────奴に最初に抱いたのは憎しみと怒り、そして殺意だった。お世話になった国と人を理不尽に奪い、平然とした態度でリモネシアの大地を踏む奴の姿を見たときに抱いた感情の渦は今でも覚えている。
今でもそうだ。俺は奴の事は嫌いだし、一発ぶん殴ってやりたいと何度も思ったりしている。理不尽の権化とも呼べる奴は俺にとって最大の天敵とも言えた。
リモネシアを壊し、店長を始めとした多くの人の命を奪い、シオニーさんの人生を狂わせた奴を……俺は、きっと許す事は出来ないだろう。それが喩え、アイム=ライアードという黒幕が裏で操っていたのだとしても。
その頃だろうか。自分の行動に理由と意味を持ちだしたのは……。もし、奴がリモネシアに現れなければ、俺は今頃どうなっていたのだろう。
リモネシアに永住していた? それともシュウ博士に頼んで元の世界に帰っていた? どちらにしても、今の自分よりは比較的穏やかに時を過ごしていた事だろう。
けれど、一つ確かな事がある。奴がリモネシアに現れなければ、今の俺はここにはいなかった事だ。奴が来なければ、俺はもっと別の生き方をしていた筈だ。
感謝はしない。元より、俺達の関係はそんなモノなど必要としていない。
────ただ、一つ言うとすれば。
前にカルロスさんと交えた食事は……思いの外美味かった。
あの一時に関してだけは礼を言ってもいいのかもしれない。
なぁ、ガイオウ。お前は……そんな生き方で満足したのか? 次元の将だとかに囚われて、戦いを強いられるその生き方で。
俺は……イヤだね。
◇
今回の争乱の最後の舞台として選ばれた火星。地球より離れた場所にあるその大地で二つの巨大な力が、正面から幾度となくぶつかり合う。
『オオオォォォォォォッ!!!』
『ラァァァァッ!!』
ぶつかり合う鋼と鋼、拳と剣が打ち合う度に火星の天地が揺れる。足場となっている大地は砕かれ、彼等の頭上には二機の魔神によって雲は吹き飛ばされ、雲一つない空が広がっていた。
一体、あれからどれだけ打ち合っているのだろう。アサキムがZONEに封印されて時間はそれほど経っていないのに、目の前の戦いを見守るZEXISには数刻の時間が流れた様に感じた。
互いに一歩も譲らない激闘。本来なら加勢した方がいいのかもしれない状況なのに、誰もがその様な行動は取らなかった。
彼等の胸中に渦巻く理由は様々だろうが、総じて思いは同じだった。
【二人の戦いを邪魔をしてはならない】 幼い子供や理性溢れる大人、野生に満ちた者、様々な人物達で構成されているZEXISにいる全員が、その思いで一つとなっていた。
『ホラホラどしたぁ! 折角ネオとやらに成ったってのにまるで手応えを感じてねぇぞぉ!』
『ハッ、お前相手にイチイチムキになってられるかよ!』
『言うじゃねぇか、前の時は怖くて震えていた奴がよく言うぜ!』
『そのガクブルしていた奴に逆転負けした奴はどこの誰だったかなぁ!』
剣と拳、互いに持つ得物で命の奪い合いをしておきながら、そのやりとりはまるで親しい友人同士の様であった。
いや、それは友人というよりも悪友と呼べるモノなのかもしれない。気の知れた相手に対して遠慮のないやり取りをする様に、二人の言葉はより白熱したものへと変化していく。
『分かってねぇなぁ。アレは俺が勝たせてやったんだよ。漸く独り立ちした雛鳥相手に本気を出すほど、俺は野暮じゃねぇよ!』
『破界の王ともあろう者が言い訳かよ。そういうのをなんて言うか知ってるか? みっともねぇって言うんだよ!』
再びぶつかり合う剣と拳。二機の超常の力を持つ機体の衝突により大地は悲鳴を上げ、行き場の無くなった衝撃は火星の地を蹂躙していく。
隆起する大地、引き裂かれ、崩れゆく大地。変わっていく大地を前に二人の戦いは激しさを増していく。
『どしたぁ! そんなモンかよ魔神の力ってのは! ここまで来て出し惜しみなんざしてんじゃねぇぞ!』
『チィィッ!! この野郎、前よりも力を増してやがる!』
ここへ来て更に力を高めていくガイオウ。白銀の肉体が熱を持って紅くなり、まるで怒り狂う鬼の様だ。翼を羽ばたかせ、飛翔するガイオウ。そんな彼を追ってシュウジもグランゾンを駆って空へと飛び立っていく。
