『G』の日記   作:アゴン

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今回はシリアス回

偶にはこんな話も良いと思う。


その⑨

×月◇日

 

あれから暫く時間が経って、漸く落ち着く事が出来たので日記の執筆を再開する。

 

あの後、世界は大いに荒れた。リモネシアに現れた連中は新帝国インペリウムを名乗り、その頂点には次元獣を統べる破界の王、“ガイオウ”が世界に向けて宣戦布告を宣言。次元獣を使って暴れ回る奴らを世界各国のお偉いさん方は今も状況の対応に追われ、右往左往している頃だろう。

 

オマケに新帝国インペリウムの外務大臣がシオニーさんと来たものだ。しかもあの人が宣戦布告を宣言したのだから、人間どう変わるのか分からないものである。

 

 

世界中が色々と回っているその合間……俺は、特に何もしなかった。シュウ博士の探索もせず、他の博士達に話を聞くこともせず、ただ俺は亡くなった店長の亡骸をリモネシアの生き残りの人々と共に埋葬する事しかしなかった。

 

あの時空震動でリモネシアの多くの人間が死んだ。老人も子供も男も女も関係なく、沢山の人達が死んだ。生き残った数少ない国民の人達は国を捨てて隣国へ逃げ去った。

 

今ここにいるのはそんな逃げる事をしなかった僅かな老人と子供達だけだ。死人の様な顔をした彼等に俺なんかが何か言えるわけもなく、時間だけが無情に過ぎていった。

 

 

 

×月○日

 

そう言えば、あの時聞こえた声は何だったのだろうか? 何処かで聞き覚えがある気がするが……どうでもいいか、今の自分には関係のない事だ。

 

既にグランゾンの存在は先の砂漠と今回のリモネシアの件で完全に世界中に知れ渡った事だろう。 何せテレビで“謎の魔神現る!”とデカデカと放送されていたのだから、有名になったものである。

 

最近、体に力が入らない。人の死を見るのは昔……病気で亡くなった婆ちゃんの時以来だからなのか。胸の何かがぽっかりと空いたみたいだった。

 

食べ物も満足に喉を通らない。どうせ食べられないなら食料の無駄になるのでお年寄りや子供達に分けてやる方が賢明である。

 

体に力が入らない。これが心身共に疲れ切った人間の状態なのか……

 

もうこの日記を書くのも億劫になってきた。

 

……俺、このまま死ぬのかな?

 

 

 

×月Z日

 

相変わらずインペリウムは好き勝手に暴れ回り、その所為で傷ついた隣国を今度は別の国が国土を広げる為に侵攻を始める。まるで弱った獲物に群がるようなハイエナだと思いながらも、その時まで何も感じる事はなかった。

 

尤も、この国を破壊した者の一人である自分が言えた事ではないが……因みに、幸か不幸かリモネシアは隣国から狙われる事がなかった。目立った資源もなく、国としての機能が働いていないリモネシアには侵攻する意味もないのだろう。

 

何せ人口が百にも満たない国だ。世界中の誰もがリモネシアの事など頭にないのだろう。

 

そして俺も、その時まではそんな世界などどうでも良かった。何に対してもやる気など出ないし、いっそ死んだ方がいいのでは? と、そんな事も考える様になった。

 

覚束無い足取りでこの日自分がやってきたのは……店長達が埋葬された簡易墓地だった。ただ亡骸を土に埋めて、分かり易く木を建てただけの簡単な作り、どれが誰の墓だったのか───今はもう分からない。

 

けれど、店長の墓だけはどれなのか分かった。彼の墓前に座り、枯れた声で色々話をし、体力の限界が来たのか、そこで横になった時───変な奴が現れた。

 

“アサキム=ドーウィン”漆黒の出で立ちに血の様な朱い眼をしたその男を前に、俺はソイツが自分の前に現れた死神だと錯覚した。

 

何やら「この程度か……」とか、「これなら泳がす価値もないか……」等と好き放題呟いた後、奴は徐に剣を取り出し、俺の所へゆっくりと歩み寄ってきた。

 

せめて痛みを感じないように殺してくれと願うが、生憎相手は死神だ。此方の都合など聞き入れはしないだろう。

 

けれど、それで楽になるのなら安いものか、そう思って眼を閉じたとき、今度は別の人に助けられた。

 

男の人は“不動”と名乗り、自分を死神から助け出した後、皆の所へ連れて行かれた。

 

何で俺を助けたのか、そう言うと不動さんは別に俺を助けるつもりなどなかったらしい。偶々近くを通りかかり、自分を捜していた子供達に頼まれたから連れてきたに過ぎないと。

 

……正直、余計なお世話だと思った。この世界に意味もなく連れ出され、訳の分からない化け物達と戦わされ、親しい人達、多くの人間が死んでいくのを目の当たりにして、もう俺は色々と限界が来ていた。

 

そんな時だ。子供達から手渡された一杯のスープ、なんの工夫もない野菜をベースにした簡単なスープ。それは先日子供達と老人達に教えた俺の前いた世界の郷土料理だった。

 

───美味かった。今まで食べ慣れた筈なのに、食べ飽きたモノなのに、俺はスープを啜る手を止められなかった。

 

そんな俺を見て、子供達は笑った。この間まで自分の住んでいた国が壊され、泣いてばかりいた子供達が満面の笑顔で笑っていたのだ。

 

老人達が言った。この子達が笑えているのは俺のお陰だと、俺が生きる事の辛さと楽しさを教えてくれたのだと、老人達はそう言って子供達同様笑って見せた。

 

