『G』の日記   作:アゴン

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今回はもしも主人公がリモネシアに帰ってきたらという話。

本編とは全く関係ないつもりで呼んで下さると嬉しいです。


幕章Ⅱ
番外編 ~リモネシア恋模様~


 

 

 

Z月V日

 

今日は何だか気分的にも最高に良い為、久し振りに日記を書くことにする。

 

今日、私達の所に彼が帰ってきた。

 

シュウジ。再世戦争と呼ばれる争いが起きると同時にリモネシアから姿を消した彼が、引きつった笑顔を浮かべて帰ってきたのだ。

 

誰もが彼の帰還に喜んだ。ガモンさんやラトロワ、ジャール隊の子達もそれぞれの表現の仕方であったが、彼の帰りを快く迎えてくれた。

 

勿論、私もその一人だ。彼が旅をしていた合間、どこで何をしているかは気にはなったが、そんな事を質問する無粋な輩はここにはいない。

 

今は、ただ彼との再会に喜びを感じたい。そう思っている自分がいる。

 

お帰りなさい、シュウジ。

 

 

 

Z月f日

 

帰ってきて一日しか経ってないのに、シュウジは旅の疲れを癒す間もなくリモネシアの復興作業に没頭している。もう少し休めばいいのに本人は「体を動かした方が気分がいい」と言って聞かないし……まぁ、リモネシアの為に尽力してくれるのは私としても有り難いから否定しないけれど……彼はもう少し隙を見せてもいいと思う。

 

作業の方の彼は……相変わらず凄いの一言に尽きた。焼かれた村に一人突っ込んでいくと思いきや、使える資材を探しだし、それを元に前と同じ建物を建てようとしてくれる。

 

その一時間後には建物が完成し、更にその一時間後には人が住める木造の家が出来上がっていた。本人は有り合わせの資材で使ったから耐震強度が少し不安だと言っていたけれど、それでも十分過ぎる出来映えだった。

 

雨風を凌げるだけではなく、簡単な電力発電を造り上げてしまうのは流石と言える。

 

……というか、シュウジの奴、前にも増してパワーアップし過ぎではないだろうか? なに電力発電って? 何で数時間足らずに立派な一軒家が出来上がってんの? 何で一人で立派なログハウス作っちゃってんの?

 

前はガモンさんや他の人と一緒に、それこそ丸一日掛けて漸く一軒出来上がるというのに───いや、それも十分可笑しいが───旅から帰ってきた彼は何だか以前よりも頼もしく見えた。

 

本人は大した事はないと言うが、それでも凄いものだ。というか、彼は何でここまで出来てあんな風に自分を卑下出来るのだろうか。

 

試しにジャール隊の一人が聞いてみた所、何でも「不動さんと比べれば自分程度まだまだ」なのだという。

 

……比較対象がおかしいと思うのは私だけだろうか? あの人の場合余所見をしている合間に複数の家を建てている人だから、私としてはシュウジはあんな風に人外さんになって欲しくはない。

 

いや、既に手遅れなのかもしれない。何せ家一軒建てるのに自分の手で全て(・・・・・・・)を行っているのだから。

 

ノコギリやトンカチ等、そう言った機材を使わず自分の手で作る。デッカい木を蹴りで折り、手刀で綺麗に切り分ける様を見た時は思わず目を疑った。あのラトロワですら目を飛び出す程見開いていたのだ、驚くのは当然だろう。

 

唯一ガモンさんだけは漸くその域まで来たかと一人感慨深そうに頷いていた。……そう言えば、この人も人の領域から踏み外しているんだったのを思い出した。

 

以前リモネシアを再び焼かれた際、ZEXISに保護して貰っていたのだが、その際にガモンさんはZEXISの一部の面々に対し“特別講習”なるものを開いた。

 

選りすぐりのパイロットで構成された部隊“ZEXIS”単純な戦力では地球最強の力を有する彼等が、たった一人の老人相手に翻弄されているのを目の当たりにした時は……もう、色々とお腹一杯になった。

 

軍人や野生の獣の様な人、幾度と激戦の繰り広げていた戦いのプロが一人の老人にコテンパンにされてるのを見て……その時の私は自身の胃に穴が開かないか本気で心配する日々を送っていた。

 

もしかしたら、シュウジが人の道を踏み外しているのはガモンさんが原因なのかもしれない。護身術という事で彼から空手を習っているとシュウジ本人から聞いた事があったが……まさか、ここまで変わるとは思ってもみなかった。

 

というか、予想できるか。出来てたまるか!

 

もしかしたら、彼もいつかあんな風になってしまうのだろうか? そう思うと……少し複雑だ。

 

 

 

Z月α日

 

最近、国連の方から度々幹部らしい人物が来訪してくる。内容は何でも新たに世界情勢が再編される事に伴って、ここリモネシアも新しく生まれ変わる国連に参加して欲しいという話らしいのだ。

 

はっきり言って白々しいと思う。破界事変から全く反応を示さず、あろう事かリモネシアを再び焼いた連中が今更になって何を言ってるんだ。

 

この時の私は怒りでどうにかなりそうだった。国連からやってきたというその人はリリーナ=ドーリアンの使いだと言っていたが……どんな人間の思惑であれ、私としてはそう簡単に国連を信じる訳にはいかなかった。

 

もう殆どアレルギー症状である。外務大臣を務めていた頃からずっと抱えていた私のコンプレックス、甘い言葉で自分達を政治に利用するのか、そう思うと他国のお偉い連中が皆汚く見えてしまう。────私を含めて。

 

直さなくてはならないなと思っても、こればかりはどうしようもない。

 

ひとまず、来訪してきた国連の人にはシュウジとガモンさんが対応し、今日の所は引き上げて欲しいと告げて帰って貰った。

 

あの様子では近い内にまた来るだろうが、その時までは此方も答えを決めていた方がいいのかもしれない。尤も、百人足らずの国を国と言えるのかは定かではないが……。

 

というか、彼───シュウジの国連の人に対する対応がまるで為政者のソレだった。

 

本人は友人の真似事だと自嘲していたが……ぶっちゃけ、凄まじく胡散臭かった。素は唯の男の人なのに……どうしてああなった?

 

 

 

Z月β日

 

以前、シュウジはガモンさんの様に人外になるのかと危惧していたが……どうやら既に手遅れだったようだ。

 

今日、復興作業を一段落終えた私達は腹ごなしという事を含めてある余興を始めた。といっても、実際はただ二人の組み手を見ているだけなのだが……。

 

その組み手というのがシュウジとガモンさん、二人による手合わせだった。元々ガモンさんの教え子らしいシュウジが武術の達人であるガモンさんにどこまで付いていけるようになったのか、血の気の多いジャール隊の子達が提案したこの余興は予想以上の大波乱を巻き起こす事になった。

 

まず、始まるや否や私達の前で構えた二人の姿が消えた。何でも特殊な歩法で瞬間的に移動を加速させていると二人はいうのだが……もう、この時点で色々おかしかった。

 

だって二人が拳を合わせる度に砂浜が割れるんだもの、その余波で海を割るし、序でに海の上を走ってたし……もう何がなんだか分からないよ。

 

子供達は二人の戦いをアトラクションか何かと勘違いをしていたらしく終始楽しそうに騒いでいた。対するジャール隊の皆はというと……大半が白目剥いて気絶していた。

 

特にナスターシャは酷かった。白目を剥いて涎を垂らし、ビクンビクンと痙攣したりと女の子がしていい表情をしていなかった。

 

まぁ、目の前で空中ジャンプとか物理法則を越えた動きをする二人を前にすれば、誰だって現実逃避の一つくらいしたくなるだろう。

 

その後も二人のビックリ人間による催しは続いた。拳を分裂させたり、蹴りで海を割ったり、挙げ句の果てには分身の術みたいなものまで繰り出したり、そこらのアクション映画では到底味わえない臨場感を体験したりして、二人による余興は続いた。

 

実際は一時間にも満たない短い遣り取りだったが、これ以上は環境破壊に繋がるとされ、二人の組み手は終わった。シュウジが肩で息をする一方、ガモンさんは少しばかり汗を流していた程度、二人の実力差が明確に分かる結果で終わったが、ガモンさんが言うにはもうじきシュウジも自分と同じ所までたどり着くらしいのだ。

 

それを聞いたシュウジは満面な笑みでガモンさんに礼を言い、今回の余興はこれで終わりとなった。

 

……なんというか、やっぱり彼も男の子なんだな。笑みを浮かべる彼を見て、私はそう思った。

 

────ふと思った。彼が、シュウジが自身に対する評価が異様に低いのは……もしかして不動さんやガモンさんの所為ではないだろうか?

 

 

 

Z月γ日

 

……やってしまった。酒の席での出来事とはいえ、自分はなんて事をしてしまったのだ。

 

全ての原因は焼かれた筈の村から発見されたお酒、このまま捨ててしまうのは勿体ないと、ラトロワの提案の下で開かれた静かな酒宴。日々の疲れを少しでも癒せるよう僅かばかりのアルコールで大人の夜を楽しんだ時の事。

 

皆、良い感じで酔っていたのだろう。久々のお酒で気分も良くなり、平穏な時の中で自由となった開放感。誰もが微睡みに呑まれ掛けた時、それは起こった。

 

ラトロワ。ジャール大隊の隊長でロシア出身の元軍人が、あろう事かシュウジに詰め寄っていやがったのだ。豊満な胸をこれでもかと押し付けてこれ見よがしに誘惑して……今思い出してもむかっ腹が立つ!!

 

大体、なんであの女はシュウジにああも積極的なんだ。前の時はそんな素振りなんて微塵も見せなかったじゃないか。

 

────その時は、そんな考えで頭が一杯だった。しかも迫るラトロワに満更でもなさそうに鼻の下を伸ばしているシュウジがまた気に入らなくて……。

 

 

 

 

つい、その場の勢いで彼にキスをしてしまった。

 

 

 

自分を見て欲しいと、そんな浅ましい気持ちで無理矢理奪った口付け、その場が一瞬にして静まり返り、ラトロワの口笛で我に返った時、全ては手遅れとなっていた。

 

目をコレでもかと見開いて絶句しているシュウジ。顔を真っ赤にしてパクパクと口を開いたり閉じたりする彼を見て……私は。

 

 

 

 

 

もう一度、キスをしてしまった。

 

 

 

 

────うん。もう死んだ方がいいね、私。

 

敢えて言い訳をさせて貰えるならば……そう、彼が全ていけないのだ。

 

だって普段は皆に頼られ、皆の為に頑張り、誰が相手でも毅然としていて、その上もの凄く強い彼が、キス一つでああも慌てふためいているのだ。母性本能を刺激され、つい暴走してしまった私は……多分悪くない。

 

しかも、あの様子からして彼は初めてだったのだろう。(私もだが) そう思うとなんだか……興奮して酔いが醒めてしまう。

 

結局あの後、私はその場から逃げ出したのだが……もう、本当にどうしたら良いのだろう。

 

 

ラトロワからすれば生娘のような反応だと笑うだろうが、実際私にそう言った経験はない。戸惑うのも仕方がないというものだ。

 

未だに彼の唇の感触が残っている。………あぁ、明日からどんな顔して彼に会えばいいのだろう。

 

 

 

 

Z月N日

 

式って、どこで挙げればいいのかな?

 

 

 

 

 




と、いう訳で、今回はシオニーさん視点でのお話でした。


次回は幕間的話を幾つか書いて、その後にポツポツと時獄篇を書こうと思っています。

それではまた次回ノシ



またみてボッチ!

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