『G』の日記   作:アゴン

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天獄篇まであと二週間を切ったという事で。
もしかしたら後で消すかもしれません。


幕間その2(仮)

 

 

?月?日

 

UCWとADW、二つの世界が混じり合って生まれたこの世界。元いた世界に戻るという本来の目的は記憶の隅に追いやってしまっている自分は、今日も今日とてここ多元世界で生きている。

 

シュナイゼルからの情報で各方面が不穏な動きを見せていると聞かされた俺は、その裏に潜む何かを突き止めるべく、昨日までお世話になったバイト先を辞めて再び世界諸国を巡る旅に出ている。

 

と言っても、まだまだ資金が心許ないので未だ日本から出ていけてないんだけどね。前みたいにグランゾンで移動する事も考えたけれど、あの手段が使えるのはまだ世界が複数の国に別れていた混迷の時代だから使えた裏技であって、統一された今のご時世ではあまり勧められるやり方ではない。

 

それに、グランゾンと自分は未だ世界から敵と見なされている存在だ。迂闊な行動で下手に世界を刺激してしまったら、不穏な活動を続けている連中に口実を与えてしまう切っ掛けになりかねない。折角現政府の人達が頑張っているのに、自分が台無しにしてしまったらあまりにも忍びない。まだこの世界に何が起きているのか判明していない内は大人しくしていようと思う。

 

それはそれとして、まずは資金の調達だ。何事も行動を起こす為には先立つものが必要になってくる。世界諸国を巡る為にお金を必要とした自分は、とある高校で用務員の仕事に就く事になった。

 

その高校の名は“陣代高校”学園都市と呼ばれる学区内にある高校の一つで、現在自分は住み込みでこの学校の整備をやらせて戴いている。この学校の正規用務員である大貫さんと一緒に仕事に励ませて貰っている。

 

大貫さんも初めて用務員という職場に就いた自分に懇切丁寧に教えてくれる事もあり、初日だというのに随分仕事が捗った。大貫さんは若いのに大したモノだと褒めてくれるが、これは大貫さんの指導が凄く上手かったお陰だと自分は考えている。

 

しかもこの大貫さん、見た目の割にかなり腕の立つ御仁らしく、自分の体捌きを観察するだけで自分がガモンさんの弟子だという事に気が付いたらしいのだ。

 

聞く所によると、大貫さんはその昔に随分ヤンチャをしていたらしく、若い頃はガモンさんと一緒になって暴れ回っては世間様に迷惑を掛けていたと語る。あの頃の自分は若かったと、そう語る大貫さんの目はどことなく寂しそうに見えた。

 

ガモンさんと旧知の仲であったと語る大貫さん、もう数十年も顔を合わせておらず、お互い何処にいるか分からないという事で、自分は大貫さんにガモンさんの現在の居場所についてそれとなく教える事にした。

 

現在はリモネシアで復興の手伝いをしているだろうガモンさんの事を伝えると、大貫さんは一瞬だけ目を見開いて、そうかそうかと嬉しそうに頷いて見せた。

 

昔の友人が今も元気に生きている。その事を知った大貫さんは笑顔を見せてくれた。自分も大貫さんが元気になってくれた事を嬉しく思い、この日はお酒を嗜みつつ大貫さんの昔話に付き合う事になった。

 

ただ、酒の酔いが回って来たのか、時折ブツブツと宿直室の押入に向かって独り言を呟く大貫さんの横顔が……ちょっぴり怖かった。

 

やれあの時の恨みとか、以前の借りを返すとか、一体あの二人の間に何が起こったというのだろう? ……余計な事だとは理解しつつ、そう思わずにはいられないシュウジ=シラカワでした。

 

 

 

?月??日

 

陣代高校の学生って、結構個性的な子が多いよね。ラグビー部なのに乙女チックとか、やたら高貴な雰囲気が漂う生徒会長とか、他にも多種多様な生徒達が多く在籍していて見てて飽きない。

 

今日も実戦的な空手を目指してトレーニングをしている三兄弟と出くわしたし、この学校の生徒達は本当に面白い。部長の子も今時珍しい熱血漢な少年だし、自分が空手を嗜んでいると知ると目の色を変えて試合を申し込んで来た。

 

今日は用務員の仕事を粗方片付けたから暇だったので少しばかり相手をしたのだが……自分の何処が気に入ったのか、自分が知ることを一通り教えるとみんなして弟子入りしたいと騒ぐものだからさぁ大変、しつこく頼んでくる彼らに自分や大貫さんはかなり苦労する事になった。

