憤怒を顕しているアサキムだが、シュウはこれを淡々と受け止めながら……。

 

『答えないのならそれで構いませんよ。どちらにしても私のやるべき事に変わりはありませんからね』

 

『っ!』

 

『では、始めましょうか』

 

受けていたシュロウガの刃を、グランゾンはその剛腕で以て弾き飛ばす。上空に吹き飛ばされながらも、アサキムはシュロウガを巧みに操り、即座に体勢を整え、グランゾンに肉薄しようとスラスターに火を灯らせる。

 

『遅いですよ』

 

だが、ワームホールを使用しての転移……所謂瞬間移動を扱えるグランゾンからは逃れる事は叶わなかった。しかもそれだけではない。グランゾンのパイロットがシュウジからシュウに変わった所為か、ワームホールが開いて閉じるまでのタイムラグが格段に早くなっているのだ。

 

その動作はシュウジと比べて最早別格。高速や音速、光速といった“速さ”ではなく、シュウが行っているのは点から点への移動。完全なる瞬間移動のそれである。

 

一切の無駄を廃したグランゾンの動き。それはこれまでのシュウジの戦い方とは似ても似つかないモノだった。

 

シュロウガの動きを完璧に捉え、背後に回り込んだグランゾンの一撃がシュロウガに叩き込まれる。

 

『チィッ!』

 

しかし、シュロウガの速さもまた異常だった。グランゾンの振り抜かれた剣が当たる直前、彼はシュロウガを高速飛行形態に変形してこれを回避させると、瞬く間にその場から離脱。次の瞬間には反撃の体勢を整え、グランゾンに向けて攻撃を再会した。

 

『いいだろう。深淵の知識者よ、そんなに知りたいのなら、僕の絶望を教えてやる!』

 

バード形態となったシュロウガに禍々しい光が宿る。黒く、淀んだその光は浸食する様に空間に広がり、グランゾンを呑み込もうと迫ってくる。

 

迫り来る凶鳥。それを前にしたとき、シュウの笑みが一層深くなる。

 

『見れば見るほど“彼”と似てますね。もしアナタが“彼”なのだとすれば、私こそが決着を付けるべき相手なのでしょうが……残念ながら、その役割は私ではない。アナタの相手をするべきは……我が半身、シュウジ=シラカワです』

 

『さて、そろそろお膳立てはいいでしょう。後は任せましたよ。───シュウジ』

 

眼前にまで迫る凶鳥。それを前にしたとき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待たせたな』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の思考が、人格が、シュウからシュウジへと切り替わる。

 

『っ!?!?』

 

突如襲い来る衝撃にアサキムの表情が歪む。見れば今まで呆然と佇んでいただけの他二体のグランゾンが、シュロウガを囲むように周囲にいるではないか。

 

遍在により生まれた“存在する者達”その全てが事実であり、故に全てが本物である三体の魔神。シュウの言う準備を終えた事により、シュウジの攻撃が始まる。

 

そして、次の瞬間、アサキムは信じられないモノを目の当たりにすることになる。

 

『見せてやるよアサキム。俺と、俺のグランゾンと一緒に鍛えてきた一撃を!』

 

三体のグランゾンがワームホールに入り、シュロウガの死角にそれぞれ飛び込んでくる。咄嗟に防御の姿勢に入るが、繰り出されるグランゾンの同時攻撃により、シュロウガは為す術もなく吹き飛ばされてしまう。

 

『まだまだぁ!』

 

再びワームホールに入り、死角に出てくるグランゾン達。一度見せた技が二度も通用するものかとアサキムは待ち構えの姿勢を取り、カウンターの準備に入る。

 

だが……。

 

『バカな……』

 

ワームホールから出てきた六機 (・・)のグランゾン。六つの繰り出される攻撃に再びシュロウガは宙に舞う。

 