舞台は地上から大気圏……宙と地の狭間へと移行するが、その最中でも二人の激突は続いていく。
『撃ち抜け、ワームスマッシャー!』
ぶつかり合う激闘の最中、グランゾンは胸部に光を灯し、ガイオウに向けて無数の光の槍を放つ。縦横無尽、逃げ場などない光の槍の群を前に……。
『しゃらくせぇ!!』
ガイオウは雄叫びを上げながらその両手両足で打ち落としていく。
『今度はこっちの番だ。歯ぁ食いしばれよ!』
その時、ガイオウからお返しとばかりに反撃の拳を放ってくる。振り抜かれた拳を今のシュウジには避ける術はなく、グランワームソードを楯に防御の姿勢に入る。
『ぐっ、うぅぅぅっ!!』
グランゾンを通して響いてくる衝撃。熱や光は感じないが、衝撃そのものはこれまで受けてきた攻撃とは比較にならない。メメントモリやバジュラの女王ですら届かなかった衝撃がシュウジの体を容赦なく貫いていく。
だが、その一撃に屈する事は無かった。ガイオウから放たれる渾身の一撃をシュウジは耐えきって見せたのだ。
『せらぁぁぁぁっ!!』
『っ!?』
耐えきった。自分の放てる最大限の一撃を耐えた事に驚愕を顕すガイオウ。その隙を突き、シュウジは返し刀の一閃を見舞い、ガイオウの肉体に傷を入れた。
高重力の力場を纏わせての一撃、何物にも干渉出来るグランゾンの重力の一撃はガイオウの修復機能を阻害し、刻まれた傷は治ろうとしなかった。
だが、そんな事は寧ろ喜びの様にガイオウの顔に笑みが浮かぶ。トコトン戦いが好きなのだとシュウジはその笑みを見て解釈しガイオウの反撃に備えるが、その様子はなく、ガイオウはシュウジに刻まれた傷を撫でた。
『───ククク。あぁ、楽しいなぁ。まさかこんな楽しい喧嘩が出来るなんて、あの頃の俺には想像も出来なかったぜ』
『殺し合いを喧嘩とか、つくづくイカレてんなお前』
『かもな、けど。それは別に普段からって訳じゃねぇ。俺だってたまには人並みの平穏ってヤツを味わいたくもなるさ』
『…………』
その言葉を聞いて、シュウジは以前カルロスを交えて食事した時を思い出した。当たり前の様に食べ物を口にし、それが美味いと笑い出す。破界の王と呼ばれる者が普通の人と変わらず日常を過ごす光景、ただそれだけを耳にすればそれは途轍もなく違和感に聞こえる事だろう。しかし、シュウジはそうは思わなかった。
何故なら、あの時のガイオウは正しく人間だったからだ。普通に日々を満喫し、普通に日常を謳歌する。当たり前の時間とその時のガイオウの姿が今とは別とばかりにしっくりとしていたからだ。
以前、ガイオウはホットドックを口にしていた。平和の味だと、それは平和の尊さと脆さを知っている者の台詞だ。
だから、シュウジは思う。もしかしたら、ガイオウは破界の王などではなく、自分達と何ら変わりない───。
『それ以上は無粋の極みだぜ。シュウジ』
『っ!』
自分の思考が読まれ、ハッと我に返る。見ればガイオウはこれ以上ない真剣な表情でコチラを睨みつけていた。
それ以上考える事は許さないと、余計な事は考えるなと、そう無言で訴えてくるガイオウにシュウジはこれ以上考える事はやめた。
そうだ。理由はどうあれ奴はリモネシアを一度破壊したのだ。店長を殺し、多くの人々を殺した奴を許す訳にはいかない。……いや、放っておく訳にはいかなかった。
故に────。
『ガイオウ』
『あ?』
『これで、お終いにしよう』
これで終わりにしよう。そう思いを込めて、シュウジはグランゾンに力を漲らせる。
それを見てガイオウも……。
『……いいぜ、コレでシメにしようか』
自分の言うとおりに迷いを捨てたシュウジに全身全霊の一撃で応える事にする。
互いにもう言葉はない。罵り合う言葉も、思いやる台詞もいらない。ただ目の前の障害を排除する為に、二人はそれぞれ必殺の一撃を放とうとする。
『シュウジ=シラカワ、お前に無限を見せてやろう! ────ハァァッ!!』
