『G』の日記   作:アゴン

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今回後半はややシリアス。


幕間その3

 

 

 

?月Ω日

 

陣代高校で用務員として働いて早二週間、ここでは実りの多い毎日を過ごさせて貰っている。理事長さんも良い人だし、生徒の子達も親切だし、仕事で分からない事を聞けば嫌な顔一つしないで教えてくる大貫さん等、社会人としての青春を謳歌している。

 

椿君率いる空手部の子達との放課後での触れ合いも、今では自分の楽しみの一つになっている。最初は悲鳴を上げるだけだった彼等も、持ち前の根性と努力によって徐々に自分の指導に付いてこられる様になったし、今後も彼等の成長ぶりには期待したい所である。

 

けど、そろそろここでの生活も終わりにしなければならない。というのも、ここの所の世界情勢がどうも落ち着きがないからだ。

 

新世時空振動によって融合されて生まれた新たな世界、新たに赤い海という特徴的な要素を含んだこの世界には不安に思える所が多々ある。

 

“ネオ・ジオン”と呼ばれるUCWからの宇宙移民団、彼等もプラントと通じて何やら不穏な動きを見せているみたいだし、今も地球連邦とピリピリと小競り合いを続けているみたいなのだ。

 

そんな地球連邦も“地球至上主義”とかいうちょっとアレな集団が台頭してきている上に、“アマルガム”という此方も全貌が明らかにされていない組織が裏で暗躍している様子。

 

個人的にはもう厄介事に関わるのはごめんだが、そうも言っていられないのが現状だ。……それに、混沌としていながらもこの世界はトレーズさんが心から愛し、守ろうとした世界だ。彼の友人を名乗る以上、何もしない訳にもいかないだろう。

 

それにもう一つ気になる事がある。それは再世戦争の時にエルガン=ローディック氏から告げられたとある一言が自分の頭にこびり付いて離れない。

 

“サイデリアル”恐らくは何らかの組織名だろうその言葉に、俺はここ最近眠れぬ日々を送っている。一体この言葉にどんな意味が込められているのだろうか? それを探る為にも自分は近い内に動き出す必要がある。

 

既に大貫さんや理事長、生徒会長には話を通している。明日にはここを立ち去るつもりなので事実上今日で用務員の仕事は終了、椿君達にも勝手ながら今日で実戦空手の指導は打ち切りにさせて貰った。

 

その際に必死に引き止めてくれた椿君、後ろにいた三兄弟が苦笑いしていた事に少しばかり引っかかったが、それでも自分の事を必要としてくれる彼等にちょっぴり涙腺が緩んでしまった。

 

勝手な自分を雇用してくれた理事長、何も知らない自分を甲斐甲斐しく面倒見てくれた大貫さん、生徒会長さんも色々と世話になったし、椿君達からは人を教える際に必要な大切な事を学ばせて貰った。

 

この学校には人を育てるのに大事なモノが沢山詰まっている。リモネシアのように居心地が良いこの場所を守る為にも頑張っていこうと思う。

 

───追伸。どうやら自分が学校を去る時教育実習生、つまり先生の卵が陣代高校に擦れ違いに赴任してくるそうなのだ。この学校は良い所だ。きっとその実習生さんにとって掛け替えのない大切な日々になることだろう。

 

追伸の追伸。今し方入った情報だが、何だか明日教育実習生の人以外に新しく転校生がやってくるそうなのだ。彼等が来る頃には既に自分はこの学校にはいないのでなんとも悔しい事なのだが、自分にはやるべき事があるのでここは我慢する事にする。

 

どちらも男性なのか女性なのか分からないが、ここは面白い学園なのでどうか思う存分青春を謳歌してほしい所である。

 

 

 

?月(゜ω゜)日

 

陣代高校を後にして日本から離れた自分は現在、とある無人島に来ている。静かで何もない所だが、今後の行動指針を決める為に静かな所で考えたかった自分は、親友の墓の前でこの報告を兼ねて日記を綴っている。