更に12、18と、増え続けるグランゾンにZEXIS達は呆然と吹き飛ぶシュロウガを眺め続け……そして。

 

『我流真伝“乱舞の太刀”!』

 

遂には30にもなるグランゾンとその分身達による攻撃が、シュロウガに叩き込まれる事になる。

 

ZONEに磔される形で叩き込まれたシュロウガはズタボロとなり、暫くは動けそうにもなかった。このまま止めとなるのか? そう思われた時。

 

『アサキム、前々から思ってたけどお前って普通の人間じゃないんだよな?』

 

『………だったら、どうする?』

 

『お前の考えている事はよく分からない。けれど、影で俺や他の人達を付け狙うようであれば……放っておくわけにはいかない』

 

『なら、僕を殺すかい? けれどそれは無駄な事だよ。僕は死ぬことも許されない呪われた放浪者だ。仮にここで殺されたとしても、僕は再び蘇る』

 

『…………』

 

『さぁ、僕を殺すといい。そして一時の平穏を味わうがいい。けれど忘れるな。この世に太極が、そしてスフィアが存在する限り、僕は何度でも蘇る』

 

怨念混じりに呟くアサキム。その憎悪に満ちた言葉を、シュウジは悪い笑みを浮かべながら受け止めた。

 

一体なんだ? 不敵に笑うシュウジを訝しげに思った時、それは起きた。

 

磔にされているZONEから発せられる光。それが強く輝き始めると、シュロウガはZONEの中に徐々に沈んでいくではないか。

 

何が起きている? 混乱するアサキムの思考の中に聞き覚えの声達が割って入ってきた。

 

『悪いなアサキム。お前の悪巧みもここまでだ』

 

『アナタの悲しい旅路は、ここで終わらせます!』

 

『ランド=トラビスにセツコ=オハラだと!?』

 

『テメェはここで終わりだアサキム』

 

『スフィアを狙う悪鬼よ、この地で眠るがいい!』

 

ランド、セツコ、クロウ、そしてユーサー。四人のスフィアの持ち主がZONEを囲む様に機体を置き、それぞれのスフィアを解放している。これを意味するモノは……その事を悟った時、アサキムは否定の憤怒ではなく、肯定の笑みを浮かべながらその事実を受け入れるのだった。

 

『そうか、四人の持つそれぞれのスフィアで以て。僕をこの火星のZONEに封印するつもりか』

 

『ZONEの暴走を止める時、セツコさんとランドさんがそれぞれ身を挺して止めたという話は既に耳にしていてね、スフィアの持ち主がZONEをその身と引き替えに止められるのであるなら、その逆も可能じゃないかと思っただけだ』

 

『……まさか、僕やガイオウと戦っていた合間にその作戦を?』

 

『流石にお前等を相手に無防備ではいられないからな。こちらも裏技を使わせて貰った。……さぁ、これでお終いだ。アサキム』

 

『あぁ、完全にしてやられたよ。けれど、こんな終わり方でも悪くないと、そう思える自分がいる。……どうしてかな?』

 

アサキムのその問いに答えるモノはいなく、彼はシュロウガと共にZONEの奥深くへ封印される事になった。

 

四人のスフィアリアクターと三機のグランゾンによる封印。その強固に施された封印は並の者では到底開かないモノとなっている。

 

……気が付けば、グランゾンは元の一機だけとなっていた。ZONEを停止させた事により遍在の力を失ったグランゾン達は、まるで霧の様に消えて無くなっていた。

 

静まり返る火星の大地。これで漸く舞台は整ったと思いながら……。

 

『さて、待たせたな。ガイオウ』

 

シュウジはガイオウと最後の戦いを始めようとしていた。

 

 

 





主「待たせたな」

ガイオウ「こっちみんな」


次回辺りでこの最終決戦も終わりの模様。

ZEXISが空気だって? 逆に考えるんだ。空気になってもいいさと。

それでは次回もまた見てボッチ!ノシ

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