ガイオウが裂帛の気合いと共に雄叫びを上げると、周囲の空間に罅が入り、硝子細工の様に砕け散る。何だと思い見てみれば、そこにはアンチスパイラルと戦った時の様な別の宇宙空間が広がっていた。
突然の出来事に驚愕するシュウジ。為す術なくガイオウの宇宙に呑み込まれると、そこには無限に広がる大宇宙が広がっていた。
その中心に佇む銀色の太陽。そこから感じられる脅威のエネルギーの奔流にシュウジは一瞬避ける事を考える。
だが、それは無意味だと察する。何故ならここは奴が生み出した宇宙だからだ。喩え避けたとしても次の瞬間には直撃を受ける。────ならば。
(耐えてみせるしかない)
既に迷いはない。───否、迷っている場合ではない。相手は宇宙すら生み出す真生の化け物、自分とグランゾンの耐久力を信じて耐え抜くしか道はない。
────そして。
『いくぜシュウジ、これが破界の王ガイオウの……全身全霊の一撃だ!』
瞬間、グランゾンとシュウジに嘗てない衝撃が襲ってきた。放たれたのが蹴りなのか拳なのか定かではないが、最早そんな事は問題ではない。
意識が持って行かれそうだ。否、命が、魂が引き裂かれそうな衝撃に耐えながら、シュウジはグランゾンの操縦桿を握りしめる。
楯にした剣に亀裂が入る。グランゾンを通して伝わってくる剣の悲鳴にシュウジは耐えてくれと願い、耐える。
『ウォォォォォォォオオオオオオオッ!!! 砕けろぉぉぉぉっ!!』
周囲の小惑星を砕きながら、尚止まらないガイオウ。そして遂に最後の衝撃がシュウジとグランゾンを襲った。
ミキリッと、剣に嫌な音が広がってくる。次いで次の瞬間────。
“パキャァァァン”
魔神の愛用していた剣が、乾いた音と共に砕け散った。遙か宇宙の彼方に吹き飛ばし、姿の見えなくなった魔神にガイオウは確信する。
『────やれやれ、負けちまったか』
ガイオウの頭上に煌めく黄金の日輪。それを背にした魔神が、胸部を展開して佇んでいた。
ガイオウが吹き飛ばしたグランゾンはシュウジが創り出した分身。本家には遠く及ばない粗悪品だが、それでもガイオウの目を一瞬とはいえ欺く事が出来た。
恐らくはグランゾンの剣を砕いた瞬間、あの時に入れ替わっていたのだろう。自分の目を欺ける程精巧な分身を土壇場で創り出したシュウジに、惜しみない賞賛を内心で送りながら………。
『縮退砲……発射!』
ガイオウはその不敵な笑みと共に目の前に広がる天地開闢の光に呑み込まれていった。
『───なぁ、ガイオウ』
『あん?』
『俺さ、お前の事嫌いだったよ。勝手に人の物は食べるし、遠慮はないし、何より無法過ぎる。自由勝手に生きるお前を、俺はどうしても受け入れ難かった』
『………』
『けど、それはただの嫉妬なんだって、最近は思うようになった。自由であること、その大変さは俺も少しは分かるつもりだから』
『………そうかよ』
『なぁガイオウ』
『あ?』
『またいつか、一緒にホットドックを食べよう。カルロスさんや色んな人と一緒に、同じ空の下で……また』
『………あぁ、そうだな。その時を楽しみにしておくぜ』
『あぁ、それじゃ……』
『あぁ、そんじゃ……』
“あばよ。
後に“再世戦争”と呼ばれる大戦は、火星で行われた決戦を最後に終幕。また、インサラウムの王であるユーサー=インサラウムも後の事を騎士達に託し死去、インサラウムの民達は火星に移住。インサラウム騎士達筆頭であるマルグリットの指揮の下、インサラウムの民達は移住する際の建設作業に取り掛かる事になる。
新しく生まれ変わった国連はコレに協力する事にし、互いに友好な関係を築いていくことを約束した。
尚、再世戦争最後の舞台である火星での戦い。後に人々はこう語る事になる、
“触らぬ魔神に祟り無し”
また、その張本人である魔神と魔人は未だ行方は知れず。それを人々は魔人は火星での戦いで死んだと噂をしているが……その真相は定かではない。
久し振りに5000字越え。
クロスアンジュ面白いですねー。
こんな世界観に主人公ぶち込んでみたい(笑)
まぁ、結果は変わりませんが(爆)
そして次回は再世篇最後の話になる予定です。
それでは次回もまた見てボッチノシ