 

今、世界は再び暗雲の時代を迎えようとしている。様々な組織が様々な動きを始める中、自分はこれからどういった行動をすればいいのか。

 

墓の下にいるトレーズさんに聞いても答えが返ってくる筈がなく、近くの海岸からさざ波の音だけが耳に入ってくる。まぁ、分からないというのはいつもの事なので半分愚痴みたいな話になったんだけどね。

 

アマルガム、地球至上主義、ネオ・ジオン、プラント、そしてサイデリアル。これらの組織がいつどのような行動を取るのか全く見当が付かないが、取り敢えず状況に合わせて自分の判断で行動しようと思う。

 

シュナイゼルも独自に色々探ってくれているみたいだし、少なくとも破界事変や再世戦争の時の様に一人で行動する訳ではないのだ。頼れる所は頼って自分の出来る事をしていこうと思う。

 

まずは……そうだな。取り敢えず中東方面に向かおうと思う。あそこは“戦いこそ万物の原理”という珍妙な教義が主流となっている“マーティアル”という宗教結社が存在している。これはUNと呼ばれるネットワークから得られた情報だが、どうやらその宗教組織は裏で色んな組織と通じている節が見え隠れするのだ。

 

全ての全容を明らかにする。───とは到底無理だが、彼等と接触すればある程度の情報を得られる事だろう。自分から厄介事に首を突っ込んでいる気がしなくもないが、思い返せば最初の頃に当時エリア11だった旧日本にいた事を考えれば今更な気もする。

 

ともあれ、これで取り敢えずの目的地は定まった。今日はこれから目的地に向かう事にするため、今日の日記はこれで終了とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────さて、そろそろ日も暮れてきたし、夜には向こうに着きたいから今日の所はこれで終わりにするか」

 

潮風に揺れる紫色の髪を掻きながら、シュウジは日記をしまい立ち上がる。彼の前には木で作られた簡易な墓が建てられているが、そこにはあるべき筈の名前は彫られていなかった。

 

所謂無縁仏。誰かも分からない人間が埋められたとされる墓、しかしそれは敢えて付けられなかったものであり、シュウジが決めた事でもあった。

 

墓の下にいる者、トレーズ=クシュリナーダは戦争という許されない事をした。それは本人が死しても尚消える事のない罪であり、それはシュウジとトレーズ自身も承知していた事だった。

 

故にシュウジはトレーズに罰を与えた。名前が書かれていない墓に埋める事でトレーズという存在を世界から消したのだ。いつか遠い未来、トレーズという男の存在は時と共に忘れ去られる事だろう。その時にトレーズがここにいたという痕跡を残してはならない。

 

彼は最後まで世界の敵として存在する事を覚悟していた。彼の悪行は決して許されない事であり、彼自身もまたそれを自覚し、覚悟していた。

 

故に、シュウジは罰を与えた。彼の存在がこれ以上世界に知られる事がないように、彼が安心して眠っていられるように……。

 

「……じゃあ、そろそろ行くよ。俺に出来る事なんてたかが知れてるけど、それでも俺はアンタの友達でいたいから」

 

別れ様にシュウジは言葉を紡ぐ。その顔に少しばかりの寂しさと悲しさを混ぜて……。

 

「それじゃあトレーズさん。行ってきます」

 

シュウジは踵を返して背後に控えていた己の愛機に歩み寄る。跪いて主の搭乗を待つ魔神に触れたシュウジは一度だけ墓の方へと振り返った。

 

そこにはやはり誰もいない。けれどシュウジだけには何かが見えたのか、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

愛機に乗り込み、仮面を被る。只人から魔人へと変身したシュウジは今度こそ、振り返る事なく無人島を後にする。

 

風が、無人島の木々を揺らす。その中でひっそりと聳える名も知らない墓の隣には───。

 

魔人が好む二つのタンポポが咲いていた。

 

 

 

 

 

 




次回から時獄篇開幕






に、する予定

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