……俺が何をした? 俺がしてきた事なんて残った森林を使って雨風を凌ぐだけの簡単なセーフハウスを作った事と、何とか無事だったテレビやラジオ等の機械の整備位だ。

 

それも俺一人じゃない。ここにいる老人達と子供達の手を借りて漸く出来た事だ。それに、そうしたのはリモネシアという国を壊した自分の罪悪感がそうさせただけだ。

 

なのに、皆はそれでもありがとうと言ってきたのだ。

 

今、俺が生きているのはこれまで出会った人達のお陰だ。ゴウトさんから機械弄りのノウハウを、ヨーコちゃんやリットナー村の皆からは木々を応用した罠やセーフハウスの作り方を、黒の兄妹からは生きようとする意志を、それぞれが俺の中で俺の糧として確かに存在している。

 

───泣いた。それはもう無様に泣いた。大の男が声を上げてわんわん泣いた。

 

鼻水と涙でグシャグシャになった酷い顔を見ても、皆は何も言わず、ずっと笑っていてくれた。

 

この日食べたスープの味を俺は生涯忘れる事はないだろう。

 

 

 

×月γ日

 

今、俺はコックピットにいる。もう乗ることはないと思っていたこの場所で、海底の様子を眺めながら日記を綴っている。

 

昨日、漸く食べ物を口にし、少しばかり力を取り戻したのか、体には幾分か力が戻っている。

 

気分も昨日までとは違って少しばかり晴れやかだし、体の方は嘘のように軽い。まだ全快とは言えない状態だが、一度の戦闘位なら何とか耐えられるだろう。

 

……今朝、意外な人と顔を合わせた。それはこの国のトップだった人、リモネシア大統領だった。

 

彼は自分に会いに来るなりいきなり頭を下げてきた。申し訳ないと、何もしなくて済まなかったと、此方の制止の言葉も聞かず、何度も頭を下げてくる大統領に自分は居たたまれなくなり、遂には騒ぎを聞きつけてきた皆が何事かと顔を覗かせてきた。

 

その後、落ち着いた大統領(名前聞きそびれた)の話によると、あの日、ガイオウが現れた日に執務室にいた大統領はシオニーさんから銃口を向けられ、危うく殺される所だったらしいのだ。

 

……俄には信じられずに目を見開いてしまうが、続きを聞いている内にやはりシオニーさんは優しい女性なのだなと安堵する。

 

向けられた銃口からは銃弾は出ず、代わりに空砲の音だけが辺りに響き、シェルターに避難するように指示を出して部屋を後にしたのだという。

 

恐らくは近くに誰かがいたのだろう。銃声を鳴らした事で大統領の殺害を意図的に相手に知らせ、やるべき事をやったとされるシオニーさんを見て、ソイツは死体を確認せずに大統領府を後にしたのだとか。

 

シェルターによって難を逃れた大統領は暫くはリモネシアを離れていたのだが、自国の国民が心配になって戻ってきたのだとか……。

 

うん、今更過ぎる話だが大統領を責める権利は自分にはない。そもそも何で自分に謝りに来たのだと聞くと、何でも周囲の住民から話を聞くと自分がこの国の代表なのだとか……。

 

勘弁して欲しい。偶々若い男性がいないから必然的に色々手伝ったり指示しただけで自分は特別な事など何一つしていないのだ。

 

けれど大統領という比較的若い人がこの地に訪れたのは僥倖だ。彼を村の皆に預け、俺は自分がすべき事をやる為にもう一度この国から踏み出す事を決めた。

 

一部の老人達には話を通している。子供達には……お土産を約束する事でなんとか受け入れて貰えた。

 

ケリを付ける。インペリウム帝国とガイオウ、そしてシオニーさんともう一度話をする為に、俺は再びグランゾンを駆る。

 

グランゾンに乗る少し前、グランゾンを置いた場所に向かう為に歩いていると、不動さんと出会った。

 

お前は何者だ? そう不敵に笑いながら問うてくる彼に何故か俺は自信満々に答えてしまった。

 

なんかまた黒歴史が増えた気がするが……細かい事は気にしない。

 

ひとまず今日の日記はこれまでだ。後は明日、俺が生きてたら続きを書こうと思う。

 

 

が、その前に一つだけ、言い訳代わりとして書いておく。

 

 ───すみません博士、このグランゾンはもう暫く貸して貰います

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日記を横に置き、操縦桿を握り締めてグランゾンを海上へと浮上させていく。海面から出て、宙に浮かぶグランゾン、その最中モニターにある人物の姿が見える。

 

不動さんだ。此方を笑みを浮かべながら見つめてくる彼に自然と自分も笑みが出る。

 

 

『魔神を駆る者よ、お前は何者だ?』

 

『……俺は、蒼のカリスマだ。それ以上でも以下でもない』

 

まったく、相変わらず酷いネーミングだ。だがこれでいい、ダサい位のが自分には丁度いいのだ。お陰で適度に笑えてリラックス出来る。

 

さぁ、行こう。今の自分は謎の男蒼のカリスマだ。“白河修司”という名は今は横に置いておこう。

 

グランゾンのバーニアに火を灯す。不動さんから教えて貰った座標に向かって、俺は意気込みを込めて叫んだ。

 

「グランゾン、出るぞ!」

 

目的地はサンクキングダム。俺はたった一人の決戦の決意を持ちながら、かの地へと向かう。

 

ただ、この時一つ問題点があった。

 

 

 

 

 

…………サンクキングダムって、どこだっけ?

 

 

 




主人公は基本一般人の豆腐メンタルなので多分必要以上にヘタレます。

けどボッチルートは確定してるので安心して下さい。

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