 

大貫さんから何とかしなさいと苦情が来てしまったし、自分が蒔いた種なので期間限定という形で彼とは一時的な師弟関係になる事となった。

 

師弟関係といっても、自分が教えるのはあくまでガモンさんから教えて貰った事をそのまま伝えるだけ、取り敢えず今日は山の麓まで往復で走る事にした。片道ほんの40キロ程度の短い道程、取り敢えず体を慣らす位なら丁度いい距離だろう。

 

その後は自分と軽く組み手をしてその日は終了。実戦的な戦いを望むのならまずはその実戦に耐えうるだけの体力を身につけなければならない。

 

そしてその後は頭の天辺から足の指先まで自在に動けるよう訓練を施す。型や技を教えるのはそこからだ。四人とも見掛け通り根性のある子達だし、自分より強くなるのは時間の問題だろう。今回彼らが疲弊していたのも馴れない特訓に体が疲れただけ、一週間もすれば嫌でも体が慣れる事だろう。

 

今日の事を大貫さんに報告すると、青春じゃなと笑ってくれた。自分もなんだかんだで人に教えるのは愉しいし、明日も頑張って彼等と一緒に鍛えていこうと思う。勿論、用務員の仕事も疎かにはしない。

 

資金が溜まるまで暫くここに留まるつもりだし、その間はきっちりかっちり公私を切り替えていこうと思う。

 

 

 

?月※日

 

ここ最近、なんだか視線を感じる。自意識過剰に思われるかもしれないが、此方は世界のテロリストとして世に知れ渡ってしまった人間だ。常日頃からそういったモノに敏感になってしまうのも仕方ないと言い訳しておく。

 

どこで何をしていても絶える事のない視線、監視されている事にいい加減ウンザリしてきた自分は休み時間の合間にその視線の主に不満の言葉を叩きつけた。

 

と言っても、授業に使われない空き教室からその視線の主がいるであろうその先へ、それっぽい事言っただけなんだけどね。端から見れば怪しさ全開で、不審者感丸出しの間抜けにしか見えないと思う。

 

けど、その甲斐あってそれ以降視線は感じる事はなかった。やはり誰かが自分を見ていたようだけど……まぁ今は良いだろう。自分に用があるという事は近い内向こうから自分の所に来るだろうから。

 

そんな事よりも、今は実戦空手部の子達の面倒を見る方を優先しなければ。もうすぐ資金が溜まる頃だし、そろそろこのバイトの潮時も近い。これは予め大貫さんにも伝えていた事だが、ここで働かせて貰っている以上手を抜くことは許されない。

 

明日も気合いを入れて頑張っていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────以上でクルツ=ウェーバー軍曹からの報告は終了となります」

 

「ご苦労様ですマデューカスさん。それで、ウェーバー軍曹はその後の様子はどうですか?」

 

「ハッ、先程まで酷く動揺していたようですが、今は落ち着きを取り戻しているそうです。心配は無用かと……」

 

「……そうですか。けれど、無茶はしないようにと伝えてください。相手はあの魔人、一片たりとも隙を見せてはなりませんから」

 

「イエス、マム。引き続き警戒態勢を続けるよう、伝令をだしておきます」

 

「宜しくお願いします」

 

マデューカスと呼ばれた初老の男性が目の前の少女に対して敬礼をし、ブリッジを後にする。残された銀髪の少女は目の前に映し出されるモニターに視線を戻し、その視線を鋭くさせた。

 

(───ECSを看破してのこの行動、やはりあの魔人は私達の技術力の遙か上の力を持っている。彼もウィスパード? ……いいえ、それは有り得ない。ウィスパードは特定の条件が必要、彼はそのどれにも当てはまらない筈、ならどうして?)

 

加速する思案、行き詰まる回答、得られない答えを前に少女は首を振って再び目の前のモニターを睨みつける。

 

「彼の目的がなんであろうと、私達のやるべき事は変わらない。シュウジ=シラカワ、喩えアナタが相手でも」

 

そうまっすぐ前を見据える彼女の瞳には強い意志が宿っていた。揺るぎのない覚悟、決意とも呼べる意志を持つ彼女の前に立つのは……。

 

『貴様、見ているな!』

 

ECSという不可視のバリアを展開している筈の此方を完全に捉えている魔人の様子が映し出されていた。

 

 

 

 




時獄篇からが主人公にとって最も過酷な試練が待ち受けているかもしれません。 
主にツーマンセル的な意味